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第16章 どうやら金剛は八虐の謀反のようです。
鍵の獲得者
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こうして、俺と金剛の闘いは終わった。
この闘いはどちらかが正しいとかではなく。
自らの信念を乗せた闘いである。
そこに善も悪もなく。それは信念の押し付け合い。
もちろん、相手の信念を認めていないわけではなかったが。
これで金剛に命を狙われるということはなくなったのである。
目を開けると、雲ひとつない赤い空が広がっていた。
いつの間に倒れたのか。
あの決着から何時間経過したのかは分からないけれど、今こうして目を開けているということはまだ生きているということだ。
胸も足も痛みでどうなっているか分からない。
ただ、横を見ると、少し離れた丘の所で金剛が足を曲げ重ねた歌膝で座っている。
彼は俺が目覚めたことを知り、フッと小さく笑みを浮かべたように俺には見えたが、また顔を地面に向けた。
襲っては来ない。トドメを刺しに来ない。
俺のあの一撃の後、勝負はついてしまったようだ。
「……ったく、やれやれだ」
安心した。もう少ししばらくは休んでいても構わないだろう。
ついさっき、八虐のリーダーを倒したのだ。
このまま魔王と戦うのもなかなか体に堪える。
「これなら、出血多量で死ぬこともないだろうけど……。目覚めてすぐに金剛を目で追うなんて…………」
ああ、側にいた黒の方を始めに向いてやらなかった。
その事で黒は少し拗ねてしまったらしい。
「あっ、いやその…………すまない」
謝りながらも、手で傷口付近を擦ってみる。
寝ている間に胸や腕に出来た深い傷口が塞がっている。これは黒の回復魔法。
多少はまだ痛むが、黒の回復魔法が効いているお陰で、俺はまだ生きているということか。
「別に…………!!!
そろそろ立てるんじゃないの?
速く魔王を倒しに行きましょ!!!」
俺の側に座っていた黒がそそくさと立ち上がる。もちろん、その言葉を言っている最中に黒は俺の顔を向いてくれない。
よほど、彼女の機嫌を悪くさせてしまったのだろう。
だが、過ぎたものは仕方がない。
俺は横になっている体をゆっくりと起こし、立ち上がる。
「少し待ってくれよ。傷は塞がってもまだ痛むんだぞ?
少しくらい休憩時間を与えてくれませんか?
回復魔法には本当に感謝しています!!」
「………………そうね。私もあなたを守るために魔力を使い過ぎたし……。少しくらいは休憩してもいいかもね」
やっぱり、ソッポを向いたまま、黒は俺に向かって口を開く。でも、休憩を許してくれる時間はくれるのだ。多少は機嫌を直してくれているようだし、いつもの調子に戻るのもきっと時間の問題。
魔王を倒した後にはすっかり機嫌を直してくれているにちがいない。
「ああ、ありがとう黒」
すると、離れた方から俺たちに向けた提案。
「────休憩するなら少し寄っていかないか?」
それは丘の上で静かに座っていた金剛。
彼はジッと俺たちを見つめている。
「何か企んでいるのだろうか」と怪しんでいる黒に金剛はやれやれと首を振りながら、答える。
「畏まるなよ。もう俺はお前達に手を出さない。
この傷じゃ、お前に倒されて終いだ。
なに、お茶のひとつも出せないが、土産話でもくれてやろう」
そう言ったまま座っている男の胸には、大きな深い刀傷。
ただ、その男からあれほど感じていた敵意をもう感じ取れない。
ここは休憩がてらに彼の話を聞いていくことにした。
金剛の座っている小さな丘に移動する。
その丘から周囲を見ても、それはなにもない荒野が広がっていた。
その光景になんだか寂しさを感じながらも、俺たちは金剛の側に座り込む。
「…………っで、土産話ってなんだよ」
「それはお前にも関係することだ明山。
鍵の獲得候補者について…………。お前は知らないかもしれないが、1つ聞きたいことがある」
「それは土産話って言うより質問だろ?」
「いや、お前は鍵の獲得候補者について知らないことが多すぎる。
その知識を土産に持っていけ。無知なままでは何をすべきかも分からないだろう?」
見透かされている。
確かに俺は自分が鍵の獲得候補者であることくらいしか知らない。
なんで、狙われているのか。鍵とは何か。
俺は全く知らないということを金剛は見透かしていた。
「鍵の獲得候補者の体には鍵穴のシミ…………いや模様か?
まぁ、それなりの鍵穴に関する物が存在するよな?」
彼の言う鍵穴の模様はおそらく俺の体に出来たシミの事だろう。
背中に出来た不思議な形のシミ。
はじめはなにも気にしていなかったが、それを目印に命を狙われる羽目になっていったのだ。
「それは鍵の獲得候補者として認められる証だ。選ばれたんだよお前は」
「それはそうだろ?
獲得候補者なんだから、選ばれるに決まってる」
「そこだ。鍵の獲得候補者。お前は鍵を獲得してからは知らない。最重要なところを理解していないだろう?」
鍵の獲得候補者。
それは鍵を獲得することができる候補者。
それくらいは俺にも分かっている。
この身をもって鍵の獲得候補者として八虐に命を狙われてきたのだ。
しかし、大切なのは鍵を獲得できた後。
鍵を得て、その先が最重要だというのだろうか。
「鍵の獲得候補者は数人から選ばれる。その世界に危機が迫るときに自動的に始まる救済システムのような物だ」
「救済システム…………?
じゃあ、“付喪神と人が共存してる世界”が危険だってこと?」
「いや、そうだが、少し違う。危機は迫っている。鍵ある所に災いが起きるのは、確定事項だ。だからこそ、魔王城はこの平行世界に建てられたんだ」
“付喪神と人が共存してる世界”で鍵の獲得争いをしないために、候補者を呼び寄せたということだろうか。
つまり、魔王は“付喪神と人が共存してる世界”を壊させるためにはいかず、わざとこの別の世界に城を建てた。
確かに、争いがここで起これば“付喪神と人が共存してる世界”では起こらない。
「鍵ある所に災いが起きる」という金剛の言葉からすると、移動したのはいったい…………。
魔王軍からの宣戦布告も、この連盟同盟との戦いも舞台をこの世界にした理由。
「……でも、本当にこの世界が滅亡するようになるかは分からないがな。未来は変わる。ただ可能性があるという話だよ」
「可能性か…………」
「では、次の話題に移ろうか。
鍵は1つ。鍵穴は複数。そして鍵は1度しか使えない。
しかし、ハズレ扉には血に飢えた猛獣がたくさん。
1つの扉の鍵を開けたら他の扉が開き、猛獣が襲ってくる。
では、どうすればお前が最善の扉にたどり着く?」
なぞかけ?
金剛は次の説明をなぞかけ風にして俺に問いかけてきた。
「本当は扉の奥が分かればいいんだけど。
もう運に任せて1つに飛び込む…………?」
俺が悩みに悩んで答えを出すと、黒はその答えに反論するように自身の答えを発言し始めた。
「いやいや、それは違うわ。出られなくすればいい。怪しい扉はドアを塞げばいい。
ドアを固定するにしても、時間を稼げばいい。
そうすれば、扉は1つになるわ」
「そう、つまり猛獣を出られなくすれば最善の扉は見つかる。ここまでで分かるか?」
鍵を手に入れようとするのは他の獲得候補者であり、あの文では猛獣。
俺が猛獣に喰われるか、猛獣が猛獣を食らうか。俺が猛獣を倒すか。
つまり、最後に残った人か他の獲得候補者が扉を開ける。
鍵を手に入れるのは1人。
これが鍵の獲得候補者争い。
いや、ここまで聞いてもおかしい。
俺はそんな殺し合いに参加してはいない。
「でも、俺は他の獲得候補者に襲われてないぞ?
あっ!?」
気がついた。
昔、フィツロイとの戦いの中で、どうして俺を狙うか尋ねた時に彼女はこう言った。
「明山平死郎さん。貴方は魔王様直々の暗殺命令の対象に選ばれたのです。
魔王様は鍵の獲得者候補への暗殺を命じられたのですよ」
魔王様直々の暗殺命令。
それを実行するために幹部が世界中の獲得候補者を殺した。
そうして、しぶとく生き残った俺ともう1人。
鍵の獲得候補者争いをする事もなく。
ほとんどが殺されたのだ。
本来は鍵の獲得候補者同士で争うことを魔王の手によって歪められた。
「でも、なんで?」
そこが疑問だ。そんな鍵の獲得争いに選ばれていない魔王がなぜ争いに首を突っ込んだのか。
そこには何か重大な秘密が隠されていなければならない。
魔王の目的。鍵の獲得争いに手を出した理由。
ダメだった。考えてもさっぱり分からない。
「では、もう少しヒントを出そう。
例えば、見知らぬドアが目の前にあるとしよう。お前はどんな風に考えてドアを開く?」
「そりゃあ、何かあるかもしれないから慎重に開けるよ。さっきの台詞みたいにいきなり、猛獣が現れるかもしれないしな。説明がないのなら、この先に何があるか具体的には分からないから、想像して入るよ?」
「ああ、いい答えだ。添削する必要のない答えだ。
じゃあ、最後のヒントだ。
鍵の獲得候補者はまだ候補者だ。
そして、鍵を得た者にもちゃんと呼ばれるべき名称がある。
【鍵】を獲得できた者はルイトボルトという称号を与えられるのだよ」
ここで金剛は土産話の口を閉ざした。
鍵の獲得候補者は候補者。
鍵の獲得者はルイトボルト。
ルイトボルトはルイトボルト教の中に出てくる神の名前だ。
それと同一の名前を与えられる?
いや、違うのではないか。同一の名前ではなく。それ本人だとしたら。
鍵の獲得者がルイトボルトだとしたら。
また、もう1つの問題として、魔王が鍵を狙う理由。
鍵の獲得候補者でもない魔王が鍵を狙う理由にはきっと何か訳がある。
「ドアの先が分からないから、このドアの先を想像して入る」というのがいい答え。
添削する必要のない答え。
そうぞう・ソウゾウ・想像・創造・騒々・噪々・総々・(以後省略)…………………………。
想像?
いや、想像ではないのか。
そうぞう…………そうぞう…………そうぞう…………。
ん? 創造?
世界が滅亡するようなことが起きる前の救済システム。
鍵を手にいれた後。
世界をずらして決戦地を選ぶ。
ルイトボルトという神と同一の名前を与えられる。ルイトボルトの選抜。
ドアは1つ、鍵は1つ。
鍵の獲得候補者は鍵を手に入れるために争う。
魔王も求める【鍵】の正体。ドアの先をそうぞうして入る。
救済…………神…………争い…………そうぞう………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
ここに1つの仮説が生まれた。
金剛のヒント、今までの魔王の行動。
「────いや、いやいやいや」
1つの仮説を俺は必死に否定する。
確かにこの考察が正しければ、魔王でも誰でもがそれを求めるであろう。
だが、それは流石に考えすぎだ。
そんな簡単なことで決められてよいのか。
その世界が危険な状態であるから、救済システムとしてそれを決めるというのか。
その世界を見捨ててまでも…………。
そんなことが出来るようになるのは人間なのか。
そんな選択を自らの欲で決めることが出来るなんて、人間が行っていいのか。
「────鍵の獲得候補者は神であるルイトボルトになるための受験生。神は世界を創造出来る資格がある。鍵はその世界への扉を開く鍵…………」
この闘いはどちらかが正しいとかではなく。
自らの信念を乗せた闘いである。
そこに善も悪もなく。それは信念の押し付け合い。
もちろん、相手の信念を認めていないわけではなかったが。
これで金剛に命を狙われるということはなくなったのである。
目を開けると、雲ひとつない赤い空が広がっていた。
いつの間に倒れたのか。
あの決着から何時間経過したのかは分からないけれど、今こうして目を開けているということはまだ生きているということだ。
胸も足も痛みでどうなっているか分からない。
ただ、横を見ると、少し離れた丘の所で金剛が足を曲げ重ねた歌膝で座っている。
彼は俺が目覚めたことを知り、フッと小さく笑みを浮かべたように俺には見えたが、また顔を地面に向けた。
襲っては来ない。トドメを刺しに来ない。
俺のあの一撃の後、勝負はついてしまったようだ。
「……ったく、やれやれだ」
安心した。もう少ししばらくは休んでいても構わないだろう。
ついさっき、八虐のリーダーを倒したのだ。
このまま魔王と戦うのもなかなか体に堪える。
「これなら、出血多量で死ぬこともないだろうけど……。目覚めてすぐに金剛を目で追うなんて…………」
ああ、側にいた黒の方を始めに向いてやらなかった。
その事で黒は少し拗ねてしまったらしい。
「あっ、いやその…………すまない」
謝りながらも、手で傷口付近を擦ってみる。
寝ている間に胸や腕に出来た深い傷口が塞がっている。これは黒の回復魔法。
多少はまだ痛むが、黒の回復魔法が効いているお陰で、俺はまだ生きているということか。
「別に…………!!!
そろそろ立てるんじゃないの?
速く魔王を倒しに行きましょ!!!」
俺の側に座っていた黒がそそくさと立ち上がる。もちろん、その言葉を言っている最中に黒は俺の顔を向いてくれない。
よほど、彼女の機嫌を悪くさせてしまったのだろう。
だが、過ぎたものは仕方がない。
俺は横になっている体をゆっくりと起こし、立ち上がる。
「少し待ってくれよ。傷は塞がってもまだ痛むんだぞ?
少しくらい休憩時間を与えてくれませんか?
回復魔法には本当に感謝しています!!」
「………………そうね。私もあなたを守るために魔力を使い過ぎたし……。少しくらいは休憩してもいいかもね」
やっぱり、ソッポを向いたまま、黒は俺に向かって口を開く。でも、休憩を許してくれる時間はくれるのだ。多少は機嫌を直してくれているようだし、いつもの調子に戻るのもきっと時間の問題。
魔王を倒した後にはすっかり機嫌を直してくれているにちがいない。
「ああ、ありがとう黒」
すると、離れた方から俺たちに向けた提案。
「────休憩するなら少し寄っていかないか?」
それは丘の上で静かに座っていた金剛。
彼はジッと俺たちを見つめている。
「何か企んでいるのだろうか」と怪しんでいる黒に金剛はやれやれと首を振りながら、答える。
「畏まるなよ。もう俺はお前達に手を出さない。
この傷じゃ、お前に倒されて終いだ。
なに、お茶のひとつも出せないが、土産話でもくれてやろう」
そう言ったまま座っている男の胸には、大きな深い刀傷。
ただ、その男からあれほど感じていた敵意をもう感じ取れない。
ここは休憩がてらに彼の話を聞いていくことにした。
金剛の座っている小さな丘に移動する。
その丘から周囲を見ても、それはなにもない荒野が広がっていた。
その光景になんだか寂しさを感じながらも、俺たちは金剛の側に座り込む。
「…………っで、土産話ってなんだよ」
「それはお前にも関係することだ明山。
鍵の獲得候補者について…………。お前は知らないかもしれないが、1つ聞きたいことがある」
「それは土産話って言うより質問だろ?」
「いや、お前は鍵の獲得候補者について知らないことが多すぎる。
その知識を土産に持っていけ。無知なままでは何をすべきかも分からないだろう?」
見透かされている。
確かに俺は自分が鍵の獲得候補者であることくらいしか知らない。
なんで、狙われているのか。鍵とは何か。
俺は全く知らないということを金剛は見透かしていた。
「鍵の獲得候補者の体には鍵穴のシミ…………いや模様か?
まぁ、それなりの鍵穴に関する物が存在するよな?」
彼の言う鍵穴の模様はおそらく俺の体に出来たシミの事だろう。
背中に出来た不思議な形のシミ。
はじめはなにも気にしていなかったが、それを目印に命を狙われる羽目になっていったのだ。
「それは鍵の獲得候補者として認められる証だ。選ばれたんだよお前は」
「それはそうだろ?
獲得候補者なんだから、選ばれるに決まってる」
「そこだ。鍵の獲得候補者。お前は鍵を獲得してからは知らない。最重要なところを理解していないだろう?」
鍵の獲得候補者。
それは鍵を獲得することができる候補者。
それくらいは俺にも分かっている。
この身をもって鍵の獲得候補者として八虐に命を狙われてきたのだ。
しかし、大切なのは鍵を獲得できた後。
鍵を得て、その先が最重要だというのだろうか。
「鍵の獲得候補者は数人から選ばれる。その世界に危機が迫るときに自動的に始まる救済システムのような物だ」
「救済システム…………?
じゃあ、“付喪神と人が共存してる世界”が危険だってこと?」
「いや、そうだが、少し違う。危機は迫っている。鍵ある所に災いが起きるのは、確定事項だ。だからこそ、魔王城はこの平行世界に建てられたんだ」
“付喪神と人が共存してる世界”で鍵の獲得争いをしないために、候補者を呼び寄せたということだろうか。
つまり、魔王は“付喪神と人が共存してる世界”を壊させるためにはいかず、わざとこの別の世界に城を建てた。
確かに、争いがここで起これば“付喪神と人が共存してる世界”では起こらない。
「鍵ある所に災いが起きる」という金剛の言葉からすると、移動したのはいったい…………。
魔王軍からの宣戦布告も、この連盟同盟との戦いも舞台をこの世界にした理由。
「……でも、本当にこの世界が滅亡するようになるかは分からないがな。未来は変わる。ただ可能性があるという話だよ」
「可能性か…………」
「では、次の話題に移ろうか。
鍵は1つ。鍵穴は複数。そして鍵は1度しか使えない。
しかし、ハズレ扉には血に飢えた猛獣がたくさん。
1つの扉の鍵を開けたら他の扉が開き、猛獣が襲ってくる。
では、どうすればお前が最善の扉にたどり着く?」
なぞかけ?
金剛は次の説明をなぞかけ風にして俺に問いかけてきた。
「本当は扉の奥が分かればいいんだけど。
もう運に任せて1つに飛び込む…………?」
俺が悩みに悩んで答えを出すと、黒はその答えに反論するように自身の答えを発言し始めた。
「いやいや、それは違うわ。出られなくすればいい。怪しい扉はドアを塞げばいい。
ドアを固定するにしても、時間を稼げばいい。
そうすれば、扉は1つになるわ」
「そう、つまり猛獣を出られなくすれば最善の扉は見つかる。ここまでで分かるか?」
鍵を手に入れようとするのは他の獲得候補者であり、あの文では猛獣。
俺が猛獣に喰われるか、猛獣が猛獣を食らうか。俺が猛獣を倒すか。
つまり、最後に残った人か他の獲得候補者が扉を開ける。
鍵を手に入れるのは1人。
これが鍵の獲得候補者争い。
いや、ここまで聞いてもおかしい。
俺はそんな殺し合いに参加してはいない。
「でも、俺は他の獲得候補者に襲われてないぞ?
あっ!?」
気がついた。
昔、フィツロイとの戦いの中で、どうして俺を狙うか尋ねた時に彼女はこう言った。
「明山平死郎さん。貴方は魔王様直々の暗殺命令の対象に選ばれたのです。
魔王様は鍵の獲得者候補への暗殺を命じられたのですよ」
魔王様直々の暗殺命令。
それを実行するために幹部が世界中の獲得候補者を殺した。
そうして、しぶとく生き残った俺ともう1人。
鍵の獲得候補者争いをする事もなく。
ほとんどが殺されたのだ。
本来は鍵の獲得候補者同士で争うことを魔王の手によって歪められた。
「でも、なんで?」
そこが疑問だ。そんな鍵の獲得争いに選ばれていない魔王がなぜ争いに首を突っ込んだのか。
そこには何か重大な秘密が隠されていなければならない。
魔王の目的。鍵の獲得争いに手を出した理由。
ダメだった。考えてもさっぱり分からない。
「では、もう少しヒントを出そう。
例えば、見知らぬドアが目の前にあるとしよう。お前はどんな風に考えてドアを開く?」
「そりゃあ、何かあるかもしれないから慎重に開けるよ。さっきの台詞みたいにいきなり、猛獣が現れるかもしれないしな。説明がないのなら、この先に何があるか具体的には分からないから、想像して入るよ?」
「ああ、いい答えだ。添削する必要のない答えだ。
じゃあ、最後のヒントだ。
鍵の獲得候補者はまだ候補者だ。
そして、鍵を得た者にもちゃんと呼ばれるべき名称がある。
【鍵】を獲得できた者はルイトボルトという称号を与えられるのだよ」
ここで金剛は土産話の口を閉ざした。
鍵の獲得候補者は候補者。
鍵の獲得者はルイトボルト。
ルイトボルトはルイトボルト教の中に出てくる神の名前だ。
それと同一の名前を与えられる?
いや、違うのではないか。同一の名前ではなく。それ本人だとしたら。
鍵の獲得者がルイトボルトだとしたら。
また、もう1つの問題として、魔王が鍵を狙う理由。
鍵の獲得候補者でもない魔王が鍵を狙う理由にはきっと何か訳がある。
「ドアの先が分からないから、このドアの先を想像して入る」というのがいい答え。
添削する必要のない答え。
そうぞう・ソウゾウ・想像・創造・騒々・噪々・総々・(以後省略)…………………………。
想像?
いや、想像ではないのか。
そうぞう…………そうぞう…………そうぞう…………。
ん? 創造?
世界が滅亡するようなことが起きる前の救済システム。
鍵を手にいれた後。
世界をずらして決戦地を選ぶ。
ルイトボルトという神と同一の名前を与えられる。ルイトボルトの選抜。
ドアは1つ、鍵は1つ。
鍵の獲得候補者は鍵を手に入れるために争う。
魔王も求める【鍵】の正体。ドアの先をそうぞうして入る。
救済…………神…………争い…………そうぞう………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
ここに1つの仮説が生まれた。
金剛のヒント、今までの魔王の行動。
「────いや、いやいやいや」
1つの仮説を俺は必死に否定する。
確かにこの考察が正しければ、魔王でも誰でもがそれを求めるであろう。
だが、それは流石に考えすぎだ。
そんな簡単なことで決められてよいのか。
その世界が危険な状態であるから、救済システムとしてそれを決めるというのか。
その世界を見捨ててまでも…………。
そんなことが出来るようになるのは人間なのか。
そんな選択を自らの欲で決めることが出来るなんて、人間が行っていいのか。
「────鍵の獲得候補者は神であるルイトボルトになるための受験生。神は世界を創造出来る資格がある。鍵はその世界への扉を開く鍵…………」
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