私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 私達が入場すると、扉の外まで聞こえる程賑やかだったのが、嘘のように静まり返った。
 楽団の演奏がよく聞こえる、いい腕前ね。

 左右から視線を感じる…ふっ。思う存分ご覧あれ。だって私に、恥じる要素は欠片も無いもの!
 装いもお父様そっくりな顔も、隣を歩く男性も。後ろをついて来る従者達も。


「わ…噂には聞いていたけれど、あれが魔国の衣装?」
「素敵…。」
「大きな魔石ね、初めて見たわ!」
「獣憑きの奴隷…?いえ、首輪を付けていない?」


 予想通りの反応ではあるな。
 だがよ、もうちょい主役に興味持ちなさいよね。

 用意された席の前までやって来て、くるっと振り向く。



「皆、本日は俺の為に集まってくれて感謝する。
 どうか心ゆくまで、楽しんでいってくれ。」


 デムの言葉を合図に…パーティーは始まった。


 代わる代わる、貴族が挨拶にやって来る。
 やっば…誰一人分からん。まあいいや、微笑んどきゃよかろう。

 デムは全て笑顔で対処している…飽きたなー。
 魔国のパーティーだったら、この辺で乱闘が始まるのになー。ちょっとあそこの令息2人、急に決闘とか始めてくんないかなぁ…。
 私は思考が飛んでいるのがバレないよう、扇で口元を隠す。いやあ、令嬢ってこういう時ラクだわ。


 その時…。

「お誕生日おめでとうございます、殿下。姫君にはお初にお目に掛かります。」

「……ええ。」

 20歳前後と思われる青年が挨拶に来た。ふむふむ、タンブル侯爵家の息子ね。
 彼は…猫耳の妙齢の女性と。兎耳の成人前の少女と。狐耳の…20代後半くらいかな、線の細い男性を連れている。
 女性は胸元と腰を、男性は腰回りを隠すだけの、踊り子のような服を着て。全員首輪を付けて…仮面のように、微笑みを張り付けている。

 デムと目を合わせると、彼はこくりと頷いた。
 だよね、前に大嫌いって言ってた貴族ね。

 青年を観察するが…容姿は悪くないのだが。どうにも嫌悪感が拭えない…生理的に受け付けないタイプだ。


「こちらの者共が気になりますか?私自慢の愛玩奴隷でして。
 姫君にはお分かりいただけると思いますが。」

 何を勘違いしたのか、馴れ馴れしいなこの男。
 特にパリスを舐め回すような視線で見る。目え潰すぞクソ野郎。

 ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、次の貴族が挨拶に来た。ふう…冷静になろう。
 それからも、数人は私の後ろを気にしている。やんのかゴラァ。



 ひと段落ついた頃、後ろを向いてパリスに話し掛ける。

「パリス…大丈夫だった?やっぱり貴女は部屋で…。」

「ありがとうございます、でもぼくは全然!
 それより…。」

 彼女はチラッと会場に目を向ける。つられて見た先には、獣憑きの3人が。


「…パリス。彼らにとって今の環境は、良いと思う?」

「いいえ。」

 彼女はキッパリ言い切った。

「彼らもぼくと同じで、水が苦手だと思うんです。
 なのにあんなに長い髪で…日々ストレスでしかないでしょう。」

 うん…あの3人は、男性も背中まで髪を伸ばしている。綺麗なのは確かだけど…。
 あの男の趣味だろう…愛玩って言い切ってたし。


「お疲れ様~。そろそろダンスじゃない?」

「アル。本当だ、音楽が変わった。」

 主役のデムと、私がファーストダンスを踊る。従者達には、ディードがついてくれるから大丈夫。
 デムと手を取り、中央に進む。



「おお…貴方、上手いじゃん。」

「当然だ。どれだけ練習したと思っている。」

 …以前だったら。「俺様に不可能は無い!」とか言いそうだけど。
 素直になったなー、このこの!

 くるくると、音楽に合わせて私は舞う。パーティーってのは退屈だけど、踊るのは好き。というか、体を動かすのは基本的に好き!


 曲が終わり、デムの手を離して互いに礼をする。
 主役のファーストダンスが終わったので、各々踊り出すだろう。
 早速アル&リリーも手を取り中央に…。

「レディ。オレと踊っていただけませんか?」

「…はい、喜んで。」

 アシュレイが、ずずずいっと手を伸ばしてきた。
 何故だろう、ふいに。かつて…ベンガルド伯爵家で修行した日々が頭に浮かんだ。


『エスコートの練習。付き合ってくんね?』


 そう言って、辿々しく手を差し伸べてくれた。
 あの時のアシュレイ…可愛かったなあ。

「…ふふ。」

「?」

 今はスマートに女性を誘えるようになったけど。
 私の中では…変わらず、やんちゃなアシュレイのままなんだよ。


 アシュレイ、ディード、アルと踊り。これ以上は必要無い…けれど。
 デムの弟…第二皇子殿下に誘われてしまった。流石に断れず、手を重ねて歩き出す。


「姫君は兄と親しいとお聞きしました。」

「ええ、大切な友人です。」

「そうですか。…兄の秘密を、ご存知ですか?」

「……ふふ。なんの事でしょうね?」

 デムが皇族を抜けたら…第二子であるこの皇子が、皇太子になるのだろう。
 だから、私と恋仲なのか気になるんだね?


「まあ…彼にどのような秘密があろうとも。私はデメトリアスとティモの味方です。」

 肩に置く手に力を込める。殿下は青い顔で喉をヒュッと鳴らし、それからダンスが終わるまで会話は無かった。





 パーティーは進む。多くの貴族が私に話し掛けてくるが…適当にあしらった。
 ディードも、特に令嬢が群がってたけど。一言二言で会話を切り上げていた。

「どうして人間は、やたらと褒めてくるんだ?初対面の私の、何を知っているんだ?」

 それを言っちゃあお終いよ。
 魔族に気に入られたいんなら、社交辞令は逆効果なのさ。

 結局他国に来ても、いつものメンバーで集まる。そこに…。



「やあ、令嬢。今よろしいですか?」

「…なんでしょう?タンブル侯爵令息。」

 にこやかに、まるで知己のように笑顔で寄って来るこの男。
 一方的に話すのを、黙って聞いているが…獣憑きコレクターだと自称している。
 で、私もお仲間だと思われてるな。うーん…。

「いやあ、貴女の奴隷も美しい。どうですか?こちらのセルジュと交換などは?」

 はっはっはっ、と狐耳の男性を私の前に跪かせる。
 セルジュと呼ばれた男性は、私の靴にキスをしようと…。

「セルジュさん、結構です。ほら立ってください。」

「え、え…?」

 彼は本気で戸惑っている。アイルが手を貸して、なんとか立ってもらった。


「おっと…お気に召しませんでしたか?」

「…………。」

 ここで、挑発はいくらでも出来る。
 人前で屈辱的な行為をさせて…奴隷に人権はあるとご存知無い?
 侯爵家は財政状況がよろしくないから、彼らにまともな服を与えられないのかしら?とかね。


「ふふ。交換を、と言われましても。私はこの子達を愛しく思っておりますので、本人の意思に反して解雇など致しません。」

 笑顔でパリスの頭を撫でると、彼女は頬を染めて微笑んだ。
 こんなにも可愛いのに…どうして酷い扱いが出来るの?

 正直に言おう、私はあの3人を救いたい。
 以前パリスが…


『ぼくはお嬢様と出会う幸運に恵まれましたが。まだ…多くの仲間が世界中で苦しんでいます。
 …獣憑きの数が少ないのは。産まれてすぐ…両親が殺す場合もあるからです。

 この子は将来、必ず不幸になる…それなら。今のうちに…!と涙を流しながら。
 ぼくのように生きているのは、親が「ラッキー!これは大金になるぞ!」と喜んだ場合。つまり…。
 殺されるのが愛情で、生かされるのは欲望によるものなんです。

 奴隷とは多くが借金の形だったり、犯罪者の成れの果てですよね?でも、ぼくらは違うんです。ただ…産まれてきただけ、なんです。

 ぼくは…少しでも多くの仲間を救いたい。
 でも、ぼくのように良い環境にいる可能性もあるんです。だからそれ以外の…。
 見せびらかす愛玩用だったり、暴力を振るわれていたり、せ…性奴隷だったり。そういう仲間を…見捨てられません…。』


 そう、言っていた。私も同意見で、お父様にも相談した。お父様は人間が好きだから、真面目に話を聞いてくれたよ。


 手始めに…あの3人に望む暮らしをしてもらいたい。だが…この男は、自分のコレクションを手放さないだろう。
 何万セキズつぎ込んだか知らないけど、金では動くまい。


「そうですか、残念です。気が変わりましたら、お声がけくださいね。」

 と、一応下がったが…あの顔は諦めてない。どうしてもパリスが欲しいのね…。


「……令息。ちょっとあちらで…お話しませんこと?」


 ならば。こいつから情報を搾り取った後…彼らを解放する。


 私は欲張りだからな。自分の願いを叶えるため、世界すらもねじ曲げる女だ。
 だから…デムの安寧も獣憑の自由きも、どっちも手に入れてみせる。
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