慚愧のリフレイン

雨野

文字の大きさ
上 下
37 / 47
3章

エディットとリーナ

しおりを挟む

 どうしたのかしら、アルフィー様。彼の表情はまるで、もう2度と会えないと思っていた友と再会したかのように、喜びに満ち溢れている。


「エディット、カリア。お茶会は楽しんでもらえているかな?」
「は…はいっ。会場のセッティングもとても素敵です」
「お菓子もお茶も美味しいです」
「そっか。張り切って準備した甲斐があったよ」

 ふわりと微笑むアルフィー様。不覚にも…心臓が跳ねたわ。この人、よく見ると美形だわ…カロンのほうが可愛いけど!!

「友人はできたかい?」
「「…………」」

 お友達か…。カロンを挟んでカリアと見つめ合う、うーん…

「フレン令嬢とは…お話できましたが。お友達というと…どうでしょう?」
「わたくしは数人と、剣術のお話をしましたが。それだけですわ」
「ふむ…」

 アルフィー様は顎に手を当てて目を伏せた。やはりこういう場では、人脈を広げるべきなのかしら。将来の公爵夫人として…ね!きゃっ♡やだわエディット、気が早いわ♡
 でも…お友達ができたらいいなあ、とは思っていたの。するとアルフィー様が、控えめに正面やや右斜を指した?


「あそこに…ライムグリーンの髪の少女、いるだろう?」
「はい」
「彼女はハイアット子爵家のご令嬢だ。ハイアット家は社交界において、面倒な派閥争いにもほぼ関与せず。リーナ嬢自身も、さっぱりとした性格の女性だ。きっと…エディットやカリアと仲良くなれると思う」
「は…はい…っ」

 流石はお茶会のホスト、招待客の人柄も熟知しているのね!そ…っとハイアット令嬢を観察する。


「(うーん美味しい。流石は王子殿下の主催するお茶会、レベルが高いですねえ)」

 私よりちょっと年上かしら、クッキーのお皿を抱えてボリボリ食べているわ。豪快ね…

「どうしよう…カリア、行ってみる?」
「ええ!お兄様は?」
「ギガガ…リ…リー…ナ?リーナ…ハイアット?」

 あ、カロンの元気が戻ったわ。ハイアット令嬢の姿を確認して、目を見開いた。知り合いだったのかしら?単純に、驚いたという顔をしているわ。

「(なんでここにリーナが…アルフィー!?)」
「(ああ、そうだ)」
「(…そっか。ありがと)」
「(どういたしまして)」
「?」

 カロンとアルフィー様が、私を挟んでアイコンタクト。何よぅ…イチャイチャして、自分達の世界作っちゃって!!!

「ふんだ!!行くわよカリア!!!」
「はあい」
「へ…?姉上、まだ怒ってる…?」じわ…
「あちゃぁ…」

 もう知らない、カロンのバカ!!カリアの手を引いて、ハイアット令嬢目指してずんずん歩く。



 ざわざわ…

「?急に騒がしく…」
「あ…あのっ」
「はい?」

 人をかき分け到着。深呼吸して、精一杯の勇気を振り絞り令嬢に話し掛けた。この後どうすればいいのだろう、無意識に喉を鳴らした。

「(わ…グリースロー公女様だわ。近くで見ると、2人共お人形さんみたいですね~!)私に何か?」

 そんな私に向かって、ハイアット令嬢はニッコリ笑ってくれた。…どうしてか、みるみる緊張が解れてきたわ。

「私、エディット・グリースローと申します。こちらは妹のカリアです」
「初めまして!」
「ご丁寧にありがとうございます。私はハイアット子爵家の娘、リーナと申します」


 お互いにドレスの裾をつまんでご挨拶。少し雑談をすると、リーナ様は私より2歳お姉さんとのこと。


「(お相手は公爵令嬢なのに、妙な親近感が…?)エディット様。先程は大変な事に巻き込まれていましたね」
「う…」

 み、見られてた…!あの、カロンの恥ずかしい言葉の数々を!

「あっお姉様、カリア用事を思い出したわ!」ばひゅんっ!
「こらっ!?」

 元凶のカリアが逃げた!!怒られると分かっているようね…後でお説教なんだから!!リーナ様はクスクス笑い、どうぞとクッキーの入ったお皿を差し出す。ではいただきます…

「うふふ。公子様はとってもエディット様がお好きなんですねえ」
「え!そ、そうですか…?」
「もちろん。私含め、ここにいる全員が思いましたよ。「カロン・グリースロー様は、エディット・グリースロー様の事が大好き」だって!
 その証拠に、公子様にアプローチしようとしていた令嬢が、揃って肩を落としていましたもの」

 おほぉ~ん?周りには、そう見えちゃってました~ん?

「うほ…っ」
「(何故ゴリラに…この満更でもなさそうなお顔…可愛い~!)ふふっ」
「(でも…カロンはアルフィー様を愛しているのよね。私は所詮姉でしかない…)」ずうん…
「(一転して肩を落とされ…急にどうしたんですか!?)も、もっとクッキーはいかが?」
「ありがとうございまふ…」

 そうよ…やけ食いよ…我ながら感情の振れ幅がすごいわ。
 もっしゃもっしゃと食べていたら、お茶会終わったんですけど。カリアとカロンと合流する、前に!

「リ、リーナ様!」
「はい?」

 リーナ様の手を取り…頑張るのよエディット!

「あの!よろしければ…我が家にご招待しても、よろしいですか!?」
「え…私、を?」
「はいっ!」

 リーナ様はぽかんとしている。アルフィー様の言う通り…私、彼女ともっと仲良くなりたい!



 この会場に来て最初に感じた視線は、大きく分けて2つ。
 それは『憐憫』と『侮蔑』。カロンの暴走のお陰か、大分薄れてきたけど…完全には無くなっていないわ。もしくは『無関心』、好意的な感情はほぼ向けられなかった。

 けれどリーナ様だけは違った。最初から今までずっと…優しい笑顔で私を見てくれた。貴族特有の、他人を値踏みするような目でなく。対等な人間として!だから…!

「お友達に、なってくれますか…!?」
「……………」

 ぽけっと私を見つめるリーナ様。瞬間…間違えてしまった、と感じた。
 相手は子爵家、私は公爵家。リーナ様が嫌だと思っても、断れないかもしれない。


「(やだ…嫌だ。私はそんな、付き人のような関係を望んだ訳じゃない。ただ、友達が欲しかっただけで…)ご、ごめんなさい、やっぱり聞かなかったことにし…」

 がしっ!

「へ?」

 手を離したら、逆に両手で掴まれてしまった?

「はい!私でよければ、喜んで!」
「…!」

 リーナ様は頬を染め、喜色満面で答えてくれた。

「い…いいのですか…?」
「もちろんです!」
「あの…強制したくはなくて…」
「違いますよー。私が、貴女とお友達になりたいのです!」
「ひょ…!」

 嘘じゃ、ないわよね!?からかってる訳でもないわよね!?信じるからね…!

「いつ、ごろ、お呼びしてよいですかっ?」
「いつでもよいです!ハイアット家は、グリースロー領にも近いですし」
「では…」


 リーナ様と予定を立てる。初めてのお友達…嬉しい。
 帰りの馬車の中でも余韻が抜けず、自分の手のひらをじっと見つめる。

「………ふふ」

 一緒に遊ぶの、楽しみだなあ。お父さんにも教えてあげなくちゃ!きっと優しく頭を撫でて、「よかったな」と言ってくれるわ。

 カリアは疲れちゃったのか、うとうとと船を漕ぎ。カロンは…屋敷に着くまでずっと、私の手を握ってくれていた。











「ねえリーナさん」
「なんですかー?エディットちゃん」

 お茶会から数ヶ月。リーナさんとも何度か交流を重ね、すっかり仲良しになった頃。
 私の部屋で、ちょっと相談がございまして。

「そう…あれは今朝のこと。私はにんじんに苦戦しつつの食事を終え、デザートを堪能していました」
「物語でも始まるんです?」
「すると公爵様がこう言ったのです。『今度の旅行に、王太子殿下も同行なさるそうだ』…と」
「グリースロー家の旅行に、殿下が?」
「ええ。なんでも…カロンが誘ったとか。どう思う!?」
「どうとな…」

 だって、普通呼ばないでしょ!?家族旅行よ!?私はカロンとカリアのオマケで連れて行ってもらうけど…アルフィー様はもっと関係ないじゃない!!だったら私もリーナさんを誘いたいもん!!
 やっぱりカロンは彼を愛しているんだわ!!2週間も離れ離れになるのはイヤ…♡とか思ってんだわ!!

 …とは言えないので、その辺はオブラートに包んで相談したわ。リーナさんは腕を組んで、むむむと唸る。


「うーん…それはカロン様ご本人に聞くべきですよ」
「え…聞くの?」
「はい。エディットちゃんは、考えが明後日の方向に着地する癖があります。なので、自分で考えないこと!ね?」
「う…」

 一理あるわ。確かに私は、カロンの考えを聞いてない…

「……ありがとうリーナさん。私行ってくるね!」
「は~い」

 手を振るリーナさんに送り出され、カロンの部屋に突撃!!


 バターン!!

「カロン!!!」
「わっ。なーに?」

 カロンは少し驚きつつも、笑顔で私を迎えてくれた。

「なんで今度の旅行、アルフィー様も呼んだの!?」
「あぁ…えっとね」

 何その反応!?眉を下げ、私から視線を逸らした!!やっぱりあなたは…



『いいですか?相手の言葉は、最後までちゃーんと聞くんですよ』
「……………」



 イマジナリーナさんのお陰で、ちょっと冷静になれた。ふう…
 大人しく続きを待つと、カロンは観念したように口を開いた。

「んとね…実はね。旅行先の近くに…アルフィーが前から行きたがっていた地域があって。
 父上に聞いてみたら、寄り道してもいいって言うから。陛下にもお話しして、一緒に行く事になったの」
「あ…そう、だったの…」

 やだ私ったら、早とちり。カロンは善意でアルフィー様を誘ったというのに…恥ずかしすぎて、顔から火が出そう。

「………アルフィーと旅行、嬉しい?」
「あ~…んね~…」(※聞いていない)
「!!!!」がーん…

 お邪魔しました…己の狭量さが嫌になるわ…
 でもカロン…本当優しい。好き!!!何度目かも分からないけど、カロンに惚れ直し。旅行当日を迎えるのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

【完結】ベニアミーナ・チェーヴァの悲劇

恋愛
チェーヴァ家の当主であるフィデンツィオ・チェーヴァは暴君だった。 家族や使用人に、罵声を浴びせ暴力を振るう日々…… チェーヴァ家のベニアミーナは、実母エルミーニアが亡くなってからしばらく、僧院に預けられていたが、数年が経った時にフィデンツィオに連れ戻される。 そして地獄の日々がはじまるのだった。 ※復讐物語 ※ハッピーエンドではありません。 ※ベアトリーチェ・チェンチの、チェンチ家の悲劇を元に物語を書いています。 ※史実と異なるところもありますので、完全な歴史小説ではありません。 ※ハッピーなことはありません。 ※残虐、近親での行為表現もあります。 コメントをいただけるのは嬉しいですが、コメントを読む人のことをよく考えてからご記入いただきますようお願いします。 この一文をご理解いただけない方のコメントは削除させていただきます。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...