私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
87 / 164
学園

01

しおりを挟む

 かつてこの世界は、魔族と人間が争っていた。

 しかし数百年前の魔王の手により和平条約が締結され、少なくとも表面上は平和が訪れる。
 二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、魔国は近隣諸国との僅かな交流を除けば、ほぼ人間と関わらずに暮らしていた。

 だが今より数年前。人間と魔族の争いのきっかけを生み出した人物の封印が、魔国より遠く離れたベイラー王国にて解かれた。とある女性の身体に憑依したその魔族は、人間の国を襲おうとした。
 それを食い止めたのが今代の魔王陛下とその娘、側近達であると言われている。
 そして騒動の原因は、王国の貴族が禁術を使った結果だと言う。国王陛下の謝罪を受け入れた魔王陛下は、ディスジェイスとベイラー王国の友好宣言をした。
 これには周辺諸国もびっくり。これで王国は魔国という最強の味方をゲットしたようなものだからね。王国と仲良くしたい国も沢山ある訳よ。



 …とまあ、世間に伝わっている話はこんなもんか?結構無理やりな気がしなくもないが…いいのだろうか。


 さて私ことアシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。その魔王陛下の娘である。とはいえ血統的には半分は人間で、人間の国で生まれ育ったのだ(ステータスは並の魔族を上回っているが)。

 前述した騒動の際に自分の正体、記憶を思い出し…それをきっかけに魔国に渡ったのだ。そこで数年過ごし、自分の立場を盤石なものに出来たので心置きなくこの国に戻ってきた訳だ。ざっくりした説明だが、詳しくは前話までをご覧ください。




 今は春、アシュリィ15歳。ベイラー王国の貴族が通う寄宿学校は、12歳~17歳までの5年間。私は4年生として編入するのであーる!今日は始業式、これから挨拶に行くのである!!


「ほう、これが人間の国か。凄いな、賑わっているな!」

 なぜかディーデリック…ディードも一緒に。彼は今…確か58歳で成人目前である。ついてくると言って聞かないので、5年生として編入することにした。アルと仲良くやっててくれや。
 彼は生まれて初めて国を出て、私のお母さんと従者トリオ以外の人間を見るのも初めてだという。その為王都の賑わいっぷりに年甲斐もなくはしゃいでる。
 まあ…魔国は…私の体感で言うと、アメリカ大陸ほどの広さの土地に東京都民ほどの人口しかいない感じである。それで伝わるだろう、どれだけスッカスカなのか。
 まあ正確には、人が住んでいるのは国土の1/10ほどなんだよね。他は魔物や神獣の住処、未開拓地域である。学園を卒業したら是非探検したいものである!




「じゃあ、いってらっしゃい。アイル、パリス、ララ。アシュリィとディーデリックをお願いね。」

「「「はい!!」」」

 お父様も学園前まで見送りに来てくれた。過保護は相変わらずだが…少しは落ち着いたようだ。前までだったら始業式にも参加してたよ絶対。このままジルベールにちょっと挨拶して帰るねーと言って去って行ったが、ちゃんとアポ取った?
 

 
 陛下の心労に心を痛めつつも切り替えて、学園に足を踏み入れる。ほー、久しぶりに来たなあ。流石、デカい!綺麗!金掛かってそう!!が素直な感想である。
 今着ている制服もかなり良質な生地を使っている。私とララは膝丈ワンピースにジャケット。ディーデリックとアイルはジャケットにスラックス、要するにブレザーだ。男女共にジャケットに校章の刺繍が施されている。
 そしてパリスの制服は特注で、スラックスのお尻の部分に尻尾穴がある。すまんがそれで我慢してくれい。

「いえ、充分です。わざわざぼくの為に特注で作っていただき感謝致します!」

 ほんまええ子や。トイレ我慢すんなよ!






「ようこそおいでくださいました!私はこの学園の理事を務めております、クローイ・アンドレーと申します。アシュリィ様、ディーデリック様の入学を心より歓迎致します。」

 
 応接室でそう言って私達を出迎えてくれたのは、中年の女性。ソファーに私とディードが座り、後ろに3人が立つ。


「お2人には簡単に挨拶をしていただきたく存じます。始業式の終盤で生徒達に紹介致しますので、舞台に上がってください。
 そちらの従者の方々は袖でお控えください。」

「わかりました。」

 挨拶か…皆、いるかなあ…私のこと、すぐ分かるかなあ…。
 忘れられてることは無いと思うけど…会いたいと思っていたのは私だけ、なんてことないよね!?私はリリーとか見つけたらもう抱きついちゃうと思うんだけど…!ああああ怖くなってきたあああ!!?
 でもリリー、めちゃくちゃ美人になってんだろうなあ。アルもアシュレイも、格好良くなってんだろうなあ。そういえば皆に贈り物があるんだった。受け取ってくれるかなあ。



「……おい、おい!まだ理事長殿の話は終わっていないぞ、何百面相しているんだ。」


 は!!ディードに揺さぶられ我にかえる。

「失礼致しました。どうぞ続きを。」

「はい。本年度はお2人と同じく、他国からの留学生がもう1人いらっしゃいます。
 我が国の王妃殿下の生国でもある隣国、グラウム帝国の第一皇子殿下、デメトリアス殿下でございます。」


 ほーん。あれか、キャンシー陛下の息子かな。私の記憶では…会ったことは無いなあ。噂ではすんごい我儘で偉そうで(実際偉いけどさ)その分剣も魔法も勉強も得意だとか。
 どんな人かなーと思っていたら、応接室の扉が叩かれる。「第一皇子殿下が御到着致しました」ですってよ。

 開かれた扉から入ってきたのは…2人の少年。1人はおそらく従者。七三分け眼鏡、それっぽい。だが眼鏡ならウチのアイルの勝利である。彼は今、私の趣味でスタイリッシュ伊達眼鏡を掛けているのだ!!
 そんでもう1人が…はい、皇子ですな。なんで制服にマント羽織ってんの?似合うけど場には合わねえぞ。そしてその顔、正確には表情。なんつーか…ドヤ顔?こう…自信満々っつーか…こいつ多分俺様系。しかも勘違いしてる系だ、関わりたくねえー。


「ん?なんだ其奴らは。即刻出て行け。」

 そいつは私達を認識するやいなやそう言い放ちやがった。理事長は顔面蒼白で、恐る恐るこっちを見る。ディードも横目で私の様子を伺っている。見えないけど、トリオもきっと同じ反応だろうな。

 んもー、私ってば信用無いのね。私ってばこう見えて長生きさんよ。まあ精神年齢は…大分低かったから…老成はしてないんだけど…。
 ともかく。なんでもかんでも暴力で解決するアシュリィはもういないのである。相手はお子ちゃま、ここは私が大人の対応ってのを見せてやろう!


「お初にお目にかかる。私はアシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。今代魔王の娘だ。貴方と同じく、魔国より留学生として参った。よろしく。」

 一応魔王の娘なので、私の方がディードより立場は上なんだよね。そんでこの皇子とは対等である、私は王女扱いされるので。私の挨拶を聞いた皇子は少し目を見開き、フッと笑った。うぜえ。


「ふん。デメトリアス・グラウムだ。まさかこのような場所で魔族殿と会い見えるとは。是非後ほど手合わせを願いたい。」

「ええ、喜んで。」

 ボッコボコにしてやる…。
 その後ディードも挨拶し、従者達の紹介もした。だがパリスを見た途端…顔を歪めやがったな、てめえ。
 大丈夫、大丈夫。昔の私だったらキレてぶん殴っているころだけど、私ももういい年だから。決して横からディードに、後ろからアイルに止められていて手が出せない訳じゃないから。

 だが流石に一国の皇子。口に出してパリスを貶すことはしない。態度にはモロに出てるけどね。
 そんな感じで一触即発な空気が流れる。表面上は当たり障りのない会話をしているが…こいつ嫌いだわ。




 その後完全に蚊帳の外になってしまっていた理事長に「そろそろお時間ですので…」と言われ会場に移動する。ふんふふふーん、やっと、やっとだ!

 私の脳みそからは、皇子のことなぞスポーンと抜けて行ったのである。そんなどうでも良いことよりも、会ったらなんて言おうかなあ。久しぶり!かな?それとも会いたかったよー!かな!?

 再会まで、あと少し。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...