転校初日

はちみつ電車

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めんどくさい

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失くした人は、渡さん。

失くした物は、渡さんのリコーダー。

……なぜ、この人は怒っていたのだろう?

考えていても仕方ないのは学んだ。

聞けばいいんだ。

「どうして怒ってるの?」

「え、だって、リコーダー失くしてから美菜子ずっと音楽サボってっから」

「ずっと?」

「1年で失くしてから、ずっと音楽サボってんの。ただでさえ成績悪いのに、副教科の評価低いのって、受験でめっちゃマイナスになる高校あるらしいんだよ?」

「それはダメだ! 内申は、馬鹿にしてはいけない!」

「ほら! ちゃんと先生に言って、買い直さなくてもいいようにしてもらえよ!」

「買い直さないといけないの?」

「だってリコーダーのテストできないじゃん、ないんだから。でもきっと、ちゃんと相談すれば貸してくれたりなんかやってくれるっしょ」

なるほど……。

「いいよ、めんどくさい」

渡さんは、バッサリと言う。

めんどくさい。

掃除も、めんどくさいと、渡さんは行かなかった。

めんどくさい。

めんどくさいのは、みんな同じだ!

「君がめんどくさいことを、みんなはめんどくさくないとでも?!」

「えっ……え?」

「誰だって、自分がやりたいことじゃなければ、めんどくさいんだ!でも、みんながやらなきゃ、守らなきゃいけないこともきっとあるんだよ!」

「みんなはリコーダー失くしてないでしょ?!」

「掃除の話だよ!」

「掃除の話なの?!」

まあ、もしかしたら、自分でも気付かぬうちに掃除の話でなくなっていたのかもしれない。

「もー意味わかんないんだけど」

「そうだろう、めんどくさいだろう」

「めんどくさいよ!」

「僕のことはいい。でもリコーダーのことは、ちゃんと先生に言って内申に響かないようにしてもらった方がいい」

「リコーダーの話に戻るの?!」

「だって、リコーダーの話をしてたんじゃないか」

「あっはははは!」

隣の席の人が、笑いだした。

周りの席の生徒たちも、一斉に笑いだした。

前のドアの辺りの生徒が「なになに?」「どうしたの?」とこちらを見ている。

チャイムが鳴った。

チャイムの響く中、渡さんは言ってくれた。

「わかったわかった、放課後音楽室に言いに行くよ」

「うん、それがいいだろう。音楽室に先生がいなければ、きっと職員室だ」

「そうそう! 先生いなかったから言ってないとかゆーなよ!」

「わかったよもうー、先生探してちゃんと言うから。ほんっとめんどくさい」
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