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シュウと柊

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狭い小さな個室を清水くんがうつむいて歩いてる。立ち止まると、私の方を向いた。

「茉悠さん、この仕事続けたい? 辞められるなら辞めたい?」

「辞めたいよ、そりゃ」

かなり気の抜けた声で気の抜けた言い方をしてしまった。会社の後輩にする返事じゃなかったわね……。

「じゃあ、辞めようよ」

……軽く言うなあ。辞めたいからで辞められるんなら、そもそも始めてないんだよ。

「借金とかあるの? だから辞められないの?」

ダイレクトに聞いてくるわね……でも、今更だわ。こんな店で働いてることを知られてしまったんだもの。酔ってる清水くんならただ30分をやり過ごせばいいんだと思ってた。

でも、今の清水くんは30分ごまかしたってどうにもならなさそう……。仕方ない、私がやったこと、お金のために私が選んだことの結果だもの。呆れられたって、嫌われたって、仕方ない……。

「そうよ。借金を返すためにスナックで働いてたんだけど、閉店しちゃって、どうしようって思ってたらこの店に招いてもらえて……ありがたいなって、思っちゃったの。自分からは行けないのに、招いてもらえて、ありがたいなって」

「行けなかったの? 自分からは」

「行けなかったけど、自分からは行けなかっただけでやれちゃうんだって言うのは分かってる。スナックより楽だなって思っちゃったこともあるんだもん」

そんな先輩、嫌だよね。私……今更だけど、考えなしになんてことをしてたんだろう。

「借金、いくらあるの?」

「なんでそんなこと……」

「いいから、教えて」

「……200万弱くらい」

「なんでそんなに……」

清水くんが驚いてる。なんでなのか私もよく分からないのよね。初めに借りたのは、ケイ様と出会った頃、夢中で店に通ったら家賃が払えないことに気付いて、お給料日までの生活費と合わせて20万だった。

でも、ケイ様のお店に行くために5万ずつキャッシングしたり、生活費が足りない時に3万引き出したりするうちに総額が100万を越えあっという間に200万近くにまでふくれていた。

「俺が立て替える。一括返済して、茉悠さんは俺に金返して」

「立て替えるって……そんなことしてもらえないよ」

「今住んでる家は解約して、うちに来て。家賃光熱費とか折半してくれたら俺も負担が減るからまた金貯めればいい」

「え……行けないよ! 清水くん何言ってるの?」

「茉悠さんこそ、何やってるの? いくらこの店で働いたって、200万なんてそうそう返せないだろ。いつまでこんなことする気だよ、生活を立て直さないと。このままズルズル風俗嬢やる気かよ」

そう言われると、何も言い返せない。私には先が見えてなかった。でも、新たにキャッシングすることはなくなったから、良くはなっていってると思ってた。

それでいいんだって、思ってた。
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