上 下
150 / 354
第二章 第四部 おかえり、ただいま

 7 割り込み

しおりを挟む
「あー、あのだな」
 
 トーヤが「コホン」と一つ咳をしてから話を変える。

「あんまり時間なかったんであれなんだが、あいつと……ミーヤとちょっと話してな、そのこと言っておこうと思う」

 そう言ってそのままベルの横に座って話をしようとするのに、

「だから上着着て来いって」

 アランにもう一度そう言われて、一度部屋に戻ってシャツを着てからあらためてベルの横に座る。
 アランとシャンタルも2人の近くに座って話を聞く用意をする。

「ミーヤは色々と手伝ってくれそうだ」

 まず一言、そうとだけ言う。

「だけど、色々あって表立って俺らと接触することは難しそうだ」
「なんでだ?」

 もういつものようにベルが聞く。

「俺もどうしてだか分かったような分かってないようなだが、キリエさんの行動でそうしろと言ってるみたいだと気がついた」

 そうして、ミーヤに話したのと同じ内容のことを説明する。

「ってことはさ、あのおばはん」
「おばはんはやめてやれ」
「えっと、侍女頭のおばはん」

 ベルがアランに軽く頭を叩かれる。

「キリエさん……」
「そうだ」
「そのキリエさんが、わざとミーヤさんを引き離したってこと?」
「そうじゃないかと俺は思ってる」

 トーヤが言う。

「何かあった時に動ける人を作ってくれてるってことなんじゃねえかな」
「そんでミーヤさんは? 手伝ってくれるって?」
「ああ、えっと……」

 少し言いよどんでからトーヤが続ける。

「まあ、そんなことは言ってた」
「なんだよ、たよんねえなあ」

 ベルが呆れたように言う。

「しょうがねえだろうが、時間もなくてあんまり話せなかったんだからよ」
 
 トーヤがちょっとすねたように言った。

「なんにしろ、俺らと接触があると思われたらミーヤもやばい。だから連絡のとり方は決めといた」

 「鍵穴」の話をする。

「それとな、ダルとつなぎを取りたいと思う」
「ダルと?」
「あいつは変わってねえらしい。今でも俺のこと信じて待っててくれてるらしい」

 「副隊長」の話もする。

「副隊長」
 
 ベルがプッと吹き出す。
 なんとなくルギが隊長と呼ばれたのを見た時の自分のようでトーヤがムッとして、今度はいつものように頭をはたいた。

「ミーヤと接触しやすいのはベルで、ダルとはアランだ。俺とシャンタルは出るわけにいかねえからな」
「そうだな」
 
 アランが同意する。

「それと、この部屋に自然に出入りできる可能性があるのはリルなんだが、これはどうしたもんかと考えてる」

 リルはアロの娘であり、「外の侍女」でもある。父親の使いでやってきたとしても、何も不思議には思われない。

「けどな、結婚して今はどうなってるか、相手がどんなやつなのかが分からん。だからこっちはちと保留だ」
「けどな、トーヤ」

 ベルが普通に話しかける。

「トーヤさ、何をどうしようっての? おれにはそれが全然見えねえんで、ちょっと困ってる」
「ベルの言う通りだな」

 アランもそう言う。

「一番の目的は、交代の時にシャンタルをそこに割り込ませることってのは分かってるよな」
「ああ」
「うん」

 通常なら、生まれた次代様に当代シャンタルが中の神を移し、次にマユリアを受け継いでマユリアが人に戻る。そのつながりの中に先代であるシャンタルを割り込ませ、マユリアと一緒にシャンタルも人に戻すのが目的だ。

「八年前と同じ人間関係ならごく簡単だったと思う。俺も、来るまではそういくんじゃねえかなと思わないこともなかった。だがな、宮の中は変わった。うかつに近寄れねえ。今はようやく情報収集がなんとなくできてるぐらい、だ」

 アランとベル、シャンタルもじっと黙って聞いている。

「目的は変わんねえ、シャンタルとマユリアを人に戻し、そして必要ならこの国から連れて出る。八年前と同じようにな」

 そう言ったトーヤの顔は何を考えているのかは読めなかった。

「よう」

 ベルが言いにくそうに言い出した。

「トーヤはそれでいいのか?」
「え?」
「いや、八年前と同じってさ」
「何がだ」
「いや……」

 そのまま八年もミーヤと離れ離れになったのだ。今度もそれでいいのか? そう聞きたかった。

「まあ、前は戻るの前提だったしな」

 分かっているのかどうか、トーヤがそう言う。

「今度は連れて戻らねえのなら、まあ、色々とやり方はある」

 そうだ、ミーヤも連れて行けばいい。
 望むならマユリアもラーラ様も。
 なんだったら身の置き場所がなくなるというのなら、キリエも連れて行けばいい。

「そうだよ、今度はそういうことできんだよ、な!」

 自分で言った言葉に自分で納得するようにそう言った。

「全部終わったらみんなでアルロス号に乗ってここから出ていきゃいいじゃねえか」
「なるほど!」

 ベルもうれしそうに言う。

「そんで全部丸く収まるな!」
「だよな」

 ベルとトーヤが楽しそうに話を合わせる横で、アランは難しい顔をして黙っている。

「なんだよ、アランはそうは思わねえのかよ」
「いや、それはそれでいいとは思う」

 そう言って頷く。

「けどな、その場合シャンタルはどうなる?」
「どうって、一緒だっつーてるだろ」
「そうだよ兄貴、話聞いてたか?」
「違うよ」

 表情を曇らせる。

「小さい方のシャンタルだよ、一人でここに置いていくのかよ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

処理中です...