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強めドジっ子18歳
近付くなって言われると
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「おはよー」
「……はよ」
「寝起き悪いね。かわいい」
「……姉ちゃん、昨夜のこと覚えてんの」
昨夜?
昨夜は新入社員歓迎会で、難波さんがめっちゃ人たらしだった。
「魁十が迎えに来てくれて、帰って寝た」
「寝て帰った、な」
あ。
車に乗るなり寝ちゃってからの記憶がない。
「ごめん、大変だった?」
「覚えてねえの?」
「ごめん、カイの顔見たら安心しちゃって」
ふう、と魁十がため息? を漏らす。
「酒弱い酒好きだと自覚しろ」
「弱くはないよ」
「って思ってるから飲みすぎたんだろ」
たしかに。
「迷惑かけてごめんね」
「迷惑じゃねえ。心配」
心配……。
やだ、お姉ちゃん感動。
「心配かけてごめん。大好き」
「くっつくな!」
うちの弟は本当にかわいい。
めっちゃ仏頂面だけど、それでもかわいい。
「あの男、何なの」
「あの男?」
「思い出せよ。帰り際に姉ちゃんに絡んでたヤツ」
「ああ。うざいチャラ男だよ。大っ嫌い」
「すげえ。ゴミを見る目するじゃん」
笑った魁十が、珍しく行ってらっしゃい、と手を振ってくれた。
嬉しい!
あまりのかわいさに重かった頭がスッと軽くなった。
出社すると、更衣室には朝倉さんとなっちゃんがいた。
「珍しいですね。こんな時間までロッカーにいるなんて」
「こんな時間に出社しないでください」
たしかに。
「昨日、大丈夫だった?」
「はい! 覚えてないけど弟が迎えに来てくれたんで!」
「覚えてないのに元気だね」
魁十がいれば安心だもん。
そう言うなっちゃんこそ、いつもにも増してにこやか。
「いいことあったんだね?」
「はい!」
「絶対難波さん絡みだ」
なっちゃんにとっての難波さんは私にとっての魁十と同じなんだもんなあ。
「難波さんと河合さんとタクシーで一緒に帰ったんですけど、難波さんうちの場所覚えてくれてて、運転手さんに道の指示出してくれたんですよ。彼氏みたいーってなりました」
へえ、それは嬉しいかも。
前に焼き鳥屋で偶然会った時にもなっちゃんは難波さん、浜崎さんとタクシーで帰った。
たった1回行っただけで覚えちゃうんだから、さすがは難波さん。
「遠山さん、早く着替えないと。私先に行くよ」
「あ、ヤバい」
結局、私はロッカーにひとり着替えることとなる。
今日の5Sはシステム開発部の床置きしている物品チェック。
つまずいたりすると危険なので、その部署の方々と相談して移動または撤去する。
ただ社内を移動しているだけなのに、難波さんが隣にいるとどうして胸がドキドキするんだろう。
「拓也が驚いてましたよ。遠山さんの弟さんがイケメンすぎるって」
「あはは。ありがとうございます」
「少しだけ怖がってましたけどね」
「どうしてですか?」
「紗夜に気安く触んなって睨まれたそうです。お前が悪いって言っときました」
えー! 魁十が?!
絶対カッコいいじゃん!
見たかったぁ。聞きたかったぁ。寝てる場合じゃなかった。
「悔しいです」
「え? 僕も言われました。映画館で会った時に、紗夜に近付くなって」
「とても失礼なことを言ってるじゃないですか!」
「いえ、あの時僕、友達のテイストに合わせた服装だったので警戒するのも分かります。若いのにしっかりした弟さんだなって感心しました」
優しい.......感動させてもらっていいですか。
あの真っ赤なバラが刺激的な服は友達に合わせてたんだ。
TPOに応じた服装ができるなんて、さすが大人~。しかも、スタイル良いのが引き立ってて素敵だった。
すっかり自分のものにしてた。
「でも」
でも?
急に否定的。
やっぱり失礼だよね、多少は気分悪くなっちゃったよね。
焦って難波さんを見上げると、優しく微笑んでるから天使かと思ってごめんなさいが言えない。
「近付くなって言われると近付きたくなりますよね」
同意を求められている!
「そ……そうですね」
そうですね?
え、紗夜に近付くなで近付きたくなるでそうですねって、私今、難波さんに近付きたいって言った?!
「な、難波さんはなっちゃんと河合さんを送ってあげたそうですね」
「はい。近い厚木さんを先に送って、河合さんとホテルに行きました」
「え?!」
「あ、ごめんなさい、語弊がありますね」
難波さんが頭をかく。
私の頭はますます混乱する。
「河合さんのホテルに行きました」
「河合さんホテル王なんですか?」
混乱の余り、有り得ない言葉が出てしまった。
笑われてる.......穴があったら入りたい。
「彼女、なかなかの弾丸娘でね。一度もこっちに来たことなくて住む所もないのに就職決めたらしいんですよ。なのでビジネスホテルに泊まってて、女の子ひとりで夜の繁華街を歩かせるのも危険かと思ってホテルまでついて行ったんです」
なるほど、ビジネスホテルは繁華街にある。
「ビジネスホテルとは言え連泊してるんですか?」
「結構なお金持ちの家の子みたいですね」
「へえー。家にいればいいのに、もったいない」
「親に頼らず、自分の力で生きたいって言ってました」
「20代実家暮らしには耳が痛いです」
「僕もです。母が少し体が弱いもので」
「お母さんの面倒を見られているなんて立派ですよ」
私はと言えば、かわいい弟と離れられなくて実家住まい。
だって、魁十がいない毎日なんて考えられない。
「今の若い子ってすごい行動力ですね。僕、初めて若い子と話合わないなって思っちゃいました。おじさんですかね」
あはは、と難波さんは苦笑いしてるけど、そのお顔はおじさんとは程遠いイケメン。
「そうですか、話合わないですか」
「どうかされました?」
いえ、ちょっとホクホクしちゃってるだけです。
若けりゃいいってもんじゃないんだぞ! 見たか! 18歳!
「しまった、システム通りすぎちゃってます。遠山さんと話すのが楽しくて気付かなかったな」
「あれ? ほんとだ、いつの間――え?」
「あ。ほらほら、行きますよ!」
しまった、って感じで口元を手で覆った難波さんは、急ぎ足でシステム部の部屋に入って行った。
……え……楽しくてって……ヤバい、あり得ないくらい胸がキュンとしてしまう。
焦った難波さん、ガチでカッコ良かった。
なっちゃん、ごめん……私、やっぱり難波さんが好き。
「……はよ」
「寝起き悪いね。かわいい」
「……姉ちゃん、昨夜のこと覚えてんの」
昨夜?
昨夜は新入社員歓迎会で、難波さんがめっちゃ人たらしだった。
「魁十が迎えに来てくれて、帰って寝た」
「寝て帰った、な」
あ。
車に乗るなり寝ちゃってからの記憶がない。
「ごめん、大変だった?」
「覚えてねえの?」
「ごめん、カイの顔見たら安心しちゃって」
ふう、と魁十がため息? を漏らす。
「酒弱い酒好きだと自覚しろ」
「弱くはないよ」
「って思ってるから飲みすぎたんだろ」
たしかに。
「迷惑かけてごめんね」
「迷惑じゃねえ。心配」
心配……。
やだ、お姉ちゃん感動。
「心配かけてごめん。大好き」
「くっつくな!」
うちの弟は本当にかわいい。
めっちゃ仏頂面だけど、それでもかわいい。
「あの男、何なの」
「あの男?」
「思い出せよ。帰り際に姉ちゃんに絡んでたヤツ」
「ああ。うざいチャラ男だよ。大っ嫌い」
「すげえ。ゴミを見る目するじゃん」
笑った魁十が、珍しく行ってらっしゃい、と手を振ってくれた。
嬉しい!
あまりのかわいさに重かった頭がスッと軽くなった。
出社すると、更衣室には朝倉さんとなっちゃんがいた。
「珍しいですね。こんな時間までロッカーにいるなんて」
「こんな時間に出社しないでください」
たしかに。
「昨日、大丈夫だった?」
「はい! 覚えてないけど弟が迎えに来てくれたんで!」
「覚えてないのに元気だね」
魁十がいれば安心だもん。
そう言うなっちゃんこそ、いつもにも増してにこやか。
「いいことあったんだね?」
「はい!」
「絶対難波さん絡みだ」
なっちゃんにとっての難波さんは私にとっての魁十と同じなんだもんなあ。
「難波さんと河合さんとタクシーで一緒に帰ったんですけど、難波さんうちの場所覚えてくれてて、運転手さんに道の指示出してくれたんですよ。彼氏みたいーってなりました」
へえ、それは嬉しいかも。
前に焼き鳥屋で偶然会った時にもなっちゃんは難波さん、浜崎さんとタクシーで帰った。
たった1回行っただけで覚えちゃうんだから、さすがは難波さん。
「遠山さん、早く着替えないと。私先に行くよ」
「あ、ヤバい」
結局、私はロッカーにひとり着替えることとなる。
今日の5Sはシステム開発部の床置きしている物品チェック。
つまずいたりすると危険なので、その部署の方々と相談して移動または撤去する。
ただ社内を移動しているだけなのに、難波さんが隣にいるとどうして胸がドキドキするんだろう。
「拓也が驚いてましたよ。遠山さんの弟さんがイケメンすぎるって」
「あはは。ありがとうございます」
「少しだけ怖がってましたけどね」
「どうしてですか?」
「紗夜に気安く触んなって睨まれたそうです。お前が悪いって言っときました」
えー! 魁十が?!
絶対カッコいいじゃん!
見たかったぁ。聞きたかったぁ。寝てる場合じゃなかった。
「悔しいです」
「え? 僕も言われました。映画館で会った時に、紗夜に近付くなって」
「とても失礼なことを言ってるじゃないですか!」
「いえ、あの時僕、友達のテイストに合わせた服装だったので警戒するのも分かります。若いのにしっかりした弟さんだなって感心しました」
優しい.......感動させてもらっていいですか。
あの真っ赤なバラが刺激的な服は友達に合わせてたんだ。
TPOに応じた服装ができるなんて、さすが大人~。しかも、スタイル良いのが引き立ってて素敵だった。
すっかり自分のものにしてた。
「でも」
でも?
急に否定的。
やっぱり失礼だよね、多少は気分悪くなっちゃったよね。
焦って難波さんを見上げると、優しく微笑んでるから天使かと思ってごめんなさいが言えない。
「近付くなって言われると近付きたくなりますよね」
同意を求められている!
「そ……そうですね」
そうですね?
え、紗夜に近付くなで近付きたくなるでそうですねって、私今、難波さんに近付きたいって言った?!
「な、難波さんはなっちゃんと河合さんを送ってあげたそうですね」
「はい。近い厚木さんを先に送って、河合さんとホテルに行きました」
「え?!」
「あ、ごめんなさい、語弊がありますね」
難波さんが頭をかく。
私の頭はますます混乱する。
「河合さんのホテルに行きました」
「河合さんホテル王なんですか?」
混乱の余り、有り得ない言葉が出てしまった。
笑われてる.......穴があったら入りたい。
「彼女、なかなかの弾丸娘でね。一度もこっちに来たことなくて住む所もないのに就職決めたらしいんですよ。なのでビジネスホテルに泊まってて、女の子ひとりで夜の繁華街を歩かせるのも危険かと思ってホテルまでついて行ったんです」
なるほど、ビジネスホテルは繁華街にある。
「ビジネスホテルとは言え連泊してるんですか?」
「結構なお金持ちの家の子みたいですね」
「へえー。家にいればいいのに、もったいない」
「親に頼らず、自分の力で生きたいって言ってました」
「20代実家暮らしには耳が痛いです」
「僕もです。母が少し体が弱いもので」
「お母さんの面倒を見られているなんて立派ですよ」
私はと言えば、かわいい弟と離れられなくて実家住まい。
だって、魁十がいない毎日なんて考えられない。
「今の若い子ってすごい行動力ですね。僕、初めて若い子と話合わないなって思っちゃいました。おじさんですかね」
あはは、と難波さんは苦笑いしてるけど、そのお顔はおじさんとは程遠いイケメン。
「そうですか、話合わないですか」
「どうかされました?」
いえ、ちょっとホクホクしちゃってるだけです。
若けりゃいいってもんじゃないんだぞ! 見たか! 18歳!
「しまった、システム通りすぎちゃってます。遠山さんと話すのが楽しくて気付かなかったな」
「あれ? ほんとだ、いつの間――え?」
「あ。ほらほら、行きますよ!」
しまった、って感じで口元を手で覆った難波さんは、急ぎ足でシステム部の部屋に入って行った。
……え……楽しくてって……ヤバい、あり得ないくらい胸がキュンとしてしまう。
焦った難波さん、ガチでカッコ良かった。
なっちゃん、ごめん……私、やっぱり難波さんが好き。
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