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19 心の病
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数日経ってもベルの熱は下がらなかった。
アランの体調は日に日によくなっているのに、対象的にベルの熱は下がらず、今ではすっかりベッドの上の住人になってしまっている。
心配して医者を呼んで診てもらったが、
「特に何かの感染症でもないみたいですし、どこかから悪い風が入った風でもない。ふうむ、なんでしょうなあ……」
そう言って、元気づけになるような薬を出してくれただけで帰ってしまった。
「ほら、薬、苦いけどがんばって飲んで」
シャンタルが薬包紙に包まれた粉薬と水の入ったカップを渡してくれる。
「に、がい!」
飲み干してベルが大きな声を上げた。
「るせえなあ! そんだけ元気なくせになんで熱下がんねえんだよ、ガキ!」
「そっちこそトーヤのくせに!」
「なんだと! なんでおまえ、俺に言い返す時だけそんな元気なんだよ!」
「知るか!」
本当に不思議なことに、トーヤに言い返す時だけは元気が出るのだ。
「本当、不思議だよね。それに私の治癒魔法も受けつけないんだよ」
「治癒魔法が?」
「うん。なんていうのかな、手応えがないの。元気な人に魔法かけてるみたいに」
「ほんとになんだそりゃ」
「すみません、2人揃ってこんな世話を……」
アランがすまなそうに言う。
「おまえはまあしゃあねえよ、あんだけのケガして死にかけてたんだしな。けどなあ、このガキはほんっと、どうなってんだ?」
「るせえ! ガキガキ言うな、おっさん!」
「こいっつ……」
トーヤが目を眇めて見下ろすが、さすがに病人の頭は小突けないらしい。
「ほんとに不思議です……」
「な、不思議だよな、こんだけ元気でなんで熱だけ下がんねえのか」
「いや、違うんです」
アランが続ける。
「そいつ、俺と兄以外にはなつかなかったんですよ。誰のことも怖がって。それが、お二人にはすごくなついて。特にトーヤさんにはこんな感じで、そんなん初めて見ました」
「なにいい!」
トーヤが大きな声を出す。
「こいつ、誰にでもそうなんだと思ってたが、こんなクソ生意気な態度取るの俺にだけかよ! おまえ、ざけんなよ!」
「トーヤ」
シャンタルがなだめるようにそう言って首を振る。
「くそお! 元気になったら覚えてろよ!」
捨てゼリフのように言うのにアランが、
「すみません」
申し訳無さそうに頭を下げる。
「いや、おまえのせいじゃねえし」
「私も不思議なんだよねえ」
シャンタルがトーヤをじっと見る。
「なんだよ」
「いや、トーヤがそんなになるのが」
「なんだって?」
「すごく楽しそうにケンカしてる」
そう言ってくすくす笑った。
「そうなんですか?」
「うん、最初からずっとね」
「そうなんですか……」
アランもふうむ、と首を傾けた。
「甘えてる?」
「え?」
「なんか、こいつトーヤさんに甘えてるように見えるんですよ」
「ああ」
シャンタルもスッキリした顔をする。
「確かにそう見えるね。トーヤもベルに甘えてるみたい」
「なんでだよおまえ!」
いかにも心外という顔でトーヤがシャンタルを睨みつけるが、素知らぬ顔で続ける。
「だってそうじゃない? すごく仲がいいんだよ2人。ずっとこんな調子なの」
「そうなんですか」
言われてアランも納得した顔になる。
「そうか……ってことは、気持ちの問題なのかも」
「気持ちの?」
「ええ、こいつ、なんか思うことがあって、それが原因で熱が出てるんじゃないのかなってそんな気が」
「ああ、聞くね、そういうの」
シャンタルがベルをじっと見る。
そうだ、ベルには分かっていた。
どうして自分の体が熱を出しているのかが。
「おい、ガキ。おまえ、なんか心当たりねえのか?」
トーヤがじっと見下ろす。
「何がだよ!」
「熱の原因だよ」
「分かるかよ、そんなの!」
ぷいっと頭まで布団をかぶってしまった。
「あー、トーヤ」
「なんだ」
「ちょっと出てくれる?」
「はあ?」
「トーヤちょっと邪魔だから」
「はあああ!」
「いいから出てって」
そう言われ、トーヤはぶつぶつ言いながらも大人しく部屋から出ていった。
「すごいな」
「うん?」
「いや、あのトーヤさんをああして外に出してしまうって」
「ああ」
シャンタルはくすっと笑うだけだ。
『たまにああしてどうしてもってことがある。そういう時はできるだけ聞くようにしてる』
アランはトーヤの言葉を思い出していた。
あれは本当のことらしい。
「ねえベル」
シャンタルが優しく話しかける。
「何か心当たりあるよね?」
聞いてもベルは布団に立てこもって出てこない。
「何か嫌なことがあるんじゃないの?」
図星だった。
「それが嫌でベルの体が熱を出してるんだよね。だから、それを取り除けば治るよ。熱がずっと続くと体が弱ってしまうよ」
そう優しく言われる。
「体が弱ったのは私の魔法でなんとかなるけど、完全に治すことはできないからねえ」
シャンタルが優しくため息をつく。
「トーヤは出ていったよ。言うなら今のうちだよ」
そう言われ、ベルが何か小さくつぶやいた。
「え?」
「おれ、嫌だ……」
「嫌?」
シャンタルが布団の上から耳を寄せて聞く。
「何が嫌なの?」
「…………」
「もうちょっと大きい声で言ってくれるかな?」
「おれ……」
ベルがやっとシャンタルに届くぐらいの声で言う。
「さよならするのやだ……」
素直にそう言えた。
アランの体調は日に日によくなっているのに、対象的にベルの熱は下がらず、今ではすっかりベッドの上の住人になってしまっている。
心配して医者を呼んで診てもらったが、
「特に何かの感染症でもないみたいですし、どこかから悪い風が入った風でもない。ふうむ、なんでしょうなあ……」
そう言って、元気づけになるような薬を出してくれただけで帰ってしまった。
「ほら、薬、苦いけどがんばって飲んで」
シャンタルが薬包紙に包まれた粉薬と水の入ったカップを渡してくれる。
「に、がい!」
飲み干してベルが大きな声を上げた。
「るせえなあ! そんだけ元気なくせになんで熱下がんねえんだよ、ガキ!」
「そっちこそトーヤのくせに!」
「なんだと! なんでおまえ、俺に言い返す時だけそんな元気なんだよ!」
「知るか!」
本当に不思議なことに、トーヤに言い返す時だけは元気が出るのだ。
「本当、不思議だよね。それに私の治癒魔法も受けつけないんだよ」
「治癒魔法が?」
「うん。なんていうのかな、手応えがないの。元気な人に魔法かけてるみたいに」
「ほんとになんだそりゃ」
「すみません、2人揃ってこんな世話を……」
アランがすまなそうに言う。
「おまえはまあしゃあねえよ、あんだけのケガして死にかけてたんだしな。けどなあ、このガキはほんっと、どうなってんだ?」
「るせえ! ガキガキ言うな、おっさん!」
「こいっつ……」
トーヤが目を眇めて見下ろすが、さすがに病人の頭は小突けないらしい。
「ほんとに不思議です……」
「な、不思議だよな、こんだけ元気でなんで熱だけ下がんねえのか」
「いや、違うんです」
アランが続ける。
「そいつ、俺と兄以外にはなつかなかったんですよ。誰のことも怖がって。それが、お二人にはすごくなついて。特にトーヤさんにはこんな感じで、そんなん初めて見ました」
「なにいい!」
トーヤが大きな声を出す。
「こいつ、誰にでもそうなんだと思ってたが、こんなクソ生意気な態度取るの俺にだけかよ! おまえ、ざけんなよ!」
「トーヤ」
シャンタルがなだめるようにそう言って首を振る。
「くそお! 元気になったら覚えてろよ!」
捨てゼリフのように言うのにアランが、
「すみません」
申し訳無さそうに頭を下げる。
「いや、おまえのせいじゃねえし」
「私も不思議なんだよねえ」
シャンタルがトーヤをじっと見る。
「なんだよ」
「いや、トーヤがそんなになるのが」
「なんだって?」
「すごく楽しそうにケンカしてる」
そう言ってくすくす笑った。
「そうなんですか?」
「うん、最初からずっとね」
「そうなんですか……」
アランもふうむ、と首を傾けた。
「甘えてる?」
「え?」
「なんか、こいつトーヤさんに甘えてるように見えるんですよ」
「ああ」
シャンタルもスッキリした顔をする。
「確かにそう見えるね。トーヤもベルに甘えてるみたい」
「なんでだよおまえ!」
いかにも心外という顔でトーヤがシャンタルを睨みつけるが、素知らぬ顔で続ける。
「だってそうじゃない? すごく仲がいいんだよ2人。ずっとこんな調子なの」
「そうなんですか」
言われてアランも納得した顔になる。
「そうか……ってことは、気持ちの問題なのかも」
「気持ちの?」
「ええ、こいつ、なんか思うことがあって、それが原因で熱が出てるんじゃないのかなってそんな気が」
「ああ、聞くね、そういうの」
シャンタルがベルをじっと見る。
そうだ、ベルには分かっていた。
どうして自分の体が熱を出しているのかが。
「おい、ガキ。おまえ、なんか心当たりねえのか?」
トーヤがじっと見下ろす。
「何がだよ!」
「熱の原因だよ」
「分かるかよ、そんなの!」
ぷいっと頭まで布団をかぶってしまった。
「あー、トーヤ」
「なんだ」
「ちょっと出てくれる?」
「はあ?」
「トーヤちょっと邪魔だから」
「はあああ!」
「いいから出てって」
そう言われ、トーヤはぶつぶつ言いながらも大人しく部屋から出ていった。
「すごいな」
「うん?」
「いや、あのトーヤさんをああして外に出してしまうって」
「ああ」
シャンタルはくすっと笑うだけだ。
『たまにああしてどうしてもってことがある。そういう時はできるだけ聞くようにしてる』
アランはトーヤの言葉を思い出していた。
あれは本当のことらしい。
「ねえベル」
シャンタルが優しく話しかける。
「何か心当たりあるよね?」
聞いてもベルは布団に立てこもって出てこない。
「何か嫌なことがあるんじゃないの?」
図星だった。
「それが嫌でベルの体が熱を出してるんだよね。だから、それを取り除けば治るよ。熱がずっと続くと体が弱ってしまうよ」
そう優しく言われる。
「体が弱ったのは私の魔法でなんとかなるけど、完全に治すことはできないからねえ」
シャンタルが優しくため息をつく。
「トーヤは出ていったよ。言うなら今のうちだよ」
そう言われ、ベルが何か小さくつぶやいた。
「え?」
「おれ、嫌だ……」
「嫌?」
シャンタルが布団の上から耳を寄せて聞く。
「何が嫌なの?」
「…………」
「もうちょっと大きい声で言ってくれるかな?」
「おれ……」
ベルがやっとシャンタルに届くぐらいの声で言う。
「さよならするのやだ……」
素直にそう言えた。
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