上 下
2 / 51

ダブル高崎

しおりを挟む
高崎明翔あすかが体操服を忘れた。
3組のヤツに借りに行くと言うので、意味もなくついて行く。

「ありがと!」
「いつでも頼ってなー、タカアス!」

んだよ、タカアスって。

「タカアスって何」
「いきなり何」

身長155センチ、丸顔にクリクリお目目のかわいい佐藤さとう颯太そうたをちょいちょい、と教室の端に呼ぶ。

「高崎明翔を略してタカアス。高崎明翔と高崎塔夜が同じクラスだったから」
「なるほど、同じ苗字だから差別化しただけね」

なんだ、そーゆーことか。
たいした意味ねえんだ。

壁にくっついてしゃがみこんでいたから足が痛い。立ち上がる。

「聞いたことくらいねえか? 結構有名コンビだったぜ」
「は? コンビ?」
「タカトゥーとタカアスのダブル高崎」
「何者、タカトゥーって」
「深月、その目したら明翔と付き合ってんの秒でバレるぞ」
「あ? 今問題は、んなことじゃねーんだわ」

妙な胸騒ぎ。
BL好き腐女子が複数いるこのクラスで明翔と俺が付き合ってるのは絶対的秘密。
けど、俺の知らねえ男が明翔にいたとあっちゃあ大問題なんだよ。

「俺に聞かずに明翔に聞け、深月」

颯太も立ち上がり、大きな目で男らしく俺を見上げる。

「佐藤くん。ちょっといいかな」
「うんっ。なあに?」

学級委員長、やなぎ龍二りゅうじに呼ばれた颯太は慌ててかわいらしく笑い、ててっと小走っていく。

むしゃくしゃして廊下に出ると、身長175センチの小柄とは言えない体をコンパクトにたたんでしゃがんでいた明翔が笑顔で立ち上がった。

クッソかわいい。
何なの、俺を殺しに来てんの。

「何してんの、タカアス」
「えー! 深月、1年のクラスの俺のあだ名知ってたんだ?!」
「知らねえよ」
「へ? じゃあなんで?」

お前が俺の知らない呼び方されてたのが気に入らないから呼んだ。
俺、お前の全部知ってたいから。

「……今、颯太に聞いた」
「颯太? 俺、颯太と1年の時絡みなかったのに」

1年の時……いい思い出ねえなあ。
2年になって明翔と親友になるまで、俺の高校生活カスだった。



体育終わりの後片付け。
呂久村な俺はカレンダーの31を超える出席番号のため、人手がいる時に

「じゃあー、呂久村ー」

と使われる。
俺が一番片付けやってんじゃねーかな。

体育倉庫を閉めて体育館から出ると、クラスメートのモブ女子二人が校舎を見上げていた。

「あー、柳様ガチ王子~。麗しい~。色気ヤバい~」
「メガネ復活しないかなあ。柳様、目を見て話してくださるからメガネに自分映るの萌えだよね」
「分かるー。柳様が私を見てるっ! ってなる」

柳か。
顔と頭と運動神経の良さは認めるが、あいつお気に入りのパンツと片時も離れたくないとか言って鑑賞用パンツ持ち歩いてる変態だぞ。

「あ! ゆうくん!」
「キャー! 優くん、こっちに手ぇ振ってない?!」

一条いちじょうか。
この俺ですら、小学校の入学式で一目惚れした美少女。小学校の6年間、俺は一条を見つめ続けていた。
けどあいつ、高2にして歴10年以上の腐女子をこじらせたあまり自分自身が男になって男とBLしたい変人だぞ。

一条と明翔の顔がそっくりすぎるからみんなは明翔の顔は男だとインプットされていて、転校してきた一条が女だという情報は忘れ去られとる。

「佐藤くんだ! かっわいい~」
「男子高校生であのかわいさ、エグいよね」
「佐藤くんの声としゃべり方も好き!」

だまされとるだまされとる。
颯太のケンカなんか見てみ? かわいいなんて一生言えなくなるぞ。
あの顔で素のしゃべり方まんまおとこだからな。違和感しかねえ。

「高崎くんもいる! ほんとあの辺のメンツ仲良いの謎だよね」
「あれはあれでいいんだけどさ、私はやっぱダブル高崎が好きー」
「分かる。タカトゥーまだ留学から帰って来ないのかなあ」
「タカトゥーとタカアスのコンビ見たいよね」
「顔面最強すぎ」

ダブル高崎!

へー、タカトゥーってヤツ、そんな人気あるんだ。
明翔と並べる顔面なんだ。

へー……さっさと教室行こ。急いで着替えねーと女子が入ってくる。


教室の後ろのドアから中をのぞいている不届き者がいる。男子の着替えは教室なので見ようと思えば見放題。マジ何なん。

隠れBL大好きさんモブ女生徒ゆりとそのお仲間、名も知らぬモブ女生徒。

「柳くんの取り巻き解散宣言は絶対あの中でカップリングが成立したからだよ」
「佐藤くんがいい~。身長差カプ推せる」
「王子攻めとわんこ受け、至高」

きっしょ。現実は変態と漢なんだよ。
想像しちゃうからやめてくれる?

「王道で柳くんと優くん見たい」
「それ二人とも攻めになるよ。優くんは絶対攻め!」
「あー、じゃあ、高崎くんだね。なんか高崎くんってテンションに落差あって陰を感じる時ある」
「いいじゃん、不憫受け最高」

不憫受けいいよねー。
俺は健気受けが好きー。

って、普通にコイツらの会話に混じれそうで怖いわ。

「呂久村くんはー?」
「深月は絶対ヘタレ攻め!」
「肝心なとこで決められないやつね」
「深月はそこがいいの。女ったらしのくせに不器用な感じ」
「お前、俺のことそんな風に思ってたんかい」

ゆりがすごい形相で振り返る。

「深月! いつからそこに?!」
「5分くらい前からかなあ」
「全部聞かれてたっ!!」

ゆりが壁を殴りながら崩れ落ちるのを尻目に教室に入る。

「深月! 結構時間かかったんだね」
「不届き者を成敗してたの」

俺を見つけて笑顔で駆け寄ってくる明翔がかわいい。

……そーいや、BLコンビは明翔にはタカトゥーとは言ってなかったな。

制服に着替えると、ポケットの中にまだ開けてない爽やかガムがあった。

「ゆり」

廊下で名も知らぬモブ女生徒に背中をさすられていたゆりが顔を上げる。

「やる」
「なんで?!」

ガムを手渡し、即教室に戻るとチャイムが鳴った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

ご飯中トイレに行ってはいけないと厳しく躾けられた中学生

こじらせた処女
BL
 志之(しの)は小さい頃、同じ園の友達の家でお漏らしをしてしまった。その出来事をきっかけに元々神経質な母の教育が常軌を逸して厳しくなってしまった。  特に、トイレに関するルールの中に、「ご飯中はトイレに行ってはいけない」というものがあった。端から見るとその異常さにはすぐに気づくのだが、その教育を半ば洗脳のような形で受けていた志之は、その異常さには気づかないまま、中学生になってしまった。  そんなある日、母方の祖母が病気をしてしまい、母は介護に向かわなくてはならなくなってしまう。父は単身赴任でおらず、その間未成年1人にするのは良くない。そう思った母親は就活も済ませ、暇になった大学生の兄、志貴(しき)を下宿先から呼び戻し、一緒に同居させる運びとなった。 志貴は高校生の時から寮生活を送っていたため、志之と兄弟関係にありながらも、長く一緒には居ない。そのため、2人の間にはどこかよそよそしさがあった。 同居生活が始まった、とある夕食中、志之はトイレを済ませるのを忘れたことに気がついて…?

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

処理中です...