私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
83 / 164
幕間

魔国での日々 春

しおりを挟む

 
 どもども皆様、アシュリィでございます。友人達と別れた私は、お父様と共に魔国へとやってきた。

 前回は中々私のことを認めようとしなかった元老院も、今回は割と早く受け入れてくれた。それは多分…前回ここに初めて来た時、私がビクビクオドオドしていたからかな。お父様の裾を常に掴み、離れようともしなかった。
 だが今の私は堂々としているし、文句言いやがった大臣は魔力の刃で服を斬り裂いてやった。大事なところが無事なのはお約束である。お前、次は頭髪な。

「魔族と人間との混血などあり得ません!!」
「なんで無いと言い切れる!!科学的に証明されてんのか!?あ"あん!?」
「カガク…?前例が無いからだ!!」
「前例っつーのは作るためにあんだろが!!!」

 …というやり取りもあったなあ。最早悪魔の証明よな、ここに悪魔は証明されましたー。
 まあ最終的に認められましたが。お父様の圧力、四天王の口添え、あとグレフィールと契約しているのも大きかったな。


「いえ、恐らくアシュリィ様が城の上半分をふっ飛ばしたことが決め手かと思われます。」

 バラすんじゃねえ、ガイラード。次はお前らの家だ、なんて言ってないからね?
 ちなみに四天王という呼称だが…私がそう言ったらなんか本人達が気に入って、自称するようになった。一気にそれっぽくなったな、魔王と四天王て。「奴は四天王の中でも最も最弱…」とかやってくんないかな。そんなこと言ったら、本当に誰が最強か決めたがるだろうから言わんけど。



 そして私はお父様と四天王にのみ、遡行のことを語った。良いことも、悪いことも…。遡りすぎて前世まで行ったことも。話し終えた私は、ごめんなさいと謝罪した。何に対してなのか自分でもよく分からないが…そうするべきだと思ったから。
 するとお父様は私をぎゅっと抱き締め

「辛かったね、もう大丈夫。……でも、そこまでして僕を助けようとしてくれたんだもんね、感激しちゃうなー。」

 と言ってくれた。後半ふざけたのは、気を使ってくれたんだろうな…普段とは違うもの。アンリエッタもドロシーもその後抱き締めてくれて、ルーデンとガイラードは頭を撫でてくれた。そして前世の世界での話を聞きたがったりしたのだ。
 …未来のことを聞かないのは、その必要が無いからなのかな?例えばお父様の死後、誰が魔王に就任したのか等…。…未来は不確定だっていうことかなあ。


 一緒に来た子供達…パリス、アイル、ララと共に日々を過ごす。3人はいずれ人間の国で暮らす予定だ。もしも魔族の誰かと良い仲になったら話は別だが。
 今3人は私付きの使用人となるべく教育中だ。ここは孤児院じゃないから、何かお仕事はしてもらう必要がある。友人兼従者ってとこか。私は誰かに仕えられる柄じゃないけど…むしろお仕えしたい。また宝塚モードやりたい。
 というか…アイルとララは本当は教会とかに預けるべきだったんだよね、彼らの為にも。パリスは獣憑きだから…偏見の無いこの魔国で心を癒して欲しくて連れてきた。でも2人はただの人間だ。特出した何かがあるわけでも無い、普通の子供。
 強いて言えばララは超可愛いしアイルは頭が良い。そしてパリスの耳と尻尾は殺人兵器だ、主に私に効く。彼らはなんでついて来てくれたんだろう…?
 


「それはもちろん、アシュリィ様が助けてくれたから、ですよ?」

「いや、助けたって…私だけじゃなくて、ベンガルド家の皆さんのお陰なんだけど。」

「それでも。俺達はアシュリィ…様に救われたと思ってい、ます。伯爵様に聞いたけど、別にオークションを最初から捜査する予定とか無かったんでしょう?」

 まあ、確かに。偶然が重なってああなったとも言える。…あのオークションは年に1~2回行われていたらしい。今までに救えなかった人達だっているんだよな…。

「それはアシュリィ様が気にすることじゃない。」

「はい、大人達が悪いんです…アシュリィ様に、背負ってほしくありません。」

「ただそういう人達から見りゃ、救われた俺達は…憎く映るだろうな。」

 …うん。なんで自分達は救ってくれなかったんだって…。ともかく、そういった捜査も王国に任せてある。可能な限り救出して欲しいと。あとは彼らの仕事だ。


「……。」

『どうしたの、パリス?』

『アシュリィさま、これよめない…。』

『あー。これは「唯我独尊」…って、なんじゃこの本?』

 パリスは現在言葉の勉強中である。せめて共用語だけでもマスターしないとね~。結構聞き取れるようにはなってきている。魔国の母国語は一応あるけど、それしか使わないって人はほぼいないんだよなあ。
 今更だが私達は、私の部屋のテラスでお茶中だ。よく仕事の合間にしているのさ。本来なら私もこの国の歴史とかマナーとか学ぶ必要があるんだけど…全部知ってるからいらない。だから魔法の練習したりと自由に過ごしているのだ。


 魔国に来てから季節は巡り、現在は春。気持ちのいい風が頬を撫でる…なんかしたい。





 …よし、花見しよう!残念ながら桜の木は無いが、見頃な花はいっぱいある!城から少し離れた丘にいいスポットがあるんだよね。よし行くぞ今すぐ行くぞ!

「ねえアイルちゃん、アシュリィ様また何か思い付いたみたいだね。」

「そうだな。それよりちゃんはやめろって…。」

 今回は子供チームだけで行くぞ!!他の人がいると、3人共緊張しちゃうんだよね。大分慣れてはきたけどさ。


「よーし、ララは厨房に行って4人分のお弁当用意してもらって!外で食べるから、サンドイッチとかそういう食べやすいやつ!
 アイルは敷物の準備と、お茶とジュースをポットに淹れて!
 パリスは私の支度手伝い!」

 支度なんて1人で出来るけどね。今後はそういう訳にもいくまい、私もそれなりの身分があるので。

 各々仕事をこなして、外出の報告をする。大体いつも四天王の誰かがついているんだけど、今日は来なくていいから!と言っておく。こっそり来るかもしれないけど…3人に気付かれなければいっか。



「じゃ、行ってくるねアンリエッタ。」

「はい、行ってらっしゃいませ。」

 今日は彼女か。リュウオウを呼び出し(グレフィールは私以外を乗せようとしないからダメ)、しゅっぱーつ!!

「「「おー!!」」」





 アシュリィ達が飛び立ったあと。


「アシュリィ様が外出された!陛下のお耳に入らぬよう細心の注意を払え!!」

「アンリエッタ様、すでに手遅れです!!仕事を放り投げついて行く気満々です!!」

「椅子に縛りつけなさい!!アラクネーの糸を使うのよ!!!」

「椅子を破壊されてしまいました!!」

「カルメルタザイトで作られた椅子になさい!!」



 この後四天王総出で抑えつけられるお父様の姿があったとかなかったとか。







「アシュリィ様、この辺ですか?」

「そうそう。そこに敷いて。そしたら皆、靴を脱いで乗って!」

「はい!」

 準備を終え一息つく。いやあ、落ち着くわ。私は横になったりダラダラゴロゴロしているというのに、3人はきっちり正座しておる。これじゃ私が駄目人間みたいじゃん!!


「ちょっと、もうちょい崩して、リラックスリラックス!!」

「で、でも…。」

「花見っつーのはそういうモンなの!日々の煩わしさを忘れ美しい花を愛でながら好きに過ごせばいいの!たまに春風に吹かれることがあるのも風情があります。」


 私の言葉に、ようやっと崩れた。懐かしいなあ、昔日本で花見した時…酔っ払いに絡まれたりジュース買いに行った愛斗が道に迷ったり。突風にさらされてフラついてこけて弁当ぶち撒けたり…。…あら?ロクな思い出が無いぞ??

 美味しいお弁当を食べて少し遊んで…やばい、眠くなってきた。

「ごめん、私寝るー…ラッシュ置いとくから、好きに遊んでいいよ。もしくは一緒に寝る?」

「ね、ます。」

「わたしも!」

「俺は起きてる。勝手にお茶飲んでますから。」

 うーんアイルは責任感が強いというか、男の子だねえ。ちなみに彼は10歳。ララは私と同じで9歳だと言うので、パリスは8歳にした。パリスは最初2人のことも警戒していたが…今は仲良しである。

 そして私達は目を閉じる。程よい気温に風。気持ちいい…ぐう。





 ふと思った。リリー達と…こうしてお花見が出来たらなあ、と。そんなことを考えていたからか…夢に出てきてしまったぞ。

 夢の中では…この世界では見たことのない桜の木の下で。シートの上に食べ物と飲み物を広げて。旦那様とトレイシーとヒュー様とジュリアさんが飲み比べを始めて。何故かハロルドさんが優勝した。
 リリーの肩に蜘蛛が降りてきて…パニックになって裸足で逃げた彼女を私とアシュレイとアルで追い掛けて…。そうしたら、いつか皆で遊んだ秘密の場所、滝のあるところに出た。

 そしてまた4人並んで足をバシャバシャさせて…アシュレイが何か言おうと口を開いたところで…目が覚めた。






「アシュリィ様、嫌な夢でも見たんですか?」

「へ?」

 目の前に、アイルの顔。両側の2人はまだ寝てる…どうやら彼に起こされたようだ。


「……。」

 無言でハンカチを渡された。どうやら私は泣いていたらしい。…寂しがりか!!!

「あー…ごめん、ありがとう。嫌な夢なんかじゃないよ、いい夢だった。…いつか、叶う夢。」

「…そうですか。」

 うん。いつか4人でお花見に行こう。その時は、この3人も一緒に!




 魔国には学校が無い。それぞれ自分の家で勉強するのだ。だから、私は留学すっぞ!!
 少しだけ皆と距離を置くべきだと思ったのと、お父様達と一緒にいたいという考えから私は王国を出た。それに勉強は必要無くても、この国での私の立ち位置を確定する必要はある。それも数年で落ち着くだろう。

 リリー達は、貴族のみ通う寄宿学校に行くはずだ。…いいなあ、いいなあ…!遅れるだろうけど、私も絶対行くからね!!



 ふと空を見上げる。この繋がっている空の下…今頃彼らは何をしているのかな。きっとアシュレイは公爵令息として勉強とか鍛錬で忙しいだろうな。リリーは新しくお友達増えたかな?アルは…フェンリルの子供、アリス(何故この名前にしたのか小一時間ほど問い詰めたい)と仲良くしてるだろうか。

 いつか再会する日を心待ちにしているよ。皆も同じ気持ちだと嬉しいな…。





「…さて、そろそろ2人を起こして帰ろっか。」

「はい。」


 




~一方その頃、ディスター城にて~



「陛下が脱走致しましたーーー!!!」


「げ、もうバレた!!嫌だー!僕もアシュリィとお出掛けする!!!」

「いい歳して何駄々こねていらっしゃるんですか!!」

「たまには子供達だけでゆっくりさせてあげませんと!!」

「………行く!!!仕事は終わらせたんだからいいでしょう!!?」

「普段からそのくらいやる気出してください!!どちらにせよ、今日は駄目です!!」



 
 城では魔王VS一般兵→上級兵→幹部(大臣)→将軍(四天王)という展開が繰り広げられているのであった。


「よし、全員倒した。アシュリィ、今…」

「ただいまー。…何この状況?死屍累々じゃないの…。」

「…手遅れ…か…。」

 その場に倒れる魔王。


「…何があったんだ。」


 私はこの惨状の原因が、魔王が娘と遊びたいが為に城で大暴れした結果だと聞き…お父様に説教した。そして…今度一緒にお出掛けをする約束をしたのであった。


 なんともアホな話だが…ふむ。いつか皆に聞かせてあげようっと!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

【完結】婚約者の母が「息子の子供を妊娠した」と血相変えてやって来た〜私の子供として育てて欲しい?絶対に無理なので婚約破棄させてください!

冬月光輝
恋愛
イースロン伯爵家の令嬢であるシェリルは王族とも懇意にしている公爵家の嫡男であるナッシュから熱烈なアプローチを受けて求婚される。 見た目もよく、王立学園を次席で卒業するほど頭も良い彼は貴族の令嬢たちの憧れの的であったが、何故か浮ついた話は無く縁談も全て断っていたらしいので、シェリルは自分で良いのか不思議に思うが彼の婚約者となることを了承した。 「君のような女性を待っていた。その泣きぼくろも、鼻筋も全て理想だよ」 やたらとシェリルの容姿を褒めるナッシュ。 褒められて悪い気がしなかったが、両家の顔合わせの日、ナッシュの母親デイジーと自分の容姿が似ていることに気付き少しだけ彼女は嫌な予感を抱く。 さらに婚約してひと月が経過した頃……デイジーが血相を変えてシェリルの元を訪ねた。 「ナッシュの子を妊娠した。あなたの子として育ててくれない?」 シェリルは一瞬で婚約破棄して逃げ出すことを決意する。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

処理中です...