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第15章 どうやら全面戦争が始まるようです。(開戦)

決闘の決着

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 拳と拳はぶつかる。
お互いの腕にぶつかった拳の反動がビリビリっと伝わってきた。
だが、このまま拳だけで勝敗を決めていてはらちが明かない。
あいつよりも先に能力を使ってでも有利な位置にたたなければいけない。
少しでも多くダメージを与えなければ、後半の戦いで不利になってしまうからである。
俺はズボンのポケットから10円玉を取り出し握り、技を放つことに決めた。
もちろん技名は10円パンチ。
人間の10倍くらいのパンチが出せる素晴らしい技であるが、山上に効くかは分からない。
だが、相手が山上といえどもやるしかない。

「『10円パン………』」

すると、腕が前に進まない。
振りかざした拳は山上を殴ろうとしているのだが、そのまま動いてくれない。

「なにィィ!!」

ちらっと腕を見る俺に山上が言う。

「残念だったな。お前の能力はお金を代償にした超能力や肉体強化。だったら技を出させなければいいんだぜ」

俺の振りかざした腕に紐が縛りついており、遠くにあるベンチと俺の腕が紐で結ばれているのだ。

「どうする?
お前もルール説明を聞いてたよな?
器物破損は敗けを意味する。そのまま勢いで拳を振るえばお前の敗けだ」

なんとずるい。いや、頭脳を使った男であろうか。
だが、これはあいつの作戦。
紐をどうしようと山上にはどうでもいい。
拳を振るって敗けにさせようが、拳を振るわなかったとしても、俺の腕に俺が気づかないように紐を結びつけたということが重要なのだ。
気づかれないほどのスピードと正確さ。
俺より上に立っているという証明。
自身の実力を俺に見せつけるにはいい方法である。

「俺が問題でないベンチが問題でもない。
紐が問題なんだ。問題点だけを解決すればなんの問題もない!!

『5円ソード』」

5円玉を犠牲にして手に召喚したのは5円ソード。
俺はその剣を使って自分の腕に縛りついた紐を切り落とす。

「そして、そのまま殴りぬける」

さすがの山上も俺が紐を切り落とすとは思ってみなかったのか。
普通に突っ立ったまま、避けるための行動が一歩遅れてしまう。
山上の腹に当たる『10円パンチ』。
そして、彼の体に痛みの衝撃が走り、彼の体は痛みに震える。

「クッ………!!?」

彼の足は地面にしっかりと根を張るように踏みつけていたのだが、そのまま30cmほど後ろに下がる。
その足元には力んで止めようとしていたのか、足が地面に擦ってまっすぐに線ができている。



 なんとか足を止めることが出来た山上であったが、一呼吸して前を向いた彼の視線の先には剣を構える俺の姿。

「お前の紐を切り落とせばな。お前の紐なんて怖くないんだよ。
『5円ソード』」

俺は再びポケットから5円玉を取り出し、もう1本の5円ソードを召喚した。
これで俺の手には二刀流の剣。
この二刀流で襲い来る山上の紐を切り裂いていくつもりなのだ。

「だったら、こっちも数を増やしてやるぜ」

しかし、山上だって敗けてはいない。
彼は俺からさらに距離を100mほど離れる。
この距離ならすぐに攻撃されないという考えなのだろうか。
自分の紐のストックは大量にあり、先っぽをいくら切られようが、根本さえ切られなければ充分である。
彼は1本だけで戦うことをやめて、千手観音の腕のように無数の紐を体の周囲で動かしていた。



 俺は走る。
無数に襲いかかる紐を切り落としながら……。
大樹から吹き荒れ落ちる木の葉を切るのように、瞬時に紐を切り落とす。
それでも紐はターゲットをロックオンしているかのように俺へと向かってくる。
奴の大量の紐を1つも残さず切り落とすさなければ、1本でも俺の腕に結び付いてしまえば、俺は敗けてしまうからだ。
あの1本でもトラックを引っ張ることができるのだ。
もし四肢に紐が結び付いてしまえば四方八方に引っ張られて四肢が離れてしまう。
そんなことになったらと恐怖ではあるが、それでも俺は走る。
時にジャンプして足に結び付こうとする紐を飛び越えて切り落とす。
時に剣の持ち方を変えて紐を切り落とす。
斜めから吹く風のように無数に襲いかかる紐達を、俺はあらゆる方法で切り落としていった。



 走る。切る。走る。切る。走る。切る。
山上との距離まで残り20m。
このまま順調に切り落としていけば、山上にこの剣が届く。
そんな時に、俺の体は一瞬だけ悲鳴をあげた。

「イッ………ッ…」

やはり明山の体に負荷をかけすぎたのだ。
まだ腹切りの傷も治りきっていない。
そんな中でこの戦いはやはりするべきではなかったのだ。
その隙をついて無数のうちの1本の紐が俺の腕へと向かってくる。

「仕方がない……」

俺は腕を曲げて、その1本の紐が俺の腕を縛る代わりに俺の5円ソードを差し出した。



 1本の紐が5円ソードを縛り上げた瞬間、俺はその紐を切り落とす。
1本の5円ソードは地面に落ちるが、振り返って拾い上げる暇はない。
俺はしょうがなく1本の5円ソードでどうにかするしかないのだ。
だが、もちろん先程よりも俺の足のスピードは止まってしまう。

「剣1本でなにができる?
これで俺の勝ちだぜ明山ァァ!!」

確かに山上の言う通りだ。
剣1本では立ち止まったまま、必死に体に巻き付かないように切り落としながら耐えるしかない。



 だが、俺はある程度を切り落とすと、その剣先を地面に向けた。
それを見た山上は紐での攻撃をやめる。
そして、立ち止まったままの俺に彼は尋ねた。

「──どうした?
紐を切り落とすってのは諦めたのか?」

「──ああ、剣を1本しかない状態で切り落とし前に進むのは今の俺には不可能だ。時間もあと少し……」

俺は病院の壁に設置された丸時計を指差しながら話す。
山上が見ると決闘開始からすでに25分が経過しており、時間は残り5分しかない。

「だから、逃げる事を考えるために1円キックを利用して地面を蹴って脚力で遠くへ距離を置こうと思ったんだが、
お前との決着を時間制限で解決するわけにはいかないからな。
だから、こうして立っているんだ」

すべてを諦めたようにたたずむ俺を山上はあわれに思ったのだろうか。

「なるほど、分かった。なら、終わらせよう。俺がお前の背中を地面につけさせてやる」

そう言って大量の紐を俺に向けて放ってきた。
おそらく、1本で俺の背中を地面に叩きつけるのはかわいそうに思ったのだろう。
大量の紐で地面に叩きつける時の衝撃を少しでも和らげてあげようと言うのだ。



 だが、俺は一言も諦めたなんて口に出していない。

「ああ、終わらせよう。お前との決着をなァァ!!」

それこそ俺が待っていた瞬間である。
山上の操る紐が大量にこちらに向かってくることを俺は待っていたのだ。
俺は自分のポケットから50円玉を取り出し、両手で持って前に構える。

「『50円波動光線』」

俺がそう叫ぶと、俺の手から強烈な光線が放たれる。
そして、同時に空気が揺れ、風が吹き荒れる。
その光線はまるで空を擦り切る様に、勢いをつけて真っ直ぐ向かってくる紐を燃やしていく。

「何ィ!?
まずい、大量に紐を向かわせすぎた」

山上は目の前で燃えていく紐を見ながら、焦り始める。
もう切れないなら燃やせばいいのだ。
それに紐が光線によって燃えることで、炎は俺の姿を完璧に隠してくれる。
あいつからは俺の姿は見えない。
このまま暗殺者のように煙に覆われたこの場所を動きながら、勝敗を決めなければならない。
残り時間はあと少し。
この一撃に賭けなければ決闘が引き分けで終わってしまう。



 煙が山上の周囲を覆ってくれたお陰で、俺はこの勝負に勝つことができる。

「『10円パンチ』」

煙の先にいる山上はまだ気づいていない。
俺はこのまま山上の背後から攻撃すればいいのだ。
今、俺の一撃は煙に隠れながら放たれようとしていた。
だが、俺をにらむ鋭い視線。
山上は俺を見失っていたわけではなかったようだ。
彼もまた自分の拳を俺に向かって放ってきていたのだ。
その拳には自分の紐を結びつけていて、当たったときの痛みを増加したりや自身への衝撃を和らげるためのものであろう。
煙が晴れて、お互いの顔が見える。
拳が体に当たる…………。




 互いの体に当たる互いの拳。

「「グッ…………」」

俺の拳は胸に、あいつの拳は顔に当たる。
その衝撃で俺の体はバランスを崩し、あいつの体もバランスを崩す。
俺の体は背中から地面に倒れ、あいつの体は背中から地面に倒れる。
同時に地面についた2人の背中。
背中を地面についた者がいるということでこれにて決闘は終了となる。
紅葉はホッと肩をおろすと、地面に倒れた2人に向かって勝敗を発表した。

「ただ今ん決闘結果は制限時間オーバーと両方敗者。
よって、引き分け。決着はつかんよ」

その判決を聞いた俺と山上は地面に倒れたまま、それはもう大声で笑った。
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