上 下
45 / 99
シュウと柊

14

しおりを挟む
終電の時間が迫ってる。帰んなきゃな……。

「お邪魔しましたー」

と、さくら、片橋くん、高橋と清水くんの家の玄関で靴を履く。

「気を付けて」

清水くんが笑顔で見送ってくれる。……かわいい。もっと話したかった。営業さん達とゆっくり話をする機会なんて会社じゃなかなかないのに……。

もっと、この貴重な機会を有意義に使えなかったものかしら。もったいない時間を過ごしてしまった気がする。

片橋くんがさくらを送るため歩いて行く。電車を乗り継ぐ方が時間がかかるから歩いて帰るらしい。

私の家へは電車で一本だから電車の方が早い。

高橋は清水くんの家から歩いて帰れる距離に住んでるらしいのに、わざわざ切符を買った。

都会でもないこの駅で、終電なんて待ってるのは私達くらいだ。酔った体に夜風が気持ちいい。

と、高橋が唐突に後ろから抱きしめてきた。高橋もだいぶ飲んでたもんね。

「飲み過ぎたの? 帰れるの?」

「……そうとしか、思えないの?」

「……え?」

妙に高橋の話し方がかわいい。どうしたの? やっぱり酔ってるの? 高橋はそんなんじゃないでしょうに。

「清水だったら、どうなの?」

――清水くん?

急にドキドキして、何も言えなかった。

そのまま、高橋も何も言わなかった。ただ電車が来るまで高橋の腕の重さが肩にかかり続けた。

……どうしたんだろう、高橋……顔が見えないから、高橋の意図が分からない。なんで、清水くんのことなんて聞いたんだろ……。

電車が来ると、高橋は私から体を離した。ドアが開いたから乗り込む。

高橋は動かない。何してるのかしら。電車のドアは開きっ放しじゃないのよ。発車前には閉まるのよ。

ドアが閉まりまーす、ご注意ください、とアナウンスが流れて、ピーッと大きな音が鳴る。

高橋を見ると、笑って手を振っていた。

ドアが閉まり、電車が走り出す。

ああ、家まで送るのかと思ったけど、電車に乗るまでだったのね。見えてるか分からないけど、私も手を振った。

だったら私と同じ料金の切符を買わなくても、たしか入場券ってホームに行くためだけの券があったはずなのに。知らなかったのかしら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

美しいお母さんだ…担任の教師が家庭訪問に来て私を見つめる…手を握られたその後に

マッキーの世界
大衆娯楽
小学校2年生になる息子の担任の教師が家庭訪問にくることになった。 「はい、では16日の午後13時ですね。了解しました」 電話を切った後、ドキドキする気持ちを静めるために、私は計算した。 息子の担任の教師は、俳優の吉○亮に激似。 そんな教師が

両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった

ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。 その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。 欲情が刺激された主人公は…

ごめんなさいね・・・リストラされた夫の代わりにパートで働く私だけど若い男に誘惑されて

マッキーの世界
大衆娯楽
56歳の夫がリストラされて仕事を失ったため、お給料が貰えず、家計が苦しくなってしまった。 そこで、私はパートに出るため求人サイトで仕事を探した。 時給950円の漬物工場での仕事を見つけたので、午前9時から夕方16時まで働くことにした。 「じゃ、あなた、パートに行ってくるわね」 「ああ」 夫に朝食を作り、

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。 そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。 真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。 彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。 自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。 じれながらも二人の恋が動き出す──。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

処理中です...