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学園1年生編
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しおりを挟む「ふう…この改造したベッド、やっぱ買い取りかな…。んもう、寮の備品なのに…!」
今日は午前中から、寮の荷造りだ。
まあ僕は私物がそんな多くも無いのですぐ終わる。
ただしこの大物を運び出さねば…ヘルクリス、自分でやってよ!
「ふむ。よかろう!」
よし。一度壊して窓から出しヘルクリスに運ばせて…このままタウンハウスの僕の部屋に持って行こうっと。向こうでドワーフ職人に直してもらえばよし。
今日はお父様も仕事をバティストに任せ、一緒に首都に来ているのだ。学園に挨拶とか色々あるからね。
そっちも終わったようで、僕達は寮監の先生に挨拶をし新しい家に向かう。どんな家だろう…。
「ここだ」
「「「おおお~!」」」
学園から歩いて10分程の場所にその家はあった。
一言で表すと、可愛い家!あれあれ、ドールハウスみたい!こういう家に住んでみたかったんだよ僕…!
「お待ちしておりました、旦那様、お嬢様方」
中から現れた老夫婦が管理人さん。なんとお婆さんは、陛下とお父様のお世話係をしていたらしい!
お爺さんはハンス、お婆さんはレベッカ。これからお世話になりまっす。
僕達も挨拶をすると、レベッカは目を細めてクスクス笑った。
「ふふ、あんなにも小さかった子が大きくなって。
普段は大人しいけど、たまに思いもよらぬ行動を取るお方でした。
愛しい人の為に何もかも捨て…今はこうして、可愛らしいお嬢様方と縁を結ぶとは」
「やめてくれレベッカ…頼むから子供の頃の話は…」
「いやもっと詳しく」
「出来ればその思いもよらぬ行動について…」
「やめろっつーの!!」
あぐ。お父様はレベッカに詰め寄る僕とロッティの頭を鷲掴みにする。
いいもんねだ、チャンスはいくらでもあらぁ!
ベッドを運んで…と。荷物の整理はレベッカがしてくれるらしい。
僕らは…連れて行きたい場所がある、と言うお父様について行く。バジルは留守番だ。
その場所とは香水店だった。まさか…。
「ああ。イェシカの実家だ」
ここが…お父様とお母様が出会った場所。
「そこの物陰から俺とバティストは、まず店の中を観察したんだ。
んで俺がイェシカの事を「可愛いんじゃないか?」って言ったら…俺の腕を引っ張って店に入っちまった。
当時は何すんだこの野郎!と思ったが…今は、すごく感謝している。あいつに言うなよ?」
と、お父様は笑った。
バティストが…数ヶ月前までお父様は、お母様の話をしたがらなかったと言っていた。彼女を連想させるような香水なんかは、徹底して避けていたって。
多分辛い事、悲しい事を思い出してしまうからだって。命日は特に苦しそうで、見ていられなかったと。
そんなに苦しんでいたのに…貴方は僕の事を気に掛けてくれていたんだね。
今は…穏やかな顔で語ってくれている。春になったら、一緒に墓参りに行ってくれないか?とすら。
お父様にどんな心境の変化があったかは知らないけれど。その変化が嬉しくて…僕とロッティはこっそりと笑い合った。
お母様の伯父夫妻に挨拶し、お父様が僕らに似合う香水を見繕ってくれと頼む。
ここは首都だから、知り合いと遭遇するかもしれない。なので僕は男装中だが、ちゃんと「この子は女の子だ」と紹介してくれた。
「訳あってこんな格好をしていますが、この2人は俺の娘です。イェシカの事も…母だと認めてくれました」
「はい!姉のシャルティエラ・ラウルスペードです!」
「妹のシャルロット・ラウルスペードです。こちら、見てもよろしいですか?」
「はい…もちろんです」
夫妻の目に涙がうっすら滲んでいるのを…僕達は気付かない振りをした。
僕とロッティと伯母様で、この瓶可愛いね!とか、これ良い匂い~、と盛り上がる。お父様はそんな僕らを、どんな顔して見ていたんだろうね?
最終的に伯母様がお勧めですよと言ってくれた物を購入し、お店を後にする。また来ます!と手を大きく振って。
帰り道、歩きながら香水の瓶を見つめる。
僕がこれを付けたら…パスカルは、なんて言ってくれるかな?
※※※
新学期が始まり、今日は始業式。
全生徒が集まる式の途中で…お父様が壇上に立った。退職の挨拶をする為にだ。
「あー…すでに聞いてる奴もいるかもしれんが。俺こと養護教諭のオーバン・ゲルシェは退職する。
4月には正式に次が赴任して来るが、それまでは他の先生方が医務室を見てくれるはずだ」
お父様の突然の話に生徒達が騒つく。
次か…そういえばルゥ姉様も3月で寿退職するんだよね。魔術教師もどんな人が来るのかなあ。
「で…今日公表される話だが。
俺はまあ皇弟だ。そんで今はラウルスペード公爵だ。そんでもってラサーニュ兄妹は俺の養子になった。
詳しくは親に聞け!以上!!」
「「「「ええええええええっっっ!!?」」」」
全く事情を知らなかった生徒達の絶叫など無視し、お父様はぴゅーっと壇上から去った。
当然周囲の視線は僕らに集まるが…曖昧に笑って誤魔化した。
すぐにラサーニュ伯爵の罪、僕らの現状が社交界に知れ渡るだろう。今後僕は公爵令息扱いされるのか…大変そう…。
生徒達の動揺はすぐには収まらなかった。騒然とする中で式が終わると同時に、多数の生徒が講堂を飛び出す。家に報告するんだろうなー。
僕達も、生徒に囲まれる前に逃げた。今日は式だけで終わりだし、向かった先はもちろん医務室!
「セレス!話には聞いていたが…本当に先生の養子になっていたんだな!ってか髪伸びたな?」
「お、一番乗りはエリゼか」
僕とロッティ、バジルは医務室で…友人達が来るのを待っていた。特に待ち合わせもしていないが、全員来るだろうと思ってね。
「エリゼ…少しお話し、いいかしら…?」
「え、何、ボクなんかした?というかずっと気になっていたんだが…シャルロット、なんで普通にバズーカ背負ってるんだ?」
「なんででもいいでしょう?ちょっとこっちへ」
ロッティは困惑するエリゼを医務室の奥に連れて行った。ああ…あの話か…。
2人の会話がボソボソ聞こえる。段々とその声は大きくなってきたぞ。
「…うわあああ!!だから、本当に事故だったんだってば!!悪気は無かった、そうだよなセレス!?」
やっぱりい。エリゼが赤い顔で逃げて来た。どうして僕の性別を知ったか、ですね!
「うん…だからやめてあげてね?」
「お姉様…分かってるわ。私は許すわ。ただし、バズーカが許すかしら?」
ロッティはバズーカをすちゃっと構えた。
エリゼはその様子に「誰がそのバズーカに魔力を溜めてやったと思ってる!」と…僕の背中に隠れながら叫ぶ。
暫く睨み合いをし…ロッティはようやく落ち着き、バズーカを下ろした。
「はあ…次やったら、ぶち抜くわよ」
「し、死ぬかと思った…!!」
そんなやり取りをしていたら、今度はパスカルが現れた。
「…!シャ、セレスタン!その、話が…!」
ただ僕は…まだ恥ずかしくて、彼の顔をまともに見れない…!
今度は僕がエリゼの背中に隠れる。ロッティはというと…僕があの件を嫌がっていなかったという事で、パスカルの行為は不問にしてくれた。僕の命の恩人でもあるしね。
そうでなかったら今頃、パスカルは廊下の先に吹っ飛んでいるだろう。
「エリゼエェ…やはり、お前え…!!」
「待て待て!なんだ一体、本当にボクが何をしたって言うんだ!!?」
あらら?エリゼがパスカルに引き摺られて行った。2人はそのまま医務室を出て行くが…なんでエリゼ…?
「やはりお前もライバルだったのか!!そういえばお前…以前シャーリィの裸見たよな…その程度でいい気になるなよぉ…!!羨ましすぎる!!!」
「やめろ思い出させるな!!まあ確かにいいモン見たとは思ってるが…ボクは婚約者一筋だって言ってんだろうが!!」
うーん?なんか小声で言い争ってる。パスカルがエリゼを揺さぶってるが…おっと、そこにジスランが現れた!!
「お前ら、何してるんだ…?」
「知らん!パスカルが暴走してんだよ!」
「ジスラン……」
「「?」」
?パスカルが…ジスランの肩をポンッと叩いた。その視線はとても優しいものだった…。
「今度…なんか奢るよ…」
「お、おう…?」
よく分からんが、争いは終わったようだ。
パスカルは医務室に戻って来て…こっちを向き「近いうちに、2人きりで話したい」と言われた…。彼はそのまま、椅子に座って落ち着く。
ロッティは「告白かしら…!?」と、少し興奮気味。っいや、告白!?ナイナイナイナイ!!!
「お、やはり全員揃っているな」
「セレスちゃん、ティーちゃん、バジル君!おめでとうございます!」
おお、ルシアンとルネちゃんが揃ってやって来た。
「話はルシアン様から聞きましたわ。先生ならきっとセレスちゃんとティーちゃんを守ってくださいます、今度遊びに行きますわ!!」
「うん!いつでも来てね、いっぱい話したい事があるから!」
ルネちゃんは僕とロッティの手を取って、笑顔でそう言ってくれた。本当に、色々話したい事があるんだ!
「…おいパスカル。お前的にルネ嬢はライバルじゃ…?」
「ふ?(ふむー。シャーリィは男が好きだって言ってたから…ルネ嬢とデュラン嬢は除外していいだろう。…ん?じゃあシャーリィの失恋相手って…結局誰なんだ…!?まさか……!!)」
「おい!!!今の会話の流れでなんでボクを睨み付ける!!?」
話が弾む女子3人の脇で、パスカルがエリゼの胸ぐらを掴んでいる。
ルシアンは呆れ顔で見守り、ジスランはバジルと盛り上がっている。
うーん、いつもの日常に戻って来たって感じ!これからも…このメンバーで沢山の思い出を作りたい…そう願う。
「うお…やっぱ全員いる…」
「あ、お父様!」
騒がしいところにお父様が現れた。お話も終わったようで、後は帰るだけだって。
…この医務室で先生の姿を見るのも、これで最後か…。お茶を淹れてくれたので、皆椅子やベッドに腰掛ける。
はあ…このマグカップも回収するかあ。新任がどんな人か知らないけど、ゲルシェ先生がいなきゃ意味無いもの。
「もう先生じゃないんだな。これからはどうお呼びすればいい?閣下か?」
「やめろ、ブラジリエ…。閣下は駄目だ、むず痒いから。それに今まで通りに話してくれて構わん」
「では義父上と呼ばせ」
「マクロンは公爵様と呼べ!!」
という微笑ましい?やり取りの後、皆はこれからも「先生」と呼ぶ事に決まった。
お父様が公爵になっても、変わらず皆と接してくれるから…僕は嬉しくて、つい口元が緩んでしまうよ。
「…ん?先生香水付けてるのか?」
「お前よく気付いたなー…」
いつもの放課後のように、僕達は雑談をしていた。
そんな時にお菓子を取ろうと席を立ったエリゼが、お父様の変化に気付く。
普段は付けないが、こういう出掛ける時だけ付けるようになったのだ。
すんすんと嗅いだ後、エリゼは…
「なんだ、加齢臭対策か?」
と言い放った。
次の瞬間、彼の足は宙を浮いているのであった…。
「いだだだだだだ!!!なんだ、ボクは何か間違えたか!?」
「あー、やっぱこの頭掴みやすいわー」
この日家に帰ったお父様は…自分のジャケットの匂いを嗅ぎながら、落ち込んでいるのであった。
「まだ臭くねーし…」
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