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学園4年生編

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 劇の翌日、僕らは皇宮に招かれた。そう、美味しい和食を食べに来たのだ!お昼から。
 
「夕飯は会席料理を用意するんだけど…セレスは『寿司が食べたいマグロ食べたいイカ食べたいエビ食べたい!』という事だったから…昼食に用意したよ」

「わーい!少那ありがとおお!!」

 ヤッター十数年ぶりの米!!いつもよりハイテンションでお送り致します!
 集まったのはいつものメンバー…ではないな。ルネちゃんとジスランがいないや。用事があるから、夕方に来るらしい。
 なので今席に着いているのは僕、ロッティ、少那、木華、ルシアン、エリゼ、パスカル。そしてルクトル様もいるぞ。


「他の皆はリクエストが無かったから、とりあえず箏の家庭料理を用意してみたんだけど…お口に合えばいいな」

 少那はそう言って照れくさそうに笑った。僕もそっち食べたい!今度作ってもら…いや、食材や調味料、レシピをくれたら自分で作ろう。
 では…いただきまーす!!


「ああ…美味しい…!よく考えたらワサビ入りの寿司って初めてだわ…美味しゅうございます…お茶ちょーだい!」

 やっぱ醤油最強ですわ。美味しくて懐かしくて軽く涙が出そうだったが、堪えてモリモリ食べる。
 すると、他の皆はあまり箸が進んでいない事に気付いた。

「お前、よくこの2本の棒切れで食事が出来るな…オレには無理だ、カトラリーくれ」

「私も…セレスは器用だな」

 そういう事かー!箸ってこっちじゃあまり普及してないもんねえ。なので皆スプーンとフォークを使うが…ロッティとルクトル様は頑張って箸を使おうとしていた。



「一応前もって練習はしてみたんですが…難しいですね」

 と言いながらルクトル様は箸を使っている。少し手は震えているけど…充分使いこなせているよ?

「私も…お兄様みたいに…!あっ」

 ロッティも頑張っているが…流石に難しそう。さっきから何度も豆を落として…いやいきなり難易度高っ。仕方ないなあ…ロッティは僕の隣に座っているので…

「(…よし、お姉様や少那殿下、姫様の動きから持ち方は理解したわ。もう少し…!颯爽と使いこなして、お姉様に「ロッティすごーい!」って言ってもらうんだから…!)」プルプル

「はい、ロッティ。あーんして?」

「(やっぱやーめた!!!)あーん♡」ぽいっ

 美味しい?と聞くと、ロッティはいい笑顔で最高よと答えてくれた。
 妹とはいえ人前であーんするのは恥ずかしいが…頑張って食べようとしているロッティが可愛くて、ついね。
 
「(い、いいなあ…!)……俺も、ハシで食べてみよっかな~…?」

「席離れてんだから無駄だぞ。とっとと食え」

「ちくしょう!」

 向かい側でパスカルとエリゼがなんか小声で言ってる。その間もロッティは「上手く掴めなぁい、お兄様食べさせて~♡」とおねだりしてくるので、僕はにっこにこで食べさせてあげるのだ。

「あ、このお寿司も食べる?美味しいよ!」

「……………ごめんねお兄様、私お腹いっぱいになっちゃったわ~」

 そう?残念だけど、いっぱい食べたもんねえ。



『………木華、外国ってすごいね…。兄妹であんなに仲良しさんとは…』

『(本当は姉妹だけど)そうですね…いえ、多分あの2人が異常なのでは…』

 
 

 ※※※




 食事も終わり、皆でまったりお茶にする。少那達が持って来てくれた緑茶と大福をいただいてます。

「このもちもちした食感、こっちのお菓子ではあまり無くて楽しいですね」

「ありがとうございます。確かに、海を渡ると食文化も全く違って面白いですね」


 なんだか少那とルクトル様が食トークで盛り上がっている。という訳で、こっちも…

「ねえねえ、木華。ルキウス様とはどうなったの!?」

「ん゛んっ…!……その、この後予定が…」

 ひゃーーー!!どうやら順調に親睦を深めているらしい!
 どうやら皇宮にある花園を散策してからお茶にするんですって。それはもう…




 行くっきゃねえ!


 一足先に席を外した木華を、僕とロッティがこっそり追い掛ける。エリゼとか咫岐には変な目で見られたが…無視だ無視。
 これは単なる興味本位では無い、心配から来るものだ。あの朴念仁なルキウス様が女の子と楽しくおしゃべり出来るのか…超面白そ、心配だ!!

「(本音を隠せてないわお姉様。同感だけど…)」

 木華が自分の部屋に戻って数分、ルキウス様が訪ねて来た。心なしかソワソワしているような…ちなみに僕らは、廊下の遠~くから観察中。双眼鏡欲しい。
 ルキウス様がノックすると、さっきよりおめかしした木華が嬉しそうに顔を出した。恋する乙女って可愛いわ~!
 

「お、お待ちしておりましたわっ」

「あ、ま、待たせてすまない」

「あっ、えっ、いえ!そそそういう意味では…!」

 ……本当に進展してんのかなあ、あの2人。早く腕でも組んで歩き出せや…。
 という願いが届いたのか、微妙に距離を空けながらもようやく歩き始めた。では僕らも…と。



「「…………………」」

 2人の後方にはお付きの使用人や騎士が4人いるので…しれっと一番後ろに並ぶ。彼らには当然気付かれたが、肝心の2人にはバレてない。セーフ!!
 
 しかし2人、会話無えな!!!廊下を歩いている間も、世間話くらいしようや!!
 こっそりと薪名に近寄り声を掛けてみる。

「ねえ…あの2人、いつもあんななの?」

「はい。移動中はたまに声を発しても「いい天気ですね…」「そうですね…」で終わります」

 かあーーーっ!!!ルキウス様よ、もっとラディ兄様にするみたいに気さくに話し掛けろや!!


 結局ぽつりぽつりと会話するのみで花園に到着。
 でも花の話をするくらいで…やっぱ距離が…。


「まあ、これは青い薔薇?初めて見ましたわ」

「箏にはありませんか?」

「はい、写真でしか」

「そうでしたか…っ!?」

 あ、やべ。焦ったくて身を乗り出していたらルキウス様に見つかった。ぎょっとした目でこっちを見ている、こうなったら開き直ったらあ!!
 僕はこんな事もあろうかと、カンペ用にスケブを持ち歩いていたのさ。正確にはヨミが、だが。きゅきゅっと…
 それを掲げると、ルキウス様はあっさり読んだ。


「「青い薔薇の花言葉はご存知ですか」…?」

「え、花言葉ですか…?うーん…存じませんの…」

「あ。えっと…!(えーと…以前姉上から教わった……)元々は「不可能」や「存在しない」といった言葉だったのですが…時代と共に変化しました。
 今ではいくつかありますが…「神の祝福」や「奇跡」といった意味があるのです。ですから…」

 ルキウス様は薔薇を1つ取り、木華の髪に挿した。そして頬を染め、彼女から少し目を逸らしながら言葉を紡ぐ。


「この薔薇を、貴女に。その…貴女と出会えた奇跡に…感謝を」

「……!ありがとう、ございます…」


 うおおおおお!ルキウス様が攻めた!!気の利いた事言えるじゃん!!
 木華もすっかり真っ赤になっちゃって、いい雰囲気~!もう一押し!!

「ルキウス様ー!こっち見てこっち!」(小声)

 僕とロッティで腕を組んでイチャイチャして見せると、ルキウス様もその意図を理解したようだ。
 怖い顔で逡巡してからスッと木華に手を差し出し…


「その…もう少し、歩きませんか…?」

「はい…!」

 木華もその手を取り、ゆっくりと腕を組み…よっしゃあ!!僕とロッティと薪名でハイタッチを交わす。
 ふ…いい仕事したわ。でもこれ以上はルキウス様に怒られそうなので、そろそろ退散します!頑張ってね!




 その後夕食の席に現れた2人は明らかに距離が近付いていて…また僕達はイエーイと手を合わせたのでした。


 でもルキウス様が僕らの顔を見るなり、ぎゅーっと頬をつねってきた!そんで小声で「…ありがとう」と言ったのだった。どういたしまして!
 こりゃあ、2人の婚約が正式に決まるのも時間の問題かもね~!



「そうそう、セレス。貴方が以前言っていた剣の指導に関してだけど。紹介したい剣士がいるんだ、今いいかな?」

 夕食は美味しい会席料理でした。ただしお造りは無かったが!この国に生食文化が無い事を考慮してくれたのだろう。
 そして最後に水菓子を食べ終えたところで少那がそう言ってきた。おお、決まったの!?

「うん。飛白カスリ、こっちへ」

「はい」

 少那に呼ばれて前に出てきたのは…白髪の剣士だ。黒髪や茶髪が多いという箏では珍しいな…。年齢はジェイルと同じくらいかな?
 彼は跪き挨拶をした。


『飛白と申します。申し訳ございませんが、自分はグランツ語がまだ拙く…漢語で失礼致します。
 公子の剣術指南役を務めさせていただきます、どうかよろしくお願い致します』

『あ、ありがとう。膝を突かなくていいから、さあ立って顔上げて!』

『はい』

 彼はゆっくりと立ち上がる。ちゃんと見ると…顔の左側に大きな古傷がある。こめかみから口にかけて、結構大きい…。
 痛そうだな…とついじっと見てしまい、飛白は…さり気なく髪で隠した。

『あ…!ご、ごめん!』

『いえ…公子が謝罪される事ではございません。むしろお見苦しいものを…』

『いやいやそんな事無いって!これからよろしくね、師匠!!』

『し、師匠?』

 飛白、いや師匠は僕の発言に目を丸くした。ん?師範のほうがいいかな?

『あ、いえ…その、飛白とお呼びいただければ…』

『いやいや、教えてもらう立場だもん!ところで…少那、彼にはいつ見てもらえるの?』

 僕がここに通うだけでなく、可能ならうちに来てもらいたい。そうすればグラスも見てもらえるし!
 すると少那は、よかったら僕に付いてくれていいと言った。

「元々この宮の中では護衛はほとんど要らないし、外出するにしても8人全員は連れて行かないからね。騎士もいてくれるから。
 だから貴方が望むなら、私がこの国に滞在している間飛白と共にいてもらって構わないよ」

「そうなの!?じゃあ師匠、一緒に公爵家来てよ!」

「……えと…はい」

 よっしゃ刀の師匠ゲット!!早速身支度して来るようお願いすると、彼は戸惑いながらも部屋を出て行った。
 今まで本片手に振るってるだけだったからな~!これでミカさんを使い熟してみせるぞ!


 
 って僕1人でテンション上がっちゃってるけど…いいのか本当に!?念の為少那に確認せねば。

「ねえ…本当にいいの?もしかして本人嫌がってない?仲間と別行動させちゃって…」

「大丈夫だよ。剣士達に希望を聞いたら、彼が自分から名乗りを上げてくれたんだ」

 それは…誰も手を挙げなかったから、仕方なくとかでは…?にしても師匠、戻って来るの遅いなあ。
 

「あ。ねえエリゼ、古傷って治癒出来ないものなの?」

 もう晩餐会も終わりなので、皆帰り支度をしている。
 治癒で治るんならとっくに消えてるんだろうけど…一応専門家に聞いてみた。

「ああ。傷が塞がった時点でもう「治ってる」んだ。
 だから…そうだな。古傷の上からもう一度デカい怪我でもして…そこを治癒すれば綺麗に治るかもしれないが…」

 エリゼはそれ以上何も言わなかったが…うん。その方法はちょっと…ね。
 あれだけ大きな怪我だもの、すごく痛かっただろう。治すためとはいえ…もう一度怪我しろとは言えんな…。

「じゃあ虫歯は?あれ怪我じゃないよね?」

「いきなりなんだ?治癒は厳密に言うと、怪我と感染症に効くんだ。ただ感染症はかなり魔力を使うから、虫歯だったら普通に医者に見せたほうがいい」

 に、兄様…!今もルゥ姉様に甘えてんじゃないだろうな…!今度確認してみよう。


 友人達は皆帰ったのだが師匠はまだ来ない。どんだけ大荷物なんだ…と思ってたら来たわ。って荷物少な!!


『申し訳ございません、遅くなりました。少々…同僚と話を…』

『そういう事か~。じゃあ行こうか!』
 
 ルシアン達にまた明日学園で~と挨拶をし、僕らはタウンハウスへと帰る。先にオランジュ夫妻には手紙を送っておいたから、今頃師匠の部屋を用意してくれているはず。



『自分も同席を!?いえ、馬を…もしくは御者席で結構です!』

 彼は頑なに馬車に乗りたがらないので…ふん縛って乗せた。折角なんだからおしゃべりしようよ!!
 

『ところでグランツ語は拙いって、どのくらい?公爵家は漢語分かるの僕ともう1人しかいないからさ』

「…聞く、分かる。話す、苦手」

「つまり…話すのは難しくても、聞き取りは問題ないのね?」

 僕の言葉に彼は頷いた。まあ、それなら…なんとかなるっしょ!!


 馬車の中で改めて互いに自己紹介をした。ロッティも皆も温かく迎え入れてくれたぞ。
 そして僕はタウンハウスに着くや否や真っ先にグラスを呼んだ。


「グラスー!!念願の剣の師匠が来てくれたよ、これから一緒に頑張ろうね!」

「おお…!グラス・オリエントです。よろしくお願いします、師匠!」

「か、飛白、です」

 グラスも心待ちにしていたので歓迎してくれたぞ。明日僕らが学園から帰って来たら師匠の歓迎会をやるのだ!
 と言ったら本人は遠慮してたが、残念ながら君に拒否権は無い。レベッカとモニクにごちそう作ってもらおう!


 早速今からでも教えてもらいたいくらいだが…もう夜遅いのでな、明日にしよう。
 でもその前に、是非ミカさんを見てもらいたい。僕の部屋にグラスと師匠を招き入れ揃ってソファーに座り、ヨミにミカさんを取り出してもらった。


「見て見て!昔箏からグランツに贈られたっていう刀!
 名前は魅禍槌丸、僕を主に認めてくれたんだ。最終目標は、このミカさんを使い熟す事だよ」

「どれ…名前、ある………ん?」


 ?刀身に刻まれたミカさんの名前を見せたら…何故か師匠は固まってしまった。


『……主に認められたという事は、この刀には意思がある妖刀という事ですか?』

『…………自我を持ち不思議な能力がある刀を妖刀と呼ぶなら、魅禍槌丸は妖刀だね…』

『そう、ですか…』

 
 それきり師匠…飛白は顎に手を当てて考え込んでしまった。

 え、何…?怖いんですけど。
 もしかしてミカさん、箏じゃ有名なの?何百人もの血を吸った妖刀…とか、そういう恐ろしい何かなの…?

【そのような行いは記憶に無い】

 そっすか。じゃあ、飛白は何を難しい顔をしているの…?
 

 たっぷり10分ほど沈黙が続いた後…飛白はゆっくりと顔を上げた。そして僕をじぃっと見つめて…ふいっと顔を逸らした。


『な、何か…?』

『…………………』

 
 ……んん?なんか飛白、耳赤くない…?彼が何を考えているのか分からず、グラスと顔を見合わせた。
 
 だが続く飛白の言葉に…そのまま2人で凍りついてしまうのであった。



『もしかして……公子は女性…ですか?』


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