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ふたり

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土曜日の朝から、私がひとり暮らしをしていたマンションの片付けに向かう。

「これは? いるの?」

「それ、何?」

「分かんないならいらないね。捨てるよ」

「え、でも置いてたんなら、何かに使うのかも」

「何か分からない今使ってない物はゴミだよ」

清水くんが透明なゴミ袋に何なのか分からない物を入れる。

「茉悠さん、この部屋にあるものを処分しに来たのを忘れないでね」

「忘れてないんだけど、思い出も思い入れもなくても長年を共にしてきたから愛着は湧いちゃって」

「思い出も思い入れもないのに長年を共にするからこの部屋が出来上がったんだよ。愛着が湧く前に捨てようよ。なんでトイレットペーパーの芯とティッシュの空箱まで取ってあるんだよ」

「それはゴミじゃないの!」

それは、貴重なケイ様の私物!

「ゴミ袋に入ってるじゃん。あとはゴミの日に出すだけのゴミでしょ」

「え? ゴミ袋?」

ケイ様の愛用した宝物しか視界に入ってなかったけれど、清水くんが差し出している袋は聞いたことない市名が印字された指定ゴミ袋だ。

袋自体にハッキリとゴミ袋と書いてある。

「ゴミ袋だわ」

あれ? 私の宝物だったはずなのに、清水くんが手に持っているのはどう見てもゴミ袋とゴミじゃないかしら。

「どうしたの? 魔法が解けた瞬間みたいに唖然として」

「魔法?」

本当に魔法が解けたみたいに、宝物がゴミに変わったわ。

どうして私は、1万円をゴミと引き換えて赤の他人の養育費を払っていたのかしら……

え? 私今、ケイ様を赤の他人だなんて……?

愕然とする私を見て、清水くんが笑った。

「本当にどうしたの? ゴミを大切に集める呪いでもかけられてたの?」

……もっとひどい。ゴミに大金を支払う呪いをかけられていたの。

ケイ様と初めて出会ったあの頃は、彼氏だと思っていた岡崎くんと忘れるほど会ってないな、とふと思い出した頃だった。

さくらの言う通り、岡崎くんに私からの愛情を感じないと言われたのが別れ話なんだとしたら、1年近くも私はとっくに別れていたことに気付いていなかったのかもしれない。

でも、ふと思い出したら私は今ひとりだなって急に寂しく思った。

そんな時に、忘年会の帰りに歓楽街を歩いていたら

「そんな顔してるなんて、もったいないよー。若い今こそブッチ切れるってもんだよー。今寂しくても上回る楽しいがあれば気持ちが360度変わるんだから」

と、天神森のきらびやかなネオンを受けたケイ様が私の心を捕らえるには十分過ぎる笑顔で話しかけてくれた。

「まぶしい……! 360度変わったら、どうなるの?」

私の頭には分度器が思い浮かんでいた。何度三角定規の角度が変わろうとも、それを測る半分だけが丸い分度器の底辺はまっすぐなの。

何も変わらない気がしていた。私はずっと、平坦な人生を生きてきた。

そして後から冷静に考えたら、360度変わってしまったら何も変わらないの。
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