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学園
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しおりを挟む「お、お?どしたん?こらこら、甘えん坊め~。」
あちゃー…これは…。
ラリー…完全に、惚れたな…。
アシュリィ様は軽~く、冗談で済ませるつもりか、ラリーの肩をポンポン叩く。それで彼は正気に戻って、勢いよく後退った。
「…あっ!す、すみません!」
「いいよ、でも次は気を付けてね?私達は男女なんだし…とっても強くて可愛い公子様が、嫉妬で泣いちゃうからね!」
そしてアシュリィ様は全く気付いていない。ラリーは彼女の言葉にシュンとして、翼がへにゃりと垂れた。
パリスとララは慈愛の目でラリーを見つめている。多分俺も…。アシュリィ様にプレゼントをしたい、と相談を受けた俺達は色々と話し合った。
アシュリィ様は『何を』貰ったかより、『誰に』貰ったというのを重視する。高価な物より、ラリーが贈るなら手紙1通だけでも喜ぶと、俺達は確信していた(高い物買ったら逆に、お金使いすぎ!って心配されると思う)。
それで考えた末…アクセサリーを作る、と。そのほうが安く済むし、ラリーの黒く輝く綺麗な羽根を活用できるから。
長さ20cmはありそうな羽根を2つ使い、初心者向けのアクセサリーキットに組み込んで…。
時間が足りなかったので、俺達が夕飯で時間を稼ぎ。やっとラッピングまで終えたところだったんだ。
アシュリィ様は予想通り大喜び、ラリーの手を取って可愛らしい笑顔でお礼を言う。その顔は…ちょっと、反則だと思う…。アシュレイ様やラリーでなくとも、見惚れちまう…。
早速付ける!という事で、パリスが軽くヘアセットをする。
「どうどう?似合う?」
「「アシュリィ様、可愛い~!」」
「お似合いですよ。」
チャリ… 羽根と装飾がアシュリィ様の髪を彩り、とても綺麗だ。ラリーなんかはもう、心を奪われるどころか粉砕されて惚けてる…。
夜。俺とラリーは同室なので、「おやすみー」と挨拶してから布団に潜った。
「……ぅ…っく……ぐす…」
暫くして…ラリーのベッドから、啜り泣くような声が聞こえてくる…。
「……どうした。腹でも減ったか?」
「…………アイル。」
「おう。」
「アシュリィ様は…アシュレイ様が、好き、なんだよ…な?」
「そうだよ。ずっと昔から…。」
正直に答えれば、益々涙を溢れさせたようだ。
これは…俺が何を言っても、逆効果かもしれない。
「……僕だって…!もっと、早く…出会いたかった…!」
「………………。」
「初めて、会った日。アシュリィ様は僕に…「いつか心から愛する人に出会えたら、キスをしたり肌を重ねるといい」って言ってくれた。
でも…僕の愛する人は、僕を受け入れてくれない。じゃあ…どうすればいいのさ…!!」
「………………。」
薄暗い部屋の中…首を捻って、チラッとラリーに目を遣れば。頭から布団を被り、丸くなって震えてる…。
「今まで、女性の裸を見たり、肌に触れるのなんて…嫌々だったけど。アシュリィ様は…もっと触れたい、見たい。けど…嫌われたくない…!!うううぅ~…!」
………ハァ。そうか…きっとこれは、ラリーの初恋なんだな…。
じゃあ俺も。今まで誰にも言わなかった秘密を教えてやろう。
「俺もさ。初恋はアシュリィ様だったんだよ。」
「…………え?」
あ。ラリーが…泣き腫らした顔を布団から出した。反応よすぎて笑うわ。
「ああでも、俺は本気じゃなかった。そん時まだ9歳だったし…子供ってすぐに人を好きになるだろ?」
親に売られて…服を剥ぎ取られて、でかい首輪を付けられて。オークション会場に連れて行かれて…俺の人生終わったな、って思った。一緒にいたララはまだ、涙を流す「希望」を持っていたけど。
パリスはすでに酷い目に遭っていたようで。俺達にすら、なんの関心も抱いていなかった。そのパリスは先に連れて行かれた…。
「そんな時現れたのがアシュリィ様だ。彼女は俺達にとっての絶望…首輪を「えいやっ」と引き千切ってくれた。そして新しい服、居場所、名前をくれた。
おまけに可愛い年下の女の子、とくれば。惚れない理由が無いじゃん?」
少々照れくさいが、全部本当。もしかしたらパリスとララは、気付いてるかもしれないけどな。俺が笑ってみせると、ラリーは少しずつ表情が穏やかになった。
「でも一過性だったよ。そんで俺さ…次にアンリエッタさんっていう女性に憧れた。」
「確か…魔王陛下の側近の?」
「そうそう。あの人…めっちゃグラマーでな…。」
「………………。」
ラリーがずずいと身を乗り出した。もう泣き止んでんじゃねえかこの野郎。
俺も上体を起こし、ベッドに肩肘を突く体勢になり。俺らしかいない部屋なのに、なんとなく声を潜めた。
「身長は俺と同じくらい(※175cm)で、スラっと長い手足、出るとこ出て締まってるとこは締まってて。そんで超美人で…お洒落大好きで、あっさりした性格で。なんつーか、男の夢が詰まってるような女性なんだよ。」
「………胸、そんなに大きい?」
「デカい。もうね、リリーナラリス様より断然ある。ばいーんとしてて…」
「…………………。」
ラリーがごくりと喉を鳴らした。どんな想像してんだろう。
…よく考えると。誰かとこんな会話するの…初めてだな…。周りにできる人いなかったし。
「ぶっちゃけると…アシュリィ様貧乳じゃん?」
「(言っちゃうんだ…)」
「まあ彼女はそこも魅力だけどさ。何が言いたいかっていうと……ん?」
「?」
ドダダッ! ガチャガチャ バッターーーン!!!
「ちょっと!!!今この部屋から私の胸をディスるような気配がしたんだけど!!?私の胸は可能性の塊だって言ってんでしょ!!?」
「「キャーーーーーッ!!!!」」
俺達は思わず変な声が出て、反射で逃げてベッドから転がり落ちた!!アシュリィ様が鍵開けて入って来んだもん!!
「なっ、何やってんですかっ!こんな夜中に、使用人のっ、男の部屋に突攻するんじゃないっ!!!」
俺の抗議などどこ吹く風。アシュリィ様は胸を張って仁王立ちした!
「ふんだ!!言っとくけどね、モデルさんってのは貧乳のほうが映えるんだよ!つまり私はモデル体型、イエイ!!!」
モデルにしては身長が足りな…「あ゛?」なんでもありませんっ!!!
俺達の騒ぎに、ララとパリスまでもが「なんだなんだ?」と顔を出す。寝巻き姿で大集合すんな!!ラリーはまだひっくり返ってる。
どうにか3人を押し出して早く寝るよう促すと…アシュリィ様が、俺にだけ聞こえるような声量で訊ねてきた。
「あのさ…ラリー、泣いてなかった?」
「!聞こえて…ましたか?」
まさか、さっきの会話も?ヤバい、俺死ねる。
「いや、そんな気がしただけ。空気っていうか…とにかく、なんか辛そう…?」
よかった…ほっと息を吐く。ってか、その空気をぶち壊す理由もあって突撃してきたのか?
確かに泣いてたけど、もう大丈夫。そう答えれば、それ以上は何も言わず。おやすみ!と笑顔で戻って行った…疲れた。
「ラリー。もう大丈夫だ。」
「………び……っくり…したぁ~…。」
「俺も………。」
「「……あははははっ!」」
だってまだ手震えてるもん。いやー、心臓爆発するかと思った。のっそりベッドに上がるラリーと顔を見合わせて…俺達は声を上げて笑った。
落ち着いてから横になり、天井を見上げながら会話の続きをする。
「だからさ。ラリーも…色んな人と出会うといいよ。例えばさっきのアンリエッタさん。高身長のラリーだったら、並ぶとお似合いだと思うんだよな。彼女もフリーだし。」
「それで…アシュリィ様を忘れろって事?」
「それもある、けど…。もしかしたら、それでもやっぱり、世界中のどんな人よりアシュリィ様が好き!って再確認するかもしれないだろ。」
「……それは。しんどいだけじゃん…。」
「まあな。でも…魔族の恋愛って人間と違うから。互いの同意さえあれば、重婚とか普通だから。」
実は俺だけ、ライナス様に聞いた事あるんだけど。誰にも言うなよ?
「アシュリィ様のお祖父様なんて…同時に最大5人妻がいたって。」
「えええっ!?」
「そん時は全員人間だったらしいけど。」
びっくりだよな。彼は来るもの拒まずで、告白されたら「じゃあお嫁さんになってくれる?」って言い放つタイプなんだわ。
そして…全員の最期を看取って、魔国に帰って来たらしい。今はまた、世界中飛び回ってるけど。
「魔王陛下のお母様は魔族だけど…陛下が以前。
「母上が多過ぎて、僕を産んだヒトが誰なのか分かんないんだよね~。候補が3人いてね~。流石に本人達は分かってるだろうけど…そんなの関係無しに、皆僕を可愛がってくれたんだ。だから全員、僕の大事な母上なんだよ。」
って笑ってた。」
「魔族すご…。」
だよな。それで…アシュリィ様にはアシュレイ様がいる。俺達三人衆は…アシュレイ様を応援するけど。
「これから10年20年経って。アシュレイ様も落ち着いたら…「僕も貴女が好きです。夫の1人にしてください。」とか言ってみれば?それまで想い続けたら、だけどさ。」
「………………。」
「……魔族の寿命は、俺達人間より遥かに長い。アシュリィ様は…アシュレイ様の死後も、若々しいまま生き続ける。アシュレイ様と違う時代に産まれてたら…ラリーにもチャンスは大いにあっただろうよ。」
なんだか不思議だな。同じ場所に立ってるはずなのに…魔族はどこか、違う次元にいる気がするんだ。
「ま…そういう事。今の恋心を大事にしつつ…従者として適切な距離を保って。外の世界に、目を向けなよ。」
「………うん。ありがとう…。」
おう。さ…明日も朝早い。さっさと寝よう。
数十分後…今度こそラリーの、穏やかな寝息が聞こえてきた。
数日後。学園の裏庭で…アシュリィ様、アシュレイ様、デメトリアス殿下、ティモ、俺が集合していた。そして俺達から見えない木の後ろに…ナイトリー様がいる(バレバレだけど)。
「あ、あー…こほん。それでね、私主催で夜会するから!デムも絶対参加だよ!」チラリ
「もちろん行くが…俺はパートナーがいないぞ。シュリは…」チラッチラッ
「オレが彼女のパートナーです!一緒に入場とかする訳じゃないけど、その。」チラリン
「パートナー不在でも…会場で誰か誘ってみてはいかがです?同じくフリーの女性なんかを。」チラリンチョ
「……!(※こくこくと笑顔で首を縦に振る)」チラリーノ
「そうだな。俺だけ独り身というのも寂しいからな、悪くない。では楽しみにしているぞ。」チラット
全員木を気にしつつ…わざと大声で話す。
丁寧に会場、日時を復唱し。木からガッツポーズの腕が見えてるのを確認して。釣れた…!と喜ぶ俺達。
ラリーはあれから、少し変わった。他の人とも積極的に関わろうとしている。うん…それでいいと思うよ。
夜、アシュリィ様が俺達四天王Jr.(いつの間に…)を集めた。
「夜会を3日後に控える訳ですが!ラリー!そこでは絶っ対に、自分を愛玩用とか言わないようにね!
貴方は私の大切な従者。真っ向からタンブルを否定する為にも…そこんとこよろしく!」
「え。は、はい!」
そう。ラリーは度々自分を愛玩用として侍らせてほしい、ってアシュリィ様に言ってたからな。
でも…今は違う。俺達の仲間で、1人の人間だ。背筋を伸ばして…自信持て!
俺、ララ、パリスの順で、ラリーの背中を叩いて喝を入れる。ラリーは笑顔で受け止めた…最近は俺達が翼に触っても、笑ってくれるんだよな。なんか…嬉しいな。
まあ次にアシュリィ様にぶっ叩かれて、吹っ飛んだけど。
この夜会の目的は2つ。獣憑き3人の解放と…
グラウム帝国に喧嘩を売り、デメトリアス殿下を自由にする!恐らくベイラー王国も巻き込んだ騒ぎになるだろう。アルバート殿下も了承済みだ。
俺達は…その中心に立つであろうアシュリィ様を、全力で支える。
よし…やってやる!!
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