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最終章 どうやらヘレシーは【道徳否定】のようです。
殴り合い
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始まりなんてよく覚えていない。
我らは前世の記憶を持ち続けて生きてきた。いや、毎回毎回捨てられなかった。その度に人格は増えていった。それでもあの日のことは懸命に覚えている。
あの日、我は知った。当たり前のことが当たり前ではない。生まれたときからの光景が一般的ではなかった。
その時から我らの苦しみは始まったのだろうか。善も悪もない世界。欲望のままに暮らせる世界を夢見たのは……。
欲望のままに生きれなかったからだろうか。
あの日、幼き6才の我が見たのは他人の家の親と子が我らには想像もできない暮らしを送っていたことだ。どの家の犬でさえも、我が親よりよき暮らしをしていた。
だからこそ、騙者の枠に座れたのだと思うと今ではありがたい一生である。
───────────
気分が優れている。重力に縛られないほど体が軽い。人間の時とは違う。何もかも感じるものすべてが違う。
だから、気持ち悪い。気分が悪い。
まだこの状態に慣れていない。俺の中身が何十にもあふれでてきそうだ。
自分が死に生き続けるというのも、よいものではなかった。人が神の身になるのは好まれないのも理解できる。
しかし、こうでもならない限りは俺はエルタに勝つことはできないので仕方がないと言えば仕方がないのだが。
俺にはエルタを倒すための理由が今となっては薄くなっている。
「くっ………?」
「っあっ!?」
こうして、お互いに武術の試合のように殴りあっている最中ではあるが……。
あいつの善悪のない欲望が解放された世界もアリなのではないかと思えてしまう。
人間がどうなったところでどちらでもよく感じてしまう。結局、欲望のままに生きることが幸せなのではないか?
誰を殺しても責められず、何をしても咎められない。
弱肉強食。それこそ自然界ではないのだろうか。
善悪は人間としての考えのみで、他の生物には存在していない。
他の生物には地獄も天国も存在していないのではないか?
人間も生命だ。動物と変わらない生きる物だ。
人間と動物を分けるなんて不公平ではないのか?
人間をやめた。だからこそ、俺はそう思っている。
だが、俺はそれを止めようと思ったのだ。だからこそ、動いている。
過去の俺が……こうなる前の俺がそう思ったのだ。
今の神としての主観なんてどうでもいい。
ただ、止めたいから止める。
そこに慈悲や正義感などの感情があるわけではない。
俺は奴を止めるという欲望のままに動いているのだ。
最終決戦なんて言葉が似合うような戦いではなかったのかもしれない。
今までの全てを絞り出すような美しい戦いなんてなかった。
殴り合い。殴り合い。殴り合っている。
相手をどうやって自分よりも弱らせようかという戦い。
顔に、腹部に、足に……。お互いの拳がぶつかり合う。
生存を賭けた血みどろの殴り合いの方がまだ綺麗なのかもしれない。
俺にしかあいつを殺せないし、あいつにしか俺は殺せない。
だからこそ、俺とエルタは相反している。
始まりは単純に体格差であった。
俺の方が前に出すための足の長さが足りなかっただけ。
スピードは互角でも距離はさすがに同等ではなかった。
いち早く、奴の拳が胸元に放たれる。
「ぐぐ……?」
衝撃が体を走り、内臓が破損。
しかし、その傷もすぐに回復し、俺はエルタに向かって一撃を放とうと拳を前に出したのだが。
視界にはすでにエルタの姿がなかった。
そして、左脇腹にエルタの拳が放たれる。
今度は肋骨が持っていかれた!!
そういえば、エルタはありとあらゆる魔法を使っていた。完全復活する前からあいつは魔法を使って戦っていた。
だから、先程までの意識操作や瞬間移動を行えていたのだ。
魔法の使えない俺としては不利。
神になっても自分の力をあまり理解できていないところが足を引っ張っている。
せめて、俺の能力くらいは把握しておかなければならないのに……。
このままでは、すぐにまたエルタの拳が飛んでくる。
それはすぐであった。
エルタは俺の肋骨を折ったのを確認すると、すぐに再び第2撃を放ってくる。
今度は腹だ。
先程、俺の腹を貫通させやがったのに、再び狙ってくるのか。
いくら、無限に再生することが出来るからって、体力も使うし、痛みくらいは感じる。
完全に避けなければならない。
だが、それはチャンスであった。
エルタの攻撃してくる箇所が分かっている。
だったら、その攻撃を邪魔すればいいのだ。
俺は足を使っておもいっきりエルタの足に蹴りをいれる。
片足に力をいれてしゃがむ体勢で放ってきた拳だ。
エルタの体は一瞬ゆらぎ拳の軌道が少し揺れる。
その隙に、俺は手になにもない状態の拳を放つ。先程までは鍵を握っていたままの拳であるが、今はその鍵は肉体に刺さって開門しているため、手が軽い。もう仕留めたいと言わんばかりの殺意と気合いを込めて、俺はそのままエルタの頭に向かっておもいっきり拳を放った。
ビリッと電流のような痛みのない衝撃が俺の腕を走る。
不幸にもエルタの頭が殴り飛んで、宙を舞うようなことはなかった。この一撃で勝敗が決まれば楽だった。
いや、それでも、首だけが宙を舞うなんて不気味な光景を見るつもりもなかったから良かったのかもしれない。
俺の放った拳はエルタの頬に当たった。そして、首は繋がったまま体が殴り飛ばされた。
橋の一部が凹むほどの重い一撃を受けたエルタはなかなか起き上がらない。
「……!? なッ……なに?
体が………鎖骨か。く……クソッ!!!」
体が痙攣を起こしているのだろうか。起き上がろうとしても、すぐに地面に倒れる。
エルタはすぐには起き上がってこない。
20秒後。きつそうにダルそうにゆっくりと起き上がった。
「貴様……厄介だな。相手が一人だと侮っていたわけか。何倍だろうな?
まぁ、いい。お前にとっては良いハンデだ。」
訳のわからないことをエルタは呟く。
何倍……?
同じものが多くある事。俺は今一人のはず……。
いや、エルタの言っていることは正しかったようだ。
ルイトボルトは平行世界を造り出す。数多くの平行世界を造り出す。
その平行世界にはもちろん俺がいる。
俺に協力してくれる俺はたくさんいる。
「……平行世界の俺達全員の威力を合わせているのか?」
合体技。平行世界を繋いだ合体技。
もちろん、この知識を俺が推理したわけではない。こんな証拠も少ない推理など見せられても疑うしかないはずだ。
ルイトボルトの知識として理解しているのだろうか。学んだこともない情報が脳にある。
ルイトボルトは受け継がれていく神。
1人に先人の神が受け継がれて、次世代の神になる。文字通り、先人の知恵というやつか。
これにも確証はない。
うっすらとしか分からない俺じゃない奴の記憶だ。過去のルイトボルトの能力の中から似ているやつを探しだして当てはめただけ。
個人差があるルイトボルトの能力の中から似ているのを見つけただけ。
実際には違うかもしれない。
だが、先程蹴り飛ばした時も、殴り飛ばした今も一人分では出ない威力だった。
羽化前が不死身の能力だと思い込んでいたのも、ただ当てはめただけなのかもしれない。
不死身の能力として認識していただけで、本当は限度があったのかもしれない。
俺は実際には何度も死んでいてストックが減っていただけなのかもしれない。
平行世界のすべての俺が死ねば生き返ることはなかったのかもしれない。
ただ、分かったことが1つだけある。確かなことだけが1つだけある。
俺の命も戦闘能力も、平行世界分倍になっている。あのビリッとした感覚がもう一度、いや使いこなせるようになれば相当楽に戦える。
しかし、この力……ありがたく使わせてもらえるのであれば本当にありがたい。
「────さぁ、こいよ。エルタ!!!」
「ああ、もちろん。そんなもの慣れれば問題などないのだ!!!!」
そう言って、飛びかかってくるエルタ。
奴の拳をギリギリで避け、もう一度先程の攻撃を行おうとしたのだが。
エルタの回し蹴りが俺の頭に直接当たる。
視界がグラッとずれる。奴は俺に攻撃をさせようとせず、その隙を与えようとはしてくれない。
蹴りに耐えつつ、意識をしっかりと持っていたのだが、今度は腹に向かって拳を放たれる。
「ググッ………!?」
少し後ろに2歩下がって呼吸を整えなければ……。
そう考えて足を動かしたその時。
「フンッーー!!!」
顔面に向かってエルタは勢いよく拳を振るってきた。
そして、さらに宙に浮きかけた体に向かってさらに追い討ちのように3発の追撃を俺に向かって放つ。
俺の体は円を描くように飛び、橋の上に激突。
そのまま、ゴロゴロと受け身をとるのも忘れて転がり、橋から落ちそうになる寸前で止まった。
「カッ…………ガハッ……!?」
口から血を吐く。
衝撃波だけでも心臓が止まりそうな一撃を3発もくらったのだ。
神化しても、攻撃が効くとは……。
そう思ったが目立った外傷がないだけマシなのかもしれない。
体内だけ負傷している。それも時間が経てば治る。
しかし、ここで負傷を治すために休憩をしている暇はない。
次の一撃に備えて、エルタの姿を目で追おうとしたのだが……。
次の瞬間に目の前に映ったのは、巨大な漁船が橋に向かって投げとんできた光景であった。
我らは前世の記憶を持ち続けて生きてきた。いや、毎回毎回捨てられなかった。その度に人格は増えていった。それでもあの日のことは懸命に覚えている。
あの日、我は知った。当たり前のことが当たり前ではない。生まれたときからの光景が一般的ではなかった。
その時から我らの苦しみは始まったのだろうか。善も悪もない世界。欲望のままに暮らせる世界を夢見たのは……。
欲望のままに生きれなかったからだろうか。
あの日、幼き6才の我が見たのは他人の家の親と子が我らには想像もできない暮らしを送っていたことだ。どの家の犬でさえも、我が親よりよき暮らしをしていた。
だからこそ、騙者の枠に座れたのだと思うと今ではありがたい一生である。
───────────
気分が優れている。重力に縛られないほど体が軽い。人間の時とは違う。何もかも感じるものすべてが違う。
だから、気持ち悪い。気分が悪い。
まだこの状態に慣れていない。俺の中身が何十にもあふれでてきそうだ。
自分が死に生き続けるというのも、よいものではなかった。人が神の身になるのは好まれないのも理解できる。
しかし、こうでもならない限りは俺はエルタに勝つことはできないので仕方がないと言えば仕方がないのだが。
俺にはエルタを倒すための理由が今となっては薄くなっている。
「くっ………?」
「っあっ!?」
こうして、お互いに武術の試合のように殴りあっている最中ではあるが……。
あいつの善悪のない欲望が解放された世界もアリなのではないかと思えてしまう。
人間がどうなったところでどちらでもよく感じてしまう。結局、欲望のままに生きることが幸せなのではないか?
誰を殺しても責められず、何をしても咎められない。
弱肉強食。それこそ自然界ではないのだろうか。
善悪は人間としての考えのみで、他の生物には存在していない。
他の生物には地獄も天国も存在していないのではないか?
人間も生命だ。動物と変わらない生きる物だ。
人間と動物を分けるなんて不公平ではないのか?
人間をやめた。だからこそ、俺はそう思っている。
だが、俺はそれを止めようと思ったのだ。だからこそ、動いている。
過去の俺が……こうなる前の俺がそう思ったのだ。
今の神としての主観なんてどうでもいい。
ただ、止めたいから止める。
そこに慈悲や正義感などの感情があるわけではない。
俺は奴を止めるという欲望のままに動いているのだ。
最終決戦なんて言葉が似合うような戦いではなかったのかもしれない。
今までの全てを絞り出すような美しい戦いなんてなかった。
殴り合い。殴り合い。殴り合っている。
相手をどうやって自分よりも弱らせようかという戦い。
顔に、腹部に、足に……。お互いの拳がぶつかり合う。
生存を賭けた血みどろの殴り合いの方がまだ綺麗なのかもしれない。
俺にしかあいつを殺せないし、あいつにしか俺は殺せない。
だからこそ、俺とエルタは相反している。
始まりは単純に体格差であった。
俺の方が前に出すための足の長さが足りなかっただけ。
スピードは互角でも距離はさすがに同等ではなかった。
いち早く、奴の拳が胸元に放たれる。
「ぐぐ……?」
衝撃が体を走り、内臓が破損。
しかし、その傷もすぐに回復し、俺はエルタに向かって一撃を放とうと拳を前に出したのだが。
視界にはすでにエルタの姿がなかった。
そして、左脇腹にエルタの拳が放たれる。
今度は肋骨が持っていかれた!!
そういえば、エルタはありとあらゆる魔法を使っていた。完全復活する前からあいつは魔法を使って戦っていた。
だから、先程までの意識操作や瞬間移動を行えていたのだ。
魔法の使えない俺としては不利。
神になっても自分の力をあまり理解できていないところが足を引っ張っている。
せめて、俺の能力くらいは把握しておかなければならないのに……。
このままでは、すぐにまたエルタの拳が飛んでくる。
それはすぐであった。
エルタは俺の肋骨を折ったのを確認すると、すぐに再び第2撃を放ってくる。
今度は腹だ。
先程、俺の腹を貫通させやがったのに、再び狙ってくるのか。
いくら、無限に再生することが出来るからって、体力も使うし、痛みくらいは感じる。
完全に避けなければならない。
だが、それはチャンスであった。
エルタの攻撃してくる箇所が分かっている。
だったら、その攻撃を邪魔すればいいのだ。
俺は足を使っておもいっきりエルタの足に蹴りをいれる。
片足に力をいれてしゃがむ体勢で放ってきた拳だ。
エルタの体は一瞬ゆらぎ拳の軌道が少し揺れる。
その隙に、俺は手になにもない状態の拳を放つ。先程までは鍵を握っていたままの拳であるが、今はその鍵は肉体に刺さって開門しているため、手が軽い。もう仕留めたいと言わんばかりの殺意と気合いを込めて、俺はそのままエルタの頭に向かっておもいっきり拳を放った。
ビリッと電流のような痛みのない衝撃が俺の腕を走る。
不幸にもエルタの頭が殴り飛んで、宙を舞うようなことはなかった。この一撃で勝敗が決まれば楽だった。
いや、それでも、首だけが宙を舞うなんて不気味な光景を見るつもりもなかったから良かったのかもしれない。
俺の放った拳はエルタの頬に当たった。そして、首は繋がったまま体が殴り飛ばされた。
橋の一部が凹むほどの重い一撃を受けたエルタはなかなか起き上がらない。
「……!? なッ……なに?
体が………鎖骨か。く……クソッ!!!」
体が痙攣を起こしているのだろうか。起き上がろうとしても、すぐに地面に倒れる。
エルタはすぐには起き上がってこない。
20秒後。きつそうにダルそうにゆっくりと起き上がった。
「貴様……厄介だな。相手が一人だと侮っていたわけか。何倍だろうな?
まぁ、いい。お前にとっては良いハンデだ。」
訳のわからないことをエルタは呟く。
何倍……?
同じものが多くある事。俺は今一人のはず……。
いや、エルタの言っていることは正しかったようだ。
ルイトボルトは平行世界を造り出す。数多くの平行世界を造り出す。
その平行世界にはもちろん俺がいる。
俺に協力してくれる俺はたくさんいる。
「……平行世界の俺達全員の威力を合わせているのか?」
合体技。平行世界を繋いだ合体技。
もちろん、この知識を俺が推理したわけではない。こんな証拠も少ない推理など見せられても疑うしかないはずだ。
ルイトボルトの知識として理解しているのだろうか。学んだこともない情報が脳にある。
ルイトボルトは受け継がれていく神。
1人に先人の神が受け継がれて、次世代の神になる。文字通り、先人の知恵というやつか。
これにも確証はない。
うっすらとしか分からない俺じゃない奴の記憶だ。過去のルイトボルトの能力の中から似ているやつを探しだして当てはめただけ。
個人差があるルイトボルトの能力の中から似ているのを見つけただけ。
実際には違うかもしれない。
だが、先程蹴り飛ばした時も、殴り飛ばした今も一人分では出ない威力だった。
羽化前が不死身の能力だと思い込んでいたのも、ただ当てはめただけなのかもしれない。
不死身の能力として認識していただけで、本当は限度があったのかもしれない。
俺は実際には何度も死んでいてストックが減っていただけなのかもしれない。
平行世界のすべての俺が死ねば生き返ることはなかったのかもしれない。
ただ、分かったことが1つだけある。確かなことだけが1つだけある。
俺の命も戦闘能力も、平行世界分倍になっている。あのビリッとした感覚がもう一度、いや使いこなせるようになれば相当楽に戦える。
しかし、この力……ありがたく使わせてもらえるのであれば本当にありがたい。
「────さぁ、こいよ。エルタ!!!」
「ああ、もちろん。そんなもの慣れれば問題などないのだ!!!!」
そう言って、飛びかかってくるエルタ。
奴の拳をギリギリで避け、もう一度先程の攻撃を行おうとしたのだが。
エルタの回し蹴りが俺の頭に直接当たる。
視界がグラッとずれる。奴は俺に攻撃をさせようとせず、その隙を与えようとはしてくれない。
蹴りに耐えつつ、意識をしっかりと持っていたのだが、今度は腹に向かって拳を放たれる。
「ググッ………!?」
少し後ろに2歩下がって呼吸を整えなければ……。
そう考えて足を動かしたその時。
「フンッーー!!!」
顔面に向かってエルタは勢いよく拳を振るってきた。
そして、さらに宙に浮きかけた体に向かってさらに追い討ちのように3発の追撃を俺に向かって放つ。
俺の体は円を描くように飛び、橋の上に激突。
そのまま、ゴロゴロと受け身をとるのも忘れて転がり、橋から落ちそうになる寸前で止まった。
「カッ…………ガハッ……!?」
口から血を吐く。
衝撃波だけでも心臓が止まりそうな一撃を3発もくらったのだ。
神化しても、攻撃が効くとは……。
そう思ったが目立った外傷がないだけマシなのかもしれない。
体内だけ負傷している。それも時間が経てば治る。
しかし、ここで負傷を治すために休憩をしている暇はない。
次の一撃に備えて、エルタの姿を目で追おうとしたのだが……。
次の瞬間に目の前に映ったのは、巨大な漁船が橋に向かって投げとんできた光景であった。
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