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15.5章 魔崩叡者霊興大戦ラスバルム(西)
大江御笠
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体が崩れるように毒に犯されていく。
油断した隙に刺さった刃から毒が全身にまわっていく。
先程までの威勢は消え去り、彼は今地面に膝を落とした。
だが、決して叫び声や苦痛の声をあげることはない。
「…………」
ジッと恨めしそうに山上を見ていた。
恨めしい。恨めしい。恨めしい。
大江の心の中にドロドロとした呪怨が満ちていく。
彼は完全に山上に殺意をむき出しにしたまま、何を思ったか自らの腕を切り落とした。
「『終術蝕涙(しゅうじゅつしょくるい)・大嶽(おおたけ)』!!」
最後の最終奥義。使うつもりもなかった禁止されていた技。大江は最後の最後に自らの自我を捨ててまで、暴れるつもりのようだ。
彼が切り落とした腕からは大量の流血ではなく。異色なスライムがドバドバと流れ落ちていた。
そして、スライム達は集合し、形を構成していく。一方、大江の体はだんだん小さくなっていく。
「私は…………まだ、死ねん!!!」
3m級の大きさになってもスライムの膨張は止まらない。
大江の側でどんどん大きくなっていく。
だが、全身に猛毒がまわっている大江にとってはここまでが限界のようで………。
最終奥義の完成もできず、大江の体も隣のスライムも崩れ始めた。
「…………本当にこれが私の終わりなの……か?」
体をスライムに奪われかけたその醜い姿。
かつて、まだ駆け出しの武士だったころ、武を極めてきた1人の侍の姿はそこにはない。
スライムは地面にじわじわと消え始め、彼はもう助かることすらできない。
朽ちていく。消えていく。失くなっていく。
「私の刀はここで跡絶える……?」
侍の道を歩んできた男が最後に悲しそうな表情で地面に消えていく。
「嗚呼、私は人より長く生きすぎたのだな」
少なくともその生涯はよきものであったとは言えない。
父が不倫し、母がおじさんに連れられていかれた。
それでも生きた。あいつと共に………。
「(…………………あれはいったい誰だ?)」
私と道場に通っていた仲のよいあいつは誰だったかな。
兄か? 姉か? 親友か?
思い出せないほど古い歴史。
それほど彼は長く生きすぎてしまったのだ。
「(まぁ、あれが誰かは考える必要はない。もうすぐ会える………………)」
1人の侍がいたとされる場所に遺されたのは、
赤と黒の着物に体を通していた和服だけ。
こうして、山上達は最後まで彼を見送った。
────────────
山上達の戦いは終了し、周囲にいたスライム達は『大江御笠(おおえみかさ)』と共に消滅。
西軍は多数の犠牲者を出しながらの戦勝。
「終わりましたね」
「終わったな~」
柱にもたれ掛かり、山上と八剣は休息を取っていた。
「副会長………。これで魔王城に侵入するんですよね」
八剣はまだ気が抜けていないようで、今後の事を考えている。
確かに八剣の言う通り。大江との戦いが終わったとしてもその先には魔王との戦いが待ち受けているだろう。
今、他の方角で戦っている戦士だけで果たして勝てるだろうか。
いや、そもそも大江のような敵将がたくさんいるはず………。
逸れに彼らが勝利しているかもわからない。
このメンバーだけで戦うことになるかもしれないのだから。
他方角の状況が分からないというのは不安である。
「みんな大丈夫だろうか………」
山上はいつもより元気もなく、不安そうな表情でふと呟いた。
「それは分かりません」
でも、八剣は大丈夫だと言えるほどの確信は持ち合わせていない。
ここで問題ないと言ってしまえば後で再開したときが辛くなるからである。
「ですが、どうなろうと我々は失った者達の意思を背負っています。その真実は変わりません。それが例え私たちが全滅しても、誰かが意思を継いでくれる。成し遂げてくれる」
「そうか。確かにそう思えば死んでも悔いはあるが後悔はなさそうだな。
だが、全滅はゴメンだな。俺はあの約束を守るぜ。みんなで………生徒会で……ラーメン食うんだろ?」
そういえばそんな約束をしていたな……と八剣は思い出す。
戦争が終わったらみんなでラーメンを食いにいくと話していたのは彼女も覚えている。
だが、この人数で更に魔王との戦いが待ち受けているとなると……。
敵将戦で既に何人か生徒会のメンバーも殺されている。
それでも、生きてラーメンを食いに出かけるという事を決めてしまった。
その約束は八剣も破るつもりはない。
「─────そうですね。じゃあまずは気絶している塩見さんを治療部隊の所に運んであげなきゃです。
時間がありませんし………」
「あっ、そうだったな。塩見さんを運ばねぇと……!!
治療部隊に怒鳴られちまう」
地面で今にも息途絶えそうな塩見。
すぐにでも彼を治療してあげないと死んでしまう。
山上達は側で倒れていた塩見の腕を肩にまわして一歩一歩、みんなのもとへ歩き始めた。
そんな時、塩見の右肩を支えて歩いていた八剣が小さな声でボソボソと呟いた。
しかし、山上の耳にはその声が聞こえない。
「ん? どうした?」
「…………なんでもないですよ。戦争が終わったら生徒会長の座はいただきますって言っただけです」
「お前………まだ狙ってやがったのかよ」
山上は八剣の言葉にやれやれと思いながらも軽く笑みを浮かべる。
その笑みを見て八剣も思わずほほを緩ませた。
いつもならこうして共同作業を行うこともない犬猿の仲の2人。
彼らの戦いはまだ終わってはいない。
魔王を倒した後でも彼らとの戦いが待っている。
それでも、今は心安らかに安堵する平穏な時が流れていてもいいかもしれない。
彼らの戦いはこれからなのだから………。
──────────────────
魔崩叡者霊興大戦ラスバルム(西)
敵将:大江御笠(おおえみかさ)討伐
連盟同盟:200人の戦死者。60人の負傷者。
油断した隙に刺さった刃から毒が全身にまわっていく。
先程までの威勢は消え去り、彼は今地面に膝を落とした。
だが、決して叫び声や苦痛の声をあげることはない。
「…………」
ジッと恨めしそうに山上を見ていた。
恨めしい。恨めしい。恨めしい。
大江の心の中にドロドロとした呪怨が満ちていく。
彼は完全に山上に殺意をむき出しにしたまま、何を思ったか自らの腕を切り落とした。
「『終術蝕涙(しゅうじゅつしょくるい)・大嶽(おおたけ)』!!」
最後の最終奥義。使うつもりもなかった禁止されていた技。大江は最後の最後に自らの自我を捨ててまで、暴れるつもりのようだ。
彼が切り落とした腕からは大量の流血ではなく。異色なスライムがドバドバと流れ落ちていた。
そして、スライム達は集合し、形を構成していく。一方、大江の体はだんだん小さくなっていく。
「私は…………まだ、死ねん!!!」
3m級の大きさになってもスライムの膨張は止まらない。
大江の側でどんどん大きくなっていく。
だが、全身に猛毒がまわっている大江にとってはここまでが限界のようで………。
最終奥義の完成もできず、大江の体も隣のスライムも崩れ始めた。
「…………本当にこれが私の終わりなの……か?」
体をスライムに奪われかけたその醜い姿。
かつて、まだ駆け出しの武士だったころ、武を極めてきた1人の侍の姿はそこにはない。
スライムは地面にじわじわと消え始め、彼はもう助かることすらできない。
朽ちていく。消えていく。失くなっていく。
「私の刀はここで跡絶える……?」
侍の道を歩んできた男が最後に悲しそうな表情で地面に消えていく。
「嗚呼、私は人より長く生きすぎたのだな」
少なくともその生涯はよきものであったとは言えない。
父が不倫し、母がおじさんに連れられていかれた。
それでも生きた。あいつと共に………。
「(…………………あれはいったい誰だ?)」
私と道場に通っていた仲のよいあいつは誰だったかな。
兄か? 姉か? 親友か?
思い出せないほど古い歴史。
それほど彼は長く生きすぎてしまったのだ。
「(まぁ、あれが誰かは考える必要はない。もうすぐ会える………………)」
1人の侍がいたとされる場所に遺されたのは、
赤と黒の着物に体を通していた和服だけ。
こうして、山上達は最後まで彼を見送った。
────────────
山上達の戦いは終了し、周囲にいたスライム達は『大江御笠(おおえみかさ)』と共に消滅。
西軍は多数の犠牲者を出しながらの戦勝。
「終わりましたね」
「終わったな~」
柱にもたれ掛かり、山上と八剣は休息を取っていた。
「副会長………。これで魔王城に侵入するんですよね」
八剣はまだ気が抜けていないようで、今後の事を考えている。
確かに八剣の言う通り。大江との戦いが終わったとしてもその先には魔王との戦いが待ち受けているだろう。
今、他の方角で戦っている戦士だけで果たして勝てるだろうか。
いや、そもそも大江のような敵将がたくさんいるはず………。
逸れに彼らが勝利しているかもわからない。
このメンバーだけで戦うことになるかもしれないのだから。
他方角の状況が分からないというのは不安である。
「みんな大丈夫だろうか………」
山上はいつもより元気もなく、不安そうな表情でふと呟いた。
「それは分かりません」
でも、八剣は大丈夫だと言えるほどの確信は持ち合わせていない。
ここで問題ないと言ってしまえば後で再開したときが辛くなるからである。
「ですが、どうなろうと我々は失った者達の意思を背負っています。その真実は変わりません。それが例え私たちが全滅しても、誰かが意思を継いでくれる。成し遂げてくれる」
「そうか。確かにそう思えば死んでも悔いはあるが後悔はなさそうだな。
だが、全滅はゴメンだな。俺はあの約束を守るぜ。みんなで………生徒会で……ラーメン食うんだろ?」
そういえばそんな約束をしていたな……と八剣は思い出す。
戦争が終わったらみんなでラーメンを食いにいくと話していたのは彼女も覚えている。
だが、この人数で更に魔王との戦いが待ち受けているとなると……。
敵将戦で既に何人か生徒会のメンバーも殺されている。
それでも、生きてラーメンを食いに出かけるという事を決めてしまった。
その約束は八剣も破るつもりはない。
「─────そうですね。じゃあまずは気絶している塩見さんを治療部隊の所に運んであげなきゃです。
時間がありませんし………」
「あっ、そうだったな。塩見さんを運ばねぇと……!!
治療部隊に怒鳴られちまう」
地面で今にも息途絶えそうな塩見。
すぐにでも彼を治療してあげないと死んでしまう。
山上達は側で倒れていた塩見の腕を肩にまわして一歩一歩、みんなのもとへ歩き始めた。
そんな時、塩見の右肩を支えて歩いていた八剣が小さな声でボソボソと呟いた。
しかし、山上の耳にはその声が聞こえない。
「ん? どうした?」
「…………なんでもないですよ。戦争が終わったら生徒会長の座はいただきますって言っただけです」
「お前………まだ狙ってやがったのかよ」
山上は八剣の言葉にやれやれと思いながらも軽く笑みを浮かべる。
その笑みを見て八剣も思わずほほを緩ませた。
いつもならこうして共同作業を行うこともない犬猿の仲の2人。
彼らの戦いはまだ終わってはいない。
魔王を倒した後でも彼らとの戦いが待っている。
それでも、今は心安らかに安堵する平穏な時が流れていてもいいかもしれない。
彼らの戦いはこれからなのだから………。
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魔崩叡者霊興大戦ラスバルム(西)
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連盟同盟:200人の戦死者。60人の負傷者。
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