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ふたり

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「頼野さん、水城さんとお付き合いさせていただくことになり、うちに越して来てもらいました。急なことで申し訳ありません」

なぜか、清水くんが頼野さんに頭を下げている。

……なんか、清水くんの雰囲気がベタなお嬢さんを俺にください、みたいだわ。

親のいない私が、こんな光景を目にするなんて思ってもいなかった。清水くんは真剣な顔をしてて、頼野さんはひたすらに驚いた顔をしてるって言うのに、私は嬉しくて笑ってしまいそうになる。

「清水くんと同棲するの?! 水城さん」

阿部さんが驚いている。

「私ですら、このふたりが付き合ってるなんて知らなかったわ……」

でしょうね。付き合ってなんていなかったんだもの。知るはずもないわ。私も知らなかったんだから。

うなずいてる私の隣で、

「驚かせてすみません、阿部さん」

と清水くんが笑った。かわいいー。

大人しくてあまり言葉を発しない友坂さんが

「お似合いだね」

と細い目を糸かな? くらい更に細くして笑って言った。

「ありがとうございます」

と清水くんが笑顔で返している。

……お似合い? 私と清水くんが? また、嬉しくて恥ずかしくて照れくさくて笑ってしまいそうになる。

「ねえ、茉悠ちゃん。高橋さんは知ってるの? 茉悠ちゃんと清水が付き合ってたの」

「付き合ってなかったわよ」

「え?」

「尾崎、さっき高橋さんには話したから」

と清水くんが総務の部屋の入口を指差す。つられて見ると、高橋が無表情で覗いていた。

「あ、高橋」

「高橋さん!」

さくらが高橋に駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

「何が? 大丈夫だから。分かってたから」

「そうなんだ? 私はびっくりしましたけど」

「俺も大丈夫か? って聞きたいから、お前言って来いよ。片橋いるから」

「嫌ですよ! なんで高橋さんのために言わなきゃなんないんですか」

コソコソ話してる風だけど、丸聞こえだわ。丸聞こえだけど、何の話かまるで分からないわ。

「何の話かしらね」

「知らなくていいことってあるよね」

あら、そう? 知らなくていいことなら、気にしないでおこう。
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