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第16章 どうやら金剛は八虐の謀反のようです。

俺たちの不器用な信念

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 踏みとどまる。崩れ落ちそうな体に無理やり力を込めながら、胸から流れ落ちる流血を無視して立つ。それは致命傷のはずだった。トドメの一撃とも言える攻撃だった。
だが、深い傷を与えられたとしても、俺は金剛からの攻撃を受けきっている。

「ようやくハッキリした。確かにあんたは正しい。でも、それは俺との違いがある」

「違い……?」

金剛はようやく俺の言葉に疑問を……興味をもった。
自身の辿り着けなかった俺が発しようとする言葉に興味をもったのだ。

「確かに【皆の事を想った行動】を取りすぎれば自身を苦しめるかもしれない。だから、俺とお前が似ている。
でも、それは自分の事を想った他人からの行動を得ていない。すべて自分で背負っていたのはお前の方だ。お前は孤独に自分の信念を貫いた」

金剛の信念は俺と似ている信念。
人々を救う正義は俺の考える信念に近いものだろう。
だから、金剛は俺を倒して苦しみから解放しようとした。
自らと同じような欲望に取りつかれて後悔する前に俺を消そうとしたのだ。
それは金剛からのせめてもの慈悲。
だが、それは金剛にとっては慈悲であるが、俺達にとっては慈悲ではない。
金剛に足りなかったのは仲間だ。
欲望に取りつかれた自分を止めてくれるような仲間がいなかった。
凶悪を倒した正義の英雄としての彼の周りには止めてくれるような存在はいなかった。
誰もが正義の英雄が正しいと考えて、彼を利用するために彼の行動を止めてあげる者はいなかった。
彼に変化が生じる前に止めてあげる……心配してくれる者がいなかった。
自らが他者に愛を送りつつ、誰からも愛を貰えなかった。
自分の体から愛が排出され、貯まっていったのは正義のための責任感・正義の後の達成感・正義をこなす快感…………。
それに呑まれて狂い依存していく。



 しかし、俺にはまだそんな快感は得られない。
金剛の正義と俺の信念は違う。

正義や悪なんて、結局は同じものだ。個人にとってはどっちも正しい。
個人の信じた道がそうだったってだけの事。

だからこそ、俺と金剛は違う。
俺はどんな方法でも【皆の事を想った行動】をとってやる。
そこに善悪の区別はない。自分の正義に悩むこともない。悪には悪なりの【皆の事を想った行動】があり、正義には正義なりの【皆の事を想った行動】がある。
そこでは「自分の正義が正しかったのか」と悩み苦しむ必要もない。
自分の正義に絶望する必要もない。
【皆の事を想った行動】を取ればいいだけのこと。
善悪など考えることもなく。それだけを信念として歩き続けた。
それは他者のために行動を行った結果としてどんな結末も受け入れてやる。
それが俺の考える【皆の事を想った行動】なのだ。
正義をこなすために大事なのは結果ではない。想い。
他者への想いが一般的に正義と呼ばれる物をこなすために必要なのではないだろうか。

だからこそ、違いは信念だけではない。堕ちていく自分を止めてくれるような仲間がいるからだ。
自分の代わりに戦ってくれる仲間がいるからだ。
上記の感覚は分散されて溜まることはなく。
俺には仲間がいるから。今も側に俺を止めてくれるような仲間がいるから俺は金剛とは違うのだ。

「俺はお前とは違う。勘違いしていた。冷静に考えていなかった。お前に似てはいるが俺じゃない。お前の正義と俺の信念は違うし、俺はお前のように堕ちない」

その時、金剛と俺の間にある地面に浮かび上がる紅蓮の魔方陣。
それはここから少しだけ離れた丘にいた黒により生み出された魔法の準備体。
魔方陣は黒の呪文詠唱と共に範囲が広くなっていく。

「これはラグナロクか…………!?
禁断とされた魔法……。世界を焼けるかもしれない炎の災害……」

金剛はその場から離れようと、足を退る。
この場にいれば地面から噴き出す炎の柱に呑まれて焼き殺されてしまうからだ。
しかし、その体は魔方陣内で動かない。
金剛の体は俺の手に掴まれて逃れることができないからだ。

「くそッ、貴様…………俺と共に死ぬつもりか?
相討ち覚悟など…………」

「いいや、違うね。相討ちなんてしない」

ガッチリと魔方陣内で金剛の動きを止める。それが黒への合図。彼女はここから少し離れた丘で指示待ち状態だったが。
それはすでに決行の時へと変わる。

「『ラグナロク』!!!」

黒の詠唱が終了し、その名を叫ぶと共に魔方陣は赤く光る。
それが合図だ。まばたきもしないほどの一瞬。
地中の底から星々の海へと伸びる巨大な火柱。
全身が焼き焦がされるよりも速く。
全てを覚悟しかけていた金剛の目にはそれが写りこんだ。

「なんだ……?
それはその輝きは?」

金剛と俺の周囲を包むように炎の柱がドーム状に回転する。
それは俺の手元にある500円玉に反応するように……。
その光景の意味を金剛は知らない。知るはずもない。彼が俺と同じ【お金の付喪人】であったとしても、彼が俺と何らかの繋がりがあったとしても…………。
『買』という能力を選んでしまった金剛には出来ない芸当。
他者から買い奪う能力では決して手に入らない物。
他者からの【皆の事を想った行動】……。いや、仲間からの【他者(俺)の事を想った行動】でなければこの状況は成立しない。
それは見捨てるための攻撃ではなく、援助するための攻撃。
他人がいなければ、これは成立しない。
───エルタの時もそうだった。
英彦が敵ながらに俺に向けた想い。
500円モードは500円を使用するだけでは完全なものにならない。MAXの容量へは到達できない。
だから、ミハラともスポンジマンとも闘いの際に調子は出なかった。
これこそ…………仲間からの魔力授与だからこそ。
500円モードは完全に完璧に作動するのである。

「500円イン!!!」

『黄金! 黄金! 黄金! 煌めけ輝け。
小銭最強の姿。小銭最後の一枚。
始まりと終わり。作り手と買い手。死者と生者。
全ては一つでは物足りぬ。
さぁ、その姿に懺悔し、王の力を味わうのだ。
その名は明山 平死郎。
明山 平死郎 五百円モード!!』

その台詞が語られていくと自らの体を黄金のオーラが覆い始める。
ラグナロクに込められた魔力を吸い取りながら、俺の体は黄金に輝き始める。
その姿を見た金剛は「チッ……」と舌打ちし、手に握っていた剣を強く握る。

「貴様はやはり今までの奴らとは違うな。今までなら、既に自身と葛藤し首を出していたが。
やはり中身か…………。
しかし、それでは俺に勝てるのかね?
通常でも傷一つ付けられなかった貴様に勝算があるとは思えんが?」

その表情は冷静を取り戻してはいたが、彼の額からは少量の汗が出ている。
金剛にもこの姿の俺が今までとは違うということが少しだけ理解できているのかもしれない。

「今までは俺独りだった。でも、俺の信念をぶつけるには独りじゃダメだったんだ。
そもそも、思想の討論に立っていなかった。
お前の孤独で完璧な正義と、俺たちの不器用な信念。どちらが未来に正しいか。
俺の信念を持って、お前の過ちを断罪する!!!」

こうして、黄金のオーラを纏いし勇者は五円ソードを構え、金剛の前に立ち塞がるのであった。
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