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黒岩くんの借り物競争
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黒岩くんが走る。地面に置かれている紙を拾った時点で、すでに最下位。だが、借り物競争は足の速さだけでは勝てないのだ。その紙に何が書かれているのかが重要!
メガネ、とかだったらそのまま走るだけでいいのにな。
「黒岩くん! 何が書いてある?!」
明翔がラインギリギリまで駆け寄る。
春の体育大会の開幕である。
えーと、と黒岩くんが折られた紙を開く。
「タンクトップの先生!」
「工藤先生じゃん!」
「工藤先生ー!」
生徒たちが黒岩くんの周りに集まっているから空いた椅子で筋トレをしていた担任教師が呼ばれていることに気付いて、黒岩くんの元へと走って行く。担任なら筋トレより生徒の応援をしろ。
「え?! 俺?! よし! 行くぞ、黒岩!」
工藤先生が小柄な黒岩くんをお姫様抱っこしてゴールを目指す。
おー。工藤先生、じゃんじゃん抜くねえ。てか、あれいいのか?
借り物が走ってんだけど。見事1位でゴールした。工藤先生が。
「やったじゃん! 黒岩くん!」
いつもおびえたような気弱な黒岩くんが、満面の笑顔でクラスの応援席に戻って来た。明翔が声をかけ、クラスメートたちが取り囲む。
「みんなのおかげだよ!」
目立たないようにと綱引きを希望してたくせに、目立っちゃってもえらい楽しそうじゃねえの。
応援席の長椅子に座ってみんなをながめていると、明翔が笑顔でやって来た。
「お! 見ろよ、深月!」
1位の我ら2年1組のスコアに10点が加算される。
「いい感じ! 銅メダルには届くな」
「オリンピックじゃねーんだから」
準優勝でも何もなしだ。秋と違って春は優勝旗しか用意されていない。
明翔はずっとテンション高く応援し走り叫んでいる。
……元気だなあ。自分の出番ならともかく、小学生でも他人の競技であんなに白熱しねえぞ。
明翔が輝く笑顔でこっちを向いた。
「やったー! 見た?! 深月!」
「見てねえ」
「えー!」
周りのクラスメートたちも明翔につられるのか、ワーワーと応援している。張り合って隣の3組もだんだんと応援の声がでかくなっていく。
こんな活気あふれる体育大会は見たことねえな。
「そんな冷めてねえで深月もこっち来いよー」
「俺ゃ、いっす」
みんなライン際まで行ってるが、俺はそんな一生懸命に応援なんぞする気はない。自分の出番にすらやる気出ねえのに。
3人掛けの長椅子をのびのびと使えるから、靴を脱いであぐらをかく。
いい天気だなあ。
空を見上げてほっこりしていると、佐藤颯太がテテッとやって来た。隣の長椅子に足を放り出して座る。
「柳は? ここんとこずっと柳が腰巾着ってんのに」
「応援も大事な学級委員長の仕事だっつって」
颯太が指差した先を見ると、クラスの旗を振りながら「ファイットー」と叫んでいる。
「ようやるよな」
「深月も明翔とあっち組行くかと思ったけどな」
「やる気ねえよー、体育大会なんか」
「だよなー。俺ら玉入れとリレーだけで個人競技出ねえし」
「玉入れとか小学生かよ」
ダッセー、と笑っていたら借り物競争が終わったみたいで明翔が走って来た。
「颯太!」
慌てて颯太が足をそろえてかわいく座り直す。
「何? 明翔」
「玉入れの作戦会議だよ!」
「は?! 作戦会議?!」
「クラス競技は1位のクラスに50点入るからな! 絶対に落とせねえ! そこで、だ」
……マジか明翔。そこまで本気なんか、この男。
メガネ、とかだったらそのまま走るだけでいいのにな。
「黒岩くん! 何が書いてある?!」
明翔がラインギリギリまで駆け寄る。
春の体育大会の開幕である。
えーと、と黒岩くんが折られた紙を開く。
「タンクトップの先生!」
「工藤先生じゃん!」
「工藤先生ー!」
生徒たちが黒岩くんの周りに集まっているから空いた椅子で筋トレをしていた担任教師が呼ばれていることに気付いて、黒岩くんの元へと走って行く。担任なら筋トレより生徒の応援をしろ。
「え?! 俺?! よし! 行くぞ、黒岩!」
工藤先生が小柄な黒岩くんをお姫様抱っこしてゴールを目指す。
おー。工藤先生、じゃんじゃん抜くねえ。てか、あれいいのか?
借り物が走ってんだけど。見事1位でゴールした。工藤先生が。
「やったじゃん! 黒岩くん!」
いつもおびえたような気弱な黒岩くんが、満面の笑顔でクラスの応援席に戻って来た。明翔が声をかけ、クラスメートたちが取り囲む。
「みんなのおかげだよ!」
目立たないようにと綱引きを希望してたくせに、目立っちゃってもえらい楽しそうじゃねえの。
応援席の長椅子に座ってみんなをながめていると、明翔が笑顔でやって来た。
「お! 見ろよ、深月!」
1位の我ら2年1組のスコアに10点が加算される。
「いい感じ! 銅メダルには届くな」
「オリンピックじゃねーんだから」
準優勝でも何もなしだ。秋と違って春は優勝旗しか用意されていない。
明翔はずっとテンション高く応援し走り叫んでいる。
……元気だなあ。自分の出番ならともかく、小学生でも他人の競技であんなに白熱しねえぞ。
明翔が輝く笑顔でこっちを向いた。
「やったー! 見た?! 深月!」
「見てねえ」
「えー!」
周りのクラスメートたちも明翔につられるのか、ワーワーと応援している。張り合って隣の3組もだんだんと応援の声がでかくなっていく。
こんな活気あふれる体育大会は見たことねえな。
「そんな冷めてねえで深月もこっち来いよー」
「俺ゃ、いっす」
みんなライン際まで行ってるが、俺はそんな一生懸命に応援なんぞする気はない。自分の出番にすらやる気出ねえのに。
3人掛けの長椅子をのびのびと使えるから、靴を脱いであぐらをかく。
いい天気だなあ。
空を見上げてほっこりしていると、佐藤颯太がテテッとやって来た。隣の長椅子に足を放り出して座る。
「柳は? ここんとこずっと柳が腰巾着ってんのに」
「応援も大事な学級委員長の仕事だっつって」
颯太が指差した先を見ると、クラスの旗を振りながら「ファイットー」と叫んでいる。
「ようやるよな」
「深月も明翔とあっち組行くかと思ったけどな」
「やる気ねえよー、体育大会なんか」
「だよなー。俺ら玉入れとリレーだけで個人競技出ねえし」
「玉入れとか小学生かよ」
ダッセー、と笑っていたら借り物競争が終わったみたいで明翔が走って来た。
「颯太!」
慌てて颯太が足をそろえてかわいく座り直す。
「何? 明翔」
「玉入れの作戦会議だよ!」
「は?! 作戦会議?!」
「クラス競技は1位のクラスに50点入るからな! 絶対に落とせねえ! そこで、だ」
……マジか明翔。そこまで本気なんか、この男。
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