キヨミズくんを酔わせたい

シュウと柊

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やっぱり、会社では営業さん達とゆっくり話す機会なんてない。話すどころか、昨日は恵利原部長しか社内で見かけることすらなかった。

「高橋くんと清水くん、大変そうだな。俺、今日鍵当番だから7時に来たんだけど、憔悴しきった顔で2人してもう待ってたよ」

「かわいそうにねえ、恵利原部長が謝罪に行くべきでしょ」

「いやー、ある意味、恵利原部長より清水くんの方が謝罪を受け入れてもらえるかもよー」

「片橋くんも一緒に若手三人衆で行くのが一番じゃないですかー」

自分の席でパソコンの電源を入れ、立ち上がるのをボーッと待っていたら、そんな会話が聞こえて来た。

高橋と清水くんがどうかしたのかしら。

気になって声の方を見ると、私の席からは一番遠い部長席の頼野さんとそのすぐ前の席の30代男性社員の友坂さん、ちょっと離れて私の向かいに座る50代ベテランパートさんの阿部さんが話していた。

「営業さん、何かあったんですか？」

「混入だよ。現場と品質保証部が見逃して納品しちゃって、先方が大層ご立腹でねえ。昨日の夕方6時前くらいかな、クレームの電話が来て営業と工程が対応に追われてるんだよ。高橋くんと清水くんが先方に事情説明に行ったんだけど、夜10時過ぎてやっと向こうの会社出て、待ってた恵利原さんに報告したみたいだね。3人とも昨日の退社23時半過ぎてるよ。電車間に合ったのかな」

23時半？！ もう深夜じゃない。月曜日からそれはきついわねえ、かわいそうに……。

「8年前にも同じ混入があったのよ。前回の事故を受けてのシステム改善点を説明しろって言われてるんだけど、今の担当の清水くんはもちろん、前担当の高橋くんも当時のことを知らないから大変よ」

8年前か……私と高橋が入社した年だけど、私も混入事故があったなんて全く覚えてないわ。入社前の話なのかしら。

「高橋の前の担当さんは？」

「とっくに辞めてるわよ。恵利原部長だけなのよ、当時からいて今もいる営業って」

恵利原部長が原因で辞めた人が多いんだもん、そうなるわね。

「どうして恵利原部長は先方に出向かないんですか？」

「当時の担当が恵利原さんだったから、恵利原さんも行きたがらないし先方ももう恵利原さんの顔は見たくないだろうってことでね」

「なるほど。当時、恵利原部長が余計なことでも言ってより先方を怒らせたんですね」

「そうなんだけど、見かけによらず意外とハッキリ言うのね、水城さん」

「水城さんは直球だからねえ」

清水くん、大丈夫かしら……。見るからに大人しそうだから、付け込まれてひどいこと言われたりしてないかしら。

若い子を矢面に立たせて部長のくせに雲隠れだなんて、それはそれでパワハラじゃないのかしら。本当に腹立たしいわ、恵利原部長。