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第一章 第四部 シャンタリオへの帰還

11 庇護を求めて 

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 アロがトーヤたちに連絡をよこしたのは、その翌日の夜のことであった。

「そういうことで、明日の午後にお会いいただけるという話になりました」
「はい、分かりました、ありがとうございます」

 ストールをかぶって目だけを出したベルが、アロの伝言を伝えに来た男に礼を言った。

「色々と打ち合わせをすることもございますので、会長は明日の朝、朝食を終えたらすぐにここに来られるとのことです」
「分かりました、お待ちしております」

 連絡の男はそれだけ伝えると帰っていった。

「そんで、あっち行ったらどうすんだ?」
「俺はこんな具合で話せねえからな、またアランと、それからベル、それとディレンに頼むしかねえ」
「大丈夫かなあ……」

 ベルが不安そうに言う。

「大丈夫にするしかねえだろ?」

 包帯を巻いた手でベルの頭をガシッと掴む。

「いってえなあ」
「置いただけじゃねえか」

 そう言ってからやはりいつものように、

「あーまたぐしゃぐしゃにー!」
「諦めろ、そういう運命だって言っただろ」

 今度のことのためにこちらに来ていたディレンがそう言って笑う。

「おっさん、船の仕事はいいのかよ」

 ぶうっとふくれっ面をしてベルが言う。

「ああ、奥様の大事だって船員たちもこっちのことに専念してくれって言ってる。それに今は一番暇な時期だ」

 ディレンがアロに「さる場所」への取次を頼み、たった3日後にはもうそこへ話をしに行けることとなった。

「さすが大商人だな、顔が利く。それに……」
「ん、トーヤなんだ?」

 言葉を止めたトーヤにアランが言う。

「前もそうだった」
「前?」
「そうだ、八年前、こいつをこの国から連れ出す時もそうして全部のピースがパチッとはまるように話が進むんだ。怖いぐらいにな」

 シャンタルが「次代様がいらっしゃる」そう言ったことからシャンタリオに戻ることになった。その時から何かが糸を引き寄せるように物事が集まってくる。

「ディレンの船に乗ることになったこと、そのディレンがアロさんと知り合いだったこと、それは元々は俺がアロさんと話をしたことから新規航路や島の開拓につながり2人に繋がりができた、そんで今がある。な、いっつもこうなんだよ」
「なんだよそれ……」

 ベルがブルルっと身震いをする。

「だからな、今度のこともきっとうまくいくはずだ。この作戦は間違えてなかったんだ、と今は思う。今はな」
「今は?」
「ああ、そう思ってはいる。今はな」

 その付け加えた一言の重みに誰も返事をすることがなかった。



 翌朝、言っていた通りにアロはかなり早くトーヤたちの元へやってきた。

「あの、ケガをなさった方は馬車にはお乗りになれそうですか?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。まだ万全ではないですが、なんとか動けるまでにはなりました」
「それはよかった。では……」

 4人乗りの馬車2台でやってきたアロは、前の馬車に自分とディレン、それからアランを乗せ、後ろの馬車には奥様と侍女、それからケガをした護衛を乗せた。後ろの馬車には特に気を使ったようにクッションを追加しており、振動が少しでも軽減できるようにしていてくれた。

「さすがアロさんだな、一流の気遣いだ」

 トーヤはケガ人らしく、クッションに身をもたせかけ、一行はとある場所へと運ばれていった。



 2台の馬車は舗装された道をゆっくりと進み、街よりも高台を東へ進む。
 
 庇護を求めてやってきた場所、それは、シャンタル宮であった。

 八年前、思わぬ嵐に巻き込まれたトーヤが運ばれ、思わぬ道へ進むこととなった場所。
 そしてシャンタルにとっては生まれた場所、人生の半分以上を過ごした家族のいる場所。

 シャンタリオに着いた後、どうするのかを相談した時、トーヤが驚くような提案をした。

「シャンタル宮に奥様を保護してもらおうと思う」

 仲間の3人とディレンが驚いた。

「このまま街で待ってても時間が過ぎるだけだ。だったらこっちから乗り込む。もちろん、その前に街で情報収集はしたが、こうしてる間にも封鎖が近づいてるからな」
「封鎖?」

 事情を知らぬディレンに、その時初めてこの国に戻った経緯、そして八年前に何があったかを話すこととなった。

「大胆なことを考えるもんだ」

 ディレンは驚きはしたものの、今となってはもう何も信じられぬということはない、と作戦をすんなりと受け入れた。

 そうして今回の庇護を求めての宮への訪問、いや直訴を実現することができた。

 馬車はシャンタルの託宣を求める者、内部の人間への面会を求める者が通る、正門ではない脇の門を通り宮の内へと入っていった。
 この門はいつもトーヤが馬で走り出ていた門でもある。そこを八年ぶりに通って中に入る。

「シャンタルはここ通ったことねえんだよな?」

 侍女がそう言うと、

「もう少し上品にお話しあそばせ」

 包帯男がからかうようにとがめ、

「そうだね、だって出る時はああだったし」

 奥様も楽しそうにそう答える

 この門をくぐった先に何があるのか、それは今は分からない。それでも、豪華な宮殿へと進んでいく、それしか道はないのだ。
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