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シュウと柊
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仕事を終え、帰ろうと事務棟から出ようとした所で、清水くんが外出先から戻って来た。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
今日も今日とてかわいいワンコスマイルだ。今日はずっと外だったのかしら。今日清水くんを初めて見た。さくらはもう帰ってる。私が聞いとくか。
「清水くん、今週の土曜日空いてる? 頼野さんが言ってた交流会、土曜日にどうかなあって」
「ああ!」
とパッとひときわ笑顔になる。あら、かわいい。
「大丈夫ですよ。土曜日、楽しみです!」
「私も」
清水くんと笑い合う。なんかこういう時、波長が合うなって言うか、こういう穏やかな空気感をいいなって思う。
ふと、清水くんが私の持つ小さなバッグを見て、自分のバッグから折りたたみ傘を出した。
「にわか雨降ってますよ。この後強くなるみたいだからこれ使って下さい」
「え?」
外を見ると、ああ、たしかにポツポツと雨が降ってる。
「でも、清水くん帰りどうするの?」
「俺まだ2~3時間は帰らないから大丈夫です。その頃にはやんでるらしいんで」
雨雲レーダーでもチェックしたのかな? でも、この程度の雨で傘借りるのも悪い気がする。
「でも、やまなかったら清水くんが濡れちゃうからいいよ。夜だと寒いだろうし」
清水くんがフゥ、と息をついた。
「大丈夫だって言ってるだろ。でもでも言ってないで使えよ。ほら」
と、強引に私の手に傘を握らせた。
……え? 清水くん?
ドキドキしながら清水くんの顔を見上げると、いつものワンコスマイルじゃなく、あの日に見せたネコのように鋭い目の清水くんだった。
え? なんで? 1日見なかったと思ったらお酒飲んでたの?
「いや、俺酒飲んでないよ。ちゃんと仕事してましたよ」
「え? なんで分かるの?」
「なんか……顔に書いてた」
「え? 嘘?」
思わず顔を触ったけど、書いてても触った所で手には何も触れないんじゃないかしら。
「あはは! 嘘です、テレパシーです」
「えっ……え、それも嘘でしょ!」
なんだ、冗談か、びっくりした。私も笑った。こんな冗談言ったりもするんだ、清水くん。もっと清水くんと話してみたい。土曜日、楽しみだなあ……。
「清水! お前何呑気にしゃべってんの?!」
騒々しい高橋が小雨の中走って入って来た。もー、邪魔だなあ。
「あ、ごめんなさい。じゃあまた明日。茉悠さん、お疲れ様でした」
と清水くんがフワッと笑った。なんかホンワカして、私も釣られて多分似たような笑顔になった。
「うん、お疲れ様でした」
高橋がまた、私と清水くんを交互に見る。
「……お前ら……まさか本当に付き合ってんの……?」
「付き合ってる?」
え? お前らって、私と清水くんがってこと? ……え? なんで?
「違う! 言い間違えた! 今の忘れろ、水城!」
「え?」
「お疲れ!」
高橋が清水くんの背中を押して2人とも階段を上がって行く。
……付き合う……?
そんなこと、ありえない……私、見たもん。清水くんはフラれて泥酔するまでヤケ酒煽っちゃうくらい、スマホ見ながら泣いちゃうくらい……彼女のことが好きなんだから。
高橋が変なこと言ったせいだわ……私と清水くんが付き合うことなんてない。
分かってるのに、清水くんは彼女を忘れることなんてできていないと分かってるのに、雨足が強まる中清水くんの傘に当たる雨の音を聞きながら歩いていると、清水くんが隣にいてくれたら、って思いがどこからともなく湧いてくる。
この傘……明日、すぐ返しに行こう。
出社してすぐに傘を返しに営業の部屋を覗いて清水くんの姿を見たら、どうしようかなと思ってしまった。
清水くんがいなかったら、ありがとうございましたってメモでも書いて置いておけばいいやって来たのに、まさかの在席中。
あれ? 何がどうしようかななのかしら。普通におはよう、ありがとうございましたって返せばいいだけなのに……何か気の利いたことが言えないものか悩んでしまった。お礼はシンプルでも心がこもっていればいいのよ。
おはようございまーす、と言いながら営業の部屋に入って、清水くんの席へとまっすぐ向かった。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
今日も今日とてかわいいワンコスマイルだ。今日はずっと外だったのかしら。今日清水くんを初めて見た。さくらはもう帰ってる。私が聞いとくか。
「清水くん、今週の土曜日空いてる? 頼野さんが言ってた交流会、土曜日にどうかなあって」
「ああ!」
とパッとひときわ笑顔になる。あら、かわいい。
「大丈夫ですよ。土曜日、楽しみです!」
「私も」
清水くんと笑い合う。なんかこういう時、波長が合うなって言うか、こういう穏やかな空気感をいいなって思う。
ふと、清水くんが私の持つ小さなバッグを見て、自分のバッグから折りたたみ傘を出した。
「にわか雨降ってますよ。この後強くなるみたいだからこれ使って下さい」
「え?」
外を見ると、ああ、たしかにポツポツと雨が降ってる。
「でも、清水くん帰りどうするの?」
「俺まだ2~3時間は帰らないから大丈夫です。その頃にはやんでるらしいんで」
雨雲レーダーでもチェックしたのかな? でも、この程度の雨で傘借りるのも悪い気がする。
「でも、やまなかったら清水くんが濡れちゃうからいいよ。夜だと寒いだろうし」
清水くんがフゥ、と息をついた。
「大丈夫だって言ってるだろ。でもでも言ってないで使えよ。ほら」
と、強引に私の手に傘を握らせた。
……え? 清水くん?
ドキドキしながら清水くんの顔を見上げると、いつものワンコスマイルじゃなく、あの日に見せたネコのように鋭い目の清水くんだった。
え? なんで? 1日見なかったと思ったらお酒飲んでたの?
「いや、俺酒飲んでないよ。ちゃんと仕事してましたよ」
「え? なんで分かるの?」
「なんか……顔に書いてた」
「え? 嘘?」
思わず顔を触ったけど、書いてても触った所で手には何も触れないんじゃないかしら。
「あはは! 嘘です、テレパシーです」
「えっ……え、それも嘘でしょ!」
なんだ、冗談か、びっくりした。私も笑った。こんな冗談言ったりもするんだ、清水くん。もっと清水くんと話してみたい。土曜日、楽しみだなあ……。
「清水! お前何呑気にしゃべってんの?!」
騒々しい高橋が小雨の中走って入って来た。もー、邪魔だなあ。
「あ、ごめんなさい。じゃあまた明日。茉悠さん、お疲れ様でした」
と清水くんがフワッと笑った。なんかホンワカして、私も釣られて多分似たような笑顔になった。
「うん、お疲れ様でした」
高橋がまた、私と清水くんを交互に見る。
「……お前ら……まさか本当に付き合ってんの……?」
「付き合ってる?」
え? お前らって、私と清水くんがってこと? ……え? なんで?
「違う! 言い間違えた! 今の忘れろ、水城!」
「え?」
「お疲れ!」
高橋が清水くんの背中を押して2人とも階段を上がって行く。
……付き合う……?
そんなこと、ありえない……私、見たもん。清水くんはフラれて泥酔するまでヤケ酒煽っちゃうくらい、スマホ見ながら泣いちゃうくらい……彼女のことが好きなんだから。
高橋が変なこと言ったせいだわ……私と清水くんが付き合うことなんてない。
分かってるのに、清水くんは彼女を忘れることなんてできていないと分かってるのに、雨足が強まる中清水くんの傘に当たる雨の音を聞きながら歩いていると、清水くんが隣にいてくれたら、って思いがどこからともなく湧いてくる。
この傘……明日、すぐ返しに行こう。
出社してすぐに傘を返しに営業の部屋を覗いて清水くんの姿を見たら、どうしようかなと思ってしまった。
清水くんがいなかったら、ありがとうございましたってメモでも書いて置いておけばいいやって来たのに、まさかの在席中。
あれ? 何がどうしようかななのかしら。普通におはよう、ありがとうございましたって返せばいいだけなのに……何か気の利いたことが言えないものか悩んでしまった。お礼はシンプルでも心がこもっていればいいのよ。
おはようございまーす、と言いながら営業の部屋に入って、清水くんの席へとまっすぐ向かった。
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