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ふたり
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「お先に失礼しまーす」
「お疲れ様でしたー」
総務の部屋を出て営業の方へ行くと、清水くんもちょうど出て来たところだった。
「あ、本当に終われたんだ」
「うん。今日は絶対に定時で帰るって宣言してたからね」
そうか、宣言しておけば定時で帰ることも可能なんだ。
「婚姻届、置いてきちゃってない?」
「あ。汚れないようにクリアファイルに入れて引き出しに入れてたんだった」
「取って来て! 茉悠さん」
慌てて総務の部屋に戻り、入ってすぐ左側の自分のデスクの引き出しを開ける。
帰ろうと水筒を手に立っているさくらが
「どうしたの?」
と聞いてくるから、
「婚姻届忘れてた」
って答えたら、
「え! 普通忘れないでしょー。もー、茉悠ちゃん、しっかりしなよー」
と笑われた。
本当よね。明日、清水くんの実家に行ってご両親に清水くんの証人になってもらうのに、肝心の届を忘れちゃうだなんて。
「独身の茉悠ちゃんと会うのはこれで最後かー。来週にはもう既婚者なんだもんね。なんか、感慨深いわね」
「そう? 特に何も変わらないと思うけど」
「だって、水城 茉悠から清水 茉悠になるんだよー」
キヨミズ、マユ?!
初めて聞く名前だけど、不思議と違和感はないわ。
さくらと一緒に総務の部屋を改めて出ると、清水くんが婚姻届の入ったクリアファイルを自分のバッグの中にしまった。これで安心だわ。私が持ってるといつの間にか失くしそう。
階段を下りて事務棟の出入り口まで行くと、高橋と片橋くんがちょうど帰って来た。
「あ、今日は定時帰りだったな、清水」
「お疲れ様です。お先に失礼します」
並んで立つ私と清水くんを高橋が見ている。珍しく穏やかに微笑んで高橋らしくない。どうしたのかしら。
「結婚おめでとう。って、朝言うの忘れてたな。びっくりして。末永く、お幸せに」
あ……そう言えば、言われてなかったわね。
「ありがとうございます」
と清水くんが笑う。
「ありがとう、高橋」
私も笑って言った。
お疲れ様ーと高橋と片橋くんが階段を上って行くと、さくらが小さい声で
「高橋さんって、あんな笑顔するんだ?! 普段とすごいギャップ!」
と興奮気味に言う。
「私も高橋のあんな顔初めて見たかも。ズキュンときたの?」
「きた!」
あら、本当に? 冗談で言ったんだけど。さくらはとことんギャップに弱いのかしら。
さくらも別れ際に
「茉悠ちゃん、清水、結婚おめでとうー」
と笑っていた。結婚……するんだなあって、おめでとうと言われるごとにじわじわと実感が湧く。
「今日はお祝いに外食する?」
「んー。お祝いだから豪華にお肉の赤ワイン煮込みとか作ろうかしら」
ワインは体質に合わないみたいで飲めないから、料理に使うだけに買うのはもったいない気がしてしまうけど、赤ワインの煮込み料理は好き。
「じゃあ、買い物して行こう」
近所のスーパーではなく、駅前のイオンに入る。近所のスーパーはあまりお酒の品ぞろえが良くない。
棚に並ぶ酒瓶を何気なしに見ていると、カルーアコーヒーリキュールと札の付いた瓶があった。
カルーアコーヒー? カルーアミルクの仲間かしら? 瓶を手に取り、ラベルを見てみる。
「清水くん! カルーアミルクの元だって、これ。家でカルーアミルク飲めるよ」
「え、そんなのあるの? あ、本当だ。この1本で何杯飲めるんだろ? 店で飲むより絶対割安だよね、これ」
「お祝いだし、買っちゃう?」
「よし! お祝いに今日は飲もう!」
清水くんが笑ってカルーアコーヒーリキュールをカゴに入れる。
前は清水くんを酔わせたかったけど、もうそんな必要ないから一緒に暮らし始めてからお酒を飲んだことはなかったな。
「お疲れ様でしたー」
総務の部屋を出て営業の方へ行くと、清水くんもちょうど出て来たところだった。
「あ、本当に終われたんだ」
「うん。今日は絶対に定時で帰るって宣言してたからね」
そうか、宣言しておけば定時で帰ることも可能なんだ。
「婚姻届、置いてきちゃってない?」
「あ。汚れないようにクリアファイルに入れて引き出しに入れてたんだった」
「取って来て! 茉悠さん」
慌てて総務の部屋に戻り、入ってすぐ左側の自分のデスクの引き出しを開ける。
帰ろうと水筒を手に立っているさくらが
「どうしたの?」
と聞いてくるから、
「婚姻届忘れてた」
って答えたら、
「え! 普通忘れないでしょー。もー、茉悠ちゃん、しっかりしなよー」
と笑われた。
本当よね。明日、清水くんの実家に行ってご両親に清水くんの証人になってもらうのに、肝心の届を忘れちゃうだなんて。
「独身の茉悠ちゃんと会うのはこれで最後かー。来週にはもう既婚者なんだもんね。なんか、感慨深いわね」
「そう? 特に何も変わらないと思うけど」
「だって、水城 茉悠から清水 茉悠になるんだよー」
キヨミズ、マユ?!
初めて聞く名前だけど、不思議と違和感はないわ。
さくらと一緒に総務の部屋を改めて出ると、清水くんが婚姻届の入ったクリアファイルを自分のバッグの中にしまった。これで安心だわ。私が持ってるといつの間にか失くしそう。
階段を下りて事務棟の出入り口まで行くと、高橋と片橋くんがちょうど帰って来た。
「あ、今日は定時帰りだったな、清水」
「お疲れ様です。お先に失礼します」
並んで立つ私と清水くんを高橋が見ている。珍しく穏やかに微笑んで高橋らしくない。どうしたのかしら。
「結婚おめでとう。って、朝言うの忘れてたな。びっくりして。末永く、お幸せに」
あ……そう言えば、言われてなかったわね。
「ありがとうございます」
と清水くんが笑う。
「ありがとう、高橋」
私も笑って言った。
お疲れ様ーと高橋と片橋くんが階段を上って行くと、さくらが小さい声で
「高橋さんって、あんな笑顔するんだ?! 普段とすごいギャップ!」
と興奮気味に言う。
「私も高橋のあんな顔初めて見たかも。ズキュンときたの?」
「きた!」
あら、本当に? 冗談で言ったんだけど。さくらはとことんギャップに弱いのかしら。
さくらも別れ際に
「茉悠ちゃん、清水、結婚おめでとうー」
と笑っていた。結婚……するんだなあって、おめでとうと言われるごとにじわじわと実感が湧く。
「今日はお祝いに外食する?」
「んー。お祝いだから豪華にお肉の赤ワイン煮込みとか作ろうかしら」
ワインは体質に合わないみたいで飲めないから、料理に使うだけに買うのはもったいない気がしてしまうけど、赤ワインの煮込み料理は好き。
「じゃあ、買い物して行こう」
近所のスーパーではなく、駅前のイオンに入る。近所のスーパーはあまりお酒の品ぞろえが良くない。
棚に並ぶ酒瓶を何気なしに見ていると、カルーアコーヒーリキュールと札の付いた瓶があった。
カルーアコーヒー? カルーアミルクの仲間かしら? 瓶を手に取り、ラベルを見てみる。
「清水くん! カルーアミルクの元だって、これ。家でカルーアミルク飲めるよ」
「え、そんなのあるの? あ、本当だ。この1本で何杯飲めるんだろ? 店で飲むより絶対割安だよね、これ」
「お祝いだし、買っちゃう?」
「よし! お祝いに今日は飲もう!」
清水くんが笑ってカルーアコーヒーリキュールをカゴに入れる。
前は清水くんを酔わせたかったけど、もうそんな必要ないから一緒に暮らし始めてからお酒を飲んだことはなかったな。
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