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第17章 どうやら魔王は兄妹のようです。
魔法の妹
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最初から警戒するべきことだった。
最初から妖魔王は武器を持っていなかったのだ。それを近距離でなら大丈夫だと判断していたのだ。そこで妖魔王は遠距離で戦うと判断できたはず。
たとえ、切断の射程距離内にいなくても、妖魔王には遠距離攻撃手段があるじゃないか。
骨を切断されて俺の集中力が切れていたのだろう。そこまで考えが至らなかったのは反省点だ。
骨も集中力も切ってしまうとは妖魔王め。なんて、恐ろしい奴なのだろう!!
しかし、今さら愚痴を言っている暇はない。
魔王の妹が遠距離攻撃担当だということは、離れていても攻撃をくらう恐れがある。
金剛戦の時に小銭も大量に使用してしまったし、味方が颯爽と現れる展開もない。
金剛から貰った小銭の束を使用するか……?
そうやって妖魔王との戦いをどうやって乗りきろうかと考えていた時。
「『刀罪林(とうざいりん)』」
妖魔王から一直線に俺のいる方向へと剣の竹がグサグサと竹の子のように生えてくる。
魔王の妹が魔法攻撃を放ったのだ。
それをあわてて避ける。そして、俺はそのまま地面に転んでしまった。
けれど、先程まで俺が立っていた場所は既に刃の草原と化しており、15cmほどの長さであらゆる方向に向かって生えている。
あれに突き刺さっていたらと思うとゾッとしてしまう。
剣の林はそのまま壁まで一直線に生えていくと、何事もなかったように消え去った。
正直、ホッとする。あのまま生えていたら移動の邪魔でしかない。
攻撃を避けながら二次災害でもくらったらたまったもんじゃない。
しかし、幸運にもこれで妖魔王の特徴が分かった。
妖魔王の兄の方は付喪神の能力による切断。
妖魔王の妹の方はさまざまな魔法による攻撃。
遠距離でも近距離でも対応できるまさに魔王といったところだ。
それでも、それが分かったからと言って、妖魔王からの攻撃がなんとかなるわけではない。
「『命呼従(めいこじゅう)』」
新たに妖魔王は魔法を唱える。地面に手のひらを乗せて、彼女はその技の名を口にする。
すると、彼女の周囲に魔方陣が浮かび上がり、その中から血に飢えた異形の怪物たちが現れた。
大きさはさまざまで、歴史書に載っている悪魔のような72の怪物たち。竜や蛸や犬や獅子や兎や鼠。原型は留めていないが、それらしき怪物たちが召喚されたのだ。異形のモンスターの目はみんなまっすぐに俺だけを見ている。血に飢えた猛獣のような瞳で俺を狙っている。
「こんな数……どうしろって言うんだよ」
嘘だ。冗談じゃない。
俺が万全の体勢であってもこの数を相手に勝てる気がしない。
しかも後ろには妖魔王がいる。この獣たちを討伐しきっても、妖魔王に挑む体力があるかどうか。
「「お前たち、殺すなよ?」」
妖魔王からのモンスターたちへの命令。
トドメは妖魔王自身が刺すつもりなのだろう。異形の怪物に襲われても命を奪われるわけではない。
迫り来る異形の怪物たち。対してこちらは負傷中の人間。
床に這いつくばっている俺には奴らの迫ってくる足音が聞こえた。
この状況で殺されはしないことが分かっていても、やはり恐怖は消えない。
逃げなきゃ離れなきゃ逃れなきゃ。
必死にその場から移動しようと体を動かす。
足や手が震えてうまく立てない。這うしかない。
しかし奴らにとってはエサがモゾモゾと動いているような物。
小さく大きい怪物たちがすれ違い様に俺の肉を死なない程度に奪っていくのだろう。
怪物たちからすれば、今殺さなければよいのだ。どうせ死ぬ寸前といくところまで肉を食えればそれでいい。
───こんなのムリゲー過ぎる。
やっぱり金剛に貰った小銭の束を使うか?
いや、それだけだと足りない。
異形の怪物たちを討伐できても、妖魔王にたどり着けなかったらおしまいだ。
異形の怪物たちは妖魔王によって召喚されたのだ。
そいつらをどうしたって妖魔王には何にもない。
異形の怪物たちはもう目の前に迫っている。
もう何もできない…………………。
嵐は過ぎ去った。来てしまった。
異形の怪物たちは俺を殺さないように丁寧に喰らって一口で去っていった。
それでもあれだけの数の怪物たちに喰われたのだ。
俺の体は穴の空いたチーズのようにポコポコと……いやグジャグジャと赤く黒く染まっていた。
喰われながらも悲鳴を叫びすぎたせいか。声をあげることができない。地獄だった。必死に叫んでも暴れても誰も助けに来てはくれない。
生きたまま、いろんな怪物が俺の肉を喰い漁っていったのだ。
右目は取られた。腹は裂かれた。足は細切。
血が出てくる。そこを集中的に喰らっていった。内部の方が美味しいのだろうか。
内蔵も半分以上持っていかれた。
臓物…………さようなら俺の臓物。
幸いにもこうして考えられているのは頭を喰われなかったからだ。あと鍵を握っていた手は喰われなかった。
今もこうして生きているのが自分でも驚きだ。
いや、こうして生きているというよりはもう死ぬ。
人間として生きるための血液や内臓などを半分以上喰われてしまったからだ。
死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。
これ以上の地獄を味わうことはもう無いのだろう。
妖魔王自らが手をくだすこともなく俺は死ぬ。
そもそも、金剛との決戦後に既に考えておくべき内容だった。
金剛より強い敵が備えているのに、小銭の枚数が足りなくならないわけがない。
勝てるわけもない。
初めから俺には鍵と小銭の束しかないのだ。
圧倒的だった。こんなに早く負けるとは思ってもいなかった。
なぜ、黒は俺を置いていってしまったのだろう。
消える前にお金でも借りておけばよかった。
それでも、俺に何ができた?
こうして、瞬殺されることくらいしかできなかった俺に何を求めた。
あいつは…………何を根拠に俺が負けないと言ってくれたのか。
しかし、結果はこれだ。
こうして俺は今も死にそうだ。
切断・転倒・食事。
この3手だけで殺された。
「「はぁ、やっぱり脆いね」」
妖魔王はこんな姿の俺に呆れている。
無茶だ。72体も怪物を召喚されて、72対1で戦わされたら誰だって分かる。
数の暴力だ。そんなのを相手にするなんて無理だ。
「「これじゃあ、もうダメだね。まったく、最後まで鍵だけは握ってさ。強情な奴だ。諦めの悪い奴だ。でも、これでルイトボルトはこの世界にもういない。
ヘレシーは任せて最後の君はゆっくりと眠るがいい。さようなら」」
ヘレシー……? なんだそれ?
なんの名前だ。
薄れていく。意識が薄れていく。
俺の人生で3度目の死だった。
最初から妖魔王は武器を持っていなかったのだ。それを近距離でなら大丈夫だと判断していたのだ。そこで妖魔王は遠距離で戦うと判断できたはず。
たとえ、切断の射程距離内にいなくても、妖魔王には遠距離攻撃手段があるじゃないか。
骨を切断されて俺の集中力が切れていたのだろう。そこまで考えが至らなかったのは反省点だ。
骨も集中力も切ってしまうとは妖魔王め。なんて、恐ろしい奴なのだろう!!
しかし、今さら愚痴を言っている暇はない。
魔王の妹が遠距離攻撃担当だということは、離れていても攻撃をくらう恐れがある。
金剛戦の時に小銭も大量に使用してしまったし、味方が颯爽と現れる展開もない。
金剛から貰った小銭の束を使用するか……?
そうやって妖魔王との戦いをどうやって乗りきろうかと考えていた時。
「『刀罪林(とうざいりん)』」
妖魔王から一直線に俺のいる方向へと剣の竹がグサグサと竹の子のように生えてくる。
魔王の妹が魔法攻撃を放ったのだ。
それをあわてて避ける。そして、俺はそのまま地面に転んでしまった。
けれど、先程まで俺が立っていた場所は既に刃の草原と化しており、15cmほどの長さであらゆる方向に向かって生えている。
あれに突き刺さっていたらと思うとゾッとしてしまう。
剣の林はそのまま壁まで一直線に生えていくと、何事もなかったように消え去った。
正直、ホッとする。あのまま生えていたら移動の邪魔でしかない。
攻撃を避けながら二次災害でもくらったらたまったもんじゃない。
しかし、幸運にもこれで妖魔王の特徴が分かった。
妖魔王の兄の方は付喪神の能力による切断。
妖魔王の妹の方はさまざまな魔法による攻撃。
遠距離でも近距離でも対応できるまさに魔王といったところだ。
それでも、それが分かったからと言って、妖魔王からの攻撃がなんとかなるわけではない。
「『命呼従(めいこじゅう)』」
新たに妖魔王は魔法を唱える。地面に手のひらを乗せて、彼女はその技の名を口にする。
すると、彼女の周囲に魔方陣が浮かび上がり、その中から血に飢えた異形の怪物たちが現れた。
大きさはさまざまで、歴史書に載っている悪魔のような72の怪物たち。竜や蛸や犬や獅子や兎や鼠。原型は留めていないが、それらしき怪物たちが召喚されたのだ。異形のモンスターの目はみんなまっすぐに俺だけを見ている。血に飢えた猛獣のような瞳で俺を狙っている。
「こんな数……どうしろって言うんだよ」
嘘だ。冗談じゃない。
俺が万全の体勢であってもこの数を相手に勝てる気がしない。
しかも後ろには妖魔王がいる。この獣たちを討伐しきっても、妖魔王に挑む体力があるかどうか。
「「お前たち、殺すなよ?」」
妖魔王からのモンスターたちへの命令。
トドメは妖魔王自身が刺すつもりなのだろう。異形の怪物に襲われても命を奪われるわけではない。
迫り来る異形の怪物たち。対してこちらは負傷中の人間。
床に這いつくばっている俺には奴らの迫ってくる足音が聞こえた。
この状況で殺されはしないことが分かっていても、やはり恐怖は消えない。
逃げなきゃ離れなきゃ逃れなきゃ。
必死にその場から移動しようと体を動かす。
足や手が震えてうまく立てない。這うしかない。
しかし奴らにとってはエサがモゾモゾと動いているような物。
小さく大きい怪物たちがすれ違い様に俺の肉を死なない程度に奪っていくのだろう。
怪物たちからすれば、今殺さなければよいのだ。どうせ死ぬ寸前といくところまで肉を食えればそれでいい。
───こんなのムリゲー過ぎる。
やっぱり金剛に貰った小銭の束を使うか?
いや、それだけだと足りない。
異形の怪物たちを討伐できても、妖魔王にたどり着けなかったらおしまいだ。
異形の怪物たちは妖魔王によって召喚されたのだ。
そいつらをどうしたって妖魔王には何にもない。
異形の怪物たちはもう目の前に迫っている。
もう何もできない…………………。
嵐は過ぎ去った。来てしまった。
異形の怪物たちは俺を殺さないように丁寧に喰らって一口で去っていった。
それでもあれだけの数の怪物たちに喰われたのだ。
俺の体は穴の空いたチーズのようにポコポコと……いやグジャグジャと赤く黒く染まっていた。
喰われながらも悲鳴を叫びすぎたせいか。声をあげることができない。地獄だった。必死に叫んでも暴れても誰も助けに来てはくれない。
生きたまま、いろんな怪物が俺の肉を喰い漁っていったのだ。
右目は取られた。腹は裂かれた。足は細切。
血が出てくる。そこを集中的に喰らっていった。内部の方が美味しいのだろうか。
内蔵も半分以上持っていかれた。
臓物…………さようなら俺の臓物。
幸いにもこうして考えられているのは頭を喰われなかったからだ。あと鍵を握っていた手は喰われなかった。
今もこうして生きているのが自分でも驚きだ。
いや、こうして生きているというよりはもう死ぬ。
人間として生きるための血液や内臓などを半分以上喰われてしまったからだ。
死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。
これ以上の地獄を味わうことはもう無いのだろう。
妖魔王自らが手をくだすこともなく俺は死ぬ。
そもそも、金剛との決戦後に既に考えておくべき内容だった。
金剛より強い敵が備えているのに、小銭の枚数が足りなくならないわけがない。
勝てるわけもない。
初めから俺には鍵と小銭の束しかないのだ。
圧倒的だった。こんなに早く負けるとは思ってもいなかった。
なぜ、黒は俺を置いていってしまったのだろう。
消える前にお金でも借りておけばよかった。
それでも、俺に何ができた?
こうして、瞬殺されることくらいしかできなかった俺に何を求めた。
あいつは…………何を根拠に俺が負けないと言ってくれたのか。
しかし、結果はこれだ。
こうして俺は今も死にそうだ。
切断・転倒・食事。
この3手だけで殺された。
「「はぁ、やっぱり脆いね」」
妖魔王はこんな姿の俺に呆れている。
無茶だ。72体も怪物を召喚されて、72対1で戦わされたら誰だって分かる。
数の暴力だ。そんなのを相手にするなんて無理だ。
「「これじゃあ、もうダメだね。まったく、最後まで鍵だけは握ってさ。強情な奴だ。諦めの悪い奴だ。でも、これでルイトボルトはこの世界にもういない。
ヘレシーは任せて最後の君はゆっくりと眠るがいい。さようなら」」
ヘレシー……? なんだそれ?
なんの名前だ。
薄れていく。意識が薄れていく。
俺の人生で3度目の死だった。
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