私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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「ランス大丈夫かなー…。」

「ご安心を!いくらなんでも危害を加える事はありませんです!」

 不安しかねえ。
 てくてくお屋敷を探索中。ところで、なんで今日私らも呼んだの?


「えっと…お父様が名指しで皆さんを招くようにって言ったんです。」

 は~ん…成る程ね。本命はランス、私とアシュレイはカモフラージュ要員か。
 アシュレイは何も気付かずキョロキョロ。お子様よの~。


「……っ。皆様、そろそろ応接間に戻りましょうか。」

 え?まだ見終わってないけど…?
 まあ屋敷にゃそこまで興味無いし、大人しく戻ったら…。



「「「………………。」」」


「あの、伯爵様…。」

「はは、義父上と呼びなさい。これからも娘を頼んだぞ。」

「いやあ~…感慨深いですなあ。あんなに小さかったお嬢様が、もう嫁入りをされるとは…。」

「さあさあ呑みましょう!ランス様、お酒はイケるクチですか?」

「いえ…すぐ赤くなってしまうので…。」

「これは失敬!」

「「「はっはっはっ!!」」」


 ……何があった?
 酒盛りを始める影の皆さん。そこにジェーンも加わった。
 ソファーにちょこんと座るランス。その隣でニコニコとワイングラスを傾けるシャリオン伯。そして…。


「な…皆っ、何してるの!?よよ嫁入りって…何ー!?」

「おおミーナ、こっちにおいで。」

 ミーナが顔を真っ赤にして伯爵に詰め寄った。アシュレイはまだ首を傾げている。


「お頭様、ここは若い者同士にしてあげませんと!」

「おっと、解さ…じゃなくて。総員、扉から出なさい。」

「「「はーい!!」」」


 皆さんはゾロゾロと、わざとらしく退室する。じゃあ私達も…直前で閉められた!!!ちょっ…!

「あの、ランス様!何があったのですか…!?それと、嫁入りとは…?」

 え、ミーナさん?あの、扉に張り付くアシュシュお見えでない?今まさに出て行こうとしたのですが?

「…ミーナ。大事な話があるんだ。」

「え…。」

 ランスさあん?アナタ達、何頬染めて見つめ合って、手を取り合ってらっしゃるの?


「(おいアシュリィ、これ…オレ達いていいのか!?)」

「(いい訳ないでしょ!でも…タイミング逃したんだよおおお!今音立てたら雰囲気ぶち壊しじゃん!!)」

「(遮音の魔法掛けてくれよ!)」

「(あっ、そうね!よーし…)」


「ミーナ。順序が逆になっちまったけど…。
 俺、君の事が好きだ!何年も前から、ずっと…!」

「え……本当、ですか…?」


「「…………………。」」


 そろ~…と同時に振り向く。
 いやあの、私らも年頃ですけん。こういうの…バリバリ興味あんねん。


「嘘なんてつくもんか!あの日…俺は君の言葉に救われた。大嫌いになりかけていた自分を認めて、前を向くきっかけをくれた。
 そしてこれから先も…君の隣に立っていたい。そう願っている。」

「ランス様…。嬉しい…!」


 あわわわわ。やだランス、男らしい…!
 アシュレイは「オレは空気オレは壁オレは埃…!」とか呟いてる!!


「どうか、俺と結婚して…ベンガルド家に来てくれるか…?」

「はい…はい!わたしをあなたのお嫁さんにしてください!」

「ミーナ…!」

 ひょえーーー!!!なんてこった、こうしてまた世界に新たなカップルが誕生してしまった!!
 2人は熱い抱擁を交わし…ええ話や。


 ……こうしてる場合じゃねーーーっ!!!


「(来いアシュレイ!)」

「(……はっ!?)」

 遮音してついでに透明化して、惚けているアシュレイの首根っこ掴んで脱出!!


「「はあ、はあ…!」」

 とりあえず玄関まで来てしまった。ふう…いいもん見た。

「あの2人、相思相愛だったんだな…。」

「みたいだね。いや~おめでたい。」

 あはは~、と笑うのは私だけ。あれ、アシュレイ?


「………オレ、格好悪いな…。」

 は?どこが…?

「ランスは…あんなにはっきりと言葉にしたのに。オレなんて…勢いだけでガキみたいに喚いて…。」

 アシュレイは右手で顔を覆った。ああ…あのブチギレ告白気にしてんのね。
 でも…。


「……私はさ。不器用で勢いのある告白…いいと思うけど。」

「え。」

「あくまで私は、だけどね。」

「あの…それって…。」

 うるせえ言わせんなこの野郎。自分の発言忘れたんかコンチクショウ。


「あんたが…待ってろって言ったんじゃん。」


 だから、待つよ。あんたが私に相応しくない…なんて微塵も思っちゃいないけど。今のままでも充分…好きだけど。

 踵を返せば、すぐにアシュレイが隣を歩く。そして…指を絡めて手を繋いだ。
 今は…この距離感が心地良い…。






 応接間に戻れば、「婚約しました!」と報告してくるランス&ミーナ。おめでとー!と拍手すれば、2人は照れたように笑った。
 シャリオン邸の人達も全員戻って来て、改めて宴会が始まる。まあ影の皆さんが盛り上がってんだけどね。


「そういえば…シャリオン伯爵はどなたが継ぐのですか?」

 ふと気になり訊ねた。女性のミーナじゃ最初から無理だけど…ベンガルドみたいに養子を迎えるのかな?

「ああ、それは大丈夫だ。息子がいるからな。」

「へー…ってそうなんですか!?」

 てっきりミーナは1人娘なのかと!
 伯爵は酒が入って気分がいいのか、娘の嫁入りが決まって嬉しいのか普段より穏やかだ。

「息子は今、後継の勉強というか…武者修行として世界を飛び回っている。先日来た手紙では、『そろそろ帰るわ。嫁さん連れてくわー』などと書いてあってな。」

 へえ…フットワークの軽い息子さんですこと。ミーナも義姉の存在は初耳だったそうで、楽しみ~!と胸を弾ませている。


「そうそう、妻も息子と一緒に行動しているんだ。」

「ああ…それでどこにいるか分からないって…。」

「今度帰って来たら、ランスを紹介しないとな。寄宿学校を卒業して、その日のうちに家を飛び出してもう10年経つなあ…。」

 そう笑う伯爵だが…。今、なんつった?
 学校を卒業するのは17歳。つまり…息子さんは27歳?


「……伯爵様は、おいくつなんですか…?」

「確か…今年で…51だったかな。」

 ごっ……!?


「「「ごじゅういちぃ~~~!!?」」」


 私とアシュレイ、ランスの絶叫は屋敷中に響いた…。

 初対面の時だってまだ30手前だと思ったのに、40代だった訳でしょ!?それから全然老けてねえな~って感心してたのに!!
 顎外れんじゃねえかってくらいポカンとしていたら、皆さん「その反応、何回見てもいいねえ~!」と大爆笑。


 そんな風に次々と、シャリオン家に関する衝撃的事実が明らかになった。
 ランス達も上手くいったみたいだし…今日来てよかったな。




 さて、そろそろ帰るか~となった時。伯爵様が耳打ちしてきた。

「君は…デメトリアス・グラウム様をどう思う?」

「え。」

 伯爵様からその名を聞くと思わず、一瞬答えに詰まった。デメトリアス…彼は…。

「……友達。うん、友達です。」

「…そうか。
 彼はこれまで…苦難の道を歩んで来た。まだまだ先は見えず、手探りで足掻いている。」

「え…?」

「どうしようもなくなる日も近いかもしれない。その時…きっと君の存在は助けになるだろう。」

 それは、どういう意味なの…?疑問が顔に出ていたのか、伯爵様は苦笑した。


「残念ながらここから先は有料だ。
 だがヒントを1つ。グラウム帝国は我が国と同じく、長子が帝位を継ぐのが習わしだ。ベイラーと違うのは、女性にも継承権が存在するところだが…。
 彼は第一皇子であり、上に姉もいない。なのに…何故皇太子でない?」

「そ、れは…。」

「通常ならば、どれだけ遅くとも成人…15歳の時点で立太子の儀が行われる。
 彼には…それが出来ない理由がある。」

「………………。」

「…柄にも無く少し喋りすぎたかな。
 さあ、そろそろ帰りなさい。王都に着くのが遅くなってしまう。」


 伯爵様は背を向けて、ミーナ達に挨拶をする。
 どうしてその話を私にするの。デメトリアスは…何者なの。


「どうした、アシュリィ?」

 アシュレイが、ひょいっと顔を覗き込んでくる。なんでもな……い…

「…………後で、話すよ。」

「……おう。」

 駄目だ。彼にだけは、誤魔化したくない。


 ねえデメトリアス。貴方は…最初はくっっっそムカつく男だと思ってたけど。
 段々と…思ったよりいい人かも?って変化して。
 今はね。アルやディードと同じくらい…大事な友人だと思ってる。

 だからさ。もしも苦しみを抱えているのなら…どうか。
 少しでいい。寄り掛かってくれると…嬉しいな。
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