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第13章 どうやら犯人は八虐の不道のようです。

兄妹の決別

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 兄さん。兄の呼び方の1つ。
妙義は目の前にいる鈴木さんに向かって兄さんと呟いたのだ。

「うそだろ…………」

その言葉を聞いた瞬間、俺の腕の動きが止まる。
目の前にいるのが妙義家の兄妹……???
確かに、妙義の生い立ちと接点はあるが本当に彼がその兄さんという人なのだろうか。
他人の家系の問題に首を突っ込みたくないが、このままでは兄妹通しで殺し合いになってしまう。
そんな殺し合いなんて、彼女は望んではいないだろう。
俺はまた仲間を助けられないどころか。仲間の大切な人を奪ってしまうのだろうか。
俺の行動はまた、俺が鍵の獲得候補者だから、また仲間に迷惑をかけてしまうのだろうか。
俺はまた目の前で人を救えないのか……。
死神や山口や簀巻……。
──もう仲間の笑顔を見れなくなるなんて嫌なんだ。
しかし、俺とは違い妙義は既に覚悟ができているようだ。

「兄さん……私はあなたはもういないだろうと思っていた。あなたがもっと早くに自分の過去を打ち明けてくれたら…どれほど良かっただろうか。
出来ることなら、もう一度やり直せるなら、私はあなたを支えたかった。
だが、もう遅い。遅すぎたんだ。
だから、せめてあなたの罪は私が裁く」

妙義は呼吸が乱れることもなく、犯人の首筋に剣先を向ける。
その心に迷いはなく。
その心に偽りはない。
ならば、彼女の覚悟が決まったのなら……。
俺も覚悟を決めなければならない。
例え、仲間だった者を倒すことになっても……。
俺は生き残る。
襲ってくる魔王軍を倒しても、
俺はあのカフェを、俺の……いや、俺の身体のこいつの人生をこれ以上壊したりはしない。
それが、俺がこいつの身体を借りている礼になる。

「頼むぞ。俺の付喪神の能力ゥゥゥ!!!
もう500円モードは使えねぇ~。だから、一撃一撃に気合いをいれてやるぜ!!!」

拳を握り直す。前を向く。
目の前のスポンジマンはまだ生きているのだから。
俺はまだ負ける訳にはいかない。
これ以上の殺人は……無差別な狂喜殺人はここで俺の手で終わらせる。

「おりゃぁぁぁぁ!!!」

使う技もないただの拳。
俺のお金の付喪神の能力を使う時は今じゃない。
ギリギリまで引き付けてから使わなきゃいけない。
小銭も残り少ない状況で、必殺技の一撃を無駄にしてはいけない。
節約。
俺は自らの能力を節約しながら戦わなければならないのだ。
ただ、殴る殴る殴る。
弾力のあるスポンジマンの体にダメージがあるか分からないが殴るしかない。



 一方、妙義と犯人。
訳ありの2人は睨み合っている。
妙義には剣という武器がある。
犯人には致命傷を負っているが、隠れスポンジマンがいる。
どちらが先に動くかでどちらが敗者か決まるのだ。

「「オリャァァァァ!!!」」

動き出す両者。
犯人は隠れスポンジマンを動きださせようとしたのだが、

「遅いッ!!」

妙義の凄まじい威力の剣捌きに圧されてしまう。
犯人の小さな穴だらけの体に斜めの切り傷。
背中に刺し傷、ポツポツ傷に切り傷。
もう犯人はあと数分で死ぬほどの致命傷を負ってしまった。

「この出血量………もうかわす体力もないだろうし、このままではまずい焦りすぎたか?
殺られる。この私が負けてしまう」

犯人は考える。考える。考える。
この場を安全に最適に最速に解決する方法。
今までの彼はこんなピンチに遭遇したことはない。
今まで彼が身内に正体がバレたことはあったが、その度に始末してきた。
だが、今回はバレた者が大切な家族なのだ。
始末はできないから、自分が姿を偽って生きていくしかない。
そもそも、この状況から逃げ出せるだろうか。
その答えは難しいだろう。
でも、こんな時こそ、こんな死にかけたピンチな時こそチャンスは訪れると彼は信じている。
諦める訳にはいかないのだ。
しかし、妙義は二撃目の攻撃を与えようと構えている。
二撃目なんて喰らってしまえば、本当に死んでしまうのだ。

「終わりだ。兄さん」

再び構えをとる妙義。
その彼女の目からは殺意しか感じない。
迷い無き殺意。
彼女は犯人の姿しか目に見えていないのだろうか。
ならば、それならば……。
彼女は隠れているスポンジマンに反応できないはず……。



 迫り来る妙義の剣。
犯人は剣が自らの皮膚を裂こうとする瞬間、彼は叫ぶ。

「スポンジマン!!!
彼女の攻撃を止めるんだ。彼女の剣を弾き飛ばせええええええ!!!!!」

その叫びに反応して、隠れていたスポンジマンのうち1体が妙義と犯人の間に現れる。
スポンジマンは両手でガッチリと剣を止めた。
妙義は頑張って力を込めるが、スポンジマンの頑丈で弾力のある両手は剣をそのまま突き刺してはくれない。

「くっ、これはそうだった。スポンジマンの事を忘れていた」

「やった……。やったぞ!!   チャンスだ。
あとはこのまま彼女の動きをスポンジマンで封じれば、私は簡単に逃げられる」

このまま剣を押さえたまま、スポンジマンで妙義の身体を押さえ付ける。
妙義はガッチリと卍固めを喰らってしまう。

「兄さん。クソッ!!  離せスポンジ」

「いいか、スポンジマン。そのまま彼女を押さえ付けてろ」

その場から離れるために、足を退きながら妙義から目を離さないように犯人は一歩一歩退却する。
あとはこの場を離れるだけ。
犯人へのこれ以上の追っ手ももう来ないだろう。
黒や英彦は2体のスポンジマンの足止め。
王レベルの2人は戦闘不能。
妙義と俺は足止め。
もう犯人を追う者はいない。
犯人の勝利なのだ。

「フハハハハハハハ、それじゃあな。また会おう。もっとも…いつ誰として会うかは分からんがな!!!
安心しろ。君たちはまた私と再会することができるからね。ここまで私を追い詰めてくれたせめてもの礼だよ。次は殺すからねぇ」

犯人はツラそうに身体を動かしながら、路地道を出ていこうとする。
彼への幸運は既に運ばれていた。
戦いに勝つことが全てではない。
彼なりの勝利は生きること。
しかし、もう心配などない。
もう彼への障害などない。
彼は最高の安心と自由を手にいれたのだ。
鈴木という人生を終えて、新しい人生を始めなければならないが、彼にもう敵はいない。

「やった。やったぞ!!   ハハハッ……あとはここから逃げ出せば終わる」

もう犯人の目先には既に大通りの人の流れが見える。
あの観光客に紛れこめれば、追跡は不可能。
あと少し…もう少しで犯人は逃走することができるのだ。
犯人は思わず笑いが込み上げてきそうな中で、必死に前に進む。

だが……。
その一筋の希望さえ危うい状況になってしまった。
人の幸運はいつまでも続くわけではない。
彼の幸運の人生はここまで…。
ここから、彼の今まで幸運へのツケが回ってきた。
宙に舞うように殴り飛ばされるスポンジマン。
その体は炎に包まれ、地面に落ちると黒く変色した。

「待ちな……………不道」

「明山………貴様」

俺は黒焦げたスポンジマンを跨いで、犯人の元へと向かう。
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