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我らいつメン
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教室に入ると、煌びやかな学級委員長サマと地味なモブ男子が楽しげに俺の席で談笑している。
「なぜにここで」
「この席がちょうど僕たちの席から同じくらいの距離で平等だから」
「それほどまでに平等を愛する心何なん」
「ごっ、ごめん、ここ呂久村くんの席だったんだ」
黒髪で小柄なもやしっ子のメガネ男子が慌てて椅子を引いてくれる。
どうも、と席に座った。
「そんなに気を使わなくてもいいよ、黒岩くん」
「人の席占領してんだから気を使ってしかるべきなんだよ」
長めの金髪の片側だけ赤いピンで×に留めている、イケメン王子と異名を持つ学級委員長、柳龍二はふてぶてしい。
「僕たち昨日、ターミナル駅においてながらスマホで歩いている人の割合を算出したんだ」
「せっかくの日曜にお前らバカなの」
「結果は1割から3割。予想外だろう?」
「何の予想もしてねえ」
「時間帯によって変化があっておもしろかったよ」
「何時間やってんだよ」
「朝10時集合、夕方6時解散」
うわ、バカだ。
8時間も休みを無駄にするとか信じらんねえ。
「黒岩くん、暗くなる前に帰れたかい?」
「うん、大丈夫だったよ」
「なら良かった。無理にでも送って行けば良かったと思っていたんだ」
「いいよ、方向が逆なのに送ってもらっちゃったりしたら不平等だもん」
あくまでも平等を欲するのな、黒岩くん。
「黒岩くんと過ごせる時間が増えるんだから、平等だよ」
「え……じゃあ、今度は送ってもらおうかな」
「じゃあ、また日曜日に朝10時集合で」
2週連続でそれやんのかよ。暇人か。
真っ赤な顔ではにかむ黒岩くんを愛おしそうに柳が見つめる。
いい感じにやってるみたいだな、この二人。
「深月、おはよっ」
ててっと小柄な佐藤颯太がやって来る。
「はよー、颯太。一条、風邪治った?」
「うん! 昨日お見舞いに行ったら、元気そうにしてたよ」
「昨日俺、明翔と服買いに行ったんだよ。亜衣ちゃん真衣ちゃんは遠い親戚の結婚式で土日いなかったらしいじゃん」
「う、うんっ。二人っきりだったけど、別に、何もないよっ」
「へー、そうなんだ。一条と二人っきりねー。何の話したの? 颯太ー」
今この場には柳と黒岩くんがいる。
今だ、颯太をいじるチャンスは今しかない!
黒岩くんよりも小柄でかわいい顔した颯太だが、実はバリバリのヤンキー一家育ちケンカ負けなし、任侠道に生きる漢である。
幼稚園で出会った時にはすでにヤンキーデビュー済み。当時はデカくて強くてカッコ良かった颯太に憧れ、小学校でもコバンザメのようにくっついていた俺。
だが、1年生にして力で桜が丘小学校をシメ、順風満帆なヤンキー小学生活を送る颯太を突然の不幸が襲った。
身長が155センチでピタリと止まったのだ。
さらに不幸なことに、俺たちが進学する中学校はヤンキーが多いで有名な治安の悪い学校だった。
そこで、颯太は生き残るため、正反対に舵を切った。「かわいい」に全振りしたのだ。
金髪を黒く染めサングラスを外しきちんと制服を着、元のかわいさを最大限に引き上げた。
今も、ワイシャツの上に大きなフードのパーカーを着て強引に「かわいい」を演出している。
「ねえねえ、一条どんな部屋着ー? 教えてよ、颯太くんー」
心の中ではブチ切れだろうが、颯太は困ったようにアヒル口で黙秘を続ける。学校ではヤンキーを封印しているのだ。
柳たちがいなければ、俺は今頃しゃべれない口にされているであろう。
「こら。ボクたちのかわいいマスコットをいじめるな、呂久村」
やべえ、一条が来た。
振り返ると、すっかり元気そうな一条優が俺をにらみつけていた。
「深月! おはよー!」
朝から輝く笑顔がまぶしい明翔の隣に立つ、同じような顔ながら明翔よりも短髪で黒髪の一条優。
「お、おはよー、一条、明翔。今日も似てんね」
「まったく、小さい子をいじめるんじゃない。大丈夫か、ショタ」
「う、うんっ。大丈夫だよっ」
一条に頭をなでられ、赤くなりつつも笑う颯太。
公衆の面前でイチャついてんじゃない。
「一条くん、前髪切ったんだ? だいぶ印象が変わるものだね」
柳がパッツンと切りそろえるように自分の額の前でハサミを動かすジェスチャーをする。
「高崎くんと一条くんはそっくりだと思ってたけど、別人に見えるよ」
「別人に見えるんじゃなくて、別人なんだよ」
俺これ言うの何回目だろ。
明翔と一条は母親同士が双子のいとこである。
二人とも母親に激似らしく、結果顔がそっくりなのだ。
だけど、あくまで似てるだけ。
明翔は明翔、一条は一条だ。
「動画の企画で山上キャンプはともかくさ、平地のカッコで行ったんじゃそりゃ寒くて風邪もひくよね。ちゃんと調べてから行けよ、優」
「うるさいな。ショタは自分の服脱いで貸してくれたのにボクだけが風邪をひいたんだから、きっと疲れて免疫力が落ちてたんだ」
へー、颯太、着てる服脱いで貸すとかやるじゃん。
明翔が颯太の肩に手を置き、顔をのぞき込む。
「颯太、共同作成なんだから優の言いなりじゃなくていいんだよ」
「そんなんじゃないよっ。一条は弱音吐かないがんばり屋さんで粘り強くてすごく優しいから、俺は自主的に一条がやりたいことを一緒にやりたいだけ――あ」
颯太が真っ赤になってうつむいてしまう。
マジか、颯太。
「俺の愛する女は生涯ひとりと決めている」
とかなんとかいい顔で言いながら実は惚れっぽい颯太だが、どうやらこれまでの認めなかった恋とは違うようだ。
「すげー颯太、人の良いところがスラスラ出てくるなんていいヤツだなー。深月のいいところも教えてよ」
「ないなっ」
なんで颯太の顔をのぞき込んでるくせにそっちに食いつくんだ、明翔。
そして即答でないってどういうことだ、颯太。
「ショタ! 登録者が増えてる! 11人!」
「やったあ! キャンプ行って良かった!」
ひとり増えただけでこの喜びよう。
動画の収益化はまだまだ遠そうだな。
颯太と一条はそれぞれ動画の収益化に失敗し、逆身長差カップルチューバーが人気だから、というこじつけで共同作成した動画をチャンネルに上げている。
颯太と優でそうゆうチャンネル。ただのバカップルのイチャイチャ動画じゃねえか、としか俺は思ってない。
次の動画はどうしようか、と頭を寄せあいながら話し合う颯太と一条を見ながら、この二人も二人なりに目指す方向があるんだよな……とふと思う。
柳と黒岩くんも二人で意味分からん統計取ったり、俺には分からんけど二人には楽しいんだろう。
それぞれの付き合い方みたいなのが確立されていっている。
それに比べて、俺たちは――目が合うと、明翔がニコッと笑う。地球最後のかわいさ。
俺は明翔が好きだ。明翔をちゃんと愛したい。
だけど、どうすればいいのか分からない。
「なぜにここで」
「この席がちょうど僕たちの席から同じくらいの距離で平等だから」
「それほどまでに平等を愛する心何なん」
「ごっ、ごめん、ここ呂久村くんの席だったんだ」
黒髪で小柄なもやしっ子のメガネ男子が慌てて椅子を引いてくれる。
どうも、と席に座った。
「そんなに気を使わなくてもいいよ、黒岩くん」
「人の席占領してんだから気を使ってしかるべきなんだよ」
長めの金髪の片側だけ赤いピンで×に留めている、イケメン王子と異名を持つ学級委員長、柳龍二はふてぶてしい。
「僕たち昨日、ターミナル駅においてながらスマホで歩いている人の割合を算出したんだ」
「せっかくの日曜にお前らバカなの」
「結果は1割から3割。予想外だろう?」
「何の予想もしてねえ」
「時間帯によって変化があっておもしろかったよ」
「何時間やってんだよ」
「朝10時集合、夕方6時解散」
うわ、バカだ。
8時間も休みを無駄にするとか信じらんねえ。
「黒岩くん、暗くなる前に帰れたかい?」
「うん、大丈夫だったよ」
「なら良かった。無理にでも送って行けば良かったと思っていたんだ」
「いいよ、方向が逆なのに送ってもらっちゃったりしたら不平等だもん」
あくまでも平等を欲するのな、黒岩くん。
「黒岩くんと過ごせる時間が増えるんだから、平等だよ」
「え……じゃあ、今度は送ってもらおうかな」
「じゃあ、また日曜日に朝10時集合で」
2週連続でそれやんのかよ。暇人か。
真っ赤な顔ではにかむ黒岩くんを愛おしそうに柳が見つめる。
いい感じにやってるみたいだな、この二人。
「深月、おはよっ」
ててっと小柄な佐藤颯太がやって来る。
「はよー、颯太。一条、風邪治った?」
「うん! 昨日お見舞いに行ったら、元気そうにしてたよ」
「昨日俺、明翔と服買いに行ったんだよ。亜衣ちゃん真衣ちゃんは遠い親戚の結婚式で土日いなかったらしいじゃん」
「う、うんっ。二人っきりだったけど、別に、何もないよっ」
「へー、そうなんだ。一条と二人っきりねー。何の話したの? 颯太ー」
今この場には柳と黒岩くんがいる。
今だ、颯太をいじるチャンスは今しかない!
黒岩くんよりも小柄でかわいい顔した颯太だが、実はバリバリのヤンキー一家育ちケンカ負けなし、任侠道に生きる漢である。
幼稚園で出会った時にはすでにヤンキーデビュー済み。当時はデカくて強くてカッコ良かった颯太に憧れ、小学校でもコバンザメのようにくっついていた俺。
だが、1年生にして力で桜が丘小学校をシメ、順風満帆なヤンキー小学生活を送る颯太を突然の不幸が襲った。
身長が155センチでピタリと止まったのだ。
さらに不幸なことに、俺たちが進学する中学校はヤンキーが多いで有名な治安の悪い学校だった。
そこで、颯太は生き残るため、正反対に舵を切った。「かわいい」に全振りしたのだ。
金髪を黒く染めサングラスを外しきちんと制服を着、元のかわいさを最大限に引き上げた。
今も、ワイシャツの上に大きなフードのパーカーを着て強引に「かわいい」を演出している。
「ねえねえ、一条どんな部屋着ー? 教えてよ、颯太くんー」
心の中ではブチ切れだろうが、颯太は困ったようにアヒル口で黙秘を続ける。学校ではヤンキーを封印しているのだ。
柳たちがいなければ、俺は今頃しゃべれない口にされているであろう。
「こら。ボクたちのかわいいマスコットをいじめるな、呂久村」
やべえ、一条が来た。
振り返ると、すっかり元気そうな一条優が俺をにらみつけていた。
「深月! おはよー!」
朝から輝く笑顔がまぶしい明翔の隣に立つ、同じような顔ながら明翔よりも短髪で黒髪の一条優。
「お、おはよー、一条、明翔。今日も似てんね」
「まったく、小さい子をいじめるんじゃない。大丈夫か、ショタ」
「う、うんっ。大丈夫だよっ」
一条に頭をなでられ、赤くなりつつも笑う颯太。
公衆の面前でイチャついてんじゃない。
「一条くん、前髪切ったんだ? だいぶ印象が変わるものだね」
柳がパッツンと切りそろえるように自分の額の前でハサミを動かすジェスチャーをする。
「高崎くんと一条くんはそっくりだと思ってたけど、別人に見えるよ」
「別人に見えるんじゃなくて、別人なんだよ」
俺これ言うの何回目だろ。
明翔と一条は母親同士が双子のいとこである。
二人とも母親に激似らしく、結果顔がそっくりなのだ。
だけど、あくまで似てるだけ。
明翔は明翔、一条は一条だ。
「動画の企画で山上キャンプはともかくさ、平地のカッコで行ったんじゃそりゃ寒くて風邪もひくよね。ちゃんと調べてから行けよ、優」
「うるさいな。ショタは自分の服脱いで貸してくれたのにボクだけが風邪をひいたんだから、きっと疲れて免疫力が落ちてたんだ」
へー、颯太、着てる服脱いで貸すとかやるじゃん。
明翔が颯太の肩に手を置き、顔をのぞき込む。
「颯太、共同作成なんだから優の言いなりじゃなくていいんだよ」
「そんなんじゃないよっ。一条は弱音吐かないがんばり屋さんで粘り強くてすごく優しいから、俺は自主的に一条がやりたいことを一緒にやりたいだけ――あ」
颯太が真っ赤になってうつむいてしまう。
マジか、颯太。
「俺の愛する女は生涯ひとりと決めている」
とかなんとかいい顔で言いながら実は惚れっぽい颯太だが、どうやらこれまでの認めなかった恋とは違うようだ。
「すげー颯太、人の良いところがスラスラ出てくるなんていいヤツだなー。深月のいいところも教えてよ」
「ないなっ」
なんで颯太の顔をのぞき込んでるくせにそっちに食いつくんだ、明翔。
そして即答でないってどういうことだ、颯太。
「ショタ! 登録者が増えてる! 11人!」
「やったあ! キャンプ行って良かった!」
ひとり増えただけでこの喜びよう。
動画の収益化はまだまだ遠そうだな。
颯太と一条はそれぞれ動画の収益化に失敗し、逆身長差カップルチューバーが人気だから、というこじつけで共同作成した動画をチャンネルに上げている。
颯太と優でそうゆうチャンネル。ただのバカップルのイチャイチャ動画じゃねえか、としか俺は思ってない。
次の動画はどうしようか、と頭を寄せあいながら話し合う颯太と一条を見ながら、この二人も二人なりに目指す方向があるんだよな……とふと思う。
柳と黒岩くんも二人で意味分からん統計取ったり、俺には分からんけど二人には楽しいんだろう。
それぞれの付き合い方みたいなのが確立されていっている。
それに比べて、俺たちは――目が合うと、明翔がニコッと笑う。地球最後のかわいさ。
俺は明翔が好きだ。明翔をちゃんと愛したい。
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