上 下
2 / 86
うちの弟はめちゃくちゃかわいい

弟の反抗期が終わらない

しおりを挟む
そんな大人になった(はずの)弟が朝食の皿をテーブルに放置したまま黒いリュックを肩に掛ける。
高校の時から使ってるバッグを大学生の今でも愛用してる。
物持ち良くて、我が弟ながら尊い。

けど、それはそれ、これはこれ。

「魁十! 片付け!」
「姉ちゃんやっといて。俺、部屋の窓開けっぱなの思い出した」
「窓開けたまま寝てるの?! いくら暖かくなってきたからって風邪ひくよ!」

思わず立ち上がると、それはもう鬱陶しそうなジト目で魁十が振り向いた。

「うぜえ。心配すんな。俺はもうガキじゃねーんだよ」

かわいい……。

魁十が目を細めると、長いまつ毛が下まつ毛と相まってより濃く見える。
いいなあ、私もそのまつ毛欲しい。

「そうだ、私今日送別会で遅くなるからママに言っといて」
「送別会? 誰の」
「橋長さん」
「ああ、寿退社の」
「そうそう。カイが私の会社の人を覚えてくれてるなんて感動。私の話ちゃんと聞いてくれてるんだね。お姉ちゃん嬉しい」
「うっせえ。早よ会社行け。俺も1限から授業あんだよ」

魁十が階段を駆け上がって行く。
しょうがない、自分の皿と一緒に魁十の皿とコップも洗ってあげよう。

紗夜さや、あんま遅くなんなよ」

タオルで手を拭いていた私は、弟の心配から発せられたであろう言葉に満面の笑みが隠せない。
思わず私より10センチ以上も大きくなった魁十の首に飛びつくと、秒で引きはがされてしまう。

「カイ、大好き!」
「勘違いすんなよ。別に心配してるわけじゃねえから」
「もー、カイってばいつまでも反抗期が終わらないんだからー。永遠の思春期さん」
「マジうぜえ」
「ママに伝言よろしくね」
「今日夜勤だから母さんの方が帰って来ねえよ」

カレンダーを見ると、たしかに夜の字が丸で囲まれている。

「さすがカイ! 記憶力すごい~! え! てことはカイひとりじゃん!」
「うるせえ。俺もバイトあるし」
「分かった、11時には帰ってくる!」

魁十のバイトは10時まで。
それから着替えたり帰り道でごはん食べたりするから家に着くのは11時頃。

うちの会社の飲み会は毎度御用達の居酒屋でダラダラ飲み続けるスタイル。
けどまあ、送別会は7時からだから10時までいれば十分だろう。

毎日通勤で使っているバッグを斜め掛けする。

「なあ姉ちゃん、その橋長さんの結婚相手ってどんな人?」
「あのね! 元は幼なじみの高校の同級生らしいんだけど卒業してからは会ってなくて、同窓会で再会してまた友達関係が復活したって人!」
「はしゃぐな。うぜえ。友達からパターンか」
「意味分かんないよね。長年ずーっと友達だと思ってた人と付き合うとか結婚とか考えらんない」
「自分だって初彼幼なじみだったくせに」
「そんな古い話覚えてるの?! 嬉しい~」
「くっつくな。早よ会社行けって!」

急かされて時計を見る。ヤバい、もう出ないと遅刻しちゃう!

「いってきます」
「やめろ!」

魁十のほっぺたにチュッと軽く口を付ける。
すぐさま押し返されてしまう。

「たまにはカイもしてよ」
「して当たり前みたいに言うな! 俺はもう大人なの!」
「だってカイかわいいんだもん」
「早く行け! 姉ちゃんに戸締り任せたらどっか電気つけっぱなしにすんだから!」
「魁十の反抗期が終わってまたチューしてくれるのを待ってるね」
「いいかげんにしろ! 俺まで遅刻する!」

魁十が本気で怒りだしている!

私は慌てて家を飛び出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凶器は透明な優しさ

恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。 初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている ・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。 姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり 2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・ そして心を殺された

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

放浪カモメ

小鉢 龍(こばち りゅう)
恋愛
ありきたりな日々を抜け出すため僕は自転車と身一つで走りだす。 そんな旅で出会った少女はとても儚く、孤独な瞳をしていた。 僕はそんな少女に強く惹かれてしまったんだ―― 交わるはずの無かった2人の運命の歯車が回りはじめる。 大学で出会った友との友情。 そして旅で出会った少女との純粋な恋の結末は!? ☆毎週水曜日更新☆

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...