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シュウと柊
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私はほとんど毎日5時になったらキリのいい所までだけ仕事して片付けて帰るけれど、清水くん達から連絡でも入らないかしら、と珍しく30分くらいだけ残ってみた。
隣のデスクのさくらも珍しく残ってるみたい。たぶんお疲れ様でしたって聞いてないし、デスクの上も作業途中って感じだしさくらの水筒も置いてある。どこかへ行ってたみたいで、総務の部屋に帰って来た。
「今片橋が帰って来たわ。清水と高橋さん、ずっと向こうの会社にいるみたい。何してるのかしらね? 向こうの会社にいてできることなんて限られてるでしょうに」
「片橋くんは知らないのかな?」
「聞いてみたけど、昨日の朝会ったっきり顔見てないんですって、ふたりとも」
「そうなんだ……」
「片橋も大変そうよ。ふたりも急に動けなくなっちゃったものだから、そのカバーに追われてるみたい」
「そっか、そうなっちゃうよねえ」
今は営業全体で大変そうだな……営業だけじゃなく、混入させてしまった2課の課長と工程の課長が会議室で深刻な顔で話し合ってるのも見かけた。タイミング的にその混入について相談してたのかしら。
今日も顔を見ることはおろか、電話で声を聞くことすらかなわなそうね。帰ろ。
木曜日になってやっと、仕事を終えて会社を出たら清水くんと高橋が駅の方から歩いて来るのを見かけた。あ! 今日はまだ早い時間に戻れたんだ。ふたりに駆け寄る。
「お疲れ様!」
「あー、水城ー。お疲れ」
「お疲れ様です」
ああ、ふたりとも分かりやすく疲れてるな。本当にお疲れ様。つい数日前にごきげんに一緒にお酒飲んでたとは思えない程に顔に生気がない。
「大丈夫? 大変そうね、ふたりとも」
「もう大丈夫です。なんとか先方にも納得いただいて」
清水くんが笑顔を見せてくれる。疲れてるだろうに、無理して……。
久しぶりに清水くんの笑顔を見た。顔を見るたび笑顔の清水くんだけど、この数日顔すら見てなかったから……疲れてるって分かっているのに不謹慎ながら胸がキューンとする。
「よくやったよ、清水。ほめてやってよ」
高橋……高橋も久しぶりに見る。高橋が人をほめるなんて、私にほめてやってよなんて言うなんて。
お前なんかがほめたって誰も喜ばねーよって言われたことがあった気がするのに。さくらが総務に来て間もない頃だったかしら。びっくりするくらいしっかりしてるからこの子すごいのって言った時に食らった気がするわ。
土曜の帰りといい人格変動でもしたのかしら。
「清水くん、何かしたの?」
「俺なんか何も分からないからひたすらに先方の話を聞いてただけですよ。具体的な話を進めてくれたのは高橋さんです」
「清水に引き継いで間がないんだから分からないのは当たり前だよ。俺ひとりだったらブチ切れてた。本当に清水がいてくれて助かったわ」
「いやいや、こちらこそですよ。高橋さんがちょこちょこガツンと言ってくれるから俺がフォロー役に徹することができただけですよ」
「いやー、精神的には俺よりよっぽど大人だよ、清水。あれだけ言われて嫌味のひとつも出ないなんて仏かよって、マジ感心した」
「高橋さんこそ、あれだけの人数に囲まれてもビビらない精神力は素晴らしいです。単に気が強いのとは違って、本当にかっこよかったです」
「俺、清水と出会えてよかったよ。ありがとう」
「とんでもない! こちらこそ、ありがとうございます」
……なんか、気持ち悪いくらいにほめ合ってるわ。姿を見なかったこの数日でえらく仲良くなったのね?
というか、先方さんこんな若手ふたりを大人数で囲んで嫌味もそりゃ出るわな罵声でも浴びせたの?
恵利原部長のせいで過酷な状況に追い込まれたために清水くんと高橋の親睦が深まったのはいいことだけど、切っていいんじゃないかしら? そんな会社も恵利原部長も。
隣のデスクのさくらも珍しく残ってるみたい。たぶんお疲れ様でしたって聞いてないし、デスクの上も作業途中って感じだしさくらの水筒も置いてある。どこかへ行ってたみたいで、総務の部屋に帰って来た。
「今片橋が帰って来たわ。清水と高橋さん、ずっと向こうの会社にいるみたい。何してるのかしらね? 向こうの会社にいてできることなんて限られてるでしょうに」
「片橋くんは知らないのかな?」
「聞いてみたけど、昨日の朝会ったっきり顔見てないんですって、ふたりとも」
「そうなんだ……」
「片橋も大変そうよ。ふたりも急に動けなくなっちゃったものだから、そのカバーに追われてるみたい」
「そっか、そうなっちゃうよねえ」
今は営業全体で大変そうだな……営業だけじゃなく、混入させてしまった2課の課長と工程の課長が会議室で深刻な顔で話し合ってるのも見かけた。タイミング的にその混入について相談してたのかしら。
今日も顔を見ることはおろか、電話で声を聞くことすらかなわなそうね。帰ろ。
木曜日になってやっと、仕事を終えて会社を出たら清水くんと高橋が駅の方から歩いて来るのを見かけた。あ! 今日はまだ早い時間に戻れたんだ。ふたりに駆け寄る。
「お疲れ様!」
「あー、水城ー。お疲れ」
「お疲れ様です」
ああ、ふたりとも分かりやすく疲れてるな。本当にお疲れ様。つい数日前にごきげんに一緒にお酒飲んでたとは思えない程に顔に生気がない。
「大丈夫? 大変そうね、ふたりとも」
「もう大丈夫です。なんとか先方にも納得いただいて」
清水くんが笑顔を見せてくれる。疲れてるだろうに、無理して……。
久しぶりに清水くんの笑顔を見た。顔を見るたび笑顔の清水くんだけど、この数日顔すら見てなかったから……疲れてるって分かっているのに不謹慎ながら胸がキューンとする。
「よくやったよ、清水。ほめてやってよ」
高橋……高橋も久しぶりに見る。高橋が人をほめるなんて、私にほめてやってよなんて言うなんて。
お前なんかがほめたって誰も喜ばねーよって言われたことがあった気がするのに。さくらが総務に来て間もない頃だったかしら。びっくりするくらいしっかりしてるからこの子すごいのって言った時に食らった気がするわ。
土曜の帰りといい人格変動でもしたのかしら。
「清水くん、何かしたの?」
「俺なんか何も分からないからひたすらに先方の話を聞いてただけですよ。具体的な話を進めてくれたのは高橋さんです」
「清水に引き継いで間がないんだから分からないのは当たり前だよ。俺ひとりだったらブチ切れてた。本当に清水がいてくれて助かったわ」
「いやいや、こちらこそですよ。高橋さんがちょこちょこガツンと言ってくれるから俺がフォロー役に徹することができただけですよ」
「いやー、精神的には俺よりよっぽど大人だよ、清水。あれだけ言われて嫌味のひとつも出ないなんて仏かよって、マジ感心した」
「高橋さんこそ、あれだけの人数に囲まれてもビビらない精神力は素晴らしいです。単に気が強いのとは違って、本当にかっこよかったです」
「俺、清水と出会えてよかったよ。ありがとう」
「とんでもない! こちらこそ、ありがとうございます」
……なんか、気持ち悪いくらいにほめ合ってるわ。姿を見なかったこの数日でえらく仲良くなったのね?
というか、先方さんこんな若手ふたりを大人数で囲んで嫌味もそりゃ出るわな罵声でも浴びせたの?
恵利原部長のせいで過酷な状況に追い込まれたために清水くんと高橋の親睦が深まったのはいいことだけど、切っていいんじゃないかしら? そんな会社も恵利原部長も。
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