9 / 86
ばんそうこう
どっちが好み?ツンデレ弟/甘すぎ先輩
しおりを挟む
皿を流しに置こうとして手が滑り、カップの取っ手にぶつけてガチャガチャパリーンと朝から派手な音を立ててしまった。
「うわ、割れちゃった」
「触んな!」
「痛!」
はあ、と背後でため息が聞こえる。
「どーせケガするだけなんだから、割れた皿の処理は俺に任せてろよ」
「ごめん……」
頼りないお姉ちゃんでごめんね。
テキパキと皿洗いまで済ませてくれる魁十の背中を見つめながら、テンションダダ下がり。
「何ボーッとしてんの」
「反省……」
「バカじゃねーの。姉ちゃんが不器用なのは今始まったことじゃねえだろ」
そうだよね。
昔から不器用な私は何でも器用にこなす魁十に迷惑かけてばっかりで……。
「迷惑なんかじゃねえから」
うちの弟、心の中を読む能力でも身に着けたの?
超能力者になりつつある魁十が軟膏薬を持って来る。
「大丈夫だよ。ちょっと血が出たくらいで」
「そうやってめんどくさがって、化膿したことあっただろ」
「よく覚えてるね」
魁十が私の指に薬を伸ばす。
ほんと、大人になったなあ……。
「手ぇ離せ」
「大きくなったね、魁十」
ブンッと握った手を振り払い、魁十が睨みつける。
「ガキ扱いすんな。俺は大人なの」
そうやって大人ぶるところがかわいい。
私の指に絆創膏まで貼ってくれる。
ほんと、魁十は私と違って几帳面。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「痛!」
絆創膏の上から魁十がギュッと指先で押さえつけ、舌を出して笑った。
「紗夜、気を付けろよ。朝からこれじゃ、今日は厄日かもしんない」
「嬉しい~。私の心配してくれるんだ」
「だから、いちいちくっつくな!」
「だって嬉しいんだもん~。ありがと、気を付ける」
いってきます、と魁十のほっぺたにチュッと口を付けると、すぐさま引きはがされる。
「さっさと会社行け」
「今日もしてくれないのー。いつになったら思春期が終わるのかしら」
「うっせえ」
厄日か……。
魁十が貼ってくれた絆創膏が目に入る。
ふふっ。
きっとこれが守ってくれる。私のお守り。
真新しいスプレー式クリーナーの吹き出し口をONにして、何度ハンドルを引いても何も出てこない。
あれ?
新品なのに詰まってるのかな。不良品かしら。
ノズルを真正面に見ながらハンドルを引いてみる。
一気にスプレーが噴出して、勢い良く顔にかかった。
「うわ!」
まっず。口にもクリーナーが入ってしまった。
「遠山さん、口ゆすいで」
難波さんが私の背中を押して、給茶機横の流しの水をコップに入れてくれる。
ブクブクうがいを繰り返し、口の中の苦みはすっかり消えた。
「すみません、ありがとうござ――あの、大丈夫です!」
難波さんが紺のチェックの濡れたハンカチで私の顔を拭いてくださる。
さすがに申し訳なさすぎて、半歩下がった。
「ごめんなさい、ハンカチ」
「もう濡らしたから拭かせて」
「え……すみません……」
顔が近い……。
緊張してしまうから、目にはかかってないのに目を閉じて濡れたハンカチが私の口の周りを動くのを感じる。
「冷たいでしょ。大丈夫?」
「全然大丈夫です!」
「ヒリヒリしたりしてません?」
「はい、大丈夫です!」
「もう目を開けていいよ」
「あ、はい」
目を開けると、クスクス笑っている難波さんがごく至近距離にいる。
まだ早かった!
ビックリして大きく一歩下がった。
「あはは! 遠山さんっておもしろい。僕、アニメキャラなんかでも好きになるのはおっちょこちょいなドジっ子ばっかりなんです」
え……それって、こんなおっちょこちょいな私が好みだって言ってる?
「さてと! さっさと済ませちゃおう」
「あ、はい!」
これは、このドキドキは、難波さんが好きだからじゃない。
嬉しいことを言われて、浮かれてるだけ。浮かれてるだけだから。しっかりしろ、私。
なっちゃんはずっと前から難波さんが好き。私なんか出る幕はない。
「うわ、割れちゃった」
「触んな!」
「痛!」
はあ、と背後でため息が聞こえる。
「どーせケガするだけなんだから、割れた皿の処理は俺に任せてろよ」
「ごめん……」
頼りないお姉ちゃんでごめんね。
テキパキと皿洗いまで済ませてくれる魁十の背中を見つめながら、テンションダダ下がり。
「何ボーッとしてんの」
「反省……」
「バカじゃねーの。姉ちゃんが不器用なのは今始まったことじゃねえだろ」
そうだよね。
昔から不器用な私は何でも器用にこなす魁十に迷惑かけてばっかりで……。
「迷惑なんかじゃねえから」
うちの弟、心の中を読む能力でも身に着けたの?
超能力者になりつつある魁十が軟膏薬を持って来る。
「大丈夫だよ。ちょっと血が出たくらいで」
「そうやってめんどくさがって、化膿したことあっただろ」
「よく覚えてるね」
魁十が私の指に薬を伸ばす。
ほんと、大人になったなあ……。
「手ぇ離せ」
「大きくなったね、魁十」
ブンッと握った手を振り払い、魁十が睨みつける。
「ガキ扱いすんな。俺は大人なの」
そうやって大人ぶるところがかわいい。
私の指に絆創膏まで貼ってくれる。
ほんと、魁十は私と違って几帳面。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「痛!」
絆創膏の上から魁十がギュッと指先で押さえつけ、舌を出して笑った。
「紗夜、気を付けろよ。朝からこれじゃ、今日は厄日かもしんない」
「嬉しい~。私の心配してくれるんだ」
「だから、いちいちくっつくな!」
「だって嬉しいんだもん~。ありがと、気を付ける」
いってきます、と魁十のほっぺたにチュッと口を付けると、すぐさま引きはがされる。
「さっさと会社行け」
「今日もしてくれないのー。いつになったら思春期が終わるのかしら」
「うっせえ」
厄日か……。
魁十が貼ってくれた絆創膏が目に入る。
ふふっ。
きっとこれが守ってくれる。私のお守り。
真新しいスプレー式クリーナーの吹き出し口をONにして、何度ハンドルを引いても何も出てこない。
あれ?
新品なのに詰まってるのかな。不良品かしら。
ノズルを真正面に見ながらハンドルを引いてみる。
一気にスプレーが噴出して、勢い良く顔にかかった。
「うわ!」
まっず。口にもクリーナーが入ってしまった。
「遠山さん、口ゆすいで」
難波さんが私の背中を押して、給茶機横の流しの水をコップに入れてくれる。
ブクブクうがいを繰り返し、口の中の苦みはすっかり消えた。
「すみません、ありがとうござ――あの、大丈夫です!」
難波さんが紺のチェックの濡れたハンカチで私の顔を拭いてくださる。
さすがに申し訳なさすぎて、半歩下がった。
「ごめんなさい、ハンカチ」
「もう濡らしたから拭かせて」
「え……すみません……」
顔が近い……。
緊張してしまうから、目にはかかってないのに目を閉じて濡れたハンカチが私の口の周りを動くのを感じる。
「冷たいでしょ。大丈夫?」
「全然大丈夫です!」
「ヒリヒリしたりしてません?」
「はい、大丈夫です!」
「もう目を開けていいよ」
「あ、はい」
目を開けると、クスクス笑っている難波さんがごく至近距離にいる。
まだ早かった!
ビックリして大きく一歩下がった。
「あはは! 遠山さんっておもしろい。僕、アニメキャラなんかでも好きになるのはおっちょこちょいなドジっ子ばっかりなんです」
え……それって、こんなおっちょこちょいな私が好みだって言ってる?
「さてと! さっさと済ませちゃおう」
「あ、はい!」
これは、このドキドキは、難波さんが好きだからじゃない。
嬉しいことを言われて、浮かれてるだけ。浮かれてるだけだから。しっかりしろ、私。
なっちゃんはずっと前から難波さんが好き。私なんか出る幕はない。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
お見合い相手は極道の天使様!?
愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。
勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。
そんな私にお見合い相手の話がきた。
見た目は、ドストライクな
クールビューティーなイケメン。
だが相手は、ヤクザの若頭だった。
騙された……そう思った。
しかし彼は、若頭なのに
極道の天使という異名を持っており……?
彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。
勝ち気なお嬢様&英語教師。
椎名上紗(24)
《しいな かずさ》
&
極道の天使&若頭
鬼龍院葵(26歳)
《きりゅういん あおい》
勝ち気女性教師&極道の天使の
甘キュンラブストーリー。
表紙は、素敵な絵師様。
紺野遥様です!
2022年12月18日エタニティ
投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。
誤字、脱字あったら申し訳ないありません。
見つけ次第、修正します。
公開日・2022年11月29日。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる