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15.5章 魔崩叡者霊興大戦ラスバルム(王都)
はるか神代からの
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いつからだと聞かれれば、実際は分からないがやはりあの時であろう。
我らが分かれたのは・・・。
これこそが走馬灯の答え合わせである。
───────────────
時は神代。神の子・悪魔の子と恐れられて小さな村で1人の赤子が産まれた。
その子に父親はおらず、母親は誰とも交わることなく出産をした。
2人の人間が1人の赤子の産声に声を当てているような声が、村中に響き渡り人々は赤子が引き起こすであろう不安を恐れて母と子にはなるべく近づかないでおこうと距離を置くことに決めたのである。
6歳の時母親が死んだ。隣町の聖堂会に前々から目をつけられていたことが、今回ピークに達したのだ。確かに奴らは小僧のことを嫌っていた。食べ物を鏡に映して複製を作らせて飢えた者どもに分け与えたり、遠き場所への移動が必要な者へは鏡と鏡をつなげてワープさせて連れて行ってやったりと、この能力を使って人助けのために奇跡を起こしていたワレを妬んでの行動だったのだろう。どこの馬の骨とも知らない小僧が神の子と恐れられていることが、自らの神の信仰を妨げるとでも考えたのだろう。
数人の信者にワレの母親は拉致されて様々な暴行を受けた後、荒野に捨てられて生きたまま獣どもに食い荒らされて死んだ。
村人たちはそんな哀れな彼女の変わり果てた姿を見て、「かわいそうに・・・」「あの子の仕業じゃ・・・」「あいつがあんなことをしなければ・・・」などとワレを陰から罵倒してきた。
小僧の人助けが最終的には無意味なものとなってしまったのだ。
この生まれ持った能力が最終的には自らの心を苦しめることになったのだ。
自らの母が村人たちによって速やかに埋葬されるのを見て、小僧は静かに自らの母親が埋められていくのを眺めていた。
だれも、小僧を哀れんで手を差し伸べる者はいなかった。この小僧にかかわれば、次は自分が殺されてしまうかもしれないと恐れていたからだ。
そうして、小僧は1人ぼっちになった。
数年後・・・・。
小僧は立派な12歳の青年へとなり果てた。その村の影の支配者として静かに暮らしていた。
自らの母親を殺した隣町の聖堂会を隣町ごと壊滅させたり、この村を襲いに来た賞金首である夜盗たちの首を糸でつなげて、ネックレスのようにして異文化の神の御供え物として送りつけたり、大陸を支配するドラゴンを1人で討伐したりと残酷奇天烈な行動を行っていた。
そうして、大暴れしていると誰も青年のことを陰で悪く言う者たちもいなくなり、破壊神として静かに恐れられるか、ヒーローとして崇められるかのどちらかに分かれてしまった。
その頃だろうか。青年が支配している村に2人組の旅人が現れる。
紅の瞳に短くカットされた白髪、きっちりとした黒い正装に大きなひすいで作られた玉のネックレスを首にかけている爺。
そして、もう一人はフードに顔を隠した若い女性。
そいつらは村人どもの噂によれば、どうやら青年に用があってこの村に訪れたらしい。
「くだらねぇ・・・・」
口ではそう言ってみたものの、青年はその爺たちが少し気になっていた。
久しぶりに自分を訪ねに旅人が訪れたのだ。どうせこのまま、無視していても村人たちが体人を案内して青年の家にまで押しかけてくる。それなら、旅人の態度が不敬に値すると少しでも感じたときに罰を与えればいい。巷で言われている破壊神らしく。女や年寄りでも残酷な罰を・・・・。そう考えたのである。
数分後・・・・。2人組の旅人は青年の家へと訪ねてきた。村にしては豪華な神殿風の家。
「この家、すごいですね。老師」と弟子は言う。
彼女はフードで顔を隠したまま、その隙間から青年の家らしき場所を眺めている。すると、爺は青年の家をぼんやりと眺めてから、弟子に頼みごとを言った。
「おい、弟子。悪いが玄関から話付けるのはお前に任せてもいいかな?」
弟子には爺の言った一言を意外だと感じた。
他人の家に入るときはいつもならドアを蹴破ってズカズカと入っていくような問題児である彼が、ドアを蹴破ろうともせずに弟子に役目を任せたのである。
「はぁ? 別に構いませんが。もしかして老師ってば人見知りになっちゃったんですか?」
そんなわけはない。それは弟子にも分かっていた。言ってみたのはただの冗談である。
たとえ、彼が心変わりするなんて天地がひっくり返されようが起こるはずがない。
それは側でずっと爺の背中を見てきた彼女にはハッキリと説明できる。
「・・・・・・・」
でも、爺はその真意を語ってはくれない。弟子は弟子らしく黙って言うことを聞けという事だろうか。弟子はしょうがないな~とでも言いたそうな表情を爺に見せると、一人で玄関へと向かっていった。
「すいません。誰かいませんか?」
弟子が入っていった神殿内は黄泉の世界であるかのようにシーンと静まり返った空気が充満している。だが、その空気は奥からの一喝で急に変貌することとなる。
「何用だ?」
威圧。弟子が感じたのははかり切れないほどの威圧感であった。
まるで神から声をかけてきているようなそんな感覚である。
冗談じゃない。こんな奴に用があるなら爺が自らこの場に来ればよかったのに、なんで弟子を向かわせる必要があったのか。弟子は久しぶりに爺への怒りを感じていたが、それは後で問いただすとして今は交渉をしてもよいかの確認を取らなければならない。
「私たちは旅の者です。うちのジジイ・・・・いや、老師があなたに会いたいとおっしゃったのでこちらへとやってきました」
「その願いは胸にしまいこみ、うせよ。ワレは貴様らに会おうとも思わぬ。これは警告だ。」
青年から弟子に向けられた警告を、彼女は吐きたくなるような言葉を我慢して聞いていた。
話し方からして傲慢。自らが暴君・・いや神になったつもりなのだろうか。くだらない。
弟子はただ、青年の人を見下すような態度にイラっときた。
「はぁ・・・王様気分ですか。自分の王国を持ってからそんな言葉遣いをしてもらいたいですね。まっ、あんたみたいな暴君に納められる国なんてないだろうけどね~」
急に静まり返る。
さすがに訪ねに来た者としては不敬だったか。
だが、一度口に出した言葉は取り消せない。
弟子が言うべきだった言葉を考え付いてももう遅い。
ゾワッとした感覚に襲われて、弟子は背後に振り返る。
すると、奥から聞こえていたはずの声の主はすでに弟子の背後に立っていた。
「貴様、客人であるというのにその態度」
弟子は青年のもっとも触れてはいけない地雷をおもいっきり踏みつけてしまった。
弟子は青年が最も夢見ていた自らの王国建造の夢をバカにしたのである。
「ありゃ? 前にいたのに後ろにいたの。ねぇー老師助けて~。見てるんでしょ。どうせ見てるんでしょ? ねぇー爺・・・・・いやお爺様。私、青年に殺されちゃうんですけどーーーー!!!!!」
必死にジジイに助けを求めて叫ぶ。地雷を踏んでしまうなんて考えてもいなかった。
・・・・・・・・だが、青年は迫ってくる。青年の手には小さな短剣が力強く握られている。
「愚弄した者にはそれに合う裁きを・・・・」
青年は自ら弟子に近づいて刺し殺すわけでもなく。
立ち止まって宙に配置した鏡に向かってその短刀を投げ入れた。
その時である。
奥の方から聞こえてくる瓦礫が崩れ落ちてくる音。
もう1人の青年対策として、彼は神殿の天井を砕いて乗り込んできやがった。
弟子のピンチを初めから予感していたかのように、だが弟子を助けに来たには方向が違う。
「キサッ・・・・!?」
奥にいる青年は頭上から落ちてくる爺に驚いた。
爺は弟子を見捨てて青年のもとへと落ちてきたのである。
玉座に座ったまま青年はジジイの着地する姿を見ていた。
彼はただ青年の前に落ちてきただけである。
それなのに、その一部始終を見ただけなのに・・・・。
青年にはそのジジイに勝てる未来が全く想像できなかった。
「よっ、お前さんが噂の悪魔と神の子・・・だっけ。いや、忘れた」
ズボンについた埃をパッパッと払い、彼は青年の顔を見上げる。
そして、彼は熱い目線で青年に訴えかけてきた。
「・・・。お前、オレと一緒に来てくれないか?」
訳が分からない。青年にはこのジジイの行動の意図が全く理解できなかった。異質なものを見ているようなそんな感覚である。村人たちや周囲の町の奴らと違う。この爺は青年を1人の一般人としてみている。
「貴様・・・。ワレが恐ろしくないのか?」
「恐ろしい? アハハハハハ。
こんな若造に恐ろしいなどという感情が湧くはずもないだろう?」
こんなにも青年に笑って話しかけてくる人と出会ったのは初めてだった。
なめられているのか? 青年を前にして気でも狂ったか?
そんな風ではない。本心から爺は青年と接している。
恐れられないのは初めてだ。
「貴様・・・変わった野郎だな」
「そうか? 印象付けられてそりゃありがたいな」
ジジイは腰が痛そうに擦りながら、青年の座っている玉座の前で座禅を組んで座る。
「ああ、やめておきな。その能力ではオレには勝てんよ。付喪人さん」
彼の発言により、青年は初めて自らの奇跡の正体を理解した。
「そうか・・・ワレは神の奇跡を持っているわけではなかったのか」
「まぁ、だいだいそうだ。おっと、申し遅れたな。
オレの名前は『エベレスト』。お前さんと同じ付喪人。始まりの付喪人【鍵】。それがオレだ。
さて、本題に入る前に少々未来の話でもしようか・・・・・・・」
一方、もう一人の青年に襲われていた弟子はというと・・・・。
「うぁあああああああああああああああん!!!」
彼女はなんとか瓦礫に隠れて生き延びていた。
もう一人の青年は弟子を見つけることが出来ずに諦めてどこかへと去っていったのだ。
弟子は周囲に誰もいなくなったことを確認すると、ヒョッと瓦礫の間から抜け出して、泣きながら先ほど大きな音がした方向へと歩いていくのである。
「ジジイィィィィ。なんで来てくれないの~。怖かったのに私怖かったのに・・・・!!!!」
泣きながら老師を呼んで助けてもらおうという根端だったのだが・・・・。
彼女が爺を見つけた時、すでに彼らは座って何か話し合っていた。
「──────────────」
「──────────────」
その二人の雰囲気からして、邪魔をしたら後でたくさん怒られてしまうのは弟子にも理解できた。だが、爺の側にいたい。いなきゃ、さっきどこかへ行ってしまったもう一人の青年に殺されてしまうかもしれない。
しかし、大事な話の最中に側に行っては怒られる。
弟子は考える。どうすれば、側に行けて守ってもらえるかを考える。
「────おっ、そこに隠れていたのか。こっちこい。こっち。」
だが、弟子が物陰に隠れて側に伺う機会を待っていたことを知っていたエベレストは、孫を見るおじいちゃんのように優しい表情で彼女へと手招きをするのであった。
ジジイに呼ばれた弟子が彼らのもとへと駆け寄ろうとすると、青年が彼女に声をかける。
「おい、弟子。貴様・・・もう1人のワレはどうした?」
その表情は真剣そのもの。
弟子を襲ってきた青年と目の前にいる青年は別人なのだろうか。と一瞬でも弟子は考えていたのだが………。
見ず知らずの青年に弟子呼ばわりされていることにはムカついたようだ。
「弟子ッ・・・!? あなたに弟子だなんて呼ばれたくないわ。私は『マルクス・ルイトボルト』よ」
「貴様の名などどうでもよい。それよりだな!!」
「アーアー、はいはい。もう1人のワレさんならどこかへ去っていったわ」
弟子はこの青年は人に気を使わない性格であるということを理解したようだ。
そっぽを向きながら、青年からの問いに答える。
すると、弟子の返事を聞いた青年は、悔しそうに俯いている。
「そうか・・・」
「言っただろう。未来はそうなる。変わらない」
ジジイが彼に何かを吹き込んだのだろうか。
弟子は彼らが何を話していたのかが気になって仕方がないようで、目をキラキラと輝かせながら、青年の顔を覗く。
「ねぇ~ねぇー何の話?」
「吾の未来の話だ。貴様は首を突っ込むな!!!」
「ガーーーーーン!!!!
なんか、私嫌われてるんですけど・・・・」
初対面の相手から嫌われてしまい、もう彼女には先程の会話の内容を聞く元気すらなくなってしまっていた。
「そういう運命ならば、吾も貴様に手を貸してやろう。エベレスト」
「ほぉ、契約成立だな」
ふてくされている弟子の目の前で握手を交わす2人。
なぜ、この青年がジジイにだけは心を開くのか。
弟子にはさっぱり理由がわからなかった。
「ねぇー。せめて、どんな契約を交わしたかくらい教えてくれてもいいんじゃないですか~?」
神殿の柱にもたれ掛かって、地面を蹴りながら弟子は2人に尋ねる。
「ああ、この青年………。複製と増殖と移動と世界移動が使えるからな。食料担当で旅に付き合わせちまった」
「へぇーそうなんだ。さすが老師……………ってバカー。
バカカバカ!! 私こいつに嫌われてるんだよ。私たちの旅にこいつを付き合わせるって言うの?
鍵老師、ボケた!?」
この老師はいつも問題事を引き連れてやって来る。
こんな青年を連れていく義理もないはずなのに、初めから彼を引き入れるためにこの村を立ち寄ったとでもいうのか。
そもそも、どんな未来を見せられたら、あんな自己中傲慢野郎が弟子たちの旅に参加するのだ。
嫌だ。弟子にとって彼は大の天敵。いや、交わることのない水と油のような関係であると彼女も理解していた。
だが、その関係を理解していたのは彼女だけではない。
「黙れ弟子。吾は外を直接旅して知りたいのだ。
それに鑑越しには分からん。仲間と言うものを学ぶ機会であろう? 吾が貴様らの旅に加わってやるのだ。吾の活躍ぶりに感謝して崇めるようになるかもな」
「ならないから!!! 老師にどんな未来か聞いたのかもしれないけど、絶対私はこの先もずっとあんたの事は嫌いだから!!!」
老師を間に挟んでにらみ会う弟子と青年。
そんな2人が旅を通じて、お互いに生涯のライバルになろうとは老師以外は誰も知ることがなかった。
────────────────
こうして、老師と出会った吾。平行世界から呼び出されて姿をくらました老師とは出会うことのない我。
その2つに別れる。これが我らの別れた道。
老師に出会って旅を共にし、彼らと別れたあと自らの王国を建造するが、自らに国を滅ぼされた吾。
老師に出会わず平行世界から呼び出され、破壊の神としての側面を持ったまま、破壊の限りを尽くす我。
これが1人の男が三原とミハラになるきっかけの違いである。
我らが分かれたのは・・・。
これこそが走馬灯の答え合わせである。
───────────────
時は神代。神の子・悪魔の子と恐れられて小さな村で1人の赤子が産まれた。
その子に父親はおらず、母親は誰とも交わることなく出産をした。
2人の人間が1人の赤子の産声に声を当てているような声が、村中に響き渡り人々は赤子が引き起こすであろう不安を恐れて母と子にはなるべく近づかないでおこうと距離を置くことに決めたのである。
6歳の時母親が死んだ。隣町の聖堂会に前々から目をつけられていたことが、今回ピークに達したのだ。確かに奴らは小僧のことを嫌っていた。食べ物を鏡に映して複製を作らせて飢えた者どもに分け与えたり、遠き場所への移動が必要な者へは鏡と鏡をつなげてワープさせて連れて行ってやったりと、この能力を使って人助けのために奇跡を起こしていたワレを妬んでの行動だったのだろう。どこの馬の骨とも知らない小僧が神の子と恐れられていることが、自らの神の信仰を妨げるとでも考えたのだろう。
数人の信者にワレの母親は拉致されて様々な暴行を受けた後、荒野に捨てられて生きたまま獣どもに食い荒らされて死んだ。
村人たちはそんな哀れな彼女の変わり果てた姿を見て、「かわいそうに・・・」「あの子の仕業じゃ・・・」「あいつがあんなことをしなければ・・・」などとワレを陰から罵倒してきた。
小僧の人助けが最終的には無意味なものとなってしまったのだ。
この生まれ持った能力が最終的には自らの心を苦しめることになったのだ。
自らの母が村人たちによって速やかに埋葬されるのを見て、小僧は静かに自らの母親が埋められていくのを眺めていた。
だれも、小僧を哀れんで手を差し伸べる者はいなかった。この小僧にかかわれば、次は自分が殺されてしまうかもしれないと恐れていたからだ。
そうして、小僧は1人ぼっちになった。
数年後・・・・。
小僧は立派な12歳の青年へとなり果てた。その村の影の支配者として静かに暮らしていた。
自らの母親を殺した隣町の聖堂会を隣町ごと壊滅させたり、この村を襲いに来た賞金首である夜盗たちの首を糸でつなげて、ネックレスのようにして異文化の神の御供え物として送りつけたり、大陸を支配するドラゴンを1人で討伐したりと残酷奇天烈な行動を行っていた。
そうして、大暴れしていると誰も青年のことを陰で悪く言う者たちもいなくなり、破壊神として静かに恐れられるか、ヒーローとして崇められるかのどちらかに分かれてしまった。
その頃だろうか。青年が支配している村に2人組の旅人が現れる。
紅の瞳に短くカットされた白髪、きっちりとした黒い正装に大きなひすいで作られた玉のネックレスを首にかけている爺。
そして、もう一人はフードに顔を隠した若い女性。
そいつらは村人どもの噂によれば、どうやら青年に用があってこの村に訪れたらしい。
「くだらねぇ・・・・」
口ではそう言ってみたものの、青年はその爺たちが少し気になっていた。
久しぶりに自分を訪ねに旅人が訪れたのだ。どうせこのまま、無視していても村人たちが体人を案内して青年の家にまで押しかけてくる。それなら、旅人の態度が不敬に値すると少しでも感じたときに罰を与えればいい。巷で言われている破壊神らしく。女や年寄りでも残酷な罰を・・・・。そう考えたのである。
数分後・・・・。2人組の旅人は青年の家へと訪ねてきた。村にしては豪華な神殿風の家。
「この家、すごいですね。老師」と弟子は言う。
彼女はフードで顔を隠したまま、その隙間から青年の家らしき場所を眺めている。すると、爺は青年の家をぼんやりと眺めてから、弟子に頼みごとを言った。
「おい、弟子。悪いが玄関から話付けるのはお前に任せてもいいかな?」
弟子には爺の言った一言を意外だと感じた。
他人の家に入るときはいつもならドアを蹴破ってズカズカと入っていくような問題児である彼が、ドアを蹴破ろうともせずに弟子に役目を任せたのである。
「はぁ? 別に構いませんが。もしかして老師ってば人見知りになっちゃったんですか?」
そんなわけはない。それは弟子にも分かっていた。言ってみたのはただの冗談である。
たとえ、彼が心変わりするなんて天地がひっくり返されようが起こるはずがない。
それは側でずっと爺の背中を見てきた彼女にはハッキリと説明できる。
「・・・・・・・」
でも、爺はその真意を語ってはくれない。弟子は弟子らしく黙って言うことを聞けという事だろうか。弟子はしょうがないな~とでも言いたそうな表情を爺に見せると、一人で玄関へと向かっていった。
「すいません。誰かいませんか?」
弟子が入っていった神殿内は黄泉の世界であるかのようにシーンと静まり返った空気が充満している。だが、その空気は奥からの一喝で急に変貌することとなる。
「何用だ?」
威圧。弟子が感じたのははかり切れないほどの威圧感であった。
まるで神から声をかけてきているようなそんな感覚である。
冗談じゃない。こんな奴に用があるなら爺が自らこの場に来ればよかったのに、なんで弟子を向かわせる必要があったのか。弟子は久しぶりに爺への怒りを感じていたが、それは後で問いただすとして今は交渉をしてもよいかの確認を取らなければならない。
「私たちは旅の者です。うちのジジイ・・・・いや、老師があなたに会いたいとおっしゃったのでこちらへとやってきました」
「その願いは胸にしまいこみ、うせよ。ワレは貴様らに会おうとも思わぬ。これは警告だ。」
青年から弟子に向けられた警告を、彼女は吐きたくなるような言葉を我慢して聞いていた。
話し方からして傲慢。自らが暴君・・いや神になったつもりなのだろうか。くだらない。
弟子はただ、青年の人を見下すような態度にイラっときた。
「はぁ・・・王様気分ですか。自分の王国を持ってからそんな言葉遣いをしてもらいたいですね。まっ、あんたみたいな暴君に納められる国なんてないだろうけどね~」
急に静まり返る。
さすがに訪ねに来た者としては不敬だったか。
だが、一度口に出した言葉は取り消せない。
弟子が言うべきだった言葉を考え付いてももう遅い。
ゾワッとした感覚に襲われて、弟子は背後に振り返る。
すると、奥から聞こえていたはずの声の主はすでに弟子の背後に立っていた。
「貴様、客人であるというのにその態度」
弟子は青年のもっとも触れてはいけない地雷をおもいっきり踏みつけてしまった。
弟子は青年が最も夢見ていた自らの王国建造の夢をバカにしたのである。
「ありゃ? 前にいたのに後ろにいたの。ねぇー老師助けて~。見てるんでしょ。どうせ見てるんでしょ? ねぇー爺・・・・・いやお爺様。私、青年に殺されちゃうんですけどーーーー!!!!!」
必死にジジイに助けを求めて叫ぶ。地雷を踏んでしまうなんて考えてもいなかった。
・・・・・・・・だが、青年は迫ってくる。青年の手には小さな短剣が力強く握られている。
「愚弄した者にはそれに合う裁きを・・・・」
青年は自ら弟子に近づいて刺し殺すわけでもなく。
立ち止まって宙に配置した鏡に向かってその短刀を投げ入れた。
その時である。
奥の方から聞こえてくる瓦礫が崩れ落ちてくる音。
もう1人の青年対策として、彼は神殿の天井を砕いて乗り込んできやがった。
弟子のピンチを初めから予感していたかのように、だが弟子を助けに来たには方向が違う。
「キサッ・・・・!?」
奥にいる青年は頭上から落ちてくる爺に驚いた。
爺は弟子を見捨てて青年のもとへと落ちてきたのである。
玉座に座ったまま青年はジジイの着地する姿を見ていた。
彼はただ青年の前に落ちてきただけである。
それなのに、その一部始終を見ただけなのに・・・・。
青年にはそのジジイに勝てる未来が全く想像できなかった。
「よっ、お前さんが噂の悪魔と神の子・・・だっけ。いや、忘れた」
ズボンについた埃をパッパッと払い、彼は青年の顔を見上げる。
そして、彼は熱い目線で青年に訴えかけてきた。
「・・・。お前、オレと一緒に来てくれないか?」
訳が分からない。青年にはこのジジイの行動の意図が全く理解できなかった。異質なものを見ているようなそんな感覚である。村人たちや周囲の町の奴らと違う。この爺は青年を1人の一般人としてみている。
「貴様・・・。ワレが恐ろしくないのか?」
「恐ろしい? アハハハハハ。
こんな若造に恐ろしいなどという感情が湧くはずもないだろう?」
こんなにも青年に笑って話しかけてくる人と出会ったのは初めてだった。
なめられているのか? 青年を前にして気でも狂ったか?
そんな風ではない。本心から爺は青年と接している。
恐れられないのは初めてだ。
「貴様・・・変わった野郎だな」
「そうか? 印象付けられてそりゃありがたいな」
ジジイは腰が痛そうに擦りながら、青年の座っている玉座の前で座禅を組んで座る。
「ああ、やめておきな。その能力ではオレには勝てんよ。付喪人さん」
彼の発言により、青年は初めて自らの奇跡の正体を理解した。
「そうか・・・ワレは神の奇跡を持っているわけではなかったのか」
「まぁ、だいだいそうだ。おっと、申し遅れたな。
オレの名前は『エベレスト』。お前さんと同じ付喪人。始まりの付喪人【鍵】。それがオレだ。
さて、本題に入る前に少々未来の話でもしようか・・・・・・・」
一方、もう一人の青年に襲われていた弟子はというと・・・・。
「うぁあああああああああああああああん!!!」
彼女はなんとか瓦礫に隠れて生き延びていた。
もう一人の青年は弟子を見つけることが出来ずに諦めてどこかへと去っていったのだ。
弟子は周囲に誰もいなくなったことを確認すると、ヒョッと瓦礫の間から抜け出して、泣きながら先ほど大きな音がした方向へと歩いていくのである。
「ジジイィィィィ。なんで来てくれないの~。怖かったのに私怖かったのに・・・・!!!!」
泣きながら老師を呼んで助けてもらおうという根端だったのだが・・・・。
彼女が爺を見つけた時、すでに彼らは座って何か話し合っていた。
「──────────────」
「──────────────」
その二人の雰囲気からして、邪魔をしたら後でたくさん怒られてしまうのは弟子にも理解できた。だが、爺の側にいたい。いなきゃ、さっきどこかへ行ってしまったもう一人の青年に殺されてしまうかもしれない。
しかし、大事な話の最中に側に行っては怒られる。
弟子は考える。どうすれば、側に行けて守ってもらえるかを考える。
「────おっ、そこに隠れていたのか。こっちこい。こっち。」
だが、弟子が物陰に隠れて側に伺う機会を待っていたことを知っていたエベレストは、孫を見るおじいちゃんのように優しい表情で彼女へと手招きをするのであった。
ジジイに呼ばれた弟子が彼らのもとへと駆け寄ろうとすると、青年が彼女に声をかける。
「おい、弟子。貴様・・・もう1人のワレはどうした?」
その表情は真剣そのもの。
弟子を襲ってきた青年と目の前にいる青年は別人なのだろうか。と一瞬でも弟子は考えていたのだが………。
見ず知らずの青年に弟子呼ばわりされていることにはムカついたようだ。
「弟子ッ・・・!? あなたに弟子だなんて呼ばれたくないわ。私は『マルクス・ルイトボルト』よ」
「貴様の名などどうでもよい。それよりだな!!」
「アーアー、はいはい。もう1人のワレさんならどこかへ去っていったわ」
弟子はこの青年は人に気を使わない性格であるということを理解したようだ。
そっぽを向きながら、青年からの問いに答える。
すると、弟子の返事を聞いた青年は、悔しそうに俯いている。
「そうか・・・」
「言っただろう。未来はそうなる。変わらない」
ジジイが彼に何かを吹き込んだのだろうか。
弟子は彼らが何を話していたのかが気になって仕方がないようで、目をキラキラと輝かせながら、青年の顔を覗く。
「ねぇ~ねぇー何の話?」
「吾の未来の話だ。貴様は首を突っ込むな!!!」
「ガーーーーーン!!!!
なんか、私嫌われてるんですけど・・・・」
初対面の相手から嫌われてしまい、もう彼女には先程の会話の内容を聞く元気すらなくなってしまっていた。
「そういう運命ならば、吾も貴様に手を貸してやろう。エベレスト」
「ほぉ、契約成立だな」
ふてくされている弟子の目の前で握手を交わす2人。
なぜ、この青年がジジイにだけは心を開くのか。
弟子にはさっぱり理由がわからなかった。
「ねぇー。せめて、どんな契約を交わしたかくらい教えてくれてもいいんじゃないですか~?」
神殿の柱にもたれ掛かって、地面を蹴りながら弟子は2人に尋ねる。
「ああ、この青年………。複製と増殖と移動と世界移動が使えるからな。食料担当で旅に付き合わせちまった」
「へぇーそうなんだ。さすが老師……………ってバカー。
バカカバカ!! 私こいつに嫌われてるんだよ。私たちの旅にこいつを付き合わせるって言うの?
鍵老師、ボケた!?」
この老師はいつも問題事を引き連れてやって来る。
こんな青年を連れていく義理もないはずなのに、初めから彼を引き入れるためにこの村を立ち寄ったとでもいうのか。
そもそも、どんな未来を見せられたら、あんな自己中傲慢野郎が弟子たちの旅に参加するのだ。
嫌だ。弟子にとって彼は大の天敵。いや、交わることのない水と油のような関係であると彼女も理解していた。
だが、その関係を理解していたのは彼女だけではない。
「黙れ弟子。吾は外を直接旅して知りたいのだ。
それに鑑越しには分からん。仲間と言うものを学ぶ機会であろう? 吾が貴様らの旅に加わってやるのだ。吾の活躍ぶりに感謝して崇めるようになるかもな」
「ならないから!!! 老師にどんな未来か聞いたのかもしれないけど、絶対私はこの先もずっとあんたの事は嫌いだから!!!」
老師を間に挟んでにらみ会う弟子と青年。
そんな2人が旅を通じて、お互いに生涯のライバルになろうとは老師以外は誰も知ることがなかった。
────────────────
こうして、老師と出会った吾。平行世界から呼び出されて姿をくらました老師とは出会うことのない我。
その2つに別れる。これが我らの別れた道。
老師に出会って旅を共にし、彼らと別れたあと自らの王国を建造するが、自らに国を滅ぼされた吾。
老師に出会わず平行世界から呼び出され、破壊の神としての側面を持ったまま、破壊の限りを尽くす我。
これが1人の男が三原とミハラになるきっかけの違いである。
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外界との繋がりを遮断し自国を守るべく
百年も昔に制定された国家政策である。
そんな国もかつて繋がりを育んで来た
近隣国《バルモア》との戦争は回避出来ず。
百年の間戦争によって生まれた傷跡は
近年の自国内紛争を呼ぶ事態へと発展。
その紛争の中心となったのは紛れも無く
新しく掲げられた双つの旗と王家守護の
象徴ともされる一つの旗であった。
鎖国政策を打ち破り外界との繋がりを
再度育み、此の国の衰退を止めるべく
立ち上がった《独立師団革命軍》
異国との戦争で生まれた傷跡を活力に
革命軍の考えを異と唱え、自国の文化や
歴史を護ると決めた《護国師団反乱軍》
三百年の歴史を誇るケーニッヒ王家に仕え
毅然と正義を掲げ、自国最高の防衛戦力と
評され此れを迎え討つ《国王直下帝国軍》
乱立した隊旗を起点に止まらぬ紛争。
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