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学園
01
しおりを挟むかつてこの世界は、魔族と人間が争っていた。
しかし数百年前の魔王の手により和平条約が締結され、少なくとも表面上は平和が訪れる。
二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、魔国は近隣諸国との僅かな交流を除けば、ほぼ人間と関わらずに暮らしていた。
だが今より数年前。人間と魔族の争いのきっかけを生み出した人物の封印が、魔国より遠く離れたベイラー王国にて解かれた。とある女性の身体に憑依したその魔族は、人間の国を襲おうとした。
それを食い止めたのが今代の魔王陛下とその娘、側近達であると言われている。
そして騒動の原因は、王国の貴族が禁術を使った結果だと言う。国王陛下の謝罪を受け入れた魔王陛下は、ディスジェイスとベイラー王国の友好宣言をした。
これには周辺諸国もびっくり。これで王国は魔国という最強の味方をゲットしたようなものだからね。王国と仲良くしたい国も沢山ある訳よ。
…とまあ、世間に伝わっている話はこんなもんか?結構無理やりな気がしなくもないが…いいのだろうか。
さて私ことアシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。その魔王陛下の娘である。とはいえ血統的には半分は人間で、人間の国で生まれ育ったのだ(ステータスは並の魔族を上回っているが)。
前述した騒動の際に自分の正体、記憶を思い出し…それをきっかけに魔国に渡ったのだ。そこで数年過ごし、自分の立場を盤石なものに出来たので心置きなくこの国に戻ってきた訳だ。ざっくりした説明だが、詳しくは前話までをご覧ください。
今は春、アシュリィ15歳。ベイラー王国の貴族が通う寄宿学校は、12歳~17歳までの5年間。私は4年生として編入するのであーる!今日は始業式、これから挨拶に行くのである!!
「ほう、これが人間の国か。凄いな、賑わっているな!」
なぜかディーデリック…ディードも一緒に。彼は今…確か58歳で成人目前である。ついてくると言って聞かないので、5年生として編入することにした。アルと仲良くやっててくれや。
彼は生まれて初めて国を出て、私のお母さんと従者トリオ以外の人間を見るのも初めてだという。その為王都の賑わいっぷりに年甲斐もなくはしゃいでる。
まあ…魔国は…私の体感で言うと、アメリカ大陸ほどの広さの土地に東京都民ほどの人口しかいない感じである。それで伝わるだろう、どれだけスッカスカなのか。
まあ正確には、人が住んでいるのは国土の1/10ほどなんだよね。他は魔物や神獣の住処、未開拓地域である。学園を卒業したら是非探検したいものである!
「じゃあ、いってらっしゃい。アイル、パリス、ララ。アシュリィとディーデリックをお願いね。」
「「「はい!!」」」
お父様も学園前まで見送りに来てくれた。過保護は相変わらずだが…少しは落ち着いたようだ。前までだったら始業式にも参加してたよ絶対。このままジルベールにちょっと挨拶して帰るねーと言って去って行ったが、ちゃんとアポ取った?
陛下の心労に心を痛めつつも切り替えて、学園に足を踏み入れる。ほー、久しぶりに来たなあ。流石、デカい!綺麗!金掛かってそう!!が素直な感想である。
今着ている制服もかなり良質な生地を使っている。私とララは膝丈ワンピースにジャケット。ディーデリックとアイルはジャケットにスラックス、要するにブレザーだ。男女共にジャケットに校章の刺繍が施されている。
そしてパリスの制服は特注で、スラックスのお尻の部分に尻尾穴がある。すまんがそれで我慢してくれい。
「いえ、充分です。わざわざぼくの為に特注で作っていただき感謝致します!」
ほんまええ子や。トイレ我慢すんなよ!
「ようこそおいでくださいました!私はこの学園の理事を務めております、クローイ・アンドレーと申します。アシュリィ様、ディーデリック様の入学を心より歓迎致します。」
応接室でそう言って私達を出迎えてくれたのは、中年の女性。ソファーに私とディードが座り、後ろに3人が立つ。
「お2人には簡単に挨拶をしていただきたく存じます。始業式の終盤で生徒達に紹介致しますので、舞台に上がってください。
そちらの従者の方々は袖でお控えください。」
「わかりました。」
挨拶か…皆、いるかなあ…私のこと、すぐ分かるかなあ…。
忘れられてることは無いと思うけど…会いたいと思っていたのは私だけ、なんてことないよね!?私はリリーとか見つけたらもう抱きついちゃうと思うんだけど…!ああああ怖くなってきたあああ!!?
でもリリー、めちゃくちゃ美人になってんだろうなあ。アルもアシュレイも、格好良くなってんだろうなあ。そういえば皆に贈り物があるんだった。受け取ってくれるかなあ。
「……おい、おい!まだ理事長殿の話は終わっていないぞ、何百面相しているんだ。」
は!!ディードに揺さぶられ我にかえる。
「失礼致しました。どうぞ続きを。」
「はい。本年度はお2人と同じく、他国からの留学生がもう1人いらっしゃいます。
我が国の王妃殿下の生国でもある隣国、グラウム帝国の第一皇子殿下、デメトリアス殿下でございます。」
ほーん。あれか、キャンシー陛下の息子かな。私の記憶では…会ったことは無いなあ。噂ではすんごい我儘で偉そうで(実際偉いけどさ)その分剣も魔法も勉強も得意だとか。
どんな人かなーと思っていたら、応接室の扉が叩かれる。「第一皇子殿下が御到着致しました」ですってよ。
開かれた扉から入ってきたのは…2人の少年。1人はおそらく従者。七三分け眼鏡、それっぽい。だが眼鏡ならウチのアイルの勝利である。彼は今、私の趣味でスタイリッシュ伊達眼鏡を掛けているのだ!!
そんでもう1人が…はい、皇子ですな。なんで制服にマント羽織ってんの?似合うけど場には合わねえぞ。そしてその顔、正確には表情。なんつーか…ドヤ顔?こう…自信満々っつーか…こいつ多分俺様系。しかも勘違いしてる系だ、関わりたくねえー。
「ん?なんだ其奴らは。即刻出て行け。」
そいつは私達を認識するやいなやそう言い放ちやがった。理事長は顔面蒼白で、恐る恐るこっちを見る。ディードも横目で私の様子を伺っている。見えないけど、トリオもきっと同じ反応だろうな。
んもー、私ってば信用無いのね。私ってばこう見えて長生きさんよ。まあ精神年齢は…大分低かったから…老成はしてないんだけど…。
ともかく。なんでもかんでも暴力で解決するアシュリィはもういないのである。相手はお子ちゃま、ここは私が大人の対応ってのを見せてやろう!
「お初にお目にかかる。私はアシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。今代魔王の娘だ。貴方と同じく、魔国より留学生として参った。よろしく。」
一応魔王の娘なので、私の方がディードより立場は上なんだよね。そんでこの皇子とは対等である、私は王女扱いされるので。私の挨拶を聞いた皇子は少し目を見開き、フッと笑った。うぜえ。
「ふん。デメトリアス・グラウムだ。まさかこのような場所で魔族殿と会い見えるとは。是非後ほど手合わせを願いたい。」
「ええ、喜んで。」
ボッコボコにしてやる…。
その後ディードも挨拶し、従者達の紹介もした。だがパリスを見た途端…顔を歪めやがったな、てめえ。
大丈夫、大丈夫。昔の私だったらキレてぶん殴っているころだけど、私ももういい年だから。決して横からディードに、後ろからアイルに止められていて手が出せない訳じゃないから。
だが流石に一国の皇子。口に出してパリスを貶すことはしない。態度にはモロに出てるけどね。
そんな感じで一触即発な空気が流れる。表面上は当たり障りのない会話をしているが…こいつ嫌いだわ。
その後完全に蚊帳の外になってしまっていた理事長に「そろそろお時間ですので…」と言われ会場に移動する。ふんふふふーん、やっと、やっとだ!
私の脳みそからは、皇子のことなぞスポーンと抜けて行ったのである。そんなどうでも良いことよりも、会ったらなんて言おうかなあ。久しぶり!かな?それとも会いたかったよー!かな!?
再会まで、あと少し。
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