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無理無理無理
落し物
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トントン、とノックの音がして、一瞬呆然とする。
大輝くんが動きを止め、ドアへと目をやったから私もつられた。
「姉ちゃん、晩メシ当番の食材買って来たー。清算してー。入るよー」
魁十の声!
「え。入る?」
小声で呟いた大輝くんが慌てて私の体の上から飛びのいてズボンを引き上げる。
「ちょっと待って、ちょっと」
「さーん、にーい、いーち」
うわ、焦りすぎ。ボタン掛け違えた。
ブラジャー直すのはきっと間に合わないから、ひとまずワンピースを元の状態に……!
「あ、こんにちは。来てたんですか」
「こ、こんにちは」
「なんでベルト締めてるんですか」
「嫌だなあ、分かってるくせに。食べすぎたから調整してるんだよ」
「ああ。シャツ入り込んでますよ」
「ありがとう」
魁十が大輝くんへと手を伸ばす。
こちらを見ていない隙に、ホックは止められなくともブラの位置を正す。
「姉ちゃん」
「はい!」
「俺今日メシ食ってからレポート書くから早く作って」
「え? 何を?」
「じゃあ、僕は帰ります」
「食材結構買ったから、食って行きます?」
「いや、また今度。今日はちょっと、この後用事があって」
「そうですか」
そそくさと大輝くんが部屋を出て行く。
「また明日」
「うん」
隠し通せて良かった……玄関にて、共に戦場をくぐり抜けた同志として、大輝くんと微笑み合い手を振る。
「はあ……」
疲れた。
目まぐるしい……大輝くんが変なことするから……普通に誘ってくれれば、私だって拒否したりしないのに……。
「姉ちゃん」
「はい!」
振り返ると、魁十がキャメルって感じの明るい茶色の定期券入れを揺らしている。
「ベッドの上に落ちてた」
「大輝くんのだ」
「ベッドで何してたの」
「まだ間に合うと思うから、追いかけてくる!」
ササッと履けるのはサンダルか。
15センチヒールの厚底サンダルを引っかけ、駅の方向へと走る。
5分もしないうちに大輝くんの背中が見えた。
「大――」
あ、電話中だ。
すごいタイミングでかかってきたな。
邪魔をするのも悪いので、ゆっくり歩く大輝くんの背後にピッタリとついて通話が終わるのを待とう。
大輝くんが動きを止め、ドアへと目をやったから私もつられた。
「姉ちゃん、晩メシ当番の食材買って来たー。清算してー。入るよー」
魁十の声!
「え。入る?」
小声で呟いた大輝くんが慌てて私の体の上から飛びのいてズボンを引き上げる。
「ちょっと待って、ちょっと」
「さーん、にーい、いーち」
うわ、焦りすぎ。ボタン掛け違えた。
ブラジャー直すのはきっと間に合わないから、ひとまずワンピースを元の状態に……!
「あ、こんにちは。来てたんですか」
「こ、こんにちは」
「なんでベルト締めてるんですか」
「嫌だなあ、分かってるくせに。食べすぎたから調整してるんだよ」
「ああ。シャツ入り込んでますよ」
「ありがとう」
魁十が大輝くんへと手を伸ばす。
こちらを見ていない隙に、ホックは止められなくともブラの位置を正す。
「姉ちゃん」
「はい!」
「俺今日メシ食ってからレポート書くから早く作って」
「え? 何を?」
「じゃあ、僕は帰ります」
「食材結構買ったから、食って行きます?」
「いや、また今度。今日はちょっと、この後用事があって」
「そうですか」
そそくさと大輝くんが部屋を出て行く。
「また明日」
「うん」
隠し通せて良かった……玄関にて、共に戦場をくぐり抜けた同志として、大輝くんと微笑み合い手を振る。
「はあ……」
疲れた。
目まぐるしい……大輝くんが変なことするから……普通に誘ってくれれば、私だって拒否したりしないのに……。
「姉ちゃん」
「はい!」
振り返ると、魁十がキャメルって感じの明るい茶色の定期券入れを揺らしている。
「ベッドの上に落ちてた」
「大輝くんのだ」
「ベッドで何してたの」
「まだ間に合うと思うから、追いかけてくる!」
ササッと履けるのはサンダルか。
15センチヒールの厚底サンダルを引っかけ、駅の方向へと走る。
5分もしないうちに大輝くんの背中が見えた。
「大――」
あ、電話中だ。
すごいタイミングでかかってきたな。
邪魔をするのも悪いので、ゆっくり歩く大輝くんの背後にピッタリとついて通話が終わるのを待とう。
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