42 / 51
柿ノ元はんなの願い
しおりを挟む
足がもつれる。
耐えろ。転んでるヒマなんかない!
学校中隈なく探した。
なんで見つかんねえんだ。明翔、学校の外まで逃げた?
もう、ここしかない。
校舎裏にもいなかったら、入れ違いになったか校外か――
「明翔!」
明翔が吞気にスマホを手にして木にもたれかかっている。
やっと見つけた!
「深月! ちょうど今校舎裏に来てってメッセージつくってたの。以心伝心」
目が釘付けになって殺意が湧いた。
嬉しそうに笑った明翔のスマホを持つ右手に赤い傷がある。
「はんな……許さねえ」
明翔を傷付けやがった。やってはならんことを……。
足を踏み出すと、スニーカー越し足の裏にムニュッと妙な感覚がした。
自分の靴を見る。人のふくらはぎを踏みつけていて、めちゃくちゃ驚いた。
「うわ! ……はんな?」
はんなが白目むいて明翔の足元に転がってる……。
「これ、明翔が?」
「うん。この子俺のこと殺す気でナイフ向けてきたから腹に入れた。1発で仕留めたからたぶんそんなに苦しくなかったと思うよ」
……男も女も関係ないボーダーレス男子は女相手でも容赦ねえなあ……。
「う……ううぅ……」
はんなのうめき声がする。
ギロリと睨みつけ、どうしてやろうかと考える。
「深月。これ」
「何これ」
「この子が書いた手紙」
「手紙?」
封が開いてる。明翔が読んだんかな。
中には便せんが1枚。
小さい女の子っぽい読みやすい字で引くほどビッシリと書かれている。
みずきへ
私のせいでみずきのそばにいられなくなってごめんなさい。
みずきを守りたい気持ちは本物です。
でも、親がばかほど怒ってて学校以外家から出してもらえないし、次にみずきに近付いたら学校をやめさせると言われました。
そばにはいられなくても、私はみずきと同じこの学校にいたいです。
私のわがままを許してください。
思えば、1年の時の文化祭、劇で同じ大道具係になったことから私とみずきの大恋愛は始まりましたね。
私が踏み台に乗って台を移動させながら飾りつけをしていたら、みずきは軽々とうでを伸ばして飾りをしていってました。
台の上でそんなみずきを見て、この目線がめっちゃ高い景色をみずきはいつも見てるんだって思いました。
すごいな、いいなって思いました。
みずきに言いたかったけど、言えなかったことがひとつあります。
私はみずきに近付けないから、かなうことはないけど……。
みずきに肩車してもらいたかったです。
いつも高い景色を見てるみずきよりも、もっと高い景色を見てみたかった。
はなれていても、私はみずきが大好きです。
はんなより
……はんな……。
「この子、こんな小さな望みすら言えないくらい、深月のこと好きだったんだね」
「いや、まずさ、俺みずきじゃなくてひらがな表記みづきなんだわ。月だからさあ。みずきが多すぎて内容ぜんっぜん頭に入ってこねえ」
「……みづきぃ……」
改めて、みずきをできるだけ視界から排除して文面を読む。
大恋愛……始まってねえんだわ。
「俺ってそこまで身長しか取り柄ない?」
「まあ、この小ささだから衝撃だったんじゃねえ? この子はこれくらいでしょ」
明翔がひざをかがめて小さくなり、俺を見上げる。
まあ、たしかにこれくらいだったかな。
規格外に小さくておもしろい女だと初めは思った。初めは。
「俺、嫌だよ。深月のことこんな好きなのに、いきなり深月に近付くなって警察まで出てきて仰々しい念書なんかで約束させられたりしたら」
「明翔は何も問題起こしてねえじゃん」
「この子だって、問題を起こしたくて起こしたわけじゃないんでしょ」
……そうかもしんねえ……興味ない関心ないって、俺が放置してたから問題が大きくなってった気もする。
はんなだけが悪いんじゃないか。
「俺、はんなに悪いことした。すっかりこの一件でみんなから要注意人物みたいに見られるだろうし」
「そうだね。せめて、願いを叶えてあげたら?」
「願い?」
明翔が笑顔で俺が持つはんなの手紙を指差す。
ああ、肩車……。
「けど、はんなには近付けねえし。はんなが起きる前に俺行くわ」
「それは、柿ノ元はんなが呂久村深月に近付かないって念書じゃなかったっけ」
「へ? そうだよ」
「深月から近付いてやればいいじゃん」
「……俺、そういう言葉のロジックみたいなん嫌いだわー」
「まあまあ」
はんながのっそりと上半身を持ち上げる。
「うう……」
明翔がしゃがんではんなの顔をのぞき込んだ。
「ごめんね。腹大丈夫?」
「……大丈夫……」
ほらほら、とでも言うように明翔が笑顔で俺を見上げる。
……しゃあねえな……。
「はんな。ほれ」
俺もしゃがみ込んで、はんなの前に背中を差し出す。
「え?」
「乗れよ。見せてやんよ。俺より高い景色」
「深月……」
明翔が手伝い、俺の肩と首に重みを感じる。
安全のためはんなの足首をしっかりとつかむ。
はあっ! と気合いを入れて足を伸ばすが、思ったよりはんなは重くなかった。
「これが、深月よりも高い景色……」
「どうよ」
「怖い怖い怖い怖い! 余裕で2メートル超えてるじゃない! 下ろして! 離して!」
「あっぶね! 暴れんな!」
バランスを崩してこけそうになる。
マジで何なんだ、この女!
「怖い! 離して! 助けてー! 誰かー!」
「誤解を生む悲鳴を上げるな!」
慌てて地面に膝をつき、明翔サポートではんなが地上に立つ。
「あー……高きゃいいってもんじゃない。こっわ」
「お前が望んだんだろーが!!」
恐怖に顔が歪んでいたはんなが俺を見上げた。
「手紙……」
「読んだ」
「私のために……」
「今俺にできることは、これくらいだし」
はんなが細い腕で抱きついてくる。
「深月――! 愛してるぅ――!」
「離れろ! お前から近付くのは禁止されてるだろ!」
はんなをひっぺがして明翔の背後に身を隠す。
「これからは、深月からはんなに近付くよ」
「深月から?」
「たまにな、たまにだけ」
「深月……うん!」
はんなの笑顔に罪悪感がいくらかマシになる。
逃げてばっかりじゃダメなんだ。ちゃんと、向き合った方が心が軽くなる。
「俺はずっと深月のそばにいるけどね」
明翔が俺の肩に頭を乗せる。
はんなの笑顔が般若に変わった。
「私のナイフは?!」
「そっちから近付いちゃダメなんでしょー」
明翔がナイフを見せびらかしながら、じゃーねー、と俺の腕を引っ張って校舎裏を出る。
「お前なあ……」
「俺がただあの子と深月を近付かせると思った? 絶対に俺がそばにいる時だけね」
すぐにすねる明翔が何の策もなくあんな提案をするわけないか。
キュッと腕に絡みつく明翔の頭をなでた。
よくやった、明翔。サンキューな。
耐えろ。転んでるヒマなんかない!
学校中隈なく探した。
なんで見つかんねえんだ。明翔、学校の外まで逃げた?
もう、ここしかない。
校舎裏にもいなかったら、入れ違いになったか校外か――
「明翔!」
明翔が吞気にスマホを手にして木にもたれかかっている。
やっと見つけた!
「深月! ちょうど今校舎裏に来てってメッセージつくってたの。以心伝心」
目が釘付けになって殺意が湧いた。
嬉しそうに笑った明翔のスマホを持つ右手に赤い傷がある。
「はんな……許さねえ」
明翔を傷付けやがった。やってはならんことを……。
足を踏み出すと、スニーカー越し足の裏にムニュッと妙な感覚がした。
自分の靴を見る。人のふくらはぎを踏みつけていて、めちゃくちゃ驚いた。
「うわ! ……はんな?」
はんなが白目むいて明翔の足元に転がってる……。
「これ、明翔が?」
「うん。この子俺のこと殺す気でナイフ向けてきたから腹に入れた。1発で仕留めたからたぶんそんなに苦しくなかったと思うよ」
……男も女も関係ないボーダーレス男子は女相手でも容赦ねえなあ……。
「う……ううぅ……」
はんなのうめき声がする。
ギロリと睨みつけ、どうしてやろうかと考える。
「深月。これ」
「何これ」
「この子が書いた手紙」
「手紙?」
封が開いてる。明翔が読んだんかな。
中には便せんが1枚。
小さい女の子っぽい読みやすい字で引くほどビッシリと書かれている。
みずきへ
私のせいでみずきのそばにいられなくなってごめんなさい。
みずきを守りたい気持ちは本物です。
でも、親がばかほど怒ってて学校以外家から出してもらえないし、次にみずきに近付いたら学校をやめさせると言われました。
そばにはいられなくても、私はみずきと同じこの学校にいたいです。
私のわがままを許してください。
思えば、1年の時の文化祭、劇で同じ大道具係になったことから私とみずきの大恋愛は始まりましたね。
私が踏み台に乗って台を移動させながら飾りつけをしていたら、みずきは軽々とうでを伸ばして飾りをしていってました。
台の上でそんなみずきを見て、この目線がめっちゃ高い景色をみずきはいつも見てるんだって思いました。
すごいな、いいなって思いました。
みずきに言いたかったけど、言えなかったことがひとつあります。
私はみずきに近付けないから、かなうことはないけど……。
みずきに肩車してもらいたかったです。
いつも高い景色を見てるみずきよりも、もっと高い景色を見てみたかった。
はなれていても、私はみずきが大好きです。
はんなより
……はんな……。
「この子、こんな小さな望みすら言えないくらい、深月のこと好きだったんだね」
「いや、まずさ、俺みずきじゃなくてひらがな表記みづきなんだわ。月だからさあ。みずきが多すぎて内容ぜんっぜん頭に入ってこねえ」
「……みづきぃ……」
改めて、みずきをできるだけ視界から排除して文面を読む。
大恋愛……始まってねえんだわ。
「俺ってそこまで身長しか取り柄ない?」
「まあ、この小ささだから衝撃だったんじゃねえ? この子はこれくらいでしょ」
明翔がひざをかがめて小さくなり、俺を見上げる。
まあ、たしかにこれくらいだったかな。
規格外に小さくておもしろい女だと初めは思った。初めは。
「俺、嫌だよ。深月のことこんな好きなのに、いきなり深月に近付くなって警察まで出てきて仰々しい念書なんかで約束させられたりしたら」
「明翔は何も問題起こしてねえじゃん」
「この子だって、問題を起こしたくて起こしたわけじゃないんでしょ」
……そうかもしんねえ……興味ない関心ないって、俺が放置してたから問題が大きくなってった気もする。
はんなだけが悪いんじゃないか。
「俺、はんなに悪いことした。すっかりこの一件でみんなから要注意人物みたいに見られるだろうし」
「そうだね。せめて、願いを叶えてあげたら?」
「願い?」
明翔が笑顔で俺が持つはんなの手紙を指差す。
ああ、肩車……。
「けど、はんなには近付けねえし。はんなが起きる前に俺行くわ」
「それは、柿ノ元はんなが呂久村深月に近付かないって念書じゃなかったっけ」
「へ? そうだよ」
「深月から近付いてやればいいじゃん」
「……俺、そういう言葉のロジックみたいなん嫌いだわー」
「まあまあ」
はんながのっそりと上半身を持ち上げる。
「うう……」
明翔がしゃがんではんなの顔をのぞき込んだ。
「ごめんね。腹大丈夫?」
「……大丈夫……」
ほらほら、とでも言うように明翔が笑顔で俺を見上げる。
……しゃあねえな……。
「はんな。ほれ」
俺もしゃがみ込んで、はんなの前に背中を差し出す。
「え?」
「乗れよ。見せてやんよ。俺より高い景色」
「深月……」
明翔が手伝い、俺の肩と首に重みを感じる。
安全のためはんなの足首をしっかりとつかむ。
はあっ! と気合いを入れて足を伸ばすが、思ったよりはんなは重くなかった。
「これが、深月よりも高い景色……」
「どうよ」
「怖い怖い怖い怖い! 余裕で2メートル超えてるじゃない! 下ろして! 離して!」
「あっぶね! 暴れんな!」
バランスを崩してこけそうになる。
マジで何なんだ、この女!
「怖い! 離して! 助けてー! 誰かー!」
「誤解を生む悲鳴を上げるな!」
慌てて地面に膝をつき、明翔サポートではんなが地上に立つ。
「あー……高きゃいいってもんじゃない。こっわ」
「お前が望んだんだろーが!!」
恐怖に顔が歪んでいたはんなが俺を見上げた。
「手紙……」
「読んだ」
「私のために……」
「今俺にできることは、これくらいだし」
はんなが細い腕で抱きついてくる。
「深月――! 愛してるぅ――!」
「離れろ! お前から近付くのは禁止されてるだろ!」
はんなをひっぺがして明翔の背後に身を隠す。
「これからは、深月からはんなに近付くよ」
「深月から?」
「たまにな、たまにだけ」
「深月……うん!」
はんなの笑顔に罪悪感がいくらかマシになる。
逃げてばっかりじゃダメなんだ。ちゃんと、向き合った方が心が軽くなる。
「俺はずっと深月のそばにいるけどね」
明翔が俺の肩に頭を乗せる。
はんなの笑顔が般若に変わった。
「私のナイフは?!」
「そっちから近付いちゃダメなんでしょー」
明翔がナイフを見せびらかしながら、じゃーねー、と俺の腕を引っ張って校舎裏を出る。
「お前なあ……」
「俺がただあの子と深月を近付かせると思った? 絶対に俺がそばにいる時だけね」
すぐにすねる明翔が何の策もなくあんな提案をするわけないか。
キュッと腕に絡みつく明翔の頭をなでた。
よくやった、明翔。サンキューな。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
この目に映るのは
琢都(たくと)
BL
カフェ店員の坂本達也は、趣味で撮っていた写真を店に飾ったことで、オーナーの友人である立花望と言葉を交わすようになる。あることをきっかけに、彼と2人で映画を観に行くことになった坂本は思いがけず告白され、不用意な言葉で相手を傷つけてしまう。
姿を見せなくなった立花に一言謝りたい。彼のことを意識し始めた坂本は、無事謝罪した後も、彼への言い表せない気持ちを募らせていく。
遠回りをしながら、立花への恋心を自覚した坂本が、その気持ちを伝えるまでの話。
※「小説家になろう」、「fujossy」、「Nolaノベル」、「エブリスタ」にも掲載しております。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
灰かぶり君
渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。
お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。
「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」
「……禿げる」
テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに?
※重複投稿作品※
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる