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シュウと柊

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おなか空いたなあ、と思ったら、注文してたシーザーサラダとお刺身盛り合わせが来た。冷メニューはやっぱり早いわね。テーブルの真ん中に置かれたから、何となく私がサラダを取り分けていく。まずは、部長の頼野さんへ。あとは似たり寄ったりだから、そのまま流れで片橋くん、さくら、高橋、清水くん……。

あ。卵崩すの忘れてた。シーザーサラダと言えば温玉なのに、ここまでよそってきたけどみんなシーザードレッシングがかかってるだけのただのサラダだわ。

手に持ってる清水くんの取り皿に温泉卵を入れる。従順でワンコかわいい清水くんのことだから、彼女が卵好きなら卵を譲ってあげてたんじゃないかしら。

「はい、清水くん」

「ありがとうございます」

「茉悠ちゃん、入れてもらって文句言うのもアレなんだけどさ、これシーザードレッシングかかってるだけのただのサラダなんだけど」

あ、さくらに気付かれた。

「私もだよ。あ、クルトンも入ってる。シーザーサラダっぽいよね」

清水くんが戸惑った様子で二口三口くらい食べた自分の取り皿を「あの」と見せて来る。

「彼女と別れていいこともあるよ。シーザーサラダの温玉食べられるし」

シーザーサラダには温玉だよ。

「あ……はい、すごく美味しいです。ありがとうございます」

良かった。清水くんが嬉しそうに笑った。ね、美味しいでしょう。シーザーサラダにはやっぱり温玉だよ。

「もしかしてお前ずっと清水を励ましてるつもりだったの? 励まし方が独特過ぎるんだよ。気ぃ悪くしないでやってくれな、清水。水城も悪気はねえんだよ」

さっきから何なのかしら高橋め。私の保護者気取りか。私に保護者なんていないのに。

「茉悠ちゃん、そんなに心配しなくても清水案外ケロッとしたものだよ。付き合い長かったから私達も心配になってこの間飲みに行ったんだけどさ。いつも通り名前の話してたよ」

「いつも通り?」

「あー、俺も何度も聞いた。水城の名前天然話だろ」

高橋が私の顔を見る。私の名前天然話? ……ああ、シミズって書いてキヨミズって読むなんて名前まで天然だねって言っちゃった話か。みんなも聞いてるんだ? ただ名前を間違えて覚えてたってだけの、そんな大した話でもないのに?

清水くんは、なんでそんな話をあちこちでしてるんだろう?

「あ、そうだ茉悠さん」

清水くんがお箸を置いてこちらを見る。何かしら。

「彼女彼女って言うけど、元彼女です」

と元を強調して言った。

「元……だと思ってるの?」

「事実、元ですから」

笑顔で清水くんは話してる。事実はそうかもしれないけど……

「清水くん、何かあったの?」

と頼野さんが尋ねると、

「長年付き合ってた彼女と別れちゃったんですよ。何年付き合ってたんだっけ?」

とさくらが清水くんに尋ねた。

「えーと……7~8年くらい」

「そんな長いこと付き合ってたの?!」

頼野さんが驚いた。

「長すぎる春ってやつかねえ。それだけ付き合い長いと、結婚とかって話出なかったの?」

「相手がまだ就職して間もなかったんで」

「まあ結婚はタイミングだからね。その人とはご縁がなかったってことだよ。若いんだから次行こ、次」

頼野さんが明るく笑い飛ばす。さすがは頼野さん、励ますのも上手いなあ。前向きなアドバイスよね。

次かあ……。考えられるようになったらいいな、清水くん。
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