72 / 354
第一章 第四部 シャンタリオへの帰還
11 庇護を求めて
しおりを挟む
アロがトーヤたちに連絡をよこしたのは、その翌日の夜のことであった。
「そういうことで、明日の午後にお会いいただけるという話になりました」
「はい、分かりました、ありがとうございます」
ストールをかぶって目だけを出したベルが、アロの伝言を伝えに来た男に礼を言った。
「色々と打ち合わせをすることもございますので、会長は明日の朝、朝食を終えたらすぐにここに来られるとのことです」
「分かりました、お待ちしております」
連絡の男はそれだけ伝えると帰っていった。
「そんで、あっち行ったらどうすんだ?」
「俺はこんな具合で話せねえからな、またアランと、それからベル、それとディレンに頼むしかねえ」
「大丈夫かなあ……」
ベルが不安そうに言う。
「大丈夫にするしかねえだろ?」
包帯を巻いた手でベルの頭をガシッと掴む。
「いってえなあ」
「置いただけじゃねえか」
そう言ってからやはりいつものように、
「あーまたぐしゃぐしゃにー!」
「諦めろ、そういう運命だって言っただろ」
今度のことのためにこちらに来ていたディレンがそう言って笑う。
「おっさん、船の仕事はいいのかよ」
ぶうっとふくれっ面をしてベルが言う。
「ああ、奥様の大事だって船員たちもこっちのことに専念してくれって言ってる。それに今は一番暇な時期だ」
ディレンがアロに「さる場所」への取次を頼み、たった3日後にはもうそこへ話をしに行けることとなった。
「さすが大商人だな、顔が利く。それに……」
「ん、トーヤなんだ?」
言葉を止めたトーヤにアランが言う。
「前もそうだった」
「前?」
「そうだ、八年前、こいつをこの国から連れ出す時もそうして全部のピースがパチッとはまるように話が進むんだ。怖いぐらいにな」
シャンタルが「次代様がいらっしゃる」そう言ったことからシャンタリオに戻ることになった。その時から何かが糸を引き寄せるように物事が集まってくる。
「ディレンの船に乗ることになったこと、そのディレンがアロさんと知り合いだったこと、それは元々は俺がアロさんと話をしたことから新規航路や島の開拓につながり2人に繋がりができた、そんで今がある。な、いっつもこうなんだよ」
「なんだよそれ……」
ベルがブルルっと身震いをする。
「だからな、今度のこともきっとうまくいくはずだ。この作戦は間違えてなかったんだ、と今は思う。今はな」
「今は?」
「ああ、そう思ってはいる。今はな」
その付け加えた一言の重みに誰も返事をすることがなかった。
翌朝、言っていた通りにアロはかなり早くトーヤたちの元へやってきた。
「あの、ケガをなさった方は馬車にはお乗りになれそうですか?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。まだ万全ではないですが、なんとか動けるまでにはなりました」
「それはよかった。では……」
4人乗りの馬車2台でやってきたアロは、前の馬車に自分とディレン、それからアランを乗せ、後ろの馬車には奥様と侍女、それからケガをした護衛を乗せた。後ろの馬車には特に気を使ったようにクッションを追加しており、振動が少しでも軽減できるようにしていてくれた。
「さすがアロさんだな、一流の気遣いだ」
トーヤはケガ人らしく、クッションに身をもたせかけ、一行はとある場所へと運ばれていった。
2台の馬車は舗装された道をゆっくりと進み、街よりも高台を東へ進む。
庇護を求めてやってきた場所、それは、シャンタル宮であった。
八年前、思わぬ嵐に巻き込まれたトーヤが運ばれ、思わぬ道へ進むこととなった場所。
そしてシャンタルにとっては生まれた場所、人生の半分以上を過ごした家族のいる場所。
シャンタリオに着いた後、どうするのかを相談した時、トーヤが驚くような提案をした。
「シャンタル宮に奥様を保護してもらおうと思う」
仲間の3人とディレンが驚いた。
「このまま街で待ってても時間が過ぎるだけだ。だったらこっちから乗り込む。もちろん、その前に街で情報収集はしたが、こうしてる間にも封鎖が近づいてるからな」
「封鎖?」
事情を知らぬディレンに、その時初めてこの国に戻った経緯、そして八年前に何があったかを話すこととなった。
「大胆なことを考えるもんだ」
ディレンは驚きはしたものの、今となってはもう何も信じられぬということはない、と作戦をすんなりと受け入れた。
そうして今回の庇護を求めての宮への訪問、いや直訴を実現することができた。
馬車はシャンタルの託宣を求める者、内部の人間への面会を求める者が通る、正門ではない脇の門を通り宮の内へと入っていった。
この門はいつもトーヤが馬で走り出ていた門でもある。そこを八年ぶりに通って中に入る。
「シャンタルはここ通ったことねえんだよな?」
侍女がそう言うと、
「もう少し上品にお話しあそばせ」
包帯男がからかうように咎め、
「そうだね、だって出る時はああだったし」
奥様も楽しそうにそう答える
この門をくぐった先に何があるのか、それは今は分からない。それでも、豪華な宮殿へと進んでいく、それしか道はないのだ。
「そういうことで、明日の午後にお会いいただけるという話になりました」
「はい、分かりました、ありがとうございます」
ストールをかぶって目だけを出したベルが、アロの伝言を伝えに来た男に礼を言った。
「色々と打ち合わせをすることもございますので、会長は明日の朝、朝食を終えたらすぐにここに来られるとのことです」
「分かりました、お待ちしております」
連絡の男はそれだけ伝えると帰っていった。
「そんで、あっち行ったらどうすんだ?」
「俺はこんな具合で話せねえからな、またアランと、それからベル、それとディレンに頼むしかねえ」
「大丈夫かなあ……」
ベルが不安そうに言う。
「大丈夫にするしかねえだろ?」
包帯を巻いた手でベルの頭をガシッと掴む。
「いってえなあ」
「置いただけじゃねえか」
そう言ってからやはりいつものように、
「あーまたぐしゃぐしゃにー!」
「諦めろ、そういう運命だって言っただろ」
今度のことのためにこちらに来ていたディレンがそう言って笑う。
「おっさん、船の仕事はいいのかよ」
ぶうっとふくれっ面をしてベルが言う。
「ああ、奥様の大事だって船員たちもこっちのことに専念してくれって言ってる。それに今は一番暇な時期だ」
ディレンがアロに「さる場所」への取次を頼み、たった3日後にはもうそこへ話をしに行けることとなった。
「さすが大商人だな、顔が利く。それに……」
「ん、トーヤなんだ?」
言葉を止めたトーヤにアランが言う。
「前もそうだった」
「前?」
「そうだ、八年前、こいつをこの国から連れ出す時もそうして全部のピースがパチッとはまるように話が進むんだ。怖いぐらいにな」
シャンタルが「次代様がいらっしゃる」そう言ったことからシャンタリオに戻ることになった。その時から何かが糸を引き寄せるように物事が集まってくる。
「ディレンの船に乗ることになったこと、そのディレンがアロさんと知り合いだったこと、それは元々は俺がアロさんと話をしたことから新規航路や島の開拓につながり2人に繋がりができた、そんで今がある。な、いっつもこうなんだよ」
「なんだよそれ……」
ベルがブルルっと身震いをする。
「だからな、今度のこともきっとうまくいくはずだ。この作戦は間違えてなかったんだ、と今は思う。今はな」
「今は?」
「ああ、そう思ってはいる。今はな」
その付け加えた一言の重みに誰も返事をすることがなかった。
翌朝、言っていた通りにアロはかなり早くトーヤたちの元へやってきた。
「あの、ケガをなさった方は馬車にはお乗りになれそうですか?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。まだ万全ではないですが、なんとか動けるまでにはなりました」
「それはよかった。では……」
4人乗りの馬車2台でやってきたアロは、前の馬車に自分とディレン、それからアランを乗せ、後ろの馬車には奥様と侍女、それからケガをした護衛を乗せた。後ろの馬車には特に気を使ったようにクッションを追加しており、振動が少しでも軽減できるようにしていてくれた。
「さすがアロさんだな、一流の気遣いだ」
トーヤはケガ人らしく、クッションに身をもたせかけ、一行はとある場所へと運ばれていった。
2台の馬車は舗装された道をゆっくりと進み、街よりも高台を東へ進む。
庇護を求めてやってきた場所、それは、シャンタル宮であった。
八年前、思わぬ嵐に巻き込まれたトーヤが運ばれ、思わぬ道へ進むこととなった場所。
そしてシャンタルにとっては生まれた場所、人生の半分以上を過ごした家族のいる場所。
シャンタリオに着いた後、どうするのかを相談した時、トーヤが驚くような提案をした。
「シャンタル宮に奥様を保護してもらおうと思う」
仲間の3人とディレンが驚いた。
「このまま街で待ってても時間が過ぎるだけだ。だったらこっちから乗り込む。もちろん、その前に街で情報収集はしたが、こうしてる間にも封鎖が近づいてるからな」
「封鎖?」
事情を知らぬディレンに、その時初めてこの国に戻った経緯、そして八年前に何があったかを話すこととなった。
「大胆なことを考えるもんだ」
ディレンは驚きはしたものの、今となってはもう何も信じられぬということはない、と作戦をすんなりと受け入れた。
そうして今回の庇護を求めての宮への訪問、いや直訴を実現することができた。
馬車はシャンタルの託宣を求める者、内部の人間への面会を求める者が通る、正門ではない脇の門を通り宮の内へと入っていった。
この門はいつもトーヤが馬で走り出ていた門でもある。そこを八年ぶりに通って中に入る。
「シャンタルはここ通ったことねえんだよな?」
侍女がそう言うと、
「もう少し上品にお話しあそばせ」
包帯男がからかうように咎め、
「そうだね、だって出る時はああだったし」
奥様も楽しそうにそう答える
この門をくぐった先に何があるのか、それは今は分からない。それでも、豪華な宮殿へと進んでいく、それしか道はないのだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる