私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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「あーっ、アルバート様あ♡ディーデリック様も!休暇の間、全然お会いできなくて寂しかったです~!」

 うわ、出た。くねくねくねくね歩いて来るナイトリー嬢…その歩き方凄い、器用だね。

「あのあの、この後お時間ございます?」

「「無い。じゃっ。」」

 ディーデリックと揃ってシュバッ!と手で制し、ナイトリー嬢に背を向け猛ダッシュ。
 なんか後ろから「もーぉ、照れ屋さん♡」とか聞こえるのは幻聴かな。



「はあ…アレはすごいな。魔族にはいないタイプだ。」

「いや人間にも滅多にいないからね?勘違いしないでよね。」

 アレが人間の基準だと思われたら堪らないからね。


「あら、殿下にディーデリック様。」

「お疲れのようですね。」

 お。今度は正面からトゥリン兄妹参上だ。
 僕ら今からリリス達に会いに行くの、と言ったら一緒に行くって。
 魔国楽しかったねー、とか雑談をしつつ移動。その時…。


「あ…。」

「…?っ!!!」バタンっ!!

「?今の令嬢は?」

 とある教室から出て来たと思ったら、すぐ引っ込んだ…スプリングフィールド嬢だ。

「今のがか?よく見えなかったが…。」

「見なくていーよ、行こう。」

 彼女には散々付き纏われたからねー。今はこのディーデリックのお陰で平和平和。


「「おーい、殿下ー!」」

 ん?後ろから声を掛けられた。今日はやたらと知り合いに遭遇するな。


「「ろーほーろーほー、朗報です!」」

 彼らは…2年生でアギラール公爵家の息子、リオネル&エイベル兄弟だよ。顔立ちも髪型も声もそっくりで、両親以外見分けに苦労するんだ。
 でもジェイドも完璧に判別できるんだ…なんでだろ。えーと、どっちがどっち?

「もう、僕がリオネルですよっ!」

「僕がエイベルです!」

「わ、ごめんね。」

「いや逆だろう。」

「「「えっ?」」」

 ディーデリックの発言に、その場の全員が注目した。


「?今リオネルと言ったのがエイベルだろう?」

「「うそ…なんで分かったんですか…?」」

 あ、騙したな!んもー、彼らはこういう事するんだから!
 でもディーデリックは彼らと知り合って、まだ数度しか顔を合わせていない。なのになんで…。

「なんでって……勘?」

 えー…。何それ、魔族凄い。

「正確には「彼は今嘘をついている」と感じたからだ。すまないが、それ以上表現できん。
 それより朗報とは?」

「「あっ!そうだった!

 鳳凰会に平和が戻ってきたんですよー!!」」


 …え?思いがけない言葉に、僕らは返事もできなかった。

 双子曰く…スプリングフィールド嬢が、気付けば顔を出さないんだと。
 それで調べてみたら、春の時点で鳳凰会を脱会してたとか。自動的に、彼女の紹介で入った令嬢も皆同じ。
 どういう事?トゥリン兄妹の出番だよー。

「そうですね…鳳凰会については、私達にはなんとも言えませんが。
 確かに最近の彼女は大人しくなっています。」

「私を…魔族を避けていたんじゃないのか?」

「そのはずなんだけど…。」

「んと…『成績はいいけどマナー最悪』って評価は、実は去年のものなんですの。今は取り巻きの令嬢も連れてないし…人が変わったように静かなんです。
 でも元々があの性格ですから、今は魔族を恐れて猫被ってるだけ…と言われていますわ。」


 ???それ以上の情報が無さすぎて、全員で首を傾げるばかり。
 ここは…兄妹に調査を任せる。


「「とにかく!これで殿下達も鳳凰会に戻れますね!」」

 まあそうだね。彼女が牛耳ってなければ、放課後アシュリィ達とのんびりお茶できるし。そうだ、兄妹も入会してもらおうかな?
 またサロンに行くよ、と言って双子とは別れた。




 4年生の教室にやって来た。でも…まだ授業終わってないの?賑やか。

「今日はオーディションと言っていなかったか?」

「長引いてるのかな…。」

 オーディション…見てみたい。
 ディーデリックに飛んでもらい、僕は背中にくっついた。そして壁の上部にある、換気用の窓から覗いたら…。



「アシュリィ、そのブラシ取ってちょうだい。」

「はーい。口紅何色にする?」

「そうね…真っ赤は避けたいわよね。」

「アシュレイ様は髪の毛綺麗ですねえ。セットし甲斐があります!」

「眉毛はちょっと整えるだけでよさそうですね。」

「……………。」


 何この状況。レイを囲うリリス、アシュリィ、ララ、パリス…羨ましいっ!!
 じゃなくて。なんでレイをメイクアップしてるの…?



「かんせーい!
 …ヤバい、可愛い…。意外とアリかも…。」

 僕はナシかなー。どういう状況?


 それで…なんかデメトリアスとアシュリィが騎士の演技をする。どっちも上手い、けど。

「うーむ…やはりアシュリィは身長が足りんな。」

「ねー。しかも姫?のレイがデカいし。」

 と言うか、レイはデメトリアスよりも身長あるんだけど。どうしてこうなった?

「予想だが…アシュリィが騎士役をやりたがって、恋人になりたいアシュレイが姫を望んだんじゃ?」

 その線が濃厚だろうね。
 結果は予想通り…デメトリアスが騎士に選ばれた。アシュリィとレイは床に両腕を突いて落ち込んで、リリス達は腹を抱えて笑ってる。



「ふ…やはり主役は俺様にこそ相応しい。しかし姫がな…。
 まあ安心しろ。相手が誰であろうと手は抜かん。」

「姫は辞退します!!!」

 あ。レイがメイクをゴシゴシ落とし、膝を抱えて教室の隅っこに収まった。



 もういいかな?そう思い床に降り、扉をノックしてから開けた。

「ねえねえ、何があったの?」

「あ、アルビー。それが…かくかくしかじか。」

「え。クラスメイトが揃ってる中で、告白っぽい事しちゃったの!?」

「ううう~~~…!!」

 この子は、またなんて事を…ぶふっ!!
 お相手のアシュリィは、困ったように唇を尖らせ頬を染めている。


「あの…アシュレイ。わ、私。今回は…その。」

「!!!さっきのは忘れろ!!」

 レイは顔を真っ赤にして、ばひゅんと教室から逃げた。あーあ。


「ねえデメトリアス。騎士役代わってあげれば?」

「断る。最初からエントリーしなかったあいつが悪い。」

 だよねー。
 でも、ちょっとだけレイが可哀想に思えてきたぞ。もしこれで振られちゃったら…うむー。


 とりあえず僕とディーデリックでレイを追いかけた。どこかなー。

「あの2人、上手くいくかなあ。」

「え?アシュリィはどう見ても、アシュレイを好いているだろう。」

「え?」

 あらびっくり。君の目にはそう見えるの…?


「以前アシュレイには言ったが…彼女は不誠実を嫌う。
 もしもアシュレイに恋心など微塵も無ければ、とっくに振っているさ。相手に気を持たせるような愚かな真似はしない。
 つまり…自分の感情に気付いていないんだろう。それも時間の問題だとは思うがな。」

 そう、なの?

 それが本当なら…嬉しい。




 レイが行きそうな場所…僕の勘が正しければ。

「何やってんだ大将…?」

「………うるさい…。」

 やっぱいた。職員室…トレイシーの机の下にいる。


「あ、殿下。今度は何が…?」

「んっとねー…むっ。」

「なんでもないっ!!邪魔したな!」

 僕が説明しようとしたら、レイに口を塞がれた。もごご。
 いや、今更彼に隠すようなこと?

「他の先生方もいんだろうが…!」

 なるほどー。

 お邪魔しましたー、と職員室を後にする。


「あ…アシュレイ…。」

 丁度その時、アシュリィ達が前からやって来た。今日このパターン多いな。

 でも…アシュリィは珍しく目を伏せて、もじもじしてる。なんか…本当に脈アリっぽい…!?

「(ここは気を利かせるべきかな?)」

「(そうしましょう、さり気なく去りましょう。)」

 リリスとアイコンタクトを取り、他の皆にも目線で合図する。そ~…っと離れようとしたら。



「あ…スプリングフィールド嬢…。」

「え…ひいっ!?」

 失礼な。彼女は引き攣った表情をして、逃走を図る。本当に変わったな…。
 前だったらこうして、偶然を装って僕に声を掛けてくるのが当たり前だったのに。



 だけどスプリングフィールド嬢に誰よりも反応したのは、アシュリィだった。



「えっ、三月場所令嬢!?どこどこどれ!?」

「誰が大阪場所よ!!せめて人間に喩えなさいよね!!」

「じゃあ明石志賀之助?」

「誰が初代横綱よっ!!」

「あははっ!………は?」

「え……。」

 え?アシュリィとスプリングフィールド嬢は何を言ってるの?全然ついていけないんだけど。
 それは僕だけでなく、その場の全員。


 当の本人達は…目を大きく開き、呆然としているようだ。

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