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学園1年生編
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しおりを挟む「お兄様、おはよう!…あら、髪切った?それに眼鏡は?」
「おはよ、ロッティ。うん、邪魔だから…取っちゃった」
2日ぶりにロッティと女子寮の前で顔を合わせる。
以前は僕も毎週末家に帰っていたが…今は、もう帰ってないし帰って来いとも言われない。
それでも教会には顔を出していたんだが、今週は無理だった…。でも僕がいなくても大丈夫そうだし、たまに行けばいいかな。
「グラスが坊っちゃんの事を気にしていましたよ。「なんで来ない」って」
グラスが?なんでまた。彼は自称15歳で、僕より年上だと思うんだけど、甘えん坊さんか?まあ、今週は顔出そう。
そして僕…邪魔な前髪を切った。どうせここ数日はずっと顔晒してたし、なんかもう吹っ切れた。
眼鏡も無いから今の僕を隠す物は何も無いが、どうでもよくなっちゃった。
「ふうん…でも私は嬉しいわ!お兄様の可愛いお顔をいつでも見られるんだから!」
ロッティはそう言って僕に抱きついてきた。こらこら、兄妹とはいえ異性間であんまこういうスキンシップは駄目だよ。
と、いつもの僕なら言うだろう。でも…今は、この温もりを感じていたい。そのまま腕を組んで、教室に向かった。
友人達と挨拶を交わし、クラスメイトからは「髪切った?」「そのほうがいいね」など声をかけてもらった。
もっと早くこうすれば良かったかな。視界がスッキリしたと同時に、視野も広がったのかもしれない。
そこにルネちゃんも現れて…そうだ!
「ルネちゃん、今日のお昼、売店で何か買って医務室に来てくれない?ちょっと話が…」
「もちろん良いですけど…先生と、3人でよろしくて?」
「いや実は、エリゼも…」
「……セレスちゃん、まさか」
「はい…バレました…」
流石ルネちゃん、察しが良い。彼女は右手で自分の顔を覆って天を仰いだが…「後でじっくり聞きますわよ!」と言った。
そしてそのエリゼ。こっそり教室に入ってきて…ジスランが「おはよう」と声を掛けたら、びくーん!!と肩を跳ねさせた。
そしてこっちに顔も向けず、「はよ…」と蚊の鳴くような声を出した後真っ直ぐ自分の席に座った。
いつもならチャイムが鳴るまで僕達の席の近くで集合してるもんだから、僕以外のメンバーは「なんだアイツ?」な雰囲気だ。
まあ、普通の顔してこっちに来られても困るが。…うう、昨日の出来事を思い出し顔に熱が集中する。いかん、落ち着け…!!
「…おはよう」
「……おはようございます、殿下」
落ち着いたわ。
ルシアン殿下が挨拶してきた。そしてそのまま席に着いたが…彼はあの後、何を思ったのだろう。
「あ……今日から殿下に関わるのはやめたから…また一緒にお昼食べようね」
「え?ええ…何か、あった?」
「ううん」
何も無かったよ。
僕は初めて、ロッティに嘘をついた。
いや、違うか。生まれてから今までずっと、嘘を重ねて来たんだ。……いつか、全ての罪を告白しよう。
「何もなかったな」
「ああ、いつも通りだった」
ジスランもパスカルも、僕に合わせてくれた。ありがと…。
「…お兄様がそう言うのなら、そうなんでしょうね。わかったわ!」
ロッティは全て見透かした上で、何も聞かないでいてくれている気がする。ごめんね。
「でも今日だけ私とセレスちゃんとエリゼ様はお昼を別にさせて頂きますわ」
「そうなの?仕方ないわね…」
そんな風にエリゼ以外のメンバーで雑談をしていたら…。
「………セレスタン」
「へ。…うわ!?」
誰かに名前を呼ばれ振り向くと…ランドール先輩がいた。
教室のドアが開いていて、そのドアから顔も体も半分だけ覗かせている。
彼は女子生徒から多大な人気を得ているので、うちのクラスの令嬢達は歓声をあげた。いいんですか、あんな不審者でも?
しかし何事?あ…もしかして、ルキウス殿下から伝言でも…?
先輩は右目だけで教室を見渡し…僕に向かって声を掛けた。
「何か、困っていることは無いか?」
今の貴方の行動に困っています。
「い、いえ特には…」
「そうか……誰かに、いじめられたりしてないか?」
「大丈夫です…」
なんなんだ一体???
「……勉強、見てやろうか。俺はあの2人と違って教えるの得意だぞ」
「じゃ、じゃあお願いしようかな…?」
そう返事したら、満足気に頷いた。なんなん??
あの2人って、殿下2人?でもルクトル殿下は優しく教えてくれそうだけど。
「それと、今日の放課後空いてるか?」
「はい」
「よし。一緒に、街に行かないか?」
「は、はい」
「じゃあ私も…むぐ!?(ちょっと!!何するのよジスラン!?)」
「(ロッティ、今回は引いてくれ!!)」
「エビ以外、好きな物はなんだ?」
「えー…と…。アイス、とか…?」
「…パフェは?」
「大きすぎると食べきれないですが…好きです」
「わかった。じゃあ放課後迎えに来る」
???言いたい事だけ言ったのか、ランドール先輩は去った。
え、な、なん、なに???僕は当事者のはずなのに、まるで状況が読めないんですが?教室全体がなんだったんだ今の?って空気だし。
ただしロッティを押さえているジスランと、パスカルはなんか訳知り顔だ。
………?????
※
「…よし。『頼れるお兄ちゃん特集!』に載っていた、『怖い人から守ってくれる。頭が良い。イケメン!』はクリアしたぞ。…してるよな?
ふふふ…この調子だ…!」
ランドールは自分の教室に戻った後、とある雑誌を開いていた。
彼はイケメンとか格好良いという言葉より、美しい・麗しいという言葉が似合う美形である。
タイプの違う美形であるルキウス・ルクトルと並ぶ姿は、女生徒からアイドルのように扱われ拝まれている。
今も椅子に座り微笑みながら読書をしている、というだけで絵になるもんで、クラスメイトは遠巻きに見ている。
「(ああ…何を読んでらっしゃるのかしら?)」
「(今日も麗しいわ…あの本になりたい…)」
「(どうせいつものくだらん本だろうな…)」
「(この前は『世界の珍ドッキリ百連発』とかいうの読んでたな。
そんで皇太子殿下に仕掛けてこっぴどく叱られたとか…)」
まあ男子生徒はほぼ、彼の本性を知っているのだが。
後ろの席のルキウスが、やや身を乗り出して何を読んでるのか覗き込んでみた。
「(えーと…?『理想のお兄ちゃんみたいな年上彼氏が欲しい♡~頼れるお兄ちゃん特集!~』……?
何読んでるんだコイツ、誰か…年下の意中の相手でもいるのか…?ってそんな訳ないか…)」
それは、平民の女の子の間で流行っている雑誌だった。以下抜粋。
『この前町で変な男達に絡まれた時、前に立って守ってくれたの格好良かった~!(16歳)』
『ガッコのベンキョーでわかんないトコあったんだけどー、むっちゃてーねーに教えてくれたんマジヤベー(15歳)』
『とにかくイケメン顔が良ければ全て良し!!(12歳)』
『高いお店で、サラッと会計済ませてくれて惚れた。やっぱ年上だわ(16歳)』
『買い物しすぎて大荷物になっちゃったんだけどぉ、重たいの持ってくれた!もちろん全部オゴリ♡でも次の日フラれた(18歳)』
『チビは嫌。せめて自分より10センチは高くないと、並んだ時ダサい(9歳)』
『あの、11歳下の男の子から告白された場合どうすればいいんですか!?(28歳)』
「ふむ。後は…『奢ってくれる。重い荷物を持ってくれる。背が高い』か。背は…平均以上はあるな、うん。
……ん?なんだルキウス、覗きか?このむっつり変態皇子め」
「誰がっっっ!!!…っごほっ…。
お前、こんな教室でやめんか…!」
「ちゃんと小声にしているだろうが。誰にも聞こえちゃいないさ、問題ない」
「ったく…!…ところでそれ、どうしたんだ?」
ルキウスは、ランドールが胸に抱えて隠した雑誌を指差した。
「む?いや、セレスタンの頼れる格好いいお兄ちゃんになろうと思ってな。
だが俺は一人っ子だし、どうしたもんかとルクトルに相談したらコレをくれた。読みたいのか?」
「いや、私はいい…(何を考えてるんだ弟よ…?)」
「そういう訳で俺は、今日は生徒会休むぞ。早速街に繰り出すのでな」
「好きにしろ…」
ランドールは本当は昼も一緒に食べたいと思っているのだが、セレスタンにも友人達との時間が必要だろうと考えやめた。
しつこい男、束縛する男は嫌われると雑誌に書いてあったから。
『やっぱり互いにプライベートな時間は必要。交友関係とかにまで口出されたら腹立つ(25歳)』
当然それは恋人の条件として書かれているのだが…。
ランドールは、完全に方向性を間違えていたのだった。
※※※
「なあ、前も思ったが…なんか医務室、豪華になってないか?なんだこのテーブル、なんで医務室に飲食スペースがあるんだ??
それとこの扉。生徒会室の物と同じじゃ?」
色々あったんだよ、そりゃもう色々…。
医務室に集まり、先生も含めて秘密のお話をするのだ。もちろんベッドの下まで、誰もいないのは確認済みさ。
「で、今日はなんの用だ?……ラブレーに秘密がバレた、との事だが…」
「その通りです…」
「……むしろ、先生は何故知っていたんだ?」
「ヴィヴィエ嬢に聞いてみろ」
「おほほ…偶然ですわ」
言ってくれるわい。
それぞれ持参した軽食でランチを済ませ、早速本題に入る。
ルネちゃんと僕がベッドに並んで座り、先生は自分の椅子。エリゼはダイニングセットの椅子に腰掛けている。
「……理由は省くが、まあその…うん。アレだ。セレスが本当は女だって事、秘密にすればいいんだろう?」
「うん…お願いね」
話が早くて助かります。
その後彼にも、僕の男装の経緯を説明した。そして渋い顔をした後…「やっぱ暗殺か…」と呟いた。…誰を?
「まあ、概ね予想通りだな…。
お前が現状維持を望むなら、ボクも付き合おう」
「…ありがとう」
なんとも予想外の出来事だったが、結果的に信頼出来る仲間が増えた。
僕とルネちゃんとエリゼと、時々先生も口を挟みながら会議をする。やっぱ男子の協力者は心強いね!
今後は男女で授業が分かれることも増えてくるから、そういう時エリゼが頼りになる。
4年生になると剣術の授業で合宿とかあるし。寝る時とかお風呂とか…………うん。
「で?エリゼ様はどうしてセレスちゃんが女の子だと気付きましたの?」
「蒸し返すな!!!」
「いいえ、大事なことですわ。同様に他の方にも露見する恐れがありますのよ?」
「そう、だが…!!それはあり得ないから、安心しろっ!!」
うん、あり得ないで欲しい…そんなん誰でも彼でも相手に全裸を晒して回ったら、僕は完全に痴女ですから。
なおも食い下がるルネちゃんを躱すため、強引に話題を変えた。
「あー、あー!ルネちゃんに報告しなきゃいけなかったんだ!
あのね…朝も軽く言ったけど、僕達ルシアン殿下とはもう関われ…関わらないから」
「……何があったのか、私にも話してくださらないの?」
う…ルネちゃんは当事者だし…。そんな眉をハの字にして上目遣いで言われると…!
でもあの道場での出来事は知られたくない…どうしよ。
「殿下とセレスが衝突した。ボクは完全にセレスの味方だし、ルキウス殿下達は中立だ。
今後ルシアン殿下がどう出るか…それにより変わる。それだけだ」
エリゼ…。彼は「これでいいだろ?」と言わんばかりのドヤ顔だ。それが腹立たしくもあり、頼もしくもある。
ルネちゃんもその説明で納得してくれたし…したんかい。
「分かりましたわ。きっと、それで良いのでしょう。
で、どうしてセレスちゃんが女の子だと…あ!!?」
ルネちゃんが言い切る前に、エリゼは部屋を飛び出した。「お待ちなさいませっっ!!」とか言いながら彼女も後を追い、先生は「廊下走んな!!!」と叫んだ。
「ったく……で、実際どうしてバレた?」
「………部屋で……シャワー浴びてたら……見られた」
「………は?」
先生は2人きりになるや否や聞いてきた。やっぱ気になるようだ、僕は素直に答えた。ちょっとルネちゃんには恥ずかしくて言えないから…。
ただ「参っちゃうよね~」くらいのノリで答えたんだが……先生、怒ってます……?
彼は無表情で机に頬杖をつき、足を組んで僕を見下ろしている。雰囲気怖いよ…?
「怒ってないが?それとまさかと思うが、ラブレーは覗きでもしたのか?」
「違うよ!不可抗力で…彼は悪気は一切無かったし、僕を心配して行動した結果だし…」
おかしい。何故見られた側である僕がこんな言い訳じみたことをしているんだ?
ただしエリゼの名誉の為にも、ちゃんと説明しなきゃ!
そう思い一部始終を話した。僕が2日間音信不通だった為、心配した彼が転移で様子を見に来てくれたのだと!それが運悪くシャワー中だっただけだと!!
「……見られただけか?何もされてないか?」
「んー…特には。彼もすぐに出てったし…(押し倒された事は黙っておこう…)」
「そうか」
ほっ…。どうやら先生は納得してくれたようだ。
と思いきや、おもむろに立ち上がり僕の前に立った。僕が座ってるせいもあるが…威圧感半端ない。
「先生…どうしたの…?…うあ!?」
そして先生が僕の左側に右膝をつき…ギシッとベッドが揺れる。
急に距離が近くなったもんで、僕は慌てて身体を後ろに逸らしたのだが、逃げる事は許されなかった。
「先生、前に言ったよな?寮は男ばかりだし、お前は女の子なんだから危機感を持ちなさいと」
「ち、近いよ、先生…!それに寮はセキュリティ万全だから、大丈夫だって言ってたじゃん…!」
僕の背中には先生の腕が回され、右の手首を掴まれて身動きが取れない。
先生は僕に覆い被さる形になり、顔は息がかかりそうな程近い…!!何この状況!!?
「何事にも例外はある。寮内で大掛かりな魔術は使用禁止だが、今回は寮監の先生の許可の下行っただろう?
それだってお前が、前もってラブレー達に返事をしておけば防げた事態だ。今からシャワー浴びるからちょっと待ってて、とでもな。
つまり、お前の不手際だ。そうだろ?」
「そ…です…はい…」
先生が怖い…!ななななんでそんな怒ってるの!?相変わらずの無表情で目を合わせる。
なんかもう、今にもキスされるんじゃないかってくらい顔近いよ!!?
怖くて身体が震える…!!
「今回はラブレーだったから良かったが…相手がもしブラジリエとかだったらどうするつもりだったんだ?
あいつにこうやって押さえ込まれたら、逃げられるのか?出来るんなら、やってみろ」
「うぅ……!」
先生は完全に僕の膝の上に乗っているから足が動かせない!右手は使えないし、左手で胸を押してもびくともしない…!
「ちょ、先生…!冗談やめて、まって…」
「冗談?何がだ」
何って…!この体勢だよ!!力が入らない、怖いけど…それ以上にドキドキする…!!
心臓の音がどんどん大きくなる、この距離じゃ先生に聞かれちゃうよう…!鎮まれ、いっそ止まれ!!!
「もし……」
「………!!!」
先生の顔が更に近付き、僕は怖くてぎゅっと目を閉じた。
「もしも今回と同じことが起これば…俺は学長に報告するからな。
そしてお前は女子寮に引っ越しだ。分かったな?」
僕の耳元でそう囁き…ゆっくりと離れて行った。
「返事は?」
「……………はい……」
あの……耳に唇が触れたのですが…。
僕は自分の耳を手で押さえ、先生が離れた後も動けずにいた。
当の先生は、何事もなかったかのようにいつも通り机に向かい…。
「その赤い顔が治ったら、とっとと出ていくんだな」
とこっちを見ずに言った。
いや…ここにいたら治らんので…もう出て行きます…。
「失礼しましたー…」と声を掛け、僕はゆっくり医務室から出た。
そして扉に背中を預けてそのままずるずるとへたり込み……
チャイムが鳴るまで、僕は立ち上がれなかったのであった。
「………やり過ぎたか。でもまあ、これでいい加減危機感持つだろ」
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◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
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