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4.エリオ様の訪問
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婚約の告白をされた翌日、エリオ様本人が侍従のマクベス様を連れて、伯爵家に訪れました。
まさか、もう婚約の書類を持って? 早すぎでしょとか思っていましたが。
ひとまず、執事が御二人を談話室に案内している間にお嬢様を呼んで来ましょう。
「急に、尋ねて済まないね。」
「いいえ、茶会でのことでことでしょうか。」
「えぇ、突然あのような場で申し込むことではなかったと反省した次第です。なので、答えは直ぐに頂かなくてもよいので、ゆっくりと考えてください。」
どこかしら、エリオ様が顔を赤らめているようで、目線も少しずらされているような感じです。しかも、お互いに。端から見ていると、会話は冷静ながらもお互いにかなり意識しているのがバレバレで見ているこちらの方が恥ずかしくなりまわね。
横をチラリと見ると、侍従のマクベス様も呆れているのが判ります。実は、マクベス様も平民なのです。ですが、容姿は強面? というか目付きが鋭すぎるというか、黙っていると本当に怖いんですよね、この方。でも、今二人を見て羞恥心を抱いている顔は、ちょっとかわいかったりします。
「分りましたわ。ですが、私には勿体ないお話です。父とも相談させてください。」
「はい。それにしても普段の貴女もまた可愛らしい。」
「え!? ま、またお上手なんだから!」
お嬢様、思わず目を背けてしまいましたね。まぁ、エリオ様のような美丈夫の方に微笑まれた大抵の方はいちころですからね。ふふふっと心の中ではニヤニヤ。
「すみません。花ぐらいは持ってくるべきでした。今日は挨拶までにして、明日また伺わせてもらいます。」
「は、はい。明日は焼き菓子でも用意してお待ちしていますね。」
え!? 焼き菓子、用意するの!? まぁ、いいでしょう。今言った本人が用意するでしょうし。 あっ、私もマクベス様に用意しようかしら。
「本当ですか! 貴方の手作りですか?」
「え、えぇ。 そのぐらいなら出来ますので。」
「明日が楽しみです。 では、また明日、ごきげんよう。」
マクベス様、まったく話しませんでしたね。本当に無口な方です。
ともあれ、明日も侍女にならないといけないわね。流石に毎日になると本当に侍女でいる方が楽かもしれないわ。
あ、お気づきかもしれませんが、今侍女の私がシャリーで、お嬢様がアリーリアですよ。
来ることは予想していたので、変っていたのです。流石に、昨日の今日で元に戻るとバレますから。
「お嬢様、明日も変わるんですか?」
「しょうがないでしょう。直ぐに元に戻ると間違いなく判ってしまいますよ。」
「ですが、私、精神的に持ちそうにないんですけど。」
「どうして? 私は見ていて楽しいけど。」
「いやだって、目の前で愛を囁かれるんですよ。お嬢様のか・わ・り・に!」
流石に少し怒らせてしまったかしらと思いつつ、エリオ様にも困ったものだと考えてしまっていた。アリーも目付きがキツイから、怒ると少し怖いわね。
「明日は、焼き菓子つくるんでしょう?」
「あっ! 思わず言ってましたね。」
「思わずね。私にも作り方教えてよね。元に戻った時に作れなかった困るでしょ。」
ひとまず、冷静に......じゃないか、また顔が赤いわね。
「あと、二週間くらいだと思うわ。」
「そ、そうなんですか?」
「お父様も言っていたけど、学生が卒業して王宮や騎士団やら官庁やらに新たに務める人が増えたり、隠居する人もいるから、人事で忙しくなるみたいなの。」「あ、あと二週間......なんですね。わかりました。」
翌日、二人で焼き菓子づくりを頑張った。と言っても、アリーは私に教えながらで自分の分はさっさと作っていた。頑張って苦戦していたのは私の方だ。
「お嬢様! 小麦粉がダマにならないようにしっかり、優しく混ぜてくださいね。」
「ま、まだ混ぜるの!?」
「はい!舌触りよくするためには必要ですよ。」
くぅ~、こういう拘りを見せた時のアリーには逆らっては駄目なのよ。この子の拘りは、本当に夢中を通り越して、拘りの鬼よ、鬼!
「でも、こんな朝早く作る必要あるの?」
「はい。今作った焼き菓子のタネを少し寝かせるんです。」
「お菓子を寝かせる?」
「混ぜて直ぐ焼くよりも、少し置いた方が美味しくなんですよ。」
「大変なのね。」
お二人はまた、夕方あたりくるから、昼過ぎに焼けばちょうどいいらしい。菓子作り恐るべし。美味しい物には目がないアリーならではの手間暇だと感心してしまう。やっぱり、鬼よ。
今回の焼き菓子は、中にチョコレートを混ぜた生地と普通の生地の二種類を作っていた。それぞれ別々かと思ったら、同じ厚さにして重ねて棒状にし出した。 中心に空洞ができないようにするのが重要らしい。私にはよくわからないけどね。横から見ると二色の渦巻き模様になっていた。
焼き菓子も完成。交代も完了。
昨日と同じ時間にお二人が訪ねて来てくれた。談話室に案内して、お茶と焼き菓子のクッキーを用意した。
「美味しいですね。」
エリオ様が一口召し上がり開口一番にアリーに満面の笑みで微笑みかけています。
「あの、エリオ様が宜しければ、折角ですので、マクベス様もご一緒にどうでしょうか。」
「そうですね。二人も一緒にお茶にしよう。」
マクベス様もいきなりのことで驚いて戸惑っているようです。
「マクベス様、折角御二人からのお誘いですからご一緒させて頂きましょう。」
「侍従と侍女が一緒に良いのでしょうか?」
相変わらずの生真面目さですね。しょうがありません、もう一息押しましょうか。
「私とお嬢様で作ったのです、味見をして下さいませ。あら? もしかして、私達の作ったのものはお口にできないとかでしょうか。」
「いや、そんなことはないのです。 甘い物も大好きですし。」
おや? 意外にも甘い物がお好きなのですね。確かにいつもより目付まで甘い感じに見えますね。それでは参りましょうと少し強引ですが、手を引いてお連れ致しましたよ。
「マクベス様、どうですか?」
「お、美味しいです。チョコのビターな感じとクッキーの甘さが丁度良くて、しかも口に入れると固くなくてほろほろと崩れて口当たりも良いですね。こっちのチョコチップ入りもなかなか甘くて......。」
本当に甘い物が好きなようで、いつもの堅い感じの口調が表情と一緒にほぐれている様に饒舌になってますね。これはアリーにもう少し、菓子作りの手ほどきをしてもらう必要がありそう。あっ、でも本当に美味しいわ、このクッキー。やるわね、流石アリー。
「だろ? マクベス。本当に美味しい。」
「うふふっ、二人で頑張って作ったかいがあったというものです。ね、アリー。」
「本当に美味しくできましたね。お嬢様。」
皆お茶も進み、何時の間にやらお嬢様姿をしたアリーがお茶入れてるし! って私がやらないといけないんじゃないかしら......。マクベス様は、お嬢様姿のアリーからお茶を入れられて、少し驚いているようです。
四人での会話も弾み、学園の頃の話やお二人の仕事の話などで盛り上がりました。お菓子効果恐るべし。やはり、市井で話される通り、男性の胃を掴むべしという格言は、あながち間違いではないようです。
こんな感じで、毎回マドレーヌやら、スコーンやら、シフォンケーキとか、どこまで作る気なの? アリーリア......。御陰で私までお菓子作りが上手になっている始末。久しぶりの拘りのアリー再誕な出来事でした。
そんな感じで二週間が経ち、お父様が仰っていた人事で忙しくなる直前。
「三日後から、暫く忙しくなるからなかなか会いに来れなくなりそうなんだ。」
とうとう、入れ替わりの終わりを告げるだろうと思われる言葉です。ふと、アリーリアを見ると、泣きそうな程、目を潤ませて、俯いて話を聞いていました。これが演技なのか、本当に悲しいのかは、いつも一緒にいる私でも判断が難しいところ。
「明日は、伯爵がお休みだったよね。午前中に少し時間を頂きたいと伝えてもらえないだろうか。」
「はい。伝えておきますわ。でも、明日確か私は、孤児院への訪問日なのですが。」
「あぁ、伯爵に話があるだけだけだし。仕事の合間に寄ることしかできないから。」
アリーは俯いたまま、少し震えるような小声で何とか受け答えをしていた。見ているこちらの方が胸を締め付けられる。『ごめんね。アリー。』と心の中で詫びることしかできなかった。
「父も人事で忙しくなると言っていましたわ。お身体だけは御自愛くださいませ。」
「気を掛けてくれてありがとう。それで、明後日なんだけど、仕事を休みにしたので、お詫びにはならないけど、四人で出かけないか?」
アリーがチラリとこちらを見るので、男性二人には判らないように目で頷き返した。それを見たからか、ホッとしたのか満面の笑みで、エリオ様に「はい。喜んで。」と答えを返していた。
まさか、もう婚約の書類を持って? 早すぎでしょとか思っていましたが。
ひとまず、執事が御二人を談話室に案内している間にお嬢様を呼んで来ましょう。
「急に、尋ねて済まないね。」
「いいえ、茶会でのことでことでしょうか。」
「えぇ、突然あのような場で申し込むことではなかったと反省した次第です。なので、答えは直ぐに頂かなくてもよいので、ゆっくりと考えてください。」
どこかしら、エリオ様が顔を赤らめているようで、目線も少しずらされているような感じです。しかも、お互いに。端から見ていると、会話は冷静ながらもお互いにかなり意識しているのがバレバレで見ているこちらの方が恥ずかしくなりまわね。
横をチラリと見ると、侍従のマクベス様も呆れているのが判ります。実は、マクベス様も平民なのです。ですが、容姿は強面? というか目付きが鋭すぎるというか、黙っていると本当に怖いんですよね、この方。でも、今二人を見て羞恥心を抱いている顔は、ちょっとかわいかったりします。
「分りましたわ。ですが、私には勿体ないお話です。父とも相談させてください。」
「はい。それにしても普段の貴女もまた可愛らしい。」
「え!? ま、またお上手なんだから!」
お嬢様、思わず目を背けてしまいましたね。まぁ、エリオ様のような美丈夫の方に微笑まれた大抵の方はいちころですからね。ふふふっと心の中ではニヤニヤ。
「すみません。花ぐらいは持ってくるべきでした。今日は挨拶までにして、明日また伺わせてもらいます。」
「は、はい。明日は焼き菓子でも用意してお待ちしていますね。」
え!? 焼き菓子、用意するの!? まぁ、いいでしょう。今言った本人が用意するでしょうし。 あっ、私もマクベス様に用意しようかしら。
「本当ですか! 貴方の手作りですか?」
「え、えぇ。 そのぐらいなら出来ますので。」
「明日が楽しみです。 では、また明日、ごきげんよう。」
マクベス様、まったく話しませんでしたね。本当に無口な方です。
ともあれ、明日も侍女にならないといけないわね。流石に毎日になると本当に侍女でいる方が楽かもしれないわ。
あ、お気づきかもしれませんが、今侍女の私がシャリーで、お嬢様がアリーリアですよ。
来ることは予想していたので、変っていたのです。流石に、昨日の今日で元に戻るとバレますから。
「お嬢様、明日も変わるんですか?」
「しょうがないでしょう。直ぐに元に戻ると間違いなく判ってしまいますよ。」
「ですが、私、精神的に持ちそうにないんですけど。」
「どうして? 私は見ていて楽しいけど。」
「いやだって、目の前で愛を囁かれるんですよ。お嬢様のか・わ・り・に!」
流石に少し怒らせてしまったかしらと思いつつ、エリオ様にも困ったものだと考えてしまっていた。アリーも目付きがキツイから、怒ると少し怖いわね。
「明日は、焼き菓子つくるんでしょう?」
「あっ! 思わず言ってましたね。」
「思わずね。私にも作り方教えてよね。元に戻った時に作れなかった困るでしょ。」
ひとまず、冷静に......じゃないか、また顔が赤いわね。
「あと、二週間くらいだと思うわ。」
「そ、そうなんですか?」
「お父様も言っていたけど、学生が卒業して王宮や騎士団やら官庁やらに新たに務める人が増えたり、隠居する人もいるから、人事で忙しくなるみたいなの。」「あ、あと二週間......なんですね。わかりました。」
翌日、二人で焼き菓子づくりを頑張った。と言っても、アリーは私に教えながらで自分の分はさっさと作っていた。頑張って苦戦していたのは私の方だ。
「お嬢様! 小麦粉がダマにならないようにしっかり、優しく混ぜてくださいね。」
「ま、まだ混ぜるの!?」
「はい!舌触りよくするためには必要ですよ。」
くぅ~、こういう拘りを見せた時のアリーには逆らっては駄目なのよ。この子の拘りは、本当に夢中を通り越して、拘りの鬼よ、鬼!
「でも、こんな朝早く作る必要あるの?」
「はい。今作った焼き菓子のタネを少し寝かせるんです。」
「お菓子を寝かせる?」
「混ぜて直ぐ焼くよりも、少し置いた方が美味しくなんですよ。」
「大変なのね。」
お二人はまた、夕方あたりくるから、昼過ぎに焼けばちょうどいいらしい。菓子作り恐るべし。美味しい物には目がないアリーならではの手間暇だと感心してしまう。やっぱり、鬼よ。
今回の焼き菓子は、中にチョコレートを混ぜた生地と普通の生地の二種類を作っていた。それぞれ別々かと思ったら、同じ厚さにして重ねて棒状にし出した。 中心に空洞ができないようにするのが重要らしい。私にはよくわからないけどね。横から見ると二色の渦巻き模様になっていた。
焼き菓子も完成。交代も完了。
昨日と同じ時間にお二人が訪ねて来てくれた。談話室に案内して、お茶と焼き菓子のクッキーを用意した。
「美味しいですね。」
エリオ様が一口召し上がり開口一番にアリーに満面の笑みで微笑みかけています。
「あの、エリオ様が宜しければ、折角ですので、マクベス様もご一緒にどうでしょうか。」
「そうですね。二人も一緒にお茶にしよう。」
マクベス様もいきなりのことで驚いて戸惑っているようです。
「マクベス様、折角御二人からのお誘いですからご一緒させて頂きましょう。」
「侍従と侍女が一緒に良いのでしょうか?」
相変わらずの生真面目さですね。しょうがありません、もう一息押しましょうか。
「私とお嬢様で作ったのです、味見をして下さいませ。あら? もしかして、私達の作ったのものはお口にできないとかでしょうか。」
「いや、そんなことはないのです。 甘い物も大好きですし。」
おや? 意外にも甘い物がお好きなのですね。確かにいつもより目付まで甘い感じに見えますね。それでは参りましょうと少し強引ですが、手を引いてお連れ致しましたよ。
「マクベス様、どうですか?」
「お、美味しいです。チョコのビターな感じとクッキーの甘さが丁度良くて、しかも口に入れると固くなくてほろほろと崩れて口当たりも良いですね。こっちのチョコチップ入りもなかなか甘くて......。」
本当に甘い物が好きなようで、いつもの堅い感じの口調が表情と一緒にほぐれている様に饒舌になってますね。これはアリーにもう少し、菓子作りの手ほどきをしてもらう必要がありそう。あっ、でも本当に美味しいわ、このクッキー。やるわね、流石アリー。
「だろ? マクベス。本当に美味しい。」
「うふふっ、二人で頑張って作ったかいがあったというものです。ね、アリー。」
「本当に美味しくできましたね。お嬢様。」
皆お茶も進み、何時の間にやらお嬢様姿をしたアリーがお茶入れてるし! って私がやらないといけないんじゃないかしら......。マクベス様は、お嬢様姿のアリーからお茶を入れられて、少し驚いているようです。
四人での会話も弾み、学園の頃の話やお二人の仕事の話などで盛り上がりました。お菓子効果恐るべし。やはり、市井で話される通り、男性の胃を掴むべしという格言は、あながち間違いではないようです。
こんな感じで、毎回マドレーヌやら、スコーンやら、シフォンケーキとか、どこまで作る気なの? アリーリア......。御陰で私までお菓子作りが上手になっている始末。久しぶりの拘りのアリー再誕な出来事でした。
そんな感じで二週間が経ち、お父様が仰っていた人事で忙しくなる直前。
「三日後から、暫く忙しくなるからなかなか会いに来れなくなりそうなんだ。」
とうとう、入れ替わりの終わりを告げるだろうと思われる言葉です。ふと、アリーリアを見ると、泣きそうな程、目を潤ませて、俯いて話を聞いていました。これが演技なのか、本当に悲しいのかは、いつも一緒にいる私でも判断が難しいところ。
「明日は、伯爵がお休みだったよね。午前中に少し時間を頂きたいと伝えてもらえないだろうか。」
「はい。伝えておきますわ。でも、明日確か私は、孤児院への訪問日なのですが。」
「あぁ、伯爵に話があるだけだけだし。仕事の合間に寄ることしかできないから。」
アリーは俯いたまま、少し震えるような小声で何とか受け答えをしていた。見ているこちらの方が胸を締め付けられる。『ごめんね。アリー。』と心の中で詫びることしかできなかった。
「父も人事で忙しくなると言っていましたわ。お身体だけは御自愛くださいませ。」
「気を掛けてくれてありがとう。それで、明後日なんだけど、仕事を休みにしたので、お詫びにはならないけど、四人で出かけないか?」
アリーがチラリとこちらを見るので、男性二人には判らないように目で頷き返した。それを見たからか、ホッとしたのか満面の笑みで、エリオ様に「はい。喜んで。」と答えを返していた。
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