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第14章 どうやら終末は近づいてきているようです。

魂取り

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 こうなったのはいつからだろう。
全身が肉体を保てなくなり、我が体は深淵と合わさる。
嗚呼、“アレ”………あの御方に求められるまでは我が肉体は永遠の刻を霧のように有りはするが、生きる肉体はない。
幽霊のように触ることが出来るが、やはり彼女らのように生命が欲しいと思う。
自分だけの自分の為の命。
幽霊のような状態であっても奴は幽霊ではない。
奴は理から外れてしまった独りの紛い物。
嗚呼、あの御方を目覚めさせなければ、この願いは聞き入れられない。
だから、奴は服従せねばならぬのだ。


────────────────────────────


 さて、三原と王女様はまだ奴が近づいてきている事に気がついていない。
先程は油断して首をハネられたが、今度は失敗しない。
あの御方の求める素材を献上して我が肉体は再び現世の土を踏む。
その為に奴は今まで活動してきたのだ。
ゆっくりゆっくりと察知されないように暗闇の中を移動する。
奴の見技ならば他者の魂をヒトツキで奪い取れる。
この場で有利なのは彼らではない。
奴こそがこの場で絶対的に有利な位置に立っているのだ。
たかが人間が本来は奴に勝てるはずなどない。
敵は人間。ただの人間。
付喪人などという付喪神と共存する形ではあるが、それでも付喪神さえも奴に勝てるはずがない。
神代レベルの者か徐霊法か神のご加護でも身に付けていない限りは奴の優勢。
奴はただ近づきさえすればよいのだ。
じわじわと近づき、彼らの魂を奪うだけでいい。
彼らとの距離まであと少し。



 さぁ、この距離まで来ても2人は未だに気づいていない。
チャンスは訪れた。
ここで飛び出し、彼らの魂をいただこう。
深淵の中より舞い飛び出し、三原の方に狙いを定める。
どうやら、隣の王女様は奴の存在に気がついたようだが、もう間に合わない。
剣を取り出そうが、魔法を放とうが、既にそれよりも速く三原の魂は奪い取れる距離。

「油断大敵あわれなる男。なんぢの魂をたまへむ」

奴の手は既に三原に届く。
あとはこのまま魂を抜き取れば1人目は終了……。

「───ふ~ん、穢らわしい蝿が吾の身肌に触る許可を吾は出してはいないが?
なんのつもりだ?」

ようやく気づいた三原からの脅し。
だが、有利なのはもう奴の方である。
そんな脅しなど奴には通用しないのだ。



 抜き取られた魂。
奴の腕の中には既に1つの魂が乗っけられている。
これで目標まではあと2つ。

「あと2つなり。あと2つ。1人は生かしやるや。それとも魂を取らで殺しやるや」

もう少しで献上品が揃うことを嬉しく思いながら、奴は王女様の顔を見る。
彼女は自らの目の前で三原が魂を取られたことに恐怖しているのだろう。

「三原さん??」

王女様の目の前には仁王立ちしたまま動かない三原の姿。
騒ぎに気づいた大楠達はようやく事の重大さに気がついたようだ。

「三原………。おい、黒い存在。あなたは確かに首を斬ったはず」

「われは不死身なるなり。首を斬られめど、死ぬべからぬ体なり。え死なぬ呪はれし体。悲しき宿世」

不死身の呪われた肉体は、刀で斬っても効果はなく。本人の意思とは異なり自動的に復活するようだ。

「大楠さん…。王女様が危険です。なんとか先程みたいに…………」

「もちろん、そのつもりで…………」

だが、大楠は自信を失ってしまっていた。
今期の王レベル最強だった三原が討ち取られたのだ。
先程までの自信はすっかり消え去り、彼女の心に恐怖の感情が沸き上がってくる。



 本当に自分は王女様を守れるのだろうか。
先程のようにここからの距離で首を落とせるだろうか。
さっきは油断させる作戦で首をわざと落とさせただけで本当は簡単に避けられてしまうのではないか。
大楠の心の中で心配が蠢く。
自分達の中で一番強い男があっけなく殺られてしまったのだ。
自分への自信が消え去る。
彼女は本当に王女様を救うことができるのだろうか。
もしできずに全滅してしまったら?
不安、恐れ、力不足、躊躇。
本来、今考えるべき事ではないものが頭の中にいっぱいいっぱい。
だが、そんな状況であっても彼女は王女様の命を守るために走り出した。
不安が消え去ったわけではない。
王女様だけはここで死なせるわけにはいかない。生き延びさせなければいけない。
そういう想いで彼女は黒い存在に斬りかかる。
負の感情など垂れ流しに放出しながら、それでも彼女は剣を振るい続ける。
しかし、奴の体は煙のように体を変化させて全くダメージを与えられない。
斬れない。斬れない。斬れない。
目の前にいるはずの存在を斬ることが出来ない。
このときの大楠は焦り始めていた。
王女様は既に側近へと預けたが、心配事は消え去りはしない。
こうも彼女の刀が避けられては、不安はいっそう増え続ける。



 この心の乱れが黒い存在の技であるとはまだ彼女は知らない。
負の感情が大楠の体から外へ出て、煙のように奴の体に入っていく。

「かたじけなくかたじけなく、負の感情はいくつありともかたじけなし。なんぢ達の絶望や落胆はかたじけなし。なほなりなほなり。よし次は王女の魂にもたまへむ。させば側近と女の負の感情は溢れ出づ」

そんな彼女の様子を見て、黒い存在は悦んでいた。
たった1人の男の魂を奪うだけで、この女性から大量の負の感情が溢れ出てきたのだから。
大切な支えとなる者さえ、奪い取れば簡単に落胆し、負の感情製造機となってくれる。
わざわざ恐怖を与えなくても負の感情を出してくれるのだ。
こんなにありがたいことはない。こんなに楽なことはない。
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