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第三章 第二部 侍女たちの行方

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「天が、マユリアをお助けするために交代を早めようとしている、そういうことでしょうか?」
「いや、俺にもそんなことは分からん」
「ですよね……」

 ミーヤが悲しそうにため息をつく。

「穢れの問題についてはどう思ってた?」
「はい、気にはしておりましたが、お元気そうなご様子から、意識が薄れていたように思います。私は、なんてことを……」
「しゃあねえよ、誰にもそんなこと分からんからな」
「ところでな」
 
 二人が話しているところに、アランが声をかける。

「なんでその話になったのかを思い出してたんだが、そもそもが神官長のところへ皇太子が使いを寄越してるってんで、そんでマユリアの話になったわけだ。そこんとこ、覚えてるよな?」
「あ、ああ、そうだったな」

 そうだ、そもそもは神官長を背後で操っているのは誰か、という話だった。

「つまりだ、そのマユリアのことで皇太子と神官長が結託してる、ってことをトーヤは考えてるってことか?」
「すんなり考えると、そう思えんか?」
「思えるな」

 アランも認めて続ける。

「それだけ男を狂わす美しい女神様、どうしてもそれを手に入れたいと思ったら、どんだけの申し出をするかも分からんだろう」

 八年前、国王と皇太子の間でマユリアを取り合って争いが起きた。
 その時は国王の力が強く、皇太子にはどうすることもできず、引き下がるしかなかった。

 だが今は、その力関係がどうなっているか分からない。国王の方が立場として上であったとしても、青年から壮年に差し掛かり、今が人としての盛りの皇太子と、ただ衰えていくばかり、高齢の国王では、単純に国王が強いとは言い切れない。
 
「皇太子と神官長が手を組んでるとしたら、神殿に力をつけて、その応援で国王をねじ伏せる気かも知れんな」

 トーヤもそう答える。

「そのために神官長に手を貸してるってことになるか」
「かも知れん、ってことだけだがな」
「だが、どっちにしても神官長を調べるのは必要だ、そうだな?」
「だろうな」

 トーヤとアランがぽんぽんと話を進め、それを2人が黙って聞いている。
 ベルが黙って聞いているということは、異論がない、何かおかしいと思ってはいないということだ。
 シャンタルも何も言うことがないようだ。

「おまえら、ここまで聞いてなんか思うところあるか?」

 トーヤが一応聞いてみる。

「いや、ない」

 ベルがそう答え、

「私も特に何も」

 シャンタルもそう答える。

「そうか、そんじゃこの流れでいくか」
「いいんじゃね?」
「そうだね」
「よし、そんじゃ話はまとまった」

 最後にトーヤがそう言ってそれで決まりだ。

 ミーヤは4人の見事な連携を見て、事態が事態ではあるが、感心してしまっていた。

「いつもそうやって話を決めてきたんですね」
「ん?」
「なんでしょう、すごく安心をしました」
「ん、何がだ?」
「八年前、トーヤは一人ぼっちでこの国に流れ着きました。そして、その状態から、どうやってここから逃げ出して国へ戻ろう、必死でそう考えていました」
「ああ……」

 そうだった、何もかも失い、どこへどう行けばも分からず、必死でどうやってこの国から逃げ出そうかと考えていた。

「それから私たち、ダルやリル、それにキリエ様やラーラ様、カースの人たち、そしてフェイ」

 そこまで言ってミーヤが一度言葉を切る。

「他にもまだ色々な人、そんな人たちと出会って、親しくなり、立派な助け手たすけでとなってこの国の大事なものを守ってくれました」
「いや、いやあ、あのな」

 トーヤがなんとなく照れる。

「ずっと、一人で戦っている。そう見えていたのに、今は何も言わなくても分かり合える仲間が一緒にいてくれる。トーヤは孤独ではなかったのだ、そう思うとすごく安心をしたのです」

 そう言って、ミーヤがほんの少しだけ涙ぐみながらじっとトーヤを見た。

「あ、あのな……」

 トーヤが明らかに赤くなって俯いた。

「お?」

 それに気づいたベルが、にや~っとしてトーヤの顔を下から覗き込み、

「ん、トーヤ君、どうしたのかな~っと」

 と、からかおうとしたのだが、

「あー、いや、まあいいや」

 そう言ってふいっと顔を上げると、

「ま、よかったな」

 そう言ってポンッとトーヤの肩を叩くと、椅子から立ち上がってすっと離れてしまった。

「話も終わったみたいだし、ちょーっと戻って休もっと。なんかあったら呼んでくれな」

 そう言って自室へ戻っていく。

「お、おい、どうしたベル。あ、俺も呼んでくれよな」

 アランがそう言って慌ててベルの後を追う。

「あー、じゃあ私も部屋戻ってちょっと寝よう。何かあったら呼んでね」

 エリス様もそう言って、いつもの優雅な足取りを封印するかのように、さっさと歩いて自室へ引っ込んでしまった。



「お、おい、ベル、どうしたんだよ。気分でも悪いのか?」
「兄貴はほんっと鈍感だよなあ」

 ベルはそう言ってため息をつくと、

「トーヤな、ほんのちょっと、よく見ないと分からないぐらい、ほんっと兄貴だったら気がつかねえぐらいだけどな、涙ぐんでたんだよ。おれ、あんなトーヤ初めて見た……」
「え?」

 アランが信じられないという顔をする。

「だからまあ、二人にしてやろうぜ。そんぐらい分かるだろ?」

 アランがまだ信じられないという顔で目を丸くしていた。
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