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学園4年生編

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 そんなこんなで2週間が過ぎた。


「王女様!こちらお飲み物でございます」

「こちらパラソルを設置致しました、美しい肌が焼けてしまっては大変です!」

「何か足りないものはございませんか?」

「大丈夫よ。皆、ありがとう」


「「「…………………」」」


 えー…ただ今剣術の授業中。授業は3クラスの男子合同でいつも午後の最後、女子はもう帰る時間。その為…見学に来る女子生徒は多い。
 まあ、大体お目当ての男子を見に来る訳だ。それと…多分、筋肉。結構服を脱いでいる奴がいるので…遠くからきゃーきゃー聞こえるわ…。
 わたしもさり気なくガン見しています。間近で見られるのは男装の特権ですね!!彼女らは差し入れにドリンクやらタオルも持って来てくれるぞ。

 で…ビビ様も例に漏れずやって来る。しかし…いつの間にか、一部男子生徒が下僕になっているのだ。差し入れどころか、彼女がもてなされているよ。今も数名がせっせと見学する彼女の為、快適空間作りに精を出している。ちゃんと授業受けなさいよ、クザン先生激おこよ?


 
 この学園において、男子の人気を独占していたのは我らがロッティ&ルネちゃん!大和撫子な木華も参戦したが、3人共身分も高く近寄り難いようで高嶺の花として君臨している。
 そこにビビ様参戦。彼女は身分で言えば公女の2人より上だが…とても気さくな方である。更に美しくあればもう、男子生徒はイチコロさ。しかし聖女の称号はロッティのものですから!!!


「(聖女とか言われてたのは昔の話で…今は赤い髪も相まって鮮血バーサーカーと恐れられているんだが…)」

 む?ジスランが遠い目をしている。ほらほら、手ェ抜かないでよ。
 現在は月に一度のトーナメント戦真っ最中。そしてわたしとジスランの決勝戦!もちろん負けた、チクショー!!!

 試合終了後、汗を拭きながらエリゼに愚痴をこぼす。

「ああもう!僕は死ぬまでジスランに勝てないのかな!?」

「だから色仕掛けでもしろって」

 してたまるか!!!
 今4年生の実力というか成績はジスランがトップ、次いでわたし。そして3位にアゼマ君だ。わたしとアゼマ君は皇室騎士団からスカウトも来ているのだよ諸君。いえい!!

「色仕掛けだと!?駄目だ、するなら俺にしろ!!ハニトラどんとこい!!」

「おう任せろ。全身テカテカにしてやるよ」

「ハニー(蜂蜜)じゃなくて!!」

 会話にすっ飛んできたのはパスカル、エリゼは面倒くさそうにしている。彼も最近更に腕を磨いているようで、成績をぐんぐん伸ばしている。おいおい、わたしを何度惚れ直させる気かダーリン。


「ん?あら…ジスラン捕まってら」

 3人で雑談をしていたら…前方でビビ様と会話するジスランが目に入った。


「とってもお強いのですね、ジスラン様」

「ありがとうございます、王女殿下」

「まだお若いのに、我が国の精鋭にも劣らない迫力でしたわ」

「勿体ないお言葉です」

 ……うーん。ビビ様は結構アピールしているが、ジスランは真顔で返事するのみ。だが…


「………………………」

 後方から…ビキベキバキ…という音と共に殺気を感じる。今振り向いたら大魔王が降臨しているんだろう…。恐らくジスランも気付いているので、早く会話を切り上げたそうにしている。
 哀れ練武場の柵は粉々かな。後でドワーフ職人に直してもらおうっと。


「貴方のお側で守ってもらえるシャルロット様は果報者ですわね」

「いいえ。自分はまだまだ修行中の身ですし…俺のほうこそ、昔から助けられてばかりです」

「まあ…控えめな方でいらっしゃるのですね。そうだ、よろしければこちら貰ってくださらない?」

「申し訳ございませんが…受け取る事は出来ません。お気持ちだけありがたく頂戴いたします」

「そうですか…残念ですわ」
 
 ジスランは差し出された何かを断った。そして2人の会話はようやく終わったみたい。ついでに授業も終了、すると……



「ねえジスラン?今何をお話ししていたのかしら?」

「いや、あの…剣を褒めていただいただけで」

「ふーん?」

 ジスランは授業中上半身裸なので…ズボンのウエストの辺りを掴んでズルズルと人気の無い場所に連れて行くロッティ。いやん、パンツ見えてますよ。
 そしてジスランを壁に追い込みバズーカを突き付け…これは!壁ドンですか!?やーだー!!そのまま頬をぷっくり膨らませ、ジスランに迫るロッティ。可愛いねえ、ヤキモチだね!

「……浮気したら、嫌よ?」

「死んでもしないと誓う…!(むしろしたら死ぬ)」

 彼の頭にゴリゴリと銃口を擦り付ける。不安なんだね、よく分かるよ…!ロッティ達は仲睦まじく腕を組んで帰って行った。誤解は解けたようだ、よきかな。


「(あの発言が…シャーリィなら可愛い!ってなるのに…)」

「(シャルロットはもう、脅迫にしか見えねえな…)」

 一緒に覗き見をしているパスカルとエリゼは渋い表情。そうだ、わたしも今度パスカルの怪しい場面に遭遇したら…ミカさんを首に添えてやろう。きゃっ。

【やめて差し上げなさい主…】

 いいじゃん別に。ミカさんとそんな会話をしながら、わたし達も帰る事にする。



 ※※※



 次の日、魔術の授業。今日のテーマは精霊だ。お馴染みのタオフィ先生の声が教室に響く。

「……という訳で、中級の精霊については以上です。では本日からはいよいよ上級精霊について学びますよ」


 はーい!まあわたしは、数年前に成功していますが!ふんす。しかし改めて学ぶと面白い…ふむふむ、ほお~ん。

「ご存知精霊には下級・中級・上級・最上級とありますね。階級は彼らが精霊として生を受けた時から決まっているそうですが、稀に昇級する事があるそうです」

 ふむ?つまり…中級が上級になる事もあるっていう意味?それは知らなかった、教科書にも図鑑にも載ってないし。


「今まで未知だった精霊の生態について、ヘルクリス様のお陰で色々解明されました!発表していい許可も下りてますし、世界中の研究者が大興奮ですよ~!」

「呼んだか?」

「うおわっ!?」

 ヘルクリスが開いている窓からにゅっと頭を伸ばしてきた!!窓際のわたしの机の上に顎を乗せた。ああ、教科書がぐちゃぐちゃに…。
 頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細める。そして授業の説明をしたら…「なんだ、精霊について知りたいのか?」と言う。

「ふむ…セレス、シルフを呼べ」

「へっ?」

 何故いきなり?タオフィ先生に視線を向けると、彼も戸惑いながら頷いた。
 エアを呼ぶと影の中から姿を現した。彼女がどうかした?

「我ら最上級には、同じ属性の上級精霊を眷属にする事が出来る。特別サービスだ、やってみせよう」

 眷属?エアがパタパタとヘルクリスに近付くと…彼の鼻先に翼を触れさせた。すると…2人の体が光った!?って、眩し…!!



 教室全体を包み込む閃光に、全員がノックダウン。ゆっくりと目を開けると…


「…………………」

「……ふう…感謝致します。我が王エンシェントドラゴン、ヘルクリス様。我が契約者セレスタン様」


 ……わたしの机の上に…ナイスバディなお姉さんが座っているんですが!!?


「わあぁーーーーーっ!!?え、誰!?」

「お、落ち着けスクナ!」

 
 少那を筆頭に教室中が大騒ぎ!突然現れた女性は翼と腕が一体化していて、膝から下は鳥のように細く4つのあしゆびをしている。
 長い緑色の髪を持ち、ぷくっとした唇が魅力的でボインでキュっな妖艶お姉さんだ!ていうか服が際どい、大事な場所しか隠していない!!まるでRPGとかに出て来そうな……ん?


「……あの、エアのお姉さんですかね?」

「ふふふ、エアですわ」

 …なんですって?いや、エアは15cmくらいの女の子ですよ?お姉さんが机から降りて立ち上がると…貴女170cmはありますよね?

「ヘルクリス様に眷属にしていただいたお陰で、このような姿を会得致しましたの」

 へー…わたしは冷静そうに見えるかもしれないが、頭ん中は超パニックである。話し方も変わりましたね?普段は「主、お散歩行ってきます」って感じだったよね???


「ヘルクリス様…これは一体…?」

 気付けばわたしの周りには誰もいなかった。全員教室の隅に避難したらしい…ああいや、パスカルとタオフィ先生だけ寄って来た。


「己の姿を変えて、ヒトの言葉を操るのは我ら最上級の能力の1つ。私の眷属にした事により、エアも可能になっただけよ」

 ヘルクリスがそう言った瞬間、エアがポフっと音を立てて縮んだ。いつもの姿だ…

「その通りでございます。能力も上昇し、私は上級の中でも最高位に即きました」

 ほおん…また大きくなったエアは、わたしの顎をくいっと持ち上げ………キシャーーー!!?


「な、何をするっ!!?」

「ふふ。パスカル様ったら、警戒し過ぎですわ。ただの親愛のキスではありませんか」

「口にしなくてもいいだろう!?」

 ひぃ…!パスカルより柔らかかっ…ひえー!!!しかも離れ際、ペロっと唇舐められた!!
 開眼したタオフィ先生が拳を震わせながら「なんて羨ましいんだ…!!」とか言っている。数人の男子生徒もそれに賛同して…アホか!?
 とりあえずエアには、普段は小さいままで過ごしてもらおう…。ていうかパスカルの目が怖い。多分人目が無かったら…上書きとか言ってキスされてたな、わたし。今日は2人きりにならんとこ。


 とまあ、ちょっとした騒ぎもございましたが。その場でヘルクリス先生の特別授業が始まり、大盛り上がりでございました。興奮冷めやらぬ中全員席に着くと…なんか、わたしの影が発光してる!!中で何が!!?

「負けない、負けない。わいも」

 トッピーーー!!?て事は、まさか…!!


「……こうして音にしてご挨拶申し上げるのは初めての事ですな。我が王ベヒモス、トッピー様。我が主、セレスタン様」

「……………ノモさん?」

「左様でございます」

 影からずるっと出て来たのは…黒いスーツに焦げ茶色いコートとシルクハット。ステッキを持った…紳士だ。お髭の紳士だ…!!わたしと木華の間に立つが、デケエ!!ノッポさんに改名したい。
 なんともシュッとした佇まい、イケおじだ。枯れ専のお姉様方にぶっ刺さるぞこれは…!ノモさんはわたしの手を取り、指先にキスをする。ときめいた。

 ノモさんも小さくなり…机の上に座る。「怯えさせてしまい申し訳ない、姫君」と木華に言っているが、彼女は「いえ…」と呆然としている。
 精霊ってすごいなあ…と感心していたら。ヨミの視線が…めっちゃ突き刺さるんですが。パスカルもセレネに頭を齧られている。おいおい、まさか…?


「セレス。闇の精霊召喚して」

「パル。光の精霊を喚ぶんだぞ」

「「やっぱりーーー!」」

 光と闇の最上級精霊は、対抗心燃やしまくりである。いやあ、これ以上授業を妨害する訳には…とタオフィ先生に助けを求める。すると…


「ふむ。今日は宿題に上級精霊の魔法陣を描いて来くるように、と言うつもりでしたが。丁度いいので、お2人には今描いてもらいましょう!」

「「おいいいいいい!!」」

 わたしとパスカルの反論など一切聞かん!早く早くという先生と精霊の圧力に負けて…今は2人で魔法陣をガリガリ描いているよ。その間先生は授業を進める。

 
「光の上級は天使、闇は悪魔しかいません。能力は多種多様にありますが、個体としては1種のみです。一説によると…」

 天使と悪魔か……ちょっと興味ある。しかもそれが成長したら…ごくり。
 わたしは過去にも経験があるので、一発オッケーさ。パスカルは…

「王、ここがはみ出してしまっています」

 とダメ出し喰らってた。「くそー!」とか言いながら、10分掛けてクリア!




 さて…思わぬ形で公開召喚開始。教卓をズラして広さを確保、まずパスカルから!


「えっと…光の精霊、俺に力を貸してくれ」

 ピカッと召喚されたのは…女の子の天使。パスカルの契約の申し出に快く応じてくれたぞ。そういや、名前は?

「……忘れてた。ごめん、今考える」

 べしべしと天使に叩かれるパスカル。じゃあその間に、わたしも!


「ふむ…闇の精霊さーん。お友達になってください」

 一瞬だけ。「我が言の葉を聞き届け給え。ダークスピリットよ!!」なんて言ってみようかしら?という欲がちらついたが…耐えた。
 多分この世界じゃ伝わんないから…憐れみよりも、スルーのほうが精神的にしんどいから。

 おふざけは置いといて、難無く成功!クラスメイトも「すごい!」と称賛してくれる。
 どんな悪魔かな?と思いきや…あら。翼も尻尾も角も無い…厨二心を擽る黒いマントの男の子。天使も悪魔も三頭身くらいかな。
 契約してくれる?と聞けば…悪魔っ子はぷいっと横を向き、静かに頷いた。ツンデレか?

 さて名前。ヨミ(黄泉)に合わせて…メイ(冥界イメージ)はどう?と聞いてみたら、これまたゆっくり頷いた。契約すると「……これからよろしく」とだけ挨拶される。もしや闇の精霊って、シャイ?


「よし。ノエルでどうだ?」

 やっとパスカルも名前を決めたよう。天使ちゃんも喜び、契約完了。ところで名前の由来を聞いてもよかですか?

「(………俺とシャーリィに子供が生まれた時の…候補の1つ。とは流石に言えない…あと50くらいあるってのも…)…秘密」

 教えてくれなかった…残念。すぐに眷属の儀式?も終わった。
 天使ちゃんは…金髪碧眼なふわふわ美少女に。白い膝丈ゴスロリワンピースで、綺麗な羽が美しい…。

「お初にお目に掛かります。ノエルが我が王フェンリル・セレネ様と、契約者パスカル様にご挨拶します」

 礼儀正しく可愛い子だ。しかも…パスカルと並ぶとお似合い……いや、別に精霊に嫉妬とかしませんけど?そんでメイはと言うと…

「………ヨミ様、セレスタン様…お力をいただき、ありがとうございます…」

 そこにいたのは…黒髪金目な青年だ。こうして大きくなると、吸血鬼っぽい印象だな。キバあるし、色白で太陽苦手そう。病弱にも見える…いっぱいご飯食べな?



 ノエルはパスカルの頬に、メイがわたしの額にキスをした。ギャラリーがきゃー!とかヒュゥーとか言っているが、どうでもいい!

「「はっ!!?」」

 く、く、悔しいぃ…!!あの子は精霊だと分かっていても、可愛い女の子が…!!しかも腕を組んだまま、そこわたしの場所!!

「(なんだあの悪魔…!しかもなんで離れない、彼女の肩を抱いていいのは俺だけだ!!)」


 なんだか重い空気が流れる。その時チャイムが流れて、今日の授業は全て終了。タオフィ先生が、さっき言った通り宿題を出してから皆解散。



「早速ですが、精霊殿のお話を聞かせてください!!ささ、こちらへ!」

 先生は楽し気にわたし達の腕を引っ張り移動する。その勢いに呑まれ、友人達にまた明日!!とだけ告げ精霊諸共連行される。




「エリゼ様、エリゼ様は魔術がお得意なのでしょう?」

「……ええ、天才と言う評価に恥じないと自負しています」

「まあ素敵!では…上級精霊について、詳しく教えていただけませんか?」

「…申し訳ございません。オレは人に教えるのは不得手でして。それこそ…先生に訊ねると良いでしょう。オレはこれで失礼します、約束がありますので」


 その後教室で、ビビ様とエリゼのそんな会話が繰り広げられていたらしい。後に見ていたルシアンが教えてくれたが、エリゼは珍しく愛想笑いを浮かべていたそう。
 そんで近くにいたジスランを引っ張って教室を出て行ったと。

「なんだ、誰かと約束があるんじゃないのか?」

「ねえよ、逃げただけ。でも嘘がバレても面倒だから、少し付き合え」

「…少しだけな」

 普段嘘とかつかないエリゼだが、よほど逃げたかったのだろうか?
 気になったので、翌日彼に聞いてみた。ちょっと相談に乗るくらい、いいんじゃないの?と。すると彼の答えは



「どアホ。ああいうのはな、一度でも相手したらお終いなんだよ」



 ですって。なんだか背筋が凍ったが…わたしとパスカルは仕事でサポートを命じられている以上、相手をしない訳にはいかん。

 どうか心穏やかに2学期が終わりますように、と願うばかりだが。学園内ですでに、ビビ様をお慕いする皆様が派閥を作ってしまっているらしい。
 そんで彼女を冷たくあしらったというジスランとエリゼは、親衛隊に睨まれているとか…恐ろしや。

 ああ、お願いですから生徒会の仕事が増えませんように…どうか聞き届け給え、フラグの神様!!!





 フラグ神「むり」


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