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第一章 第四部 シャンタリオへの帰還
20 現在の状況
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「あ~なんだな」
ディレンがコホンと一つ咳払いをしてから続ける。
「おまえら、いっつもそんな具合なんだな。なんつーか、状況分かってんのか?」
「そうなんですよ」
アランがやっと理解者を得た、と言わんばかりの深刻な顔で言う。
「どんな時でもこの2人こんな感じで、そこにシャンタルがこれでしょ?」
「ああ、苦労してるな」
しみじみとアランの苦労を思いやるようにそう言うと、ポンっと肩を叩いた。
「いやまあ、そんでだな、真面目な話に戻るぞ」
トーヤがそう言う。やはりふざけていた自覚はあったようだ。
「まあ、あんまりアランに苦労かけてやるな」
「了解」
気を取り直して続ける。
「もうすぐ交代があるはずだ。その時に、なんとかしてこいつにマユリアを継承させ、当代にそれを受け継がせる。それさえうまくいけば、マユリアもこいつも人に戻れるはずだ」
シャンタルは表情を変えず、じっと聞いている。
「そうしておいて、マユリアにどうしたいかも聞く。八年前は後宮入りが決まってた。今どうなってるか分からんが、あの時は行きたいと思ってはいなかったな」
「その前にあれがあるんじゃねえの?」
ベルも真面目に話す。
「ああ、マユリアの体調も気になる」
「体調?」
「そうだ。シャンタルもマユリアも十年で交代するが、それは人の世の穢れに耐えられないからだ。だがな、こいつを逃がすために八年も余分に穢れにさらされてるマユリアが今どうなってるか、リュセルスで調べたが、誰からも特に変わった話は聞けなかった」
「ってことは、元気ってことか?」
「とりあえずは、な。あくまでお出ましの時とかに遠くから見たやつしかいねえだろうから、本当のところまでは分からん」
「宮の中は?」
「まあ、昨日から今日、部屋の中にしかいねえからな。様子を見て調べにはいくつもりだ」
「大丈夫か?」
ベルが心配そうに言う。
「大丈夫だ。あの頃、逃げるつもりであっちこっち調べまくってここがどうなってるか、どこをどう行けば何が見られるか全部分かってる。見つからないように調べてくるさ」
「大丈夫かなあ……」
「それとな、ちょっと気になってることもあるからな」
「気になること?」
「ああ、まだどうかは言えないがちょっと気になってる。少し待ってくれ」
「分かった」
こういう時のベルは物分りがいい。
三年の間、戦場でもその他の場所でも、きちんと作戦を決める時はいつもこうだ。トーヤが大筋を決め、それに意見があれば3人が何か言う。そうして話を進め、トーヤが「ここまで」と言ったらもう後は何も言わない。
今回も「待て」と言われたらもうそこで終わりだということだ。リーダーの決定に3人が従う。
「見事なもんだな」
ディレンが感心して言う。
「さっきまであんだけふざけてたのに、決まる時はこうか」
「そうなんですよ」
アランが表情を崩さないまま言う。
「だから、俺としちゃあ、決めることをちゃんと決めた上でふざけようが何しようがしてくれて構わないんですが、ああいう感じで、大抵は俺が雷落とさないと進まなくなる」
聞いてディレンが声を上げて笑った。
「まあいい、で?俺は何すりゃいいんだ?それとな、船の出港日が決まりそうだ。動けるのはその間だけ、しかもこれからは出港の準備がある、動けない日も出てくる。今の間にやれることやってやるから、言っとけ」
「ああ、それな、大丈夫だ。足止めくらうから」
「それだがな」
ディレンが申し訳無さそうに言う。
「本当にあれなのか?交代があるのか?」
「ある」
トーヤがきっぱりと言う。
「こいつを誰だと思う?『黒のシャンタル』だぞ、こいつの託宣に間違いはない」
少しの間、沈黙が落ちた。
アランとベルは初めてあの話を聞いて、その流れからなんとなくそれが本当だと思ってはきた。だが、いざ、ここに来て、シャンタル宮に「潜入」してみると、あまりにも荘厳、自分が身を置いていていい空間なのだろうか、との思いもある。
「あのさ」
ベルが遠慮そうに言う。
「ここのシャンタルはその託宣したのかな」
「分からん」
トーヤがはっきりと言う。
「俺も八年前のこと、普通とは違う状況のことしか分からんがな、もしもあったとしても市井のもんの耳に入ってくるようなことじゃねえ。ただな」
少し、言うかどうか迷うようにしてから、
「次代様がいらっしゃるのは間違いない」
「なんでそんなこと分かるんだよ」
「それは言えん」
「なんで?」
「なんでもだ」
ベルもそれ以上は聞かなかった。
「こういう時のトーヤは本当に何聞いても無駄だな。分かったよ。じゃあ、それ、信じていいんだな?」
「ああ、間違いなく近々交代はある。ただな」
二度目の「ただな」だ。
「もしかすると、託宣はされてない可能性もある」
「なんで?」
「俺の勘だ」
アランがベルがシャンタルが信じる、トーヤの「勘」だ。
「勘って、おまえ」
だが、ディレンにはあやふやとしか受け止められない部分もある。
「勘だよ」
そう言ってニヤッと笑い、
「それと、もう一つ、これも俺の勘だがな、多分こうだろうって思うところがある」
「なんだ?」
「当代シャンタルな、多分だが、託宣ができないと見た」
驚くようなことを口にした。
ディレンがコホンと一つ咳払いをしてから続ける。
「おまえら、いっつもそんな具合なんだな。なんつーか、状況分かってんのか?」
「そうなんですよ」
アランがやっと理解者を得た、と言わんばかりの深刻な顔で言う。
「どんな時でもこの2人こんな感じで、そこにシャンタルがこれでしょ?」
「ああ、苦労してるな」
しみじみとアランの苦労を思いやるようにそう言うと、ポンっと肩を叩いた。
「いやまあ、そんでだな、真面目な話に戻るぞ」
トーヤがそう言う。やはりふざけていた自覚はあったようだ。
「まあ、あんまりアランに苦労かけてやるな」
「了解」
気を取り直して続ける。
「もうすぐ交代があるはずだ。その時に、なんとかしてこいつにマユリアを継承させ、当代にそれを受け継がせる。それさえうまくいけば、マユリアもこいつも人に戻れるはずだ」
シャンタルは表情を変えず、じっと聞いている。
「そうしておいて、マユリアにどうしたいかも聞く。八年前は後宮入りが決まってた。今どうなってるか分からんが、あの時は行きたいと思ってはいなかったな」
「その前にあれがあるんじゃねえの?」
ベルも真面目に話す。
「ああ、マユリアの体調も気になる」
「体調?」
「そうだ。シャンタルもマユリアも十年で交代するが、それは人の世の穢れに耐えられないからだ。だがな、こいつを逃がすために八年も余分に穢れにさらされてるマユリアが今どうなってるか、リュセルスで調べたが、誰からも特に変わった話は聞けなかった」
「ってことは、元気ってことか?」
「とりあえずは、な。あくまでお出ましの時とかに遠くから見たやつしかいねえだろうから、本当のところまでは分からん」
「宮の中は?」
「まあ、昨日から今日、部屋の中にしかいねえからな。様子を見て調べにはいくつもりだ」
「大丈夫か?」
ベルが心配そうに言う。
「大丈夫だ。あの頃、逃げるつもりであっちこっち調べまくってここがどうなってるか、どこをどう行けば何が見られるか全部分かってる。見つからないように調べてくるさ」
「大丈夫かなあ……」
「それとな、ちょっと気になってることもあるからな」
「気になること?」
「ああ、まだどうかは言えないがちょっと気になってる。少し待ってくれ」
「分かった」
こういう時のベルは物分りがいい。
三年の間、戦場でもその他の場所でも、きちんと作戦を決める時はいつもこうだ。トーヤが大筋を決め、それに意見があれば3人が何か言う。そうして話を進め、トーヤが「ここまで」と言ったらもう後は何も言わない。
今回も「待て」と言われたらもうそこで終わりだということだ。リーダーの決定に3人が従う。
「見事なもんだな」
ディレンが感心して言う。
「さっきまであんだけふざけてたのに、決まる時はこうか」
「そうなんですよ」
アランが表情を崩さないまま言う。
「だから、俺としちゃあ、決めることをちゃんと決めた上でふざけようが何しようがしてくれて構わないんですが、ああいう感じで、大抵は俺が雷落とさないと進まなくなる」
聞いてディレンが声を上げて笑った。
「まあいい、で?俺は何すりゃいいんだ?それとな、船の出港日が決まりそうだ。動けるのはその間だけ、しかもこれからは出港の準備がある、動けない日も出てくる。今の間にやれることやってやるから、言っとけ」
「ああ、それな、大丈夫だ。足止めくらうから」
「それだがな」
ディレンが申し訳無さそうに言う。
「本当にあれなのか?交代があるのか?」
「ある」
トーヤがきっぱりと言う。
「こいつを誰だと思う?『黒のシャンタル』だぞ、こいつの託宣に間違いはない」
少しの間、沈黙が落ちた。
アランとベルは初めてあの話を聞いて、その流れからなんとなくそれが本当だと思ってはきた。だが、いざ、ここに来て、シャンタル宮に「潜入」してみると、あまりにも荘厳、自分が身を置いていていい空間なのだろうか、との思いもある。
「あのさ」
ベルが遠慮そうに言う。
「ここのシャンタルはその託宣したのかな」
「分からん」
トーヤがはっきりと言う。
「俺も八年前のこと、普通とは違う状況のことしか分からんがな、もしもあったとしても市井のもんの耳に入ってくるようなことじゃねえ。ただな」
少し、言うかどうか迷うようにしてから、
「次代様がいらっしゃるのは間違いない」
「なんでそんなこと分かるんだよ」
「それは言えん」
「なんで?」
「なんでもだ」
ベルもそれ以上は聞かなかった。
「こういう時のトーヤは本当に何聞いても無駄だな。分かったよ。じゃあ、それ、信じていいんだな?」
「ああ、間違いなく近々交代はある。ただな」
二度目の「ただな」だ。
「もしかすると、託宣はされてない可能性もある」
「なんで?」
「俺の勘だ」
アランがベルがシャンタルが信じる、トーヤの「勘」だ。
「勘って、おまえ」
だが、ディレンにはあやふやとしか受け止められない部分もある。
「勘だよ」
そう言ってニヤッと笑い、
「それと、もう一つ、これも俺の勘だがな、多分こうだろうって思うところがある」
「なんだ?」
「当代シャンタルな、多分だが、託宣ができないと見た」
驚くようなことを口にした。
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