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嘘
小さな我慢
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大輝くんがマイクを手に立つ。
普段はワイシャツの大輝くんのスーツ姿、カッコ良。
「最後に会長からお言葉をいただきたいと思います。お願いします」
給食センターを営むうちの会社では年に1回、各地の現場の調理師さんや栄養士さんたち、バイトさんパートさん、我ら本社の社員等が集まって大規模な社員会をする。
その中心になるのが、本社の総務部総務課。
私たち本社の若手社員たちも様々な役割を割り振られる。
写真係の私は、同じく写真係の河合さんと並んで大輝くんの写真を撮る。
「こら二人とも、会長を写しなさい」
「そうですね。被写体が良くて、つい」
朝倉さんに苦笑いされながら、会長のお姿もカメラに収める。
今回は大輝くんの提案で初めて大きな神社の大会場を借りての社員会だったけど、大正解。
例年のホテルに比べてかなり費用を抑えられたらしく、ビンゴゲームの景品が豪華。
私は魁十が欲しがっていたゲーム機をゲットできて、めちゃくちゃご機嫌。
「かわいいー。早く遊びたいからすぐ帰って来てだって」
「姉よりゲーム機を心待ちにされてるけどね」
「ゲーム機を持って帰る姉を心待ちにされてるの」
社員会が終わると、若手は片付け。
「紗夜ちゃん、手伝うよ」
「大輝くん。ありがとう」
「あら、お二人さん仲が良いのね。もしかして?」
「はい。お付き合いさせていただいています」
ニカーッと笑ったおばちゃんパートさん二人がバシバシ腕を叩いてくる。
「まーこんな男前が彼氏なんていいわねえ」
「逃がしちゃダメよ! しっかり捕まえときなさい」
「色男はどんどん女が寄ってくるから」
「夏の夜に電灯に群がる虫みたいに集まってくるんだから」
私も大輝くんに集まった虫の1匹なんだけど……。
やっぱり、私が彼女だなんて不相応なカッコ良さだよね。
ほんと、私なんかと付き合ってくれて感謝しかない。
片付けも終わり、2次会の相談をしてるグループもあるけど私は帰る。
「遠山さんも2次会行こうよ! 大輝も来るって」
「ごめんなさい、急いで帰らないといけなくって」
弟がこのゲーム機を待ってるんで!
ついでにソフト買ってきてっておつかい仰せつかってるんで!
「じゃあ、僕家まで送って行くよ。ゲーム機重いでしょ」
「大丈夫だから、大輝くんは2次会行って」
大輝くんが行かなきゃ盛り下がっちゃう。
「拓也、僕後から合流するから店決まったら連絡して」
「はーい」
「本当に大丈夫なのに」
「今日は魁十くんバイト?」
「ううん、休みだよ」
「家にいるんだね」
チッ、と舌打ちが聞こえた気がした。
とっさにピ――と脳内に警告音を感じる。
え?
大輝くんが舌打ちなんかする? 気のせい?
電車に乗ると、席が空いてないからドアの脇に立つ。
電車の揺れで、前に立つ大輝くんの胸にゴンと顔をぶつけてしまう。
「あ、ファンデーション付いちゃう。ごめんなさい」
「それより大丈夫?」
大輝くんが私の腰に腕を回し、グッと抱き寄せる。
胸が潰れそうな密着。
そこまで混んでないのに、恥ずかしい。
「大輝くん……」
「紗夜ちゃんが心配なの」
優しい……。
いっか、私は大輝くんの胸で隠れるからジロジロ見られるのは大輝くんの方。
最寄り駅に着くと、大きなゲーム機の箱を片手に持った大輝くんに手を引かれて駅と駅ビルの隙間のような細い路地に連れて行かれる。
「魁十くん?」
「あ、こんにちは。おかえり」
狭い路地に体の大きな魁十が袋を持って腰を曲げていた。
「カイ何してるの? こんな所で」
「ボランティア。ここ、空き缶とかゴミの投棄が多いんだって」
「偉い! 大学とバイトで忙しいのにボランティア活動までやるなんて、おりこうさん」
「うるせえ。ガキみたいな褒め方すんな。そちらこそこんな所で何を?」
薄暗くて人が寄り付かないからここでキスするのが定番なんだけど、その最中にゴミ投げられたら嫌だな。
「たまたま通りかかっただけだよ。そう、ボランティア活動か。感心だね」
「あ! ゲーム機! ありがとうございます!」
「どうぞ」
「姉ちゃん、ソフトは?」
「買って来たよ」
「っしゃあ! 帰るぞ、姉ちゃん。対戦しよーぜ!」
子供みたいに喜ぶ魁十がかわいすぎる……お姉ちゃん、泣きそう。
「じゃあ、僕はこれで」
「ありがとう」
爽やかな笑顔を残し、大輝くんが駅へと戻って行くのを手を振りながら見送る。
「カイがいてくれて良かった」
大輝くんのことは好きだけど、キスされるのは好きじゃない。
される時は緊張するし、後からは唾液が気になる。
「嫌なら嫌って言えよ」
「彼女なのに嫌だなんて言えないよ」
「紗夜ばっかり我慢しなきゃ続かない付き合いでいいのかよ」
「でも……カイ、何の話してるの?」
「知るか」
今完全に会話が成立してた気がするんだけど。
普段はワイシャツの大輝くんのスーツ姿、カッコ良。
「最後に会長からお言葉をいただきたいと思います。お願いします」
給食センターを営むうちの会社では年に1回、各地の現場の調理師さんや栄養士さんたち、バイトさんパートさん、我ら本社の社員等が集まって大規模な社員会をする。
その中心になるのが、本社の総務部総務課。
私たち本社の若手社員たちも様々な役割を割り振られる。
写真係の私は、同じく写真係の河合さんと並んで大輝くんの写真を撮る。
「こら二人とも、会長を写しなさい」
「そうですね。被写体が良くて、つい」
朝倉さんに苦笑いされながら、会長のお姿もカメラに収める。
今回は大輝くんの提案で初めて大きな神社の大会場を借りての社員会だったけど、大正解。
例年のホテルに比べてかなり費用を抑えられたらしく、ビンゴゲームの景品が豪華。
私は魁十が欲しがっていたゲーム機をゲットできて、めちゃくちゃご機嫌。
「かわいいー。早く遊びたいからすぐ帰って来てだって」
「姉よりゲーム機を心待ちにされてるけどね」
「ゲーム機を持って帰る姉を心待ちにされてるの」
社員会が終わると、若手は片付け。
「紗夜ちゃん、手伝うよ」
「大輝くん。ありがとう」
「あら、お二人さん仲が良いのね。もしかして?」
「はい。お付き合いさせていただいています」
ニカーッと笑ったおばちゃんパートさん二人がバシバシ腕を叩いてくる。
「まーこんな男前が彼氏なんていいわねえ」
「逃がしちゃダメよ! しっかり捕まえときなさい」
「色男はどんどん女が寄ってくるから」
「夏の夜に電灯に群がる虫みたいに集まってくるんだから」
私も大輝くんに集まった虫の1匹なんだけど……。
やっぱり、私が彼女だなんて不相応なカッコ良さだよね。
ほんと、私なんかと付き合ってくれて感謝しかない。
片付けも終わり、2次会の相談をしてるグループもあるけど私は帰る。
「遠山さんも2次会行こうよ! 大輝も来るって」
「ごめんなさい、急いで帰らないといけなくって」
弟がこのゲーム機を待ってるんで!
ついでにソフト買ってきてっておつかい仰せつかってるんで!
「じゃあ、僕家まで送って行くよ。ゲーム機重いでしょ」
「大丈夫だから、大輝くんは2次会行って」
大輝くんが行かなきゃ盛り下がっちゃう。
「拓也、僕後から合流するから店決まったら連絡して」
「はーい」
「本当に大丈夫なのに」
「今日は魁十くんバイト?」
「ううん、休みだよ」
「家にいるんだね」
チッ、と舌打ちが聞こえた気がした。
とっさにピ――と脳内に警告音を感じる。
え?
大輝くんが舌打ちなんかする? 気のせい?
電車に乗ると、席が空いてないからドアの脇に立つ。
電車の揺れで、前に立つ大輝くんの胸にゴンと顔をぶつけてしまう。
「あ、ファンデーション付いちゃう。ごめんなさい」
「それより大丈夫?」
大輝くんが私の腰に腕を回し、グッと抱き寄せる。
胸が潰れそうな密着。
そこまで混んでないのに、恥ずかしい。
「大輝くん……」
「紗夜ちゃんが心配なの」
優しい……。
いっか、私は大輝くんの胸で隠れるからジロジロ見られるのは大輝くんの方。
最寄り駅に着くと、大きなゲーム機の箱を片手に持った大輝くんに手を引かれて駅と駅ビルの隙間のような細い路地に連れて行かれる。
「魁十くん?」
「あ、こんにちは。おかえり」
狭い路地に体の大きな魁十が袋を持って腰を曲げていた。
「カイ何してるの? こんな所で」
「ボランティア。ここ、空き缶とかゴミの投棄が多いんだって」
「偉い! 大学とバイトで忙しいのにボランティア活動までやるなんて、おりこうさん」
「うるせえ。ガキみたいな褒め方すんな。そちらこそこんな所で何を?」
薄暗くて人が寄り付かないからここでキスするのが定番なんだけど、その最中にゴミ投げられたら嫌だな。
「たまたま通りかかっただけだよ。そう、ボランティア活動か。感心だね」
「あ! ゲーム機! ありがとうございます!」
「どうぞ」
「姉ちゃん、ソフトは?」
「買って来たよ」
「っしゃあ! 帰るぞ、姉ちゃん。対戦しよーぜ!」
子供みたいに喜ぶ魁十がかわいすぎる……お姉ちゃん、泣きそう。
「じゃあ、僕はこれで」
「ありがとう」
爽やかな笑顔を残し、大輝くんが駅へと戻って行くのを手を振りながら見送る。
「カイがいてくれて良かった」
大輝くんのことは好きだけど、キスされるのは好きじゃない。
される時は緊張するし、後からは唾液が気になる。
「嫌なら嫌って言えよ」
「彼女なのに嫌だなんて言えないよ」
「紗夜ばっかり我慢しなきゃ続かない付き合いでいいのかよ」
「でも……カイ、何の話してるの?」
「知るか」
今完全に会話が成立してた気がするんだけど。
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