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side高崎明翔

高崎明翔の最大の幸せ

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「秋の体育祭実行委員を――」
「やります!」
「やります!」

 白いタンクトップの担任の先生が驚く勢いで、俺と深月が手を挙げる。

「春、秋、連覇だ! 2年1組! 優勝あるのみ!」
「優勝あるのみ!」
「やるぞ! おー!」
「おー!」

 よしよし、早くもみんな、闘志に燃えている。絶対、優勝だ!

 放課後、早速体育祭実行委員会に出席していたが、途中から明らかに深月の様子がおかしかった。最後、グランドに出て入退場門の位置の確認などをして解散となる。

「トイレトイレトイレトイレ」
「行ってらっしゃい~」

 あ、いい匂いだなー。どっからだろう?
 トイレの方へと歩いていたけど、ふんわりと辺りに漂う甘い香りに足が止まる。

 あ、これだ。このオレンジがかった花。すっげー小さい花なのにたくさん咲いてて、香りが強い。なんて植物なんだろう、これ。この匂い好き。

「いた! どうした? こんな所で宙を見つめて、何か思い出してた?」
 トイレの前にいなかったから俺を探してたんだろうか、深月が走ってくる。

「宙を見てたんじゃなくて、この花を見てたの」
「花見てたの? 何センチメンタルになってんだよ。どうした? 何かあるなら言ってみ?」
「センチメンタルになってたわけじゃないよ。この匂い好きだなーって思って」
「ああ、金木犀か。この匂い嗅ぐと秋だなーって思うわ」
「金木犀ってゆうんだ、これ」

 あー、甘くて気持ちが安らぐいい匂いだ。ずっと嗅いでたい。
 ふと視線を感じた。深月が俺をじっと見てる。
「何?」
「金木犀似合うな、明翔」
「え? そう?」
「うん。明翔、最近そういう、穏やかーな笑顔よくしてるよな。俺も安心する」

 深月にしては珍しく温厚に微笑んで、俺と並んで金木犀の花を見る。

 安心……?
 あ、深月が今みたいに何かあった? とかちょくちょく聞いてくるのって、俺のことを心配してたのか。何の心配か分かんないけど、俺を気にかけてくれてるんだ。

 俺の好きな人が俺を気遣ってくれてる。俺が穏やかに笑ってるだけで、安らぎを感じてくれる。何これ、めちゃくちゃ幸せじゃん。

「深月」

 深月にキュッと抱きついたら、深月がカバンを落としたみたいでドサッと音がした。
「ちょ、ど……どうした?」
「好きだよ」
「お……おう……」

 俺も好きだよって言ってほしいけど、深月はそうそう言ってくれない。分かってる。いい。
 両腕でグッと抱きしめてくれる。それだけで十分。

「明翔」

 顔を上げたら、優しく目を細めて笑う深月がキスをした。
 びっくりしたー……深月のこんな落ち着いた優しい微笑み、初めて見た。

 でも、次の瞬間には、
「まったく、学校で何させんだよ、お前は」
 と真っ赤な顔で俺の頭をポンポンと軽く叩く。

「俺がさせたんじゃないでしょ、今の」
「いーや、お前がさせた。しろって顔してた」
「深月がしたかったんじゃないの?」

 だって、俺はハグで満足してたんだから。
 図星だったのか、深月が更に赤くなった。

「かっ、帰るぞ、明翔! ツンとデレが腹すかせて待ってる!」
「深月、カバン落としっ放し!」

 カバンを拾って、振り返らずにズンズン歩く深月の背中を追う。
 耳から首まで燃えてるように真っ赤だ。半袖のシャツから出た腕も赤い。全身が熱そう。

 深月はそうそう言葉にはしてくれないけど、ダダ漏れなんだよなー。
 デカい深月がかわいく見えてくる。やっぱり俺、今めちゃくちゃ人生最大に幸せだ。
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