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15 別れの予感
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「まあ、わかりゃいい……」
トーヤはそう言うとむっつりと目をつぶり、ベルから顔を背けた。
「あの、シャンタルさん」
「シャンタル」
銀色の精霊はそう言って笑う。
「シャンタルでいいよ」
「シャンタル」
「うん、何?」
「シャンタルは、なんであの、あの人と」
なんとなくトーヤと呼べない感じになった。
「トーヤ?」
「うん。トーヤと一緒にいるの?」
「ああ」
そう言ってトーヤの方を見るが、トーヤは知らん顔をしている。
「まあ、私もベルたちと一緒かな」
「一緒?」
「うん、トーヤに拾われたって感じ」
「そうなのか」
ベルはふうむ、と考え込んだ。
「どうしたの?」
「うん、いや、シャンタルみたいなきれいな人、捨てるのがいるのかなって」
それを聞いてシャンタルが大笑いした。
「捨てられたわけではないけどね、まあ拾われたんだ」
「そうなの? なんか、わけわかんねえ……」
「まあ、ほんとな、なんの因果かとんでもねえもんばっかり拾っちまうわけだ」
ベルが困っているとトーヤが言った。
「しょうがねえから一応拾ったもんはある程度責任持って世話はする。けどな、元気になったらとっとと出てけよ」
ベルと目を合わせずに言う。
責任感だけで仕方なく置いているように言われたことがベルはショックだった。
「なんだよ、それ……」
腹が立って、
「ああ、兄貴が元気になったらすぐ出てってやるよ! 恩を返せっていうからそのつもりしてたけど、それよりもおれらがとっとと消えた方がトーヤはすっきりするんだよな!」
怒りをぶつけるようにそう言うと、
「ああそうだ、そうしてくれ」
感情を感じさせずトーヤがそう言い放った。
その後でトーヤは、
「ちと出てくる。まだ兄貴から目ぇ離すなよな。まあ大丈夫とは思うが、万一ってこともある」
そう言ってふらっと出ていったまま夕方まで帰らなかった。
「どこ行ったんだろうね、トーヤ」
食堂で2人で食事をしながらシャンタルがそう言った。
なんとなくベルは、トーヤは自分と話したくないから出ていったような、そんな気がした。
トーヤは「兄貴から目を離すな」と言ったのだが、あの後、割とすぐにアランは目を覚ました。
「あの、あの、一体……」
目を覚まし、見たこともない美しい人と妹が一緒に、しかも戦場で汚れに汚れた姿ではなく、こざっぱりとした服に清潔な見た目でいるのを見て、驚いて声をなくしていた。
「兄貴ぃ、よかった……」
ベルはひたすらアランにしがみついて泣くばかり。
「よかったね、もう大丈夫だね。傷は痛まない?」
「あ、はい、あの、いて……」
言われて傷を意識した途端に痛みを感じた。
「まだ痛いよね、もう少し寝ててもよかったかも」
銀の髪、褐色の肌に深い深い緑の瞳の麗人がそう言うのを見て、アランは痛みも忘れてぼおっと見惚れてしまった。
「兄貴、あのな」
ベルが気の毒そうに言う。
「この人な、シャンタルってんだけどな、先に言っとくが、男だからな」
「は?」
アランが言われている意味と意図を受け止めかねる。
「うん、一応言っとくね、お兄さんだよ~」
銀の髪の人も妹に合わせるようにふざけた様子でそう言う。
アランはますます訳が分からない顔になる。
「ぶふっ、兄貴の顔……」
ベルがそれを見て吹き出し、大笑いした。
「いや、あの……いて、いてて……」
「兄貴!」
笑い転げていたベルが慌てて顔を覗き込む。
「痛むか?」
「まあ痛むといやあ痛むが、前ほどじゃない」
前に意識があった時、アランは今までに経験したことがない痛みに苦しんでいた。その時よりはましだということだろう。
「そうか、うん、よかった」
ベルがホッとした顔でそう言う。
「あのな、助けてもらったんだよ」
「助けてって、おまえ……」
「このシャンタルとな、そんでもう一人トーヤってのがいて、その2人に助けてもらったんだ」
聞いてもまだよく分かってないという顔をする。
「もう一人は今ちょっと出かけてるんだけど、そのうち帰るから。まあもう少しゆっくりしといて」
シャンタルがそう言って、
「水、飲めるかな?」
アランに冷たい水の入ったカップを渡してくれた。
「気をつけてね」
アランは痛みに耐えながら少しだけ体を起こし、それをベルが支える。
冷たい水をごくりごくりと飲み、はあっと息をついた。
「うまかった……」
「よかったな、よかったな兄貴!」
ベルの目からは涙が止まらない。
「いきなり普通のご飯もなんだから、少し柔らかいものでも頼んでおくよ」
そうして夕方になり、アランにスープとパンを食べさせ、その後で食器を食堂に返すついでに2人で食事をしたのだった。
「よかったね、お兄さん、おいしそうにスープを飲んでた。もう後は治るのを待つばかりだよ」
「うん」
言いながら、なんとなくベルの気分は沈んでいた。
「どうしたの?」
シャンタルが心配そうに聞くと、
「おれのせいかなあ……」
ベルがそう言う。
「なにが?」
「おれが、シャンタルって子がいて、その子をルーって呼んだって言ったからトーヤは怒っていなくなった気がする……」
ベルが木の皿の上の肉を木のフォークでつつきながら、
「おれが、あんなこと言ったから、怒ってさよならの準備しに行ったんだと思う」
ベルがしょんぼりとそう言った。
トーヤはそう言うとむっつりと目をつぶり、ベルから顔を背けた。
「あの、シャンタルさん」
「シャンタル」
銀色の精霊はそう言って笑う。
「シャンタルでいいよ」
「シャンタル」
「うん、何?」
「シャンタルは、なんであの、あの人と」
なんとなくトーヤと呼べない感じになった。
「トーヤ?」
「うん。トーヤと一緒にいるの?」
「ああ」
そう言ってトーヤの方を見るが、トーヤは知らん顔をしている。
「まあ、私もベルたちと一緒かな」
「一緒?」
「うん、トーヤに拾われたって感じ」
「そうなのか」
ベルはふうむ、と考え込んだ。
「どうしたの?」
「うん、いや、シャンタルみたいなきれいな人、捨てるのがいるのかなって」
それを聞いてシャンタルが大笑いした。
「捨てられたわけではないけどね、まあ拾われたんだ」
「そうなの? なんか、わけわかんねえ……」
「まあ、ほんとな、なんの因果かとんでもねえもんばっかり拾っちまうわけだ」
ベルが困っているとトーヤが言った。
「しょうがねえから一応拾ったもんはある程度責任持って世話はする。けどな、元気になったらとっとと出てけよ」
ベルと目を合わせずに言う。
責任感だけで仕方なく置いているように言われたことがベルはショックだった。
「なんだよ、それ……」
腹が立って、
「ああ、兄貴が元気になったらすぐ出てってやるよ! 恩を返せっていうからそのつもりしてたけど、それよりもおれらがとっとと消えた方がトーヤはすっきりするんだよな!」
怒りをぶつけるようにそう言うと、
「ああそうだ、そうしてくれ」
感情を感じさせずトーヤがそう言い放った。
その後でトーヤは、
「ちと出てくる。まだ兄貴から目ぇ離すなよな。まあ大丈夫とは思うが、万一ってこともある」
そう言ってふらっと出ていったまま夕方まで帰らなかった。
「どこ行ったんだろうね、トーヤ」
食堂で2人で食事をしながらシャンタルがそう言った。
なんとなくベルは、トーヤは自分と話したくないから出ていったような、そんな気がした。
トーヤは「兄貴から目を離すな」と言ったのだが、あの後、割とすぐにアランは目を覚ました。
「あの、あの、一体……」
目を覚まし、見たこともない美しい人と妹が一緒に、しかも戦場で汚れに汚れた姿ではなく、こざっぱりとした服に清潔な見た目でいるのを見て、驚いて声をなくしていた。
「兄貴ぃ、よかった……」
ベルはひたすらアランにしがみついて泣くばかり。
「よかったね、もう大丈夫だね。傷は痛まない?」
「あ、はい、あの、いて……」
言われて傷を意識した途端に痛みを感じた。
「まだ痛いよね、もう少し寝ててもよかったかも」
銀の髪、褐色の肌に深い深い緑の瞳の麗人がそう言うのを見て、アランは痛みも忘れてぼおっと見惚れてしまった。
「兄貴、あのな」
ベルが気の毒そうに言う。
「この人な、シャンタルってんだけどな、先に言っとくが、男だからな」
「は?」
アランが言われている意味と意図を受け止めかねる。
「うん、一応言っとくね、お兄さんだよ~」
銀の髪の人も妹に合わせるようにふざけた様子でそう言う。
アランはますます訳が分からない顔になる。
「ぶふっ、兄貴の顔……」
ベルがそれを見て吹き出し、大笑いした。
「いや、あの……いて、いてて……」
「兄貴!」
笑い転げていたベルが慌てて顔を覗き込む。
「痛むか?」
「まあ痛むといやあ痛むが、前ほどじゃない」
前に意識があった時、アランは今までに経験したことがない痛みに苦しんでいた。その時よりはましだということだろう。
「そうか、うん、よかった」
ベルがホッとした顔でそう言う。
「あのな、助けてもらったんだよ」
「助けてって、おまえ……」
「このシャンタルとな、そんでもう一人トーヤってのがいて、その2人に助けてもらったんだ」
聞いてもまだよく分かってないという顔をする。
「もう一人は今ちょっと出かけてるんだけど、そのうち帰るから。まあもう少しゆっくりしといて」
シャンタルがそう言って、
「水、飲めるかな?」
アランに冷たい水の入ったカップを渡してくれた。
「気をつけてね」
アランは痛みに耐えながら少しだけ体を起こし、それをベルが支える。
冷たい水をごくりごくりと飲み、はあっと息をついた。
「うまかった……」
「よかったな、よかったな兄貴!」
ベルの目からは涙が止まらない。
「いきなり普通のご飯もなんだから、少し柔らかいものでも頼んでおくよ」
そうして夕方になり、アランにスープとパンを食べさせ、その後で食器を食堂に返すついでに2人で食事をしたのだった。
「よかったね、お兄さん、おいしそうにスープを飲んでた。もう後は治るのを待つばかりだよ」
「うん」
言いながら、なんとなくベルの気分は沈んでいた。
「どうしたの?」
シャンタルが心配そうに聞くと、
「おれのせいかなあ……」
ベルがそう言う。
「なにが?」
「おれが、シャンタルって子がいて、その子をルーって呼んだって言ったからトーヤは怒っていなくなった気がする……」
ベルが木の皿の上の肉を木のフォークでつつきながら、
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