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3章
エディットとリーナ
しおりを挟むどうしたのかしら、アルフィー様。彼の表情はまるで、もう2度と会えないと思っていた友と再会したかのように、喜びに満ち溢れている。
「エディット、カリア。お茶会は楽しんでもらえているかな?」
「は…はいっ。会場のセッティングもとても素敵です」
「お菓子もお茶も美味しいです」
「そっか。張り切って準備した甲斐があったよ」
ふわりと微笑むアルフィー様。不覚にも…心臓が跳ねたわ。この人、よく見ると美形だわ…カロンのほうが可愛いけど!!
「友人はできたかい?」
「「…………」」
お友達か…。カロンを挟んでカリアと見つめ合う、うーん…
「フレン令嬢とは…お話できましたが。お友達というと…どうでしょう?」
「わたくしは数人と、剣術のお話をしましたが。それだけですわ」
「ふむ…」
アルフィー様は顎に手を当てて目を伏せた。やはりこういう場では、人脈を広げるべきなのかしら。将来の公爵夫人として…ね!きゃっ♡やだわエディット、気が早いわ♡
でも…お友達ができたらいいなあ、とは思っていたの。するとアルフィー様が、控えめに正面やや右斜を指した?
「あそこに…ライムグリーンの髪の少女、いるだろう?」
「はい」
「彼女はハイアット子爵家のご令嬢だ。ハイアット家は社交界において、面倒な派閥争いにもほぼ関与せず。リーナ嬢自身も、さっぱりとした性格の女性だ。きっと…エディットやカリアと仲良くなれると思う」
「は…はい…っ」
流石はお茶会のホスト、招待客の人柄も熟知しているのね!そ…っとハイアット令嬢を観察する。
「(うーん美味しい。流石は王子殿下の主催するお茶会、レベルが高いですねえ)」
私よりちょっと年上かしら、クッキーのお皿を抱えてボリボリ食べているわ。豪快ね…
「どうしよう…カリア、行ってみる?」
「ええ!お兄様は?」
「ギガガ…リ…リー…ナ?リーナ…ハイアット?」
あ、カロンの元気が戻ったわ。ハイアット令嬢の姿を確認して、目を見開いた。知り合いだったのかしら?単純に、驚いたという顔をしているわ。
「(なんでここにリーナが…アルフィー!?)」
「(ああ、そうだ)」
「(…そっか。ありがと)」
「(どういたしまして)」
「?」
カロンとアルフィー様が、私を挟んでアイコンタクト。何よぅ…イチャイチャして、自分達の世界作っちゃって!!!
「ふんだ!!行くわよカリア!!!」
「はあい」
「へ…?姉上、まだ怒ってる…?」じわ…
「あちゃぁ…」
もう知らない、カロンのバカ!!カリアの手を引いて、ハイアット令嬢目指してずんずん歩く。
ざわざわ…
「?急に騒がしく…」
「あ…あのっ」
「はい?」
人をかき分け到着。深呼吸して、精一杯の勇気を振り絞り令嬢に話し掛けた。この後どうすればいいのだろう、無意識に喉を鳴らした。
「(わ…グリースロー公女様だわ。近くで見ると、2人共お人形さんみたいですね~!)私に何か?」
そんな私に向かって、ハイアット令嬢はニッコリ笑ってくれた。…どうしてか、みるみる緊張が解れてきたわ。
「私、エディット・グリースローと申します。こちらは妹のカリアです」
「初めまして!」
「ご丁寧にありがとうございます。私はハイアット子爵家の娘、リーナと申します」
お互いにドレスの裾をつまんでご挨拶。少し雑談をすると、リーナ様は私より2歳お姉さんとのこと。
「(お相手は公爵令嬢なのに、妙な親近感が…?)エディット様。先程は大変な事に巻き込まれていましたね」
「う…」
み、見られてた…!あの、カロンの恥ずかしい言葉の数々を!
「あっお姉様、カリア用事を思い出したわ!」ばひゅんっ!
「こらっ!?」
元凶のカリアが逃げた!!怒られると分かっているようね…後でお説教なんだから!!リーナ様はクスクス笑い、どうぞとクッキーの入ったお皿を差し出す。ではいただきます…
「うふふ。公子様はとってもエディット様がお好きなんですねえ」
「え!そ、そうですか…?」
「もちろん。私含め、ここにいる全員が思いましたよ。「カロン・グリースロー様は、エディット・グリースロー様の事が大好き」だって!
その証拠に、公子様にアプローチしようとしていた令嬢が、揃って肩を落としていましたもの」
おほぉ~ん?周りには、そう見えちゃってました~ん?
「うほ…っ」
「(何故ゴリラに…この満更でもなさそうなお顔…可愛い~!)ふふっ」
「(でも…カロンはアルフィー様を愛しているのよね。私は所詮姉でしかない…)」ずうん…
「(一転して肩を落とされ…急にどうしたんですか!?)も、もっとクッキーはいかが?」
「ありがとうございまふ…」
そうよ…やけ食いよ…我ながら感情の振れ幅がすごいわ。
もっしゃもっしゃと食べていたら、お茶会終わったんですけど。カリアとカロンと合流する、前に!
「リ、リーナ様!」
「はい?」
リーナ様の手を取り…頑張るのよエディット!
「あの!よろしければ…我が家にご招待しても、よろしいですか!?」
「え…私、を?」
「はいっ!」
リーナ様はぽかんとしている。アルフィー様の言う通り…私、彼女ともっと仲良くなりたい!
この会場に来て最初に感じた視線は、大きく分けて2つ。
それは『憐憫』と『侮蔑』。カロンの暴走のお陰か、大分薄れてきたけど…完全には無くなっていないわ。もしくは『無関心』、好意的な感情はほぼ向けられなかった。
けれどリーナ様だけは違った。最初から今までずっと…優しい笑顔で私を見てくれた。貴族特有の、他人を値踏みするような目でなく。対等な人間として!だから…!
「お友達に、なってくれますか…!?」
「……………」
ぽけっと私を見つめるリーナ様。瞬間…間違えてしまった、と感じた。
相手は子爵家、私は公爵家。リーナ様が嫌だと思っても、断れないかもしれない。
「(やだ…嫌だ。私はそんな、付き人のような関係を望んだ訳じゃない。ただ、友達が欲しかっただけで…)ご、ごめんなさい、やっぱり聞かなかったことにし…」
がしっ!
「へ?」
手を離したら、逆に両手で掴まれてしまった?
「はい!私でよければ、喜んで!」
「…!」
リーナ様は頬を染め、喜色満面で答えてくれた。
「い…いいのですか…?」
「もちろんです!」
「あの…強制したくはなくて…」
「違いますよー。私が、貴女とお友達になりたいのです!」
「ひょ…!」
嘘じゃ、ないわよね!?からかってる訳でもないわよね!?信じるからね…!
「いつ、ごろ、お呼びしてよいですかっ?」
「いつでもよいです!ハイアット家は、グリースロー領にも近いですし」
「では…」
リーナ様と予定を立てる。初めてのお友達…嬉しい。
帰りの馬車の中でも余韻が抜けず、自分の手のひらをじっと見つめる。
「………ふふ」
一緒に遊ぶの、楽しみだなあ。お父さんにも教えてあげなくちゃ!きっと優しく頭を撫でて、「よかったな」と言ってくれるわ。
カリアは疲れちゃったのか、うとうとと船を漕ぎ。カロンは…屋敷に着くまでずっと、私の手を握ってくれていた。
「ねえリーナさん」
「なんですかー?エディットちゃん」
お茶会から数ヶ月。リーナさんとも何度か交流を重ね、すっかり仲良しになった頃。
私の部屋で、ちょっと相談がございまして。
「そう…あれは今朝のこと。私はにんじんに苦戦しつつの食事を終え、デザートを堪能していました」
「物語でも始まるんです?」
「すると公爵様がこう言ったのです。『今度の旅行に、王太子殿下も同行なさるそうだ』…と」
「グリースロー家の旅行に、殿下が?」
「ええ。なんでも…カロンが誘ったとか。どう思う!?」
「どうとな…」
だって、普通呼ばないでしょ!?家族旅行よ!?私はカロンとカリアのオマケで連れて行ってもらうけど…アルフィー様はもっと関係ないじゃない!!だったら私もリーナさんを誘いたいもん!!
やっぱりカロンは彼を愛しているんだわ!!2週間も離れ離れになるのはイヤ…♡とか思ってんだわ!!
…とは言えないので、その辺はオブラートに包んで相談したわ。リーナさんは腕を組んで、むむむと唸る。
「うーん…それはカロン様ご本人に聞くべきですよ」
「え…聞くの?」
「はい。エディットちゃんは、考えが明後日の方向に着地する癖があります。なので、自分で考えないこと!ね?」
「う…」
一理あるわ。確かに私は、カロンの考えを聞いてない…
「……ありがとうリーナさん。私行ってくるね!」
「は~い」
手を振るリーナさんに送り出され、カロンの部屋に突撃!!
バターン!!
「カロン!!!」
「わっ。なーに?」
カロンは少し驚きつつも、笑顔で私を迎えてくれた。
「なんで今度の旅行、アルフィー様も呼んだの!?」
「あぁ…えっとね」
何その反応!?眉を下げ、私から視線を逸らした!!やっぱりあなたは…
『いいですか?相手の言葉は、最後までちゃーんと聞くんですよ』
「……………」
イマジナリーナさんのお陰で、ちょっと冷静になれた。ふう…
大人しく続きを待つと、カロンは観念したように口を開いた。
「んとね…実はね。旅行先の近くに…アルフィーが前から行きたがっていた地域があって。
父上に聞いてみたら、寄り道してもいいって言うから。陛下にもお話しして、一緒に行く事になったの」
「あ…そう、だったの…」
やだ私ったら、早とちり。カロンは善意でアルフィー様を誘ったというのに…恥ずかしすぎて、顔から火が出そう。
「………アルフィーと旅行、嬉しい?」
「あ~…んね~…」(※聞いていない)
「!!!!」がーん…
お邪魔しました…己の狭量さが嫌になるわ…
でもカロン…本当優しい。好き!!!何度目かも分からないけど、カロンに惚れ直し。旅行当日を迎えるのであった。
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