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20 心に正直

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「嫌なんだよ!」

 そう言ってガバっと布団から顔を出す。

「何がそんなに嫌なの?」
「だから、トーヤとシャンタルとさいならするのがだよ!」
「うーん、でもね、人っていつかは別れるものだし」

 シャンタルが軽い調子でそう続ける。

「でも嫌なもんは嫌なんだよ!」

 ベルはどうしてシャンタルが分かってくれないのかと、イライラしてきた様子だ。

「でもとにかく分かったよ。ベルは私たちと別れるのが嫌で、それで熱が出た。そういうこと?」
「いや、そう聞かれても……」

 そもそも、ベルにだって本当にそれで熱が出ているのかどうかまで言い切ることはできない。

「じゃあ、熱が出てるのと、その嫌だというのは別なの?」
「いや、そう言われても……」

 関係あるんじゃないかと自分でも思うが、やっぱりそう簡単にそうだとか違うと言えるものではないのではないかと思った。

「私はベルが熱が出てつらそうなのは嫌だな」

 にこにこしながらシャンタルがそう言う。

「だから、治ってほしいと思ってる」
「けど、けどさ……」
「けど、何?」
「おれが元気になって、そんで兄貴も元気になったらさいならなんだろ?」
「ああ、そうだろうね」
「じゃあ、おれ、治らなくていい!」

 またそう言って布団をかぶる。

「大丈夫だよ。心配しなくてもアランはまだまだ治らないからね」
「え?」

 驚いてベルがまた顔を出す。

「だって、あれだけのケガをして、それで死にかけてたわけでしょ? 私もがんばって治癒魔法をかけるつもりだけど、そう簡単には治らないよ。だからね」

 シャンタルが満面の笑みを浮かべてこう言った。

「だから、熱を出すならアランが治ってからにしたらどうかな? 今から出してたら、アランが治る頃にはベルは体が弱って動けなくなってしまうよ? そうなったら、そりゃさよならはしなくていいかも知れないけど、つらくない?」
「いや、そりゃつらいと思うけど……」

(この人、なんか少しずれてる)

 ベルは答えに困ってしまった。

「まあ、とにかくそう考えて安心したら、それで熱が下がるといいね」

 そう言って、やさしくベルの頭を撫でてくれた。

「私は元気なベルでいてほしいなあ」
「シャンタル……」

 アランは困りきった顔で2人の会話を聞いていた。
 アランもベルが感じているのと同じように感じて、そして戸惑っているのだろう。

 だが、2人ともシャンタルがベルを心配してくれていることだけは分かった。

「元気になってくれる?」
 
 心配そうな顔でそう言われ、ベルは、

「うん」

 そう答えていた。

「よかった!」

 無邪気にそう言って笑うシャンタルにまたベルが戸惑う。

 元気になると言っただけで人は元気になれるものなのか?
 だが、シャンタルの治ってほしいという気持ち、それが通じただけでなんとなく熱が下るような、そんな気になった。

 そして、その言葉通り、その後でベルの熱はみるみる下がり、あっという間に平熱に戻っていた。



「なんだよ本当に。なんの熱だったんだよ……」

 トーヤが不服そうにそう言った。

「なんかね、トーヤのせいみたい」
「はあ!?」

 トーヤが目をむいて憤慨する。

「俺が何したって!?」
「さよならの準備」
「は?」
「トーヤがね、アランが治ったらさよならだって言ったでしょ? ベル、それがつらかったみたいだよ」
「はあ? なんだよそれ!」

 困惑した顔でベルを見る。
 ベルはふんっ! と横を向いた。

「何だその態度! おま、そんなことで熱のふり」
「ふりじゃないよ?」

 シャンタルが笑って言う。

「本当に熱出てたの、トーヤも見てたでしょ?」
「いや、まあ、それは」
「人間の体って本当に不思議だよねえ」

 シャンタルがソファに座り、熱が下がったがまだ用心のためにベッドで横になっているベルの頭を優しく撫でた。

「うれしいよねえ。そんなになるほど、私たちと別れるのがつらいって、ベルはそう思ってくれているんだよ。トーヤ、うれしいよね?」
「…………」

 トーヤは返答に困っているようだった。

「それで、どうする?」
「どうするとは?」
「うん、だからね、ベルは私たちと別れたくないって言ってるんだけど、どうする?」
「どうするって言われてもな……」

 トーヤが困った顔をする。

「こいつら連れて行くわけにもいかんだろ」
「どうして?」
「どうしてって、おまえ、戻る場所考えてみろ」
「戦場でしょ?」
「そうだ」
「どうしていけないの?」
「そりゃいかんだろうさ」
「だからどうして」
「あのな」

 トーヤがイラッとした表情で言い返す。

「ガキども連れて戦場なんて無理だって言ってんだよ」
「うーん……」

 シャンタルが少し考え込む。

「でも、この2人は今までもずっと戦場にいたんだよ? だったら一緒でもよくない?」
「あのなあ……」

 トーヤが頭が痛そうに左手で額を押さえる。

「おまえ、俺が言ってたこと聞いてたか? 俺はこいつらに戦場から足洗えって言ってんの。なんでかってとな、そんな生活してたら死ぬからだよ、近々な。だからどこかで落ち着いて仕事でも見つけてまともな生活しろって言ってんじゃねえか」
「そうだっけ?」
「あのなあ!」

 トーヤが声を荒げる。

「ほんっとによく聞けよ? こいつらは俺らとは違う。戦場から足洗えるならその方がいい。そう言ってるの分かれよな!」
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