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学園1年生編

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「…って事が昨日あったんですよ…」

「あらあら、楽しそうじゃない」

 楽しくなーい!いやまあ、ゲーム自体は楽しかったが。いいもん見れたし…。


 そんな僕は今日、バルバストル先生と会っている。医務室で。



「あのう…俺、今日休みですが」

「奇遇ですね、私もです」

「偶然ですね、僕もです」

「日曜日だからな!」

 そんなに怒んないでよう、ゲルシェ先生。
 何故か待ち合わせを医務室に指定されたので、鍵を持っているゲルシェ先生も強制的に駆り出された。
 学園自体は休日も入れるんだよね。忘れ物取りに来る生徒とか、教室で勉強したい生徒とかいるから。

 そんなに言うなら、僕にも鍵ちょーだい。なーんて冗談…


「ほれ」

「へっ?」

 ほいっと投げ渡されたのは…可愛いマスコットが付いた鍵。まさか…

「…学園の備品は勝手にいじんなよ。先生の私物は好きに使え。
 これから…必要になるかもしれないしな。ただしサボり目的に使うなよ、卒業する時に返せ。
 ちなみに学長の許可は降りてる、気にせず持っとけ。という訳で、先生は帰る」


 ゲルシェ先生はそれだけ言って…出て行った。
 医務室の合鍵…いいの、かな?

「いいのよ。ちょっと準備に時間が掛かるからね、これからも着替えに使わせてもらいましょう」

 着替え…?あの、バルバストル先生。その手に持っている服は?カツラは?メイク道具は…なあに?

「ふふふ…腕が鳴るわね…!」

「ひ…ひいいぃ…!」

 きゃーーー!!お助けー!






「ふう…完成よ。どうかしら?」

「どうって…わお」

 僕は服をひん剥かれサラシも外され、代わりにあれこれ着せられてメイクまでされた…。
 そして先生に渡された鏡で自分の姿を見る…誰だこれ???

 金髪碧眼の少女が鏡の中にいる…カラコンも入れたもんね。メイクのおかげか、中々の美少女ではなかろうか?女は化粧で化けると言うが…ここまでとは。
 更にこの服…すごく可愛い…。水色のグラデーションが綺麗で、子供っぽくない程度にフリルが付いてる…。

「僕…こんな服憧れてたなあ…」

「……今日は、「僕」禁止よ。貴女は女の子なのだから。…その服は私からのプレゼント、喜んでもらえてよかったわ」

「え、いえそんな…申し訳ないですよ!」

「いいの!今日は私に付き合ってもらうんだから、そのお礼よ。
 さあ街に行くわよ!」

「え、えーーー!!?」


 抵抗虚しく…僕、じゃなくてわたしは引き摺られていくのであった。





 ※※※





「じゃあまず、あのお店行きましょうか。エレナ」

「はあい、クレールさん」

 今のわたしは、エレナ・デュランだ。エレナはなんとなく、デュランは先生の親戚の苗字らしい。
 今日のわたし達は、仲良しのおばと姪。敬語禁止を言い渡され、手を繋いだまま入ったお店は…雑貨屋さん?何買うのかな…。


「ん~~~…元々は赤髪だし…こっちかしら…」

 先生はブツブツ言いながら物色してるぞ。僕も…ちょっと見て回ろうっと!

 
 おお…この手鏡可愛いなあ。でもこんなのわたしの部屋にあったら変だよね…誰かに見つかったら面倒だな…。
 そんな風に、いいなと思っても買えない。…いいもん、いつか…自由になったら、好きな物に囲まれて暮らすんだから!!

 暫く店内を見て回ったが…先生はどこだろう?って大荷物!!何そんな買ったの!?

「まあ気にしないで。でも邪魔だから、とりあえず医務室に送ってしまいましょう」

 お店の中は魔術が使えないよう結界があるので、店外で転移を使った。
 でも、なんで医務室?最初から先生の部屋に送ればいいのに。だが先生は「いいからいいから」としか答えてくれない。
 にしても先生は、魔法陣無しで魔術使えるんだな…。



 熟練の魔術師になると、魔法陣を思い浮かべるだけで魔術を行使出来るようになるのだ。
 エリゼも今はまだ無理だけど…もう少しだ!と息巻いていた。僕は全然だな~。



 次に向かったのは服屋さん。貴族はオーダーメイドの服を着ることが多いが、既製品だって買うとも。

 お…あのスカート可愛い…あのコート素敵。そっか、そろそろ冬か…。
 あのブーツいいなあ。こっちの服と合いそう。でも…わたしには、不必要な物だ…。

 しょぼんとしながら店内を回る。先生はここでも大荷物だ…どんだけ買うの?そしてわたしが付き合う必要とは。





 そうしてお洒落なカフェで遅めのランチ。お腹空いたあ。
 先生の奢りだと言うので…遠慮しつつも注文した。そして食後のコーヒーを飲んでまったりしていた頃…。


「エレナ、今日は…楽しかった?」

「…うん、楽しかった!いつもじゃ見れない物ばっかりで…」

 やっぱり男の姿だと、可愛い雑貨屋さんとか入りにくいんだよね。
 入ったとしてもジロジロ見られるし…だから今日は、本当に楽しかった。


「そう、良かった……あのね」

「うん?」

「私…入学した時から貴女の事を見ていたわ」

 まあ、担任ですから。とは口を出さず、先生の言葉を待つ。


「最初貴女は、シャルロットさんとリオ君、ブラジリエ君以外誰とも関わろうとしなかったわよね。
 顔も隠して…まるで何かに怯えているみたいだと思ってた。今にして思えば…女の子だって、隠したかったのかしら?」

 先生は後半は小声で言った。そんなに潜めなくても、周囲は雑談する人ばっかりだから大丈夫だよ。

「うん…あの時のわたしは、父親の言い付けを守る事に必死だった。
 僕は男だ、と思い込もうとした。良い成績を取らなきゃ、でも騒がず目立たず…静かに生きようとした」

「でも、もうやめたのよね。……なんで?」

「うーん…絶対に、誰にも言わない?」

「ええ、誓うわ」



 なんだか先生が本当にわたしの事を案じてくれているのが伝わってくるので…色々話した。多分、大人のお姉さんってのも話しやすい理由かも。


 もう父親、伯爵の言い付けを守るのはやめた。それでも今はまだ男のままでいるけど…いずれ、全部捨てて…自由になりたいと。


「詳しくは話せないけど…いずれ、わたしが後を継がなくてもよくなる。
 そうなったらわたしは…セレスタン・ラサーニュを捨てる。
 新しい名前、戸籍を得て…行きたい場所に行き、食べたい物を食べて、好きな物に囲まれて暮らすの。

 わたしに貴族の暮らしは窮屈過ぎる。いずれ平民になるのも悪くないなあ…って思ってるの。
 ロッティとバジルはね、応援してくれている。だから爵位返還して、3人でどっか逃げちゃおっかとか…言ってたんだ…」


 わたしの話を、先生は微笑みながら静かに聞いてくれた。


「返還は大袈裟にしても、わたしはいずれ家を出る。
 その後は…どこに行こうか、考え中なんだ。ロッティ達は僕と一緒にいてくれるって言うけど、やっぱり苦労は掛けたくないし…。
 箏に行くのもいいかなあ…って考えてるけど。あんまり遠くに行っちゃうと、友達に会えなくなっちゃう…。
 教会で院長になるかー、とか。ブラジリエ領かラブレー領に部屋借りようかな?とか。精霊達皆と森でサバイバルするか!なんて。
 他にはルネちゃんのメイドにしてもらうか…それに…」

「それに?」

「……騎士になるのも、良いなあって思ってる…。
 でもその場合、今の身分が必要なんだよねえ。平民が騎士にはなれないし。
 なるとしたら…何処かの家に養子にしてもらうしか」

「そっか…ありがとう、話してくれて」

 ううん。でも、なんで急にそんな話を?
 先生はコーヒーを飲んで、僕の目を真っ直ぐ見た。



「ね、エレナ今…恋、してる?」

「こっこい!?」

 わたしは声が裏返り、思ったよりも大声になってしまった。周囲の視線が一瞬わたしに集まるが…すぐにそれぞれの話題に集中する。



「…こほん。なんで急に恋…!?」

「ん~?ふふ…実は私ね、恋愛小説大好きなのよ~!」

「へ?」

 なんと思いもよらぬ返答が。先生はそういう趣味があったらしい。


「私、この年まで独り身じゃない?もう貴族の中じゃ行き遅れもいいとこじゃない?うちってしがない男爵家だし、政略結婚すらなかったのよねー。
 私自身に魅力でもあれば別だったけど…昔っから魔術とか勉強ばっかりでねー。よく可愛げがないって言われたわ。
 だからねー、物語の中にそういうの求めちゃうのよ。私だけの王子様ってやつ?現実にはいないイイオトコばっかりじゃない!」

 先生は笑顔でそう語る。なるほど…一理ある。

「…とまあ、おふざけはこの辺にして。
 貴女の周囲…素敵な男の子いっぱいいるじゃない?誰か1人くらい、「イイかも」って子いないの?」

 おおう。先生がテーブルから身を乗り出してくるう。そんな事言われてもー…。


「いいじゃない!自分に縁がないと、他人のそういう話に食い付きたくなるのよ。
 でも他にこんな話出来る相手もいないもの。友達はみーんな既婚者だし。
 どうどう?せめて好きなタイプとかは?」

 先生、恋バナしたかったんか。
 確かにわたしの友人達は皆、物語に出てきそうな優秀な美形ばかりだけど。実際漫画の登場人物な訳だし。
 うーん…一応、人の意見も聞いておこう…。
 わたしは少し声のトーンを落とし…今まで誰にも話した事のない秘密を暴露した。



「実はわたし…小さい頃から最近までずっと、ジスランの事が好きでした…!」

「まあ~~~!!」

「しーっ!!」


 がた…


「ん?」

 今何か物音が…気のせいか?

「詳しく教えてちょうだい!」

「もう…。
 えっと、まず…わたしが初めてジスランに会ったのは7歳の時。最初は別にどうとも思ってなかったけど…あれ?」

「どうしたの?」

 いや…そういやわたし、なんでジスランの事好きだったんだっけ。
 身近な男の子だったら、バジルのほうに惹かれると思うんだけど…特に彼を意識した事はないな。
 ジスランは確かに優しかった。貴族らしく、紳士的でもあった。
 でもそれ以上に…厳しかった。何度も泣かされたもん。
 ただ同時期から…ジスランはロッティに贈り物をするようになった。花とか…それを貰えるロッティが羨ましくて…って…まさか…!

「………ごめん、どうして好きだったのか…分かんない。いや、分かったのか?」

「どっちよ?」


 うーん…つまり…。



「確かにわたしはジスランが好きだった。もしも彼に告白でもされたら、喜んで受けた。彼が微笑んでくれたらその日は1日ハッピーだったし、手が触れ合っただけでドキドキした。
 でも…んー…ねえクレールさん。恋ってそういうもん?特に理由も無く…好きになっちゃう?」

「……よりけり…かしら?何か、決定的な出来事とか無かったの?野良犬から助けてくれたとか」

「いや全然。むしろ彼、わたしが本格的に剣の修行を始めた頃から…彼には散々痛くされたし泣かされた。
 何度も骨を折られたし寝込んだし、何度も嫌いになった。あれ、なんで好きだったんだ…?」


 あかん、本当に分からん。わたしが将来の目標として騎士を視野に入れる程成長したのは、間違いなく彼のお陰だが。
 それは今だから言える事。当時は本当に…苦しくて夜な夜な泣いた。という事は。

「もしかしたらわたし…。
 わたしは男の子から花なんて貰えない。綺麗なドレスを着て「可愛い」なんて言ってもらえない。それを当然のように与えられるロッティが、羨ましかった…の。
 だからこそジスランの事が…大好きで、大嫌いだった。ロッティに優しくしている姿を見ると、心が痛かった。
 もしもロッティという存在がいなかったら…わたしにとってジスランは、やたら厳しいだけのクソ野郎だった」


 つまり。


「貴女は…シャルロットさんに貢ぐブラジリエ君を好きになった。という事?」

「そゆこと」

 です!………なんじゃそら!!!
 はは…笑うしかないね!………グッバイ初恋、永遠に。


「何よそれ…まあいいわ、女の子にそんな酷いことする男なんて忘れなさい!」

「いや一応向こうは、わたしの事男だと思ってるから…あまり悪く言わないであげて」

「優しいのねえ、貴女は。まあ確かに…彼も被害者、よね」

 うん…そうだね。もしも初めて会った時。あの時からわたしが…女の子だったら。今頃どうなっていたんだろう。もしかして、ロッティと2人でジスランを取り合ったり…する未来が見えん。
 うーん、なんかもうジスランは、ロッティの尻に敷かれてればいいと思うよ。
 そんでさっきの先生の質問に戻る訳ですが。

「やっぱ今のわたしが恋する相手なら、わたしの事知ってる人に限るじゃない?となると、エリゼ・ルシアン・ルクトル殿下(多分)・ゲルシェ先生になるんだけど。あとはまあ、教会の子?」


 がたた…


 ん?……まあいいか。



「知らない人じゃダメなの?」

「駄目じゃないけど…を好きになってくれるって事は、その人の恋愛対象は男性って事になるじゃない?そうなると、いずれ苦しくなるし…」

「難しいわねえ…」


 うーん…。
 結果。今のわたしに恋とか無理だね!!!

 という訳で、先生の話を聞かせてもらおうか?ん?


「な、なんで私…?ほら私、独り身よ?そんな話なんて…」

「逃げられるとお思いで?人には根掘り葉掘り聞いておいて…クレールさんだって、何かあるんでしょう?わたしに…聞いて欲しい話があるんじゃない?」

「く…っ!…………ぜっっったいに、誰にも言っちゃダメよ…!?」


 うお…適当言っただけなのに当たった…。わたしのカンすごい!
 で、で?お相手はどなた???


「……実は…生徒なのよ…」

「…………なっ」

「しーーーっ!!!」

 あぶな、なんですとーーー!!!?と叫ぶとこだった。先生が手を伸ばしてきて口を塞いでくれたので助かった。
 って、生徒に手ぇ出しちゃった!?

「そんな事するもんですか!!
 ……向こうから、すっごいアタックしてくるのよ!もうどうしたらいいのか分かんないのよ…!!」

 先生は顔を赤らめ、両肘をテーブルに突き手で頬を覆う。ちょっとちょっと、わたしよりいいネタ持ってるじゃん!!

「詳しく!」

「……まず、私はこれでも…以前は生徒から言い寄られる事も多かったのよ。
 でもそれは就任直後…20歳ちょいくらいの頃の話。でもそういうのって大体、在学中のお遊びの相手としてなのよね。
 婚約者はいるけど、結婚前に遊んでおきたい的な。あとは…単に、年上のお姉さんに憧れてるだけだったり。
 その証拠に…卒業してから私に連絡を寄越す子はいなかったわ…」

 おおう…リアル…。


「でね…ここ数年は、生徒からそんな風に言われる事も無くなった訳よ。
 むしろ親父教師から、「いやあ、バルバストル先生はまだお若いのだから、頑張りなさいよ」とか「どうです?こんなオジさんとか。はっは!」っていうセクハラまがいの言葉ばっかり。
 だったのに…去年から…とある生徒が、ね…「先生の事が好きです」って言ってくるようになって…」

 ひゃー!!歳の差…いいじゃん!!

「良くないわよ!相手は17歳、こっちは28歳よ!?男女が逆だったら問題ないけど…!」

「確かに…」

 でも17歳って事は、5年生か。すごいなあ…情熱的だなあ…。
 先生の心配も理解できるけどね。もしわたしが11歳年下から言い寄られたら…いや、それだと相手2歳前後だわ。


「いつものお遊びなのか、本気なのか…分からなくなっちゃって。あの子の時間を奪いたく無いから…ずっと断ってるんだけどね。
 一度宝石を贈られたけど…それも受け取らなかった。あんな高価な物貰えないし…そう言ったら、今度はお菓子とか気軽なものをくれるようになって。

 それで…つい最近。
「卒業したら、先生にプロポーズをします。もしも年齢以外で断る理由が無ければ…どうか受けてくれませんか?
 貴女が他に、俺を拒む理由があるのならば教えてください。無ければ…俺は、何度でも貴女を求めます。何度でも、何年でも」
 ………って…言われちゃった…」

「フウーーーーー!!!」

「声大きいわよ!!」


 きゃーーーーー!!!情熱的ぃ、わたしも言われてみたーい!!!わたしは周囲の人々など気にせずテンションMAXである。後ろで咳き込む声が聞こえたが…気にしない!
 お相手はどんなロマンチストかしら!?いいじゃん先生、「はい、喜んで…」とか言っちゃいなよぉ!!


「だーかーらー!!信じたいけど、拗らせてんのよこっちは!!!
 そもそも本当にプロポーズされるかも分からない。されたとしても…簡単には信じらんないのよ。
 何年も待つって言葉を信じたとして。実際何年も待たせたらいつの間にか若い子に目移りするんじゃないかって…」

 拗らせすぎ。心配なら、プロポーズされたらとっとと結婚すればいいのに…。大人って大変ね。


「で、お相手は?」

「!えっと…その…。ごめん、それはまた今度…!」

 えー!?もう、しょうがないなあ…面白い話を聞けたので、今日は良しとしよう!

 随分長居してしまったので、わたし達はカフェを出る事に。
 今日は…すごく、楽しかった。買い物もだけど、まさか先生と恋バナする事になるとは思わなかったよ!実はルシアンからも街に行かないかって誘われてたけど、先約があったから断ったのだ。

 いつか…ロッティとも、こんな風におしゃべりしたいなあ…。街で買い物して、カフェで盛り上がって…ジスランとバジルが荷物持ちで。…そんな未来が、来るといいな。





 ※





「…………行ったか?」

「行ったな……やっぱりあれ、セレス、だよな…?」

「あの声は、間違いなく…」


 実はセレスタンの座る後ろの席。エリゼとルシアンがいたのである。
 本当に、偶然に。2人で休憩していたら…彼女達がやって来たのである。

 彼らはバルバストルにはすぐ気付いたのだが、同行者の少女が誰なのか全く分からなかった。
 だが会話の内容や…その声、話し方からセレスタンだと思い至った。
 しかも恋バナを始めてしまったもんだから…聞いている事がバレたらマズい!!と思い、エリゼは連行される犯人のように上着を頭から被り。ルシアンは座席のソファーに横になり、寝たふりをしていた。



 そして彼女らが店を出て、やっと自由になったのである。
 その後は2人共誰に遠慮する事もなく、言い合いを始める。


「危なかったじゃないか!何度も音を立てて!!」

「それを言うならルシアンも!!最後咳き込んでたじゃないか、危ないなあ!!」

「仕方ないだろう!!(年上の女性に、卒業後プロポーズって…。しかも学園生で現在5年生、1人しか心当たりがない…)」



 席を立つとバレてしまうので結果的に彼らは、セレスタン達の会話を全て聞いていた。


「ったく!……セレスが最近失恋した相手って、ジスランだったのか…」

「そのようだな…。どうするエリゼ?セレスのお相手候補に挙がっていたが」

「お互い様だろうが。ルシアンは一度求婚もしてるじゃないか」

「私はマクロンを応援すると決めたからな」


 2人は圏外に追いやられたジスランを哀れに思うと同時に、今のままではパスカルは告白してもフラれるな…と考えている。
 それに…セレスタンがいずれ家を出るつもりだと、初めて知った。


「まあ……もしもラブレー領うちに来るようなら、歓迎するさ」

「ああ、そうしてやってくれ」



 彼らはそれ以上語る事もなく…静かに、退店したのであった。



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