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ごまかしはきかない

豹変

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家に近付くにつれ、足がのろくなる。魁十のムーブメントが終わってますように……。

夜道はだいぶ涼しくて気持ちいい。
いらないかと思ったけど、魁十が夜は冷えるらしいよって言うからジャケット着てきてちょうど良かったな。

魁十の誕生日が来月に迫ってきた。
毎年プレゼント何がいい? って聞いても「いらねえ」のひと言で終わりだったけど、今年は何かリクエストしてくれるかな。

思春期が終わったのはほんと嬉しい。
新たなムーブさえなければ……。

鍵を開けて玄関に入り、振り返ったらガシッと音がした。
驚いてドアを上から下まで見ると、靴が差し込まれている。

茶色い革靴……見覚えがある。
ドアが開き、悲しげな表情をつくった大輝くんが入ってきた。

不法侵入……。

「どうして僕を避けるの? 僕たち別れてないよね」

……うやむやにはできないか……。
同じ会社だし、けじめはつけなきゃだよね。

「別れたい。です」
「魁十くんのことは、誤解だよ。姉弟仲が良いのは事実でしょ。話してるうちに表現が大げさになっただけで」
「魁十のことだけじゃない」
「じゃあ、どうして? 僕の何がダメなの」

きゅるるん、とかわいく首をかしげる。
自分の見せ方をよく分かってる人だなあ……嫌悪感しかなかったはずなのに、大輝くんにキツい言葉は言えない。

「……前にうちに来た後、女の人の家に行ったんでしょ。シャワー浴びとけって指示して……」
「何の話?」
「ごまかせないよ。私、電話してる大輝くんのすぐ後ろにいたの。話聞いたんだよ」

思い出したらまた気持ちが悪くなる。
大輝くんを見る目もキッと強くなってしまう。

「あの時は……何話してたんだっけ」
「……弟がうざいとか、生理からどれくらい待てばやれるかとか、家が近いから電話したとか……」

ドンと胸を押されてよろけてしまった。
廊下に尻もちをつくと私の体に大輝くんがまたがり、両手で勢い良く打ち付けられた肩に激痛が走る。

「痛っ」
「大人しくしてれば痛くしないよ?」
「やめて、痛い」
「大人しくしてろって」

腕を精一杯伸ばして抵抗を試みると、リーチの長い大輝くんの手が首を押さえる。

「……苦し……」
「死にはしないから安心して。声が出ないだけ」

だけじゃない。
体から力が抜ける。

「聞いてたんなら言ってくれれば良かったのに。バレてんならちんたらやらずに済むから話早えわ」

首から手が離れると空気が通ってむせる。
苦しくて涙が出てきた。

ジャケットに手が掛けられ、ブチブチッと大きな音を立ててボタンが弾け飛ぶ。
ピシャッと壁や床に落ちるボタンの音が響いた。

大輝くんは私を見下ろして笑っている。

怖い……怖い。

「紗夜ちゃんって意外と気合い入った演技してくれるんだね。無理矢理なシチュ好きなの?」
「演技じゃない。お願いだからやめて」
「俺も好き。俺たち相性いいね」

ブラウスの上から乱暴に胸を鷲掴みにする。
大輝くんじゃない。この人は私が知ってる大輝くんじゃない。

「これでおびき寄せた男喰いまくってきたんだろ。俺も入れてよ」
「そ……そんなことしてない」
「すげえ揉み応えある。わざわざ付き合った甲斐があった」

……このために付き合ってたの?
好きだって言ったのは嘘?

「泣かないで」

優しく笑った大輝くんの指が私の目元を拭う。

「興奮するから」

濡れた指が胸元をツーと滑って、ブラジャーの中に手が突っ込まれ、グッとつかまれた。

このままじゃやられる。
逃げなきゃ。上に乗られてるのは分が悪すぎる。

バッグに手が届いた。
力いっぱい大輝くん目がけてバンバンとぶつけると、中身がぶちまけてパリーンと手鏡が割れた派手な音が響く。

「大人しくしろ」
「ぐっ……」

また首を絞められ、力が抜けた手からバッグが落ちていく。
必死の思いで首にかかった大輝くんの腕を両手でつかんだ。
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